自分が、なんでクラッシャーをやってるんだろうと考えたことはあまりない。
物心ついた時から船に乗ってたし、親父やタロスの背中を見て育ってきたから、なるもんだとばかり、それ以外になりようもなかったから。
実際、クラッシャーの仕事は楽しい。性に合ってる。
頭と身体を均等に使うところが。仕事が舞い込んで、シュミレーションをして、実行して、完遂する。まれにしくじることもあるけれど、あまり気にしない。次、同じミスを繰り返さなければいい。
客とはいつも一期一会の精神で、ベストを尽くす。
一つどころに留まらない、宇宙生活者というのも身軽で気楽でいい。
つまり、俺はクラッシャーっていう仕事が好きなんだろう。
結構な実入りもあるし、ネームバリューもそこそこ。
恵まれた人生と誰かが言う。親の七光りとも。
口さがない連中の与太話には耳を貸さないことにしている。
とにかく、このままずっと、体力が許す限り<ミネルバ>で宇宙を駆け回っていたいと思う。
仲間とともに。
「ジョウ、当直代わるわ」
背後から声を掛けられ、はっと俺は我に返る。
夕食後、ブリッジの副操縦席について、夜間のワッチをしていたのだった。目の前には無限の宇宙空間が広がっている。
通路を通って俺のいるところへアルフィンが歩いてくる。ドンゴが後からキャタピラを鳴らしてついてくるのが見えた。
眠りに就く前の最後のターン。夜間はドンゴが当直を行ってくれる。
俺はシートを立った。
「サンキュー」
「何か変わりはない?」
アルフィンが航宙士席につきながら、俺を見上げる。
「ああ。平常運転だ。異常なし」
「そう」
俺は、アルフィンのシートの脇に立つ。そしてフロントウインドウに広がる黒々とした銀河に目をやった。
「? どうかした?」
引き継ぎを終えても部屋に戻らない俺を不思議そうに見上げ、首を傾げた。
「いや・・・・・・」
「戻らないの? 少し話す?」
眠れないからこうしていると思ったのか、アルフィンが水を向けた。
「うん」
俺は目線を窓の外に向けたまま頷く。そのままとりとめもなく、今日起こった出来事などを話しはじめる。
一日で一番気が安らぐひととき。
気安い俺の冗談にアルフィンが笑う。ドンゴまで目を赤く点滅させて喜ぶ。
笑顔を見せるアルフィンの傍らで俺は思う。
俺はクラッシャーっていう仕事が好きだし、向いている。
実入りもいいし、ネームバリューもそこそこ。
恵まれていると人は言う。
――でも。
一番、俺が恵まれているのは。
隣にこの人がいてくれるっていうことなのかも知れない。
・・・・・・そんな風に最近は思う。
アルフィンのシートの背もたれに軽く寄りかかって、俺は結局、彼女が当直時間を終えるまでブリッジでいっしょに過ごした。
END
プロポーズ直前、というか、ジョウの気持ちが溢れる前の一コマを書いてみました。
物心ついた時から船に乗ってたし、親父やタロスの背中を見て育ってきたから、なるもんだとばかり、それ以外になりようもなかったから。
実際、クラッシャーの仕事は楽しい。性に合ってる。
頭と身体を均等に使うところが。仕事が舞い込んで、シュミレーションをして、実行して、完遂する。まれにしくじることもあるけれど、あまり気にしない。次、同じミスを繰り返さなければいい。
客とはいつも一期一会の精神で、ベストを尽くす。
一つどころに留まらない、宇宙生活者というのも身軽で気楽でいい。
つまり、俺はクラッシャーっていう仕事が好きなんだろう。
結構な実入りもあるし、ネームバリューもそこそこ。
恵まれた人生と誰かが言う。親の七光りとも。
口さがない連中の与太話には耳を貸さないことにしている。
とにかく、このままずっと、体力が許す限り<ミネルバ>で宇宙を駆け回っていたいと思う。
仲間とともに。
「ジョウ、当直代わるわ」
背後から声を掛けられ、はっと俺は我に返る。
夕食後、ブリッジの副操縦席について、夜間のワッチをしていたのだった。目の前には無限の宇宙空間が広がっている。
通路を通って俺のいるところへアルフィンが歩いてくる。ドンゴが後からキャタピラを鳴らしてついてくるのが見えた。
眠りに就く前の最後のターン。夜間はドンゴが当直を行ってくれる。
俺はシートを立った。
「サンキュー」
「何か変わりはない?」
アルフィンが航宙士席につきながら、俺を見上げる。
「ああ。平常運転だ。異常なし」
「そう」
俺は、アルフィンのシートの脇に立つ。そしてフロントウインドウに広がる黒々とした銀河に目をやった。
「? どうかした?」
引き継ぎを終えても部屋に戻らない俺を不思議そうに見上げ、首を傾げた。
「いや・・・・・・」
「戻らないの? 少し話す?」
眠れないからこうしていると思ったのか、アルフィンが水を向けた。
「うん」
俺は目線を窓の外に向けたまま頷く。そのままとりとめもなく、今日起こった出来事などを話しはじめる。
一日で一番気が安らぐひととき。
気安い俺の冗談にアルフィンが笑う。ドンゴまで目を赤く点滅させて喜ぶ。
笑顔を見せるアルフィンの傍らで俺は思う。
俺はクラッシャーっていう仕事が好きだし、向いている。
実入りもいいし、ネームバリューもそこそこ。
恵まれていると人は言う。
――でも。
一番、俺が恵まれているのは。
隣にこの人がいてくれるっていうことなのかも知れない。
・・・・・・そんな風に最近は思う。
アルフィンのシートの背もたれに軽く寄りかかって、俺は結局、彼女が当直時間を終えるまでブリッジでいっしょに過ごした。
END
プロポーズ直前、というか、ジョウの気持ちが溢れる前の一コマを書いてみました。
⇒pixiv安達 薫