父親(ちちおや)が家に帰ると、娘(むすめ)の姿(すがた)はなかった。まだ帰って来ていないのか…。父親は心配(しんぱい)になってきた。こんな時間(じかん)までどこへ行っているのか?
十時を過(す)ぎた頃(ころ)、娘が帰ってきた。父親はどこへ行っていたのかと訊(き)いてみた。
すると娘は、父親の顔を見るでもなく、「どこでもいいでしょ。いちいち訊かないでよ」
父親は、「もう十時だぞ」
「まだ、十時よ」と、言い返(かえ)してくる。父親は唖然(あぜん)とした。これは、もしかして…娘の反抗期(はんこうき)なのか? 父親はどうしたらいいのか分からなくなって、ついつい言ってしまうのだ。
「父さんは、お前をそんな子供(こども)に育(そだ)てた覚(おぼ)えはない」
娘は平然(へいぜん)と言ってのける。「あたしは、父さんに育てられたわけじゃないわ」
娘は、そのまま自分(じぶん)の部屋(へや)へ行ってしまった。父親は頭をかかえてしまう。妻(つま)と死別(しべつ)して三年。自分なりに懸命(けんめい)にやってきた。それなのに…。彼は、妻の写真(しゃしん)を見つめて、
「俺(おれ)は…どうすればいいんだ? なぁ、教(おし)えてくれよ。何がいけなかったんだ?」
部屋着(へやぎ)に着替(きが)えた娘が戻(もど)ってくると、しょげ返っている父親を見て言った。
「もう、やめてよね。あたしは、子供じゃないんだから…。もし、あたしが結婚(けっこん)することになったらどうするのよ。いい加減(かげん)、子離(こばな)れしてよね」
「な、なんだと? おまえ…、結婚するのか? そんな相手(あいて)がいるなんて聞いてないぞ!」
<つぶやき>これは大変(たいへん)ね。結婚式で号泣(ごうきゅう)ってこともあるかも? 今のうちに対策(たいさく)を…。
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