背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

弁償

2008年08月16日 17時54分55秒 | 【別冊図書館戦争Ⅰ】以降

あ、ちょ、待って……!


と柴崎が止めたが、間に合わなかった。

ぱき、と軽くプラスティック素材のものが折れる音がしたのと、手塚がイスに腰を

下ろしかけた中腰の体勢で凍りついたのと、ほぼ同時。

きゃああ、と悲鳴にならない悲鳴が柴崎の口から搾り出される。

「な、なんだ?」

テーブルの下、靴の裏で踏んづけているものの正体を見ようと長身を折り込む手

塚。

そっと、足をどけると――それはメガネだった。

いや、数秒前まではメガネだったもの、と呼ぶべきか。

泡を食ってブリッジから無残に折れ曲がったそれを拾い上げる。と、柴崎はこめか

みを押さえてストンと手塚の正面の席に座り込んだ。

「……あー、やってくれたわね」

「こ、これ、お前の?」

メガネなんてしてたか、という台詞を柴崎は継がせない。

「異物を靴の下に踏みながら、とっさに避けられないなんて、戦闘職種にあるまじ

き鈍感さじゃなくて?」

氷の微笑とともに斜め上に切り上げるような目線をくれる柴崎に、手塚はう、と詰

まるしかできない。

「しかたないだろ、今昼休みだぞ。ここ食堂だぞ。多摩の修練場じゃないんだ。さ

あ飯食おう腹減ったなって引いた椅子の下に、まさかメガネが落ちてるなんて思う

か普通」

昼食を一緒に採るのがいつの間にか普通になっていた。

待ち合わせとか、約束とかをすっとばして、面子も固定ではなく堂上や郁や小牧

や、イレギュラーで互いの後輩が入ったりと日によって不確定だったが、ごくた

まに手塚と柴崎「二人きり」の時もあった。

そして、今日食堂に入るなり柴崎がひとりでテーブルについているのを見つけた。

我ながら認めるのは情けないが、気が急いでいなかったと言えば嘘になる。

向かいの席に腰掛けるとき、足元まで気が回らなかった。そこを突かれると、痛

い。

ああああと沈痛な面持ちで柴崎がテーブルに沈む。

「気に入ってたのに、そのフレーム。手塚三正にまさか踏み潰されるなんて~」

同期で同じ三正のくせに階級呼びは嫌味以外の他ならない。手塚はメガネの残骸を

そっと脇に置き、

「す、すまん。弁償する」

柴崎はきっと顔を上げた。拳を作ってテーブルをどん、と叩く。

「当たり前でしょ。プラス晩の外メシとデザートと飲み屋のコース、確定もんよ」

手塚はその握りしめた手の小ささに内心びっくりしながら、なだめに入る。

「わ、わかったわかったから、機嫌直せ。飯、食おう。休み時間がなくなる」

「……当たり前すぎて口に出す必要もないと思うけど、今日のランチもあんた持ち

だからね」

柴崎のそつのなさに思わずため息が出た。

「はいはい。――で、何頼むんだ」

「勿論一番高いS定食に決まってるでしょ。早く買ってきて」

もう何も言い返す気力もなく、言われるまま食券を買おうと立ち上がりかけて、ふ

と「笠原は?」と訊く。

「あの子は堂上教官と外に出たわ。約束してたんだって。朝から嬉しそうにそりゃ

まあうきうきと」

じゃあお前の前の席、さりげなくバッグとか置いてたのは誰のぶんの席取りだった

んだよ? と言いかけて、それは口に出さない方がいいような気がして、「ふう

ん」と柴崎に背を向けた。






「ところでなんでメガネなんか? お前視力良かったよな」

B定食をかっこみつつ手塚が思い出したように尋ねる。柴崎のS定に対する意趣返

しで、あえて今日はランクを落としてBにした。本当はAでもSでも良かったが。

いじましいか。でもそれぐらいさせろというのが本音。

S定を奢らせ、少し機嫌が直りかけていた柴崎だったが、そう言われて「んー、

……ただの気分?」と曖昧に答える。

