「これこれ、ちょっと見てくれよ~。ドンゴ」
「ナンデス? りっきー」
「お前から借りたこの雑誌なんだけどさ、このピンナップ、見たかい?」
こそこそ。
カーゴルームにほど近い通路で。何やら密談の気配。
リッキーとドンゴが雁首揃えてごにょごにょひそひそやっている。
偶然、ジョウがそこを通りかかった。
背後から近づくが、二人(一人と一体?)は密談に夢中で彼に気づかない。
「何やってんだ?」
二人の後ろから手元を覗き込んで、ジョウが声をかけると、
「うあああっ」
リッキーが魂消て飛び上がった。ドンゴも声こそあげなかったものの、目を赤く点滅させて驚きを表している。
とっさに胸元に手にしていたものを押し当ててジョウの目から遮るようにして、リッキーは
「あ、兄貴かあ、なんだ、びっくりしたなあもう」
と言った。知らず、身体が引けている。
「イツモトウトツナンデスヨ。じょうハ」
「悪かったな。で、何やってんだここで二人して」
再度訊いた。
リッキーとドンゴはちらっと目を見交わした。
濃密で意味深なアイコンタクト。
「なんだ?」
ジョウが見逃すはずがない。
リッキーは早々に観念した。
「いやードンゴから借りたエロ本にさあ。意外って言うか、お宝物級のピンナップついてたからさあ。ドンゴが気づいて俺らに貸してくれたかどうか確認しようとしてたんだよ」
「エロ本?」
またお前らそういうの貸し借りしてんのか。という言葉はぐっと飲み込む。
思春期真っただ中のリッキーがそういう本に興味をもつのは当然だし、同性として生理的にも理解できるから。ただ、よりによってエロ本かよ……アナログすぎるだろうお前たちとジョウは内心思った。
知る人ぞ知る、なのだが、デジタル全盛のこのご時世に、ドンゴはそっち関係は根強いアナログ派でクラッシャー界でも有数のビニール本のコレクターだった。有名なドンゴコレクションを見せてもらいにわざわざミネルバを訪れる同業者も、まれにだがいる。
もちろん、そういう輩はアルフィンには内緒で、あるいは不在の時を狙ってやってくるのだが……。
「どんなお宝なんだよ?」
さして興味はなかったが、ジョウはリッキーがひた隠しにしている雑誌の裏表紙を見ながら訊いた。
「あーいやあ……。それは~」
「じょうハ、見ナイ方ガヨイノデハ」
リッキーの目が泳ぐ。ドンゴはいつになく歯切れ悪い。
ジョウはピンときた。すばやくリッキーの手から雑誌をさっと取り上げる。
「あああっ」
リッキーは情けない声を上げた。ジョウは身長差を活かしてリッキーの届かないところまでそれを持ち上げて
「なんで俺はだめなんだ? 怪しいな」
何気なくパラ……とめくる。肌色の多いグラビア雑誌。女の子の水着率多し。ジョウとしても、まあ見たくないわけではない。むしろ、積極的にめくってみたいタイプの雑誌だ。
リッキーはジョウの手から取り返そうと、ぴょんぴょん飛び跳ねながら言った。
「だめだってば兄貴は、見たら怒るから~」
「お前何わけわかんないこと言って」
るんだ、という語尾は飲み込んだ。
雑誌の真ん中。折り込みピンナップが蛇腹を開いてはらりと眼前に落ちてきたからだ。
「!」
ジョウは思わず息を吞んだ。
――え? アルフィン?
脳がバグる。グラビアピンナップに映っているのは、金髪碧眼の美少女。アルフィンそっくりの女の子だった。
「ああああどーすんだよドンゴ、もお。ばれちゃったじゃないかあ」
「ソンナコト私二言ワレテモ」
二人があたふたしている。が、ジョウはリッキーの手の届かないところでそれをかざしながら、そのピンナップにまじまじ見入った。
これは……。
まさかアルフィンのはずがない。でも本当に似ている。見れば見るほど。
紅いビキニの下だけ身に着けて、胸は自分の手で覆っている。前かがみで、胸の谷間を強調するようなアングル。男性誌でよく見るやつだ。後ろはプールのようだが、合成かもしれない。
アルフィン似の美少女は煽情的な視線でこちらを見ている。その瞳、鼻筋、唇の形、毎日見慣れているメンバーそっくりだった。
「あんまし似てるから、さあ。ねえ」
「ソウナンデスソウナンデス」
「ドンゴ、知ってて買ったのかなこの雑誌って、思って。確認しようとして」
二人のおたつく弁解にジョウがじろりと鋭い視線を向けた。
「ドンゴ、お前」
「ゴ、誤解ナサラズ。私ハ無実デス。全然、ソンナコト知ラナカッタンデス!タマタマ偶然デ~」
ヘッドをしきりと上げ下げしてドンゴがまくしたてる。
「ダカラ何気ナクりっきー二貸シタンデスヨ~。知ッテタラマッサキニじょう二渡シテマシタッテ」
「なんでだよ」
むっとしてジョウはげんこつでドンゴのヘッドをごつんとやった。
そして折り込みピンナップのページをしっかりとたたんだ。雑誌を脇に挟んで二人に向き直り、コホンとわざとらしく咳払いをしてから告げる。
「とにかく、これは没収する。船内の風紀を乱す恐れがあるからな。以後目にすることは俺が許さん」
「エー」
