「.....んっ...…」
長めに奪って、ようやく離されたころには、くったりとアルフィンの身体から力が抜き取られていた。
「ずるい。反則よ。あなたのキス」
そう言うと、ジョウは照れたように笑みを零した。それを受け止めながらアルフィンが訊く。
「.……あなたは気持ちよかった? 昨夜」
ジョウは一瞬どう反応していいものか迷ったが、結局ストレートに口に載せた。
「ああ。言葉では、言い表せないくらい。滅茶苦茶よかった」
伏し目がちに。
そんな彼のまつげを間近に見つめながら、なんだかひどく幸せな気持ちで「滅茶苦茶かあ」、アルフィンはそう呟いた。
「あたしも早く、そんな風になりたいな」
「うん。……すぐに」
「すぐ?」
「..……できるだけ早く、君がそうなれるように、俺も、その、頑張るから」
その台詞がおかしくて、ジョウの誠実さがにじみ出ている気がして、アルフィンはまた笑った。
脚を、自分からからめる。寝袋の中の彼のむき出しの脚に。そして深く息を吸った。
「起きたとき、あなたがこうして裸で抱き締めてくれてて、嬉しかった。
あなただけ服を着てたらあたし、寂しくて泣いてたかも」
ジョウは生まれたままの姿のアルフィンをぎゅっと抱き締めた。
「そんなことするもんか。こっちの方があったかいだろ」
「あったかいからなの? こうやって抱いててくれたのは」
「いや。君の肌を手放せなかった。一晩中こうしていたかった。
君の身体は、まるで処女雪みたいになめらかで、さらっとしてて、なのにとても熱くて、完全に完璧に狂わされた」
そう言いながら、ジョウは抱き締めた手でアルフィンの素肌を浚い直していく。
まるで、昨夜の余韻を確かめるかのように。
アルフィンは陶然となった。
ジョウの言葉、仕草、ひとつひとつがあたしの心をあたためていく魔法。
幸福な気持ちが、粉雪のように静かに舞い降りてくる。
アルフィンはジョウの脚にからめた脚にきゅっと力を込める。幸せすぎて、物悲しい気持ちになった。
「もう救助隊が来ちゃうの。早すぎるわ。もう少し、こうしてたかったのに。
あたし、このままここに閉じ込められっぱなしでも、いいのにな」
口を尖らせて、ぽつりと呟く。詮方ないと分かっていても。
するとなぜか、ジョウが苦虫を噛み潰したように、露骨に渋い顔を作って見せた。
「な、なに?」
不謹慎だったかも。ごめんなさい、慌てて謝ろうとしたとき。ジョウは、
「それって、わざとじゃないよな」
くそ、と苦る。きょとんとして自分を見ている彼女に向かって、ああ、だから、と不機嫌にも見える荒っぽい仕草で、ばりばりと前髪の生え際の辺りを掻いた。
「アルフィンて、たまに人の理性奪うほど無茶苦茶可愛いこと言う癖あるよな。参るぜ」
「え、ま、参るって」
完全に白旗を掲げたつもりのジョウだが、口調が口調だけに、ストレートにアルフィンに通じない。そんならそれでもいいか、とジョウはアルフィンが意味を理解する前に、押しの一手で行くことに決めた。
寝袋の中、さりげなく身体の位置を決める。そして、低声で囁いた。
「もう一回抱いていいか?」
え。
「い、いま?」
「うん」
悪戯っぽく笑う。ほんのわずかな照れを押し隠しながら。
やんちゃな面影が覗く。
「だ、だって、今救助の人が来るって言ったじゃない」
アルフィンは焦る。でもジョウはさりげなく自分を押し返すアルフィンの手を拘束する。
「掘削作業をしなきゃならないはずだから、到着しても出口の雪を取り除くまで30分はかかる。だいじょうぶ、心配ない」
「大丈夫って、そんな嬉しそうに、ーーあ」
「アルフィンがあんまし可愛いこと言う罰だ。甘んじて受けること」
ああ……。
吐息にかぼそい喘ぎが混じってしまい、けっして身体は嫌がっていないとばれてしまう。
アルフィンは抵抗するのを止めた。体裁を取り繕ってなんかいられない。ジョウに愛されてるって証だけが今いちばん確かなもの。めくもりと同じだけ。
アルフィンが自分に身を委ねたのを知り、ジョウの顔がほころぶ。
彼女の身体を引き寄せながら、
「優しくするから、今度は」
できるだけな、耳元でそう囁き、彼はアルフィンにくちづけた。