もしかして触れられたくないとこだったか、そう思いながら、「伊達なのか、こ

れ」と残骸に目をやってみる。

柴崎は促されるように、折れ曲がって変形したフレームを視線でなぞった。

「うん。まあ、自分も一つぐらい持っててもいいかなって。そんなに邪魔になるも

んでもないし。笠原が持ってるの見てさ、なんとなくね」

あ。

という顔つきになったのだろう。

柴崎が、手塚が何か言う前に、「でもまさかあんたが破壊するなんてね。壊される

んなら同室の笠原に起き抜けか飲み会後かだろうって決め付けてたあたしが読み違

ってた」と機先を制す。

当麻事件の際、作戦上堂上の見立てで、郁がメガネを買うことになった。郁が大事

にそれを使っていることは、近しい間柄なら誰でも知っている。

「なによ。ただの男避けよ。悪い?」

少し口を尖らせて、柴崎は定食を咀嚼した。

手塚は、「メガネだけで避けられるなんて微塵も思ってないくせに、悪いもなに

も」と差し出された口実を軽く流してやる。

柴崎は手塚の応えにほっとしたように見えた。表情が幾分柔らかくなる。

もちろんそれは正面にいる手塚にしか分からない程度に。

「フン。それもそうねー」

「……で、いつにする?」

「何が?」

「弁償だよ。一緒に行かないとだめだろう、眼鏡屋」

「――そうね」

そこは想定外だったわ、とでも言いたげな顔。

なんだよ俺一人に買いに行かせるつもりだったか。とは手塚も言わない。

「週末は? 空いてるか」

「うん。今のところは」

「空けとけ、夜までな。メガネのあと、晩飯デザート飲み屋まで一気に行くぞ。フ

ルコースでな」

柴崎は肩をひょいと竦めた。了解、のサインだろう。

手塚は「それまでこれ俺が預かってていいか?」と残骸を目で示した。

「いいけど。……修理とかしてみてくれるつもり? あたし、あんたに限らず誰か

が靴の底で踏んづけたものを直したとはいえ掛けるつもりはないんだけど」

柴崎の率直さに手塚は苦笑を漏らす。

ああそうでしょうよ、お前はそういう女だよな。分かってるし慣れてますよ。

「違うよ。直ったら俺が掛ける。幸いフレーム逝っただけだしな、リカバリできる

だろ」

「あんたが掛ける、って……なんで?」

珍しく訝るような表情。

手塚は食べ終えたトレイを片手で持ち、席から腰を上げた。

「俺も一個くらい持っててもいいだろ。伊達」

そして思いついた台詞をつけたしのように柴崎に差し出す。

「女避けのためにな」

じゃ、訓練準備あるからお先。そう言って返却口にトレイを運ぶ後ろ姿を柴崎は見

つめる。

案外、いい男の背中をしてるじゃないの。そのつぶやきは心に仕舞う。お昼、ご馳

走様、のお礼とともに。

代わりに、

「……メガネだけで避けられると思ってないくせにね」

と、テーブルの脇を通る男性隊員がうっかり見とれてしまうほど、あでやかな微笑

みを浮かべ、ひとり食事を続けた。

fin.
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1 コメント

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個人的萌えぽいんつ解説 ()
2008-08-17 06:04:20
手塚と柴崎が約束もなくランチ食べる関係になってる

柴崎が自分の前の席をひとつだけキープしてる

伊達メガネなんか男避けになるはずないって言う手塚

メガネ購入理由を詮索しない手塚

週末空けとけっていう命令口調(フルコースで)

柴崎のメガネを直して自分が使うって言う手塚



・・・・・・あたしはホントに手塚が好きだ。と発覚

書いた本人がここまで細かく言っちゃダメだよね(汗
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