「そんなあ」
口々に不満を言う二人にジョウは再度にらみを利かせる。
「馬鹿野郎。これが万が一アルフィンの目に留まったらどうなると思うんだ。俺だったからよかったと思え。命拾いしたんだぞお前ら」
う。
「そ、それは、確かに……」
「ウウウ」
ぐうの音も出ない。アルフィンに見つかったらという最悪のシチュを想像して二人は完全にぶるった。
ジョウは「エロ本鑑賞もいいけどな。場所と人気にはゆめゆめ気を付ろよ、お前たち」と言い含めて踵を返した。
はあ……。
本当に、あいつら何やってんだよ。ったく。
一人通路を行きながらジョウはため息をついた。
いらない火種になりかねなかった。桑原桑原。未然に防げてよかった。
どうするかな、この雑誌。アルフィンの目につかないようにこれを処分するには。と思案する。
……それにしても、似ていたな。ふと、そんなことを思う。
いやいや。ジョウはさっき目にしたピンナップの写真を脳裏から追い出そうとかぶりを振る。
生々しいアルフィンのセミヌード……。
いや、アルフィンじゃない。違う違う。
と、急ぎ足で角の所を曲がったとき。
どん、と衝撃がジョウを襲う。
「わっ」「きゃ」
ランドリーかごを持っていたアルフィンとぶつかった。反動で、アルフィンはかごを落とし、洗い物が床に落ちた。ジョウも脇に挟んでいた雑誌を取り落としーー
ぱさっと、かすかな音を立ててそれは床に広がり、真ん中を中心に雑誌は左右に開く。
ひらり。
「!」
ジョウが硬直する。
アルフィンが「びっくりしたあ。ごめん、前が見えなかったわ。大丈夫?ジョウ」と何気なくジョウの足元に落ちた雑誌に目をやりーー
「!」
そこからは修羅場。想像するだに恐ろしい修羅場がジョウを待ち構えていた……。
END
ジョウはデジタル派。きっと
「ナンデス? りっきー」
「お前から借りたこの雑誌なんだけどさ、このピンナップ、見たかい?」
こそこそ。
カーゴルームにほど近い通路で。何やら密談の気配。
リッキーとドンゴが雁首揃えてごにょごにょひそひそやっている。
偶然、ジョウがそこを通りかかった。
背後から近づくが、二人(一人と一体?)は密談に夢中で彼に気づかない。
「何やってんだ?」
二人の後ろから手元を覗き込んで、ジョウが声をかけると、
「うあああっ」
リッキーが魂消て飛び上がった。ドンゴも声こそあげなかったものの、目を赤く点滅させて驚きを表している。
とっさに胸元に手にしていたものを押し当ててジョウの目から遮るようにして、リッキーは
「あ、兄貴かあ、なんだ、びっくりしたなあもう」
と言った。知らず、身体が引けている。
「イツモトウトツナンデスヨ。じょうハ」
「悪かったな。で、何やってんだここで二人して」
再度訊いた。
リッキーとドンゴはちらっと目を見交わした。
濃密で意味深なアイコンタクト。
「なんだ?」
ジョウが見逃すはずがない。
リッキーは早々に観念した。
「いやードンゴから借りたエロ本にさあ。意外って言うか、お宝物級のピンナップついてたからさあ。ドンゴが気づいて俺らに貸してくれたかどうか確認しようとしてたんだよ」
「エロ本?」
またお前らそういうの貸し借りしてんのか。という言葉はぐっと飲み込む。
思春期真っただ中のリッキーがそういう本に興味をもつのは当然だし、同性として生理的にも理解できるから。ただ、よりによってエロ本かよ……アナログすぎるだろうお前たちとジョウは内心思った。
知る人ぞ知る、なのだが、デジタル全盛のこのご時世に、ドンゴはそっち関係は根強いアナログ派でクラッシャー界でも有数のビニール本のコレクターだった。有名なドンゴコレクションを見せてもらいにわざわざミネルバを訪れる同業者も、まれにだがいる。
もちろん、そういう輩はアルフィンには内緒で、あるいは不在の時を狙ってやってくるのだが……。
「どんなお宝なんだよ?」
さして興味はなかったが、ジョウはリッキーがひた隠しにしている雑誌の裏表紙を見ながら訊いた。
「あーいやあ……。それは~」
「じょうハ、見ナイ方ガヨイノデハ」
リッキーの目が泳ぐ。ドンゴはいつになく歯切れ悪い。
ジョウはピンときた。すばやくリッキーの手から雑誌をさっと取り上げる。
「あああっ」
リッキーは情けない声を上げた。ジョウは身長差を活かしてリッキーの届かないところまでそれを持ち上げて
「なんで俺はだめなんだ? 怪しいな」
何気なくパラ……とめくる。肌色の多いグラビア雑誌。女の子の水着率多し。ジョウとしても、まあ見たくないわけではない。むしろ、積極的にめくってみたいタイプの雑誌だ。
リッキーはジョウの手から取り返そうと、ぴょんぴょん飛び跳ねながら言った。
「だめだってば兄貴は、見たら怒るから~」
「お前何わけわかんないこと言って」
るんだ、という語尾は飲み込んだ。
雑誌の真ん中。折り込みピンナップが蛇腹を開いてはらりと眼前に落ちてきたからだ。
「!」
ジョウは思わず息を吞んだ。
――え? アルフィン?