洞穴を出たジョウを待ち受けていたのは、一面の銀世界だった。
果てしなく続く雪原が陽にさらされ、光を様々な角度に反射していた。光のプリズムがいたるところに生み出されている。暗がりに慣れた目にそれはまぶしすぎた。瞳を閉じてもまぶたの裏まで真っ白に塗りつぶされるほどの明るさだった。
夜とは打って変わって、雪山の空は抜けるように高く晴れ渡り、風は凪いでいた。
「兄貴、アルフィン。無事だったんだね!」
救援隊の面々の向こうから、リッキーが飛び出してきた。そのままかけ寄ってジョウに飛びつく、熱烈歓迎を受けた。
抱きつかれたジョウは、少し面食らった顔になる。
「無事だったさ。心配したか」
「したよ! したさ勿論だって、もしも、もしも兄貴たちに何あったとしたら、未来永劫恨まれて呪われて、俺らまで地獄に落とさかねないもん。全身全霊かけて祈り続けたさ。見てくれよ、この寝不足の顔。ゆうべは一睡もしてないんだぜ」
「あほう。そっちの心配か」
ジョウはリッキーに力いっぱいげんこつを食らわせてから、教助隊員の手を借りて脱け出してきたアルフィンに向き直る。彼女はジョウ同様、雪原を見て眩しそうに目を細めた。
「わあ、すごい」
歓声をもらす。掘り起こした雪のせいで、足場が悪い。ジョウが手を差し伸べた。
「大丈夫か」
「うん、サンキュ」
すかさず二人に隊員から毛布が差し出される。アルフィンはすっぽりと肩からそれにくるまったが、ジョウは「俺はいい」と断った。
「無事で何よりでした」
リッキーに遅れてヘリから降りてきたタロスが声をかける。
「大変だったでしょう。ひょっとしたら凍死するんじゃねえかと、こいつとはらはらしてました」
「ほんとに。寒かったろ、災難だったね」
言われてジョウとアルフィンは目を見交わした。
「いや、特に寒くはなかったよな」
ジョウが言うと、リッキーは目をくりくりと丸くして訊ねた。
「へ? 雪山にずっと閉じ込められたってのに?」
「ああ」
「へんなの。ってか、何でまだ手ェつないでるの、兄貴たち」
リッキーの視線がジョウの顔から下へ、繋いだ手へとそろそろと下りていく。
アルフィンがぼっと頬を赤らめた。が、ジョウは動じた様子もない。
彼女の手を握ったままで、
「別に普通だろ」
と答える。
「……あっやしいな~。なんかいつもと雰囲気違くない? 二人」
空気を読むのに聡いリッキーが、何かを嗅ぎつけた様子だったがジョウは素知らぬふりを決め込んだ。
「馬鹿」
勘繰るんじゃねえよ。タロスがリッキーの後頭部を小突いたところへ若い救助隊員がやってきて、早くヘリに乗るよう促された。ジョウとアルフィンをこれから病院へ収容すると言う。
「必要ない。俺たちは大丈夫だ」
ジョウは首を振る。
「ですが、大事を取ってひととおりからだの検査だけでも。凍傷など後遺症が残るのものちのちまずいでしょう」
「からだの検査」
アルフィンがそこに反応する。はっきりと見て分かるほどうろたえながら、しきりと眼前で手を振った。
「い、いいです。検査はなし。あたしは別に何ともないわ」
「なしって、でもですね。」
押し問答になりそうなところにジョウが割って入る。
「これから俺たちは次の仕事先に出発しなければならない。病院に行ってる暇はない。悪いが、ヘリでここからまっすぐ宇宙港へ向かってくれないか」
若い教助隊員は明らかに困惑顔となる。こんな対応はマニュアルに載っていないとでも言いたげに顔を曇らせた。
「そんな無茶言わないでくださいよ。本部長にお叱りを受けます。あなたのチームの尽力のおかげで遭難者全員救出ということで、地元のマスコミが大勢押しかけてきてるんです。検査の後、取材と記者会見を開いていただかないと収拾がつかない」
「それはそっちの都合だ。俺たちは受けた仕事をこなしただけだ。報酬は半額前金で受け取ってるから、後のは口座に振り込むように伝えておいてくれ、その本部長だか、依頼人に。タロス」
「へえ」
「くミネルバ>は? スタンバイ完了か」
「もちろんです。いつでも離陸できますぜ」
パイロットの笑みが、きらりと白銀の世界に光る。
「そうか。というわけで、宇宙港へ急行願うぜ」
「そんなあ」
おたおたと慌てる救助隊員を尻目に、ジョウは雪の上を歩き出した。
