やっと帰って来られました……
奇跡的な生還を果たした、という心境です
いやはや
今の時期のススキノは、
魔境に等しい危険地帯ですね……
街中で起きた出来事を、
ザックリと箇条書きしてみたのですが
もう……情報量が多すぎて……
一度には書き切れないので、
少しずつ小分けにして載せて行こうかと
もし宜しければ、お付き合い下さいな
巻き込まれ体質の本領発揮っぷりに……‼︎
まぁ、通常運転とも言えるのですが
とりあえずは、
まだ比較的平和なプロローグから
アクセサリーを1つ、作って欲しいんだ」
とある日の仕事終わり
帰り支度をしていたら、
同僚に声を掛けられました
「構いませんが……
ネックレスですか?
それともイヤリング?」
「ブローチで頼むよ
孫からのリクエストなんだ
最初は自作するって、
意気込んでいたんだが──……」
そこまで言うと、
少しバツが悪そうに頭を掻く同僚
苦笑いを浮かべながら、徐にひと言
「絶望のあまり寝込んだ」
何があった
待って‼︎
急展開すぎる‼︎
「も、もう少し詳しく」
「ああ……流石に端折りすぎたな
実は孫が忘年会に行く事になったんだ
コロナが明けてから初めての飲み会だし、
彼女なりに気合いを入れたいみたいでね
お気に入りのワンピースに合わせるための
アクセサリーが欲しいって言い出して」
「あー……」
目当ての物を探して、
色々な店を覗いてはみるものの──……
あまり気に入ったものが見つからず、
結果的にハンドメイドに行くのは良くある話
「材料を買いに行ったんだけど、
あまりにも種類があり過ぎてね
迷いに迷った結果、
ほとんど何も買えなかったんだ」
そう言いながら差し出した袋の中には、
申し訳程度にポツンとピンク色の石が一粒
「1日中歩き回って、買ったのはこれだけ
流石の本人も『これはないわ』って、
自虐的な言葉を吐きながら落ち込んでね
そのまま不貞寝してしまったよ」
「ははは……
抱いているイメージを教えて貰えれば、
出来るだけ寄せて作ってみますよ」
「ミルくんならそう言ってくれると思ってね
予め、色々と聞いてメモしてきたんだよ
これを見ながら作って欲しいんだ」
用意周到だね
まぁ、話が早くて助かるけれど
打ち合わせの時間が短縮できる分、
帰宅してすぐに作業に取り掛かれます
貰ったメモによると──……
お孫さんはローズクォーツが好きらしい
確かに……そう言えば、
唯一買っていた素材もそうだった
当初はローズクォーツで作った花の
アクセサリーが欲しかったのだけれど、
どうもイメージに合う物がなかったらしい
要望としては、とにかくピンク
ピンク色の花を一輪、胸に飾りたいらしい
白っぽいレースをあしらった、
可愛いデザインが好みとの事
ふぅん……
ちなみに自分は、
このお孫さんから貰った
キティの絆創膏で胸を飾った事があります
あれは……
不幸な事故だったな……
それはさておき
「だったらローズクォーツ風の花弁を作って
それでコサージュっぽく仕上げますか」
「材料はある?
必要なら店まで送るよ」
「以前、花冠を作る仕事をしたでしょう
その時の花弁パーツが少し残っています
これを透明感あるピンクに塗ってみます」
「そうか、頼んだよ」
そんなわけで
サイズの違う花弁パーツを、
ローズクォーツをイメージした色に塗って
座金の上に花の形に並べて、
中心にはお孫さんが買った石を飾ってみる
あとはアクセントになるような装飾と、
レースの素材で包んで、だいたい完成かな
全体像はこんな感じ
お孫さんの忘年会の日、
ちょうど自分も仕事でススキノに行きます
忘年会会場の最寄駅が大通りという事もあり
地下鉄1駅分しか離れていないし、
待ち合わせて直接届ける事になりました
うん
それは良いのだけれど
問題は、この時期の飲屋街は
特にトラブルが多いということ
ただでさえ珍しいトラブルに
巻き込まれがちな体質の自分が、
こんな場所に行くなんて、もう……
無謀でしかない
仕事の内容そのものは特に難しくは無い
破損した正月用のオブジェを修復するだけ
自分にとっては、トラブルに
巻き込まれ無い様にすることの方が、
何倍も難易度が高い
どうしよう……
気休め程度にしかならないけれど、
とりあえずお祓いグッズとか持って行くかな
仕事用のカバンの中が、
わりと大変な雰囲気になっちゃうけど
まぁ……
人に見られるような事は無いだろうし
自分としては無事に帰還する事が最優先
うん
えっと
先に言っておこう
勿論、無事では済まなかったと
数日後
待ち合わせは場所は、
忘年会が行われるという
なかなかオシャレな居酒屋
少し早めに到着したけれど、
お孫さんは既に店の前に立っていました
ブローチを見せると、
嬉しそうに瞳を輝かせて
早速、身に付けると自撮りモードに突入
彼女のお気に入りだという
ダークグレーのワンピースに、
透明感のあるピンクがよく映えます
可愛い写真が撮れると良いね
「それじゃあ、
自分はそろそろ仕事に向かうので……」
「はい、ありがとうございました‼︎
私の方ももうすぐ友だちが来る──……」
……。
…………。
………………?