脳がバグる。グラビアピンナップに映っているのは、金髪碧眼の美少女。アルフィンそっくりの女の子だった。
「ああああどーすんだよドンゴ、もお。ばれちゃったじゃないかあ」
「ソンナコト私二言ワレテモ」
二人があたふたしている。が、ジョウはリッキーの手の届かないところでそれをかざしながら、そのピンナップにまじまじ見入った。
これは……。
まさかアルフィンのはずがない。でも本当に似ている。見れば見るほど。
紅いビキニの下だけ身に着けて、胸は自分の手で覆っている。前かがみで、胸の谷間を強調するようなアングル。男性誌でよく見るやつだ。後ろはプールのようだが、合成かもしれない。
アルフィン似の美少女は煽情的な視線でこちらを見ている。その瞳、鼻筋、唇の形、毎日見慣れているメンバーそっくりだった。
「あんまし似てるから、さあ。ねえ」
「ソウナンデスソウナンデス」
「ドンゴ、知ってて買ったのかなこの雑誌って、思って。確認しようとして」
二人のおたつく弁解にジョウがじろりと鋭い視線を向けた。
「ドンゴ、お前」
「ゴ、誤解ナサラズ。私ハ無実デス。全然、ソンナコト知ラナカッタンデス!タマタマ偶然デ~」
ヘッドをしきりと上げ下げしてドンゴがまくしたてる。
「ダカラ何気ナクりっきー二貸シタンデスヨ~。知ッテタラマッサキニじょう二渡シテマシタッテ」
「なんでだよ」
むっとしてジョウはげんこつでドンゴのヘッドをごつんとやった。
そして折り込みピンナップのページをしっかりとたたんだ。雑誌を脇に挟んで二人に向き直り、コホンとわざとらしく咳払いをしてから告げる。
「とにかく、これは没収する。船内の風紀を乱す恐れがあるからな。以後目にすることは俺が許さん」
「エー」
「そんなあ」
口々に不満を言う二人にジョウは再度にらみを利かせる。
「馬鹿野郎。これが万が一アルフィンの目に留まったらどうなると思うんだ。俺だったからよかったと思え。命拾いしたんだぞお前ら」
う。
「そ、それは、確かに……」
「ウウウ」
ぐうの音も出ない。アルフィンに見つかったらという最悪のシチュを想像して二人は完全にぶるった。
ジョウは「エロ本鑑賞もいいけどな。場所と人気にはゆめゆめ気を付ろよ、お前たち」と言い含めて踵を返した。
はあ……。
本当に、あいつら何やってんだよ。ったく。
一人通路を行きながらジョウはため息をついた。
いらない火種になりかねなかった。桑原桑原。未然に防げてよかった。
どうするかな、この雑誌。アルフィンの目につかないようにこれを処分するには。と思案する。
……それにしても、似ていたな。ふと、そんなことを思う。
いやいや。ジョウはさっき目にしたピンナップの写真を脳裏から追い出そうとかぶりを振る。
生々しいアルフィンのセミヌード……。
いや、アルフィンじゃない。違う違う。
と、急ぎ足で角の所を曲がったとき。
どん、と衝撃がジョウを襲う。
「わっ」「きゃ」
ランドリーかごを持っていたアルフィンとぶつかった。反動で、アルフィンはかごを落とし、洗い物が床に落ちた。ジョウも脇に挟んでいた雑誌を取り落としーー
ぱさっと、かすかな音を立ててそれは床に広がり、真ん中を中心に雑誌は左右に開く。
ひらり。
「!」
ジョウが硬直する。
アルフィンが「びっくりしたあ。ごめん、前が見えなかったわ。大丈夫?ジョウ」と何気なくジョウの足元に落ちた雑誌に目をやりーー
「!」
そこからは修羅場。想像するだに恐ろしい修羅場がジョウを待ち構えていた……。
END
ジョウはデジタル派。きっと
⇒pixiv安達 薫
コメント有り難うございます。
コメディたっちのものもたまにいいかなと思って、笑
ジョウが防戦一方で言い訳しても効かず、ドンゴに確認してもしらばっくれられて、ますます窮地に陥る展開を私は予想しております。。。桑原ですね、ほんと。
谷村氏の嗜好を存じませんでした。コアな感じでいいですねえ。さすがはチャンピオン。?
姫はまだ潔癖な年頃なので、ジョウがそう言うものを持っていることもやだし、自分に似ているのもやだってごねると思います。これを笑い話にできる頃にはもう二人は男女の仲ですね。きっと
ジョウの頬に、アルフィンの手形が付いたのは確か(笑)
今日もありがとうございました。