アルフィン、そしてタロスとリッキーも彼に従う。
さくりさくりと柔らかく積もった新雪を踏みしめて進みながら、ジョウは心が浮き立つのを感じていた。子供の頃、雪が降った日に家を飛び出して犬と一緒に遊んだときのように。大地に転がって雪にすっぽりと身を預けてしまいたいような、真っ白く染められた道を、どこまでも駆けていきたいような、そんな真新しい気分だった。
限りなく澄んだ大気と、どこまでも続く白の世界に抱かれて、目の前が無限に開けていくような、そんな感覚。
手をつなぐアルフィンを見下ろすと、目が合って、はにかむように笑った。
きんと冷えた山の空気が、胸をいっぱいに満たす。
教助隊のヘリに乗り込もうとタラップに足をかけたとき、ふと傍らで順番を待っていたリッキーが声を上げた。
「あれ、兄貴、なんかあごの下についてるよ」
「ん?」
手すりを握ったままの格好で、ジョウがわずかに動きを止める。
「黒いの。染みみたいな。そんなところにほくろなんてなかったよね?」
つんつん、とリッキーは自分のあごを指し示して見せる。
とっさにジョウは手でそこを押さえた。
昨夜のアルフィン プレゼントの名残。キスと愛撫の途中、くっついてしまったチョコレート。
二人の恋が、実を結んだ証。
ついバランスを崩してたたらを踏んだジョウを見て、アルフィンが笑った。
Fin.
終わりました。2月15日とリンクさせて終わるのが目標だったので、頑張りました。笑
昨日は羽生結弦選手の記者会見を正座して見ており、心洗われていたので、どうしても創作の頭になりませんでした。。。
尊いものを見た。美しい日本語を聞きました。
母国語が同じだという幸福。彼の言葉を日本語で聞けることを心底喜ばしく思った夜でした。
外伝新刊、盛り上がっていますね。うれしいことがつづき、心浮きたちます。春はすぐそこです。
お付き合い、どうもありがとうございました。
長めに奪って、ようやく離されたころには、くったりとアルフィンの身体から力が抜き取られていた。
「ずるい。反則よ。あなたのキス」
そう言うと、ジョウは照れたように笑みを零した。それを受け止めながらアルフィンが訊く。
「.……あなたは気持ちよかった? 昨夜」
ジョウは一瞬どう反応していいものか迷ったが、結局ストレートに口に載せた。
「ああ。言葉では、言い表せないくらい。滅茶苦茶よかった」
伏し目がちに。
そんな彼のまつげを間近に見つめながら、なんだかひどく幸せな気持ちで「滅茶苦茶かあ」、アルフィンはそう呟いた。
「あたしも早く、そんな風になりたいな」
「うん。……すぐに」
「すぐ?」
「..……できるだけ早く、君がそうなれるように、俺も、その、頑張るから」
その台詞がおかしくて、ジョウの誠実さがにじみ出ている気がして、アルフィンはまた笑った。
脚を、自分からからめる。寝袋の中の彼のむき出しの脚に。そして深く息を吸った。
「起きたとき、あなたがこうして裸で抱き締めてくれてて、嬉しかった。
あなただけ服を着てたらあたし、寂しくて泣いてたかも」
ジョウは生まれたままの姿のアルフィンをぎゅっと抱き締めた。
「そんなことするもんか。こっちの方があったかいだろ」
「あったかいからなの? こうやって抱いててくれたのは」
「いや。君の肌を手放せなかった。一晩中こうしていたかった。
君の身体は、まるで処女雪みたいになめらかで、さらっとしてて、なのにとても熱くて、完全に完璧に狂わされた」
そう言いながら、ジョウは抱き締めた手でアルフィンの素肌を浚い直していく。
まるで、昨夜の余韻を確かめるかのように。
アルフィンは陶然となった。
ジョウの言葉、仕草、ひとつひとつがあたしの心をあたためていく魔法。
幸福な気持ちが、粉雪のように静かに舞い降りてくる。
アルフィンはジョウの脚にからめた脚にきゅっと力を込める。幸せすぎて、物悲しい気持ちになった。
「もう救助隊が来ちゃうの。早すぎるわ。もう少し、こうしてたかったのに。
あたし、このままここに閉じ込められっぱなしでも、いいのにな」
口を尖らせて、ぽつりと呟く。詮方ないと分かっていても。