何故か話の途中で硬直するお孫さん
何か妙な物でも見たのかと振り返ると
そこには居酒屋の暖簾の下に立つ、
全裸の男
大変すぎる物がそこにあった
暖簾で顔は見えないけれど、
顔よりも優先的に隠すべき場所があるだろ
「ちょっ……先輩‼︎
前を隠して、前をッ‼︎」
慌ててやって来たのは、
彼の後輩らしい若い男性
その手には何故か焼き魚が乗った大皿
もう食事を終えて、
骨と皮だけになっている
この形状からして、ホッケの開きかな……
「先輩ったら、もう……
酔ったらすぐ脱いじゃうんだから
ほら早く隠さないと通報されますよ」
男性は手の大皿を、
全裸の男性の股間に当てがい──……
そして響く、
雄々しい大絶叫
あっ……これ、
刺さったな
魚の骨がのどに刺さる話は良く聞くけれど
股間に刺さるという珍事の、
決定的瞬間を見る事が出来ました
嬉しくも何とも無いけれどね
「痛いじゃないか‼︎
気をつけろよ馬鹿野郎‼︎」
パンツを履けよ馬鹿野郎
完全に酔いが回っている男性は、
目の前の後輩に悪態をつきながら
焼き魚の残骸を掴んで投げつけた──……
……つもりだったのだろう
しかし男性は酔っていた
酔った手ではコントロールも定まらない
宙を舞う魚は、明後日方向へ軌道を描き
何故かこちらの頭に命中
魚の皮が、帽子の如く頭上にスッポリ
ある意味では抜群のコントロールだけれども
「きゃー‼︎
ミルさん、大丈夫⁉︎」
大丈夫だけれども、
わりと大丈夫じゃない
怪我はしていないけれど、
致命的な精神的ダメージ
ただの魚の皮じゃねぇんだ……
ほんの一瞬とは言え、
おっさんの股間に刺さっていた皮なんだ……
触りたくねぇ
触りたくないけれど、
触らなければ外せない
この頭では仕事に行けないし──……
背に腹はかえられない
自分にはまだ、やるべき事があるんだ
意を決して
そっと指先で、
魚の皮を引っ張ってみる
…………。
取れねぇ……
「あー……
余計に絡まった気がする
これ、髪を解かなきゃダメなやつだな」
「このホッケ、お頭付きだから……
引っ掛かかりやすいのかも知れません」
ねぇ、知ってた?
ホッケの開きを頭にかぶると、
髪に絡んで外れにくくなるんだよ
特にロン毛の天パは要注意
自分はこの年齢になって、初めて知りました
出来る事なら知らないままでいたかったけど
「これが噂に聞いていた、
ミルさんのトラブル体質……
祖父の話は本当だったんですね……」
しみじみと言わないで
彼女の視線の先では、
タオルを持って駆けつけた店員が
全裸男を店の奥へと押し込んでいる真っ最中
依頼されたブローチを渡して、
店先で軽く話していただけなのに
既に第一トラブル発生
信じられるか?
まだ10分も経っていないんだぜ……?
先が思いやられ過ぎる
「あっ、友だちが駅に着いたって
忘年会の予定が無ければ、
このままミルさんを観察していたかった」
観察って言わないで
「そ、それじゃあ、
自分は仕事に行くんで……」
「はい、いってらっしゃい
頑張って下さいね、色々と」
うん、そうだね
頭は生臭いし、
手はギトギトだし、
テンションも限りなく低いけれど
なけなしの矜持にかけて、
仕事だけは完璧にこなしてみせます
「よ……よし、頑張るぞ……‼︎」
いざ、ススキノへ
気分はすっかり、
ダンジョンに挑む勇者
ちなみに
ようやく外れた魚の骨は、
店の入り口に放置された大皿の上に
そっと戻しておきました……
現在までに起きたトラブル
・全裸の男に焼き魚を投げられる
トラブルのリストは、
これから増えて行きます
お楽しみください
つづく
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