みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0013「最後のラブレター」

2025-02-23 16:41:09 | 読切物語

 かすみさんがこの手紙を見つけたとき、もう僕はこの世界から消えてしまっていると思います。でも、悲しまないで下さい。僕とあなたが過ごした三十年のあいだ、楽しいことがたくさんあったから。僕は、あなたと一緒にいられて、とても幸せでした。
 僕がこんなことを言うと、かすみさんは怒るかもしれませんね。だって、僕は良い夫ではなかったから。仕事にばかり夢中になって、あなたのことを一人ぼっちにしてしまった。子供たちのことも、みんなかすみさんに任せてしまっていたしね。
 でも、あなたのおかげで、子供たちも無事に育ってくれました。とても感謝しています。こんなこと、面と向かっては言えなかった。ちゃんと言っておけばよかったね。
 あなたはいつも家族のことを考えていてくれたよね。僕が入院したときも、毎日のように来てくれた。僕がそんなに来なくていいよって言っても、あなたは僕と一緒にいられる時間が増えたのよ、こんな幸せなことはないって笑ってくれた。僕は、あなたの笑顔がいちばん好きだったんだよ。あなたの笑顔はみんなを幸せにしてくれる。
 僕がいなくなっても、笑顔を忘れないで下さい。これからは、あなたのやりたいことを好きなだけしていいんだよ。僕から、かすみさんへのご褒美です。ありがとう。

「何してるの?」押し入れの前で座り込んでいる娘に、母は声をかけた。
「ねえ、私、すごいもの見つけちゃった」興奮を抑えながら娘は古びた本を差し出した。
「これ、かあさんの…」母は懐かしそうに微笑んだ。「これは、おばあちゃんがとっても大切にしていた本よ。この本のおかげで、おじいちゃんと出会えたってよく言ってたわ」
「そうなんだ。だから…」娘は目を潤ませて、「この中に手紙がはさんであったの。おじいちゃんからのラブレターよ。それも、最後のラブレター」
 娘は色あせた手紙を母に手渡した。母は手紙を読み終えると、
「こんな手紙もらってたなんて、ちっとも知らなかったわ」
「おばあちゃん、いい恋してたんだよね。こんなに愛されていたなんて…」
「あなたはどうなの。いい恋、してないの?」
「私は…。どうなんだろ、わかんなくなっちゃった」娘は投げやりに言った。
「隆さんとうまくいってないの?」
「うーん。やっぱり、遠距離って続かないのかな?」
「なに弱音吐いてるの。そんなんじゃ、おばあちゃんに笑われるわよ」
「だって…。逢いたいときに逢えないなんて、つらすぎるよ」
「おばあちゃんだったら、今ごろ飛んで行ってるでしょうね」
「私は…。ひとりでアメリカなんて行けないよ」
「もう、いつまでも子供なんだから。そんなんじゃ、何にも出来ないよ」
「わかったわよ」娘は立ち上がり、「行くわよ、行けばいいんでしょ。私だって…」
「でも、遺品の整理を済ませてからにしてよ。ひとりじゃ大変なんだから。それと、隆さんにちゃんと連絡しときなさい。向こうで、金髪の美女と鉢合わせしないようにね」
「もう、かあさん! なに言ってるのよ。そんなことあるわけないでしょ」
<つぶやき>人生の節目にあたり、心のこもった感謝のラブレターを書いてみませんか。
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