するとなぜか、ジョウが苦虫を噛み潰したように、露骨に渋い顔を作って見せた。
「な、なに?」
不謹慎だったかも。ごめんなさい、慌てて謝ろうとしたとき。ジョウは、
「それって、わざとじゃないよな」
くそ、と苦る。きょとんとして自分を見ている彼女に向かって、ああ、だから、と不機嫌にも見える荒っぽい仕草で、ばりばりと前髪の生え際の辺りを掻いた。
「アルフィンて、たまに人の理性奪うほど無茶苦茶可愛いこと言う癖あるよな。参るぜ」
「え、ま、参るって」
完全に白旗を掲げたつもりのジョウだが、口調が口調だけに、ストレートにアルフィンに通じない。そんならそれでもいいか、とジョウはアルフィンが意味を理解する前に、押しの一手で行くことに決めた。
寝袋の中、さりげなく身体の位置を決める。そして、低声で囁いた。
「もう一回抱いていいか?」
え。
「い、いま?」
「うん」
悪戯っぽく笑う。ほんのわずかな照れを押し隠しながら。
やんちゃな面影が覗く。
「だ、だって、今救助の人が来るって言ったじゃない」
アルフィンは焦る。でもジョウはさりげなく自分を押し返すアルフィンの手を拘束する。
「掘削作業をしなきゃならないはずだから、到着しても出口の雪を取り除くまで30分はかかる。だいじょうぶ、心配ない」
「大丈夫って、そんな嬉しそうに、ーーあ」
「アルフィンがあんまし可愛いこと言う罰だ。甘んじて受けること」
ああ……。
吐息にかぼそい喘ぎが混じってしまい、けっして身体は嫌がっていないとばれてしまう。
アルフィンは抵抗するのを止めた。体裁を取り繕ってなんかいられない。ジョウに愛されてるって証だけが今いちばん確かなもの。めくもりと同じだけ。
アルフィンが自分に身を委ねたのを知り、ジョウの顔がほころぶ。
彼女の身体を引き寄せながら、
「優しくするから、今度は」
できるだけな、耳元でそう囁き、彼はアルフィンにくちづけた。
洞穴を出たジョウを待ち受けていたのは、一面の銀世界だった。
果てしなく続く雪原が陽にさらされ、光を様々な角度に反射していた。光のプリズムがいたるところに生み出されている。暗がりに慣れた目にそれはまぶしすぎた。瞳を閉じてもまぶたの裏まで真っ白に塗りつぶされるほどの明るさだった。
夜とは打って変わって、雪山の空は抜けるように高く晴れ渡り、風は凪いでいた。
「兄貴、アルフィン。無事だったんだね!」
救援隊の面々の向こうから、リッキーが飛び出してきた。そのままかけ寄ってジョウに飛びつく、熱烈歓迎を受けた。
抱きつかれたジョウは、少し面食らった顔になる。
「無事だったさ。心配したか」
「したよ! したさ勿論だって、もしも、もしも兄貴たちに何あったとしたら、未来永劫恨まれて呪われて、俺らまで地獄に落とさかねないもん。全身全霊かけて祈り続けたさ。見てくれよ、この寝不足の顔。ゆうべは一睡もしてないんだぜ」
「あほう。そっちの心配か」
ジョウはリッキーに力いっぱいげんこつを食らわせてから、教助隊員の手を借りて脱け出してきたアルフィンに向き直る。彼女はジョウ同様、雪原を見て眩しそうに目を細めた。
「わあ、すごい」
歓声をもらす。掘り起こした雪のせいで、足場が悪い。ジョウが手を差し伸べた。
「大丈夫か」
「うん、サンキュ」
すかさず二人に隊員から毛布が差し出される。アルフィンはすっぽりと肩からそれにくるまったが、ジョウは「俺はいい」と断った。
「無事で何よりでした」
リッキーに遅れてヘリから降りてきたタロスが声をかける。
「大変だったでしょう。ひょっとしたら凍死するんじゃねえかと、こいつとはらはらしてました」
「ほんとに。寒かったろ、災難だったね」
言われてジョウとアルフィンは目を見交わした。
「いや、特に寒くはなかったよな」
ジョウが言うと、リッキーは目をくりくりと丸くして訊ねた。
「へ? 雪山にずっと閉じ込められたってのに?」
「ああ」
「へんなの。ってか、何でまだ手ェつないでるの、兄貴たち」
リッキーの視線がジョウの顔から下へ、繋いだ手へとそろそろと下りていく。
アルフィンがぼっと頬を赤らめた。が、ジョウは動じた様子もない。
彼女の手を握ったままで、
「別に普通だろ」
と答える。
