みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0016「謎の物体」

2025-03-05 16:22:01 | 超短編戯曲

   警察の遺失物係。担当者たちが机を囲んで、頭を抱えていた。
桜井「これ、何なんだ。ねえ、安藤さん。書類には何て書いてあります?」
陽子「えっと、<蛍光灯みたいな>」
桜井「はい? まったく、いい加減な…」
陽子「でも、ほんとに何でしょう。係長はどう思います?」
      係長は椅子にふんぞり返って座っている。まるで興味がないようだ。
係長「適当に処理しとけよ。どうせ、誰も探しに来ないさ」
桜井「(手に取り)確かに丸型の蛍光灯みたいだけど、プラグを差し込むところがないし。それに、蛍光灯にしては重すぎるなあ。書類にはほかに何か?」
陽子「はい。子供たちが持ち込んだと…」
係長「何だよ。子供の悪戯じゃねえか。そんなの捨てちまえよ」
陽子「でも、係長…」
桜井「どこで拾ったんです?」
陽子「それはですね、えっと、農道の脇の草むらの中です」
桜井「農機具でもないしな。何かの機械の部品かもしれない」
係長「そんな輪っかで、何ができるんだよ。せいぜい、輪投げの輪っかぐらいだろ」
桜井「係長、茶化さないで下さいよ。こっちは真剣に…」
係長「お前は、そんなんだから飛ばされたんだぞ。わかってるのかよ」
      輪っかに顔を近づけて、じっと見ていた陽子が突然叫んだ。
陽子「あっ! 桜井さん、ここの内側に何か書いてあります」
桜井「何かって?」
陽子「(目を皿のようにするが)うーん。ダメです。小さすぎてわかりません」
桜井「そうだ。確か、どっかの棚に大きな虫眼鏡が…」
係長「天眼鏡だったら、ここにあるぞ(机の抽出から取り出す)」
陽子「係長、かってに持ち出さないで下さい」
係長「わるいわるい。最近、新聞が読みにくくてさ」
      陽子は係長から天眼鏡を受け取り、桜井に手渡す。
陽子「何かわかりますか?」
桜井「(覗いて)うーん。日本語でも英語でもないなあ。こんな文字、見たことないよ」
陽子「(横から天眼鏡を覗き込んで)これって、アラビア語とかじゃありません?」
      いつの間にか、係長が陽子の後ろに立って覗き込み、
係長「というより、象形文字じゃないのか。これなんか、魚の形にそっくりだ」
桜井「ほんとだ。でも、何で…。ますます、分かんなくなってきたぞ」
係長「もう、いいからさ、帰ろうよ。とっくに閉店の時間だよ」
陽子「そうですね。もう、こんな時間だし、明日にしましょうか」
      三人は帰り支度をすませると、部屋から出て行く。薄暗い部屋の中。机の上の輪っかが、かすかに光を放つ。点滅する光。突然、輪っかが浮き上がり、静かに回り始める。
<つぶやき>よく分かんないものって、ありますよね。想像力を膨らませてみましょう。
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