「……あっやしいな~。なんかいつもと雰囲気違くない? 二人」
空気を読むのに聡いリッキーが、何かを嗅ぎつけた様子だったがジョウは素知らぬふりを決め込んだ。
「馬鹿」
勘繰るんじゃねえよ。タロスがリッキーの後頭部を小突いたところへ若い救助隊員がやってきて、早くヘリに乗るよう促された。ジョウとアルフィンをこれから病院へ収容すると言う。
「必要ない。俺たちは大丈夫だ」
ジョウは首を振る。
「ですが、大事を取ってひととおりからだの検査だけでも。凍傷など後遺症が残るのものちのちまずいでしょう」
「からだの検査」
アルフィンがそこに反応する。はっきりと見て分かるほどうろたえながら、しきりと眼前で手を振った。
「い、いいです。検査はなし。あたしは別に何ともないわ」
「なしって、でもですね。」
押し問答になりそうなところにジョウが割って入る。
「これから俺たちは次の仕事先に出発しなければならない。病院に行ってる暇はない。悪いが、ヘリでここからまっすぐ宇宙港へ向かってくれないか」
若い教助隊員は明らかに困惑顔となる。こんな対応はマニュアルに載っていないとでも言いたげに顔を曇らせた。
「そんな無茶言わないでくださいよ。本部長にお叱りを受けます。あなたのチームの尽力のおかげで遭難者全員救出ということで、地元のマスコミが大勢押しかけてきてるんです。検査の後、取材と記者会見を開いていただかないと収拾がつかない」
「それはそっちの都合だ。俺たちは受けた仕事をこなしただけだ。報酬は半額前金で受け取ってるから、後のは口座に振り込むように伝えておいてくれ、その本部長だか、依頼人に。タロス」
「へえ」
「くミネルバ>は? スタンバイ完了か」
「もちろんです。いつでも離陸できますぜ」
パイロットの笑みが、きらりと白銀の世界に光る。
「そうか。というわけで、宇宙港へ急行願うぜ」
「そんなあ」
おたおたと慌てる救助隊員を尻目に、ジョウは雪の上を歩き出した。
アルフィン、そしてタロスとリッキーも彼に従う。
さくりさくりと柔らかく積もった新雪を踏みしめて進みながら、ジョウは心が浮き立つのを感じていた。子供の頃、雪が降った日に家を飛び出して犬と一緒に遊んだときのように。大地に転がって雪にすっぽりと身を預けてしまいたいような、真っ白く染められた道を、どこまでも駆けていきたいような、そんな真新しい気分だった。
限りなく澄んだ大気と、どこまでも続く白の世界に抱かれて、目の前が無限に開けていくような、そんな感覚。
手をつなぐアルフィンを見下ろすと、目が合って、はにかむように笑った。
きんと冷えた山の空気が、胸をいっぱいに満たす。
教助隊のヘリに乗り込もうとタラップに足をかけたとき、ふと傍らで順番を待っていたリッキーが声を上げた。
「あれ、兄貴、なんかあごの下についてるよ」
「ん?」
手すりを握ったままの格好で、ジョウがわずかに動きを止める。
「黒いの。染みみたいな。そんなところにほくろなんてなかったよね?」
つんつん、とリッキーは自分のあごを指し示して見せる。
とっさにジョウは手でそこを押さえた。
昨夜のアルフィン プレゼントの名残。キスと愛撫の途中、くっついてしまったチョコレート。
二人の恋が、実を結んだ証。
ついバランスを崩してたたらを踏んだジョウを見て、アルフィンが笑った。
Fin.
終わりました。2月15日とリンクさせて終わるのが目標だったので、頑張りました。笑
昨日は羽生結弦選手の記者会見を正座して見ており、心洗われていたので、どうしても創作の頭になりませんでした。。。
尊いものを見た。美しい日本語を聞きました。
母国語が同じだという幸福。彼の言葉を日本語で聞けることを心底喜ばしく思った夜でした。
外伝新刊、盛り上がっていますね。うれしいことがつづき、心浮きたちます。春はすぐそこです。
お付き合い、どうもありがとうございました。
⇒pixiv安達 薫
さっさと宇宙(そら)に、帰るのさ。
なんか、今回のオリンピック、日本は氷に嫌われてるね。羽生くん、カーリング、パシュート。今、カーリング女子頑張っています。ガンバレ、日本。
スイートで清らかな記念日として描けていればよかったです。