楽しむことが最優先

庭で花や野菜を育てて楽しむ北海道民です。
趣味関連を中心に日々のあれこれを、
マイペースに綴って行くつもりです。

職人矜持で突っ走る怒涛の修羅場

2023-11-29 13:14:00 | 日記
アクセサリー作りの日。

指定されたカラオケボックスにて、
音楽教室帰りの親子連れを出迎える。

しんしんと雪が降り積もる穏やかな夕暮れ。

各々、食事をしながら会話に花を咲かせ、
落ち着いた頃にアクセサリー作りを開始。


「こちらがアクセサリー用の素材です」

「わぁ……‼︎」

「宝石みたいに綺麗‼︎」


持参したテーブルクロスに
アクセサリー用のパーツを並べる度、
わっと歓声を上げる少女たち。

期待と好奇心を湛えた瞳は、
レジンの輝きも霞むほどに輝いています。


「はい、じゃあ好きなの選んで──……」

その言葉を言い終わるや否や、
四方八方から伸びる6人分の腕。

あっという間にテーブルの上は、
完全なる無法地帯に


「ちょっ……落ち着け‼︎」


この光景。
既視感あるな──……と思ったら、あれだ。

お正月の福袋争奪戦
ワゴンに群がる買い物客たちだ


「そ……それじゃあ、
 パーツを好きな様に並べてね
 レジンでその形に固定するから──……」

少女たちの勢いに圧倒されながらも、
とりあえずサンプルとして、
手持ちのパーツを適当に並べてみる。




「材料は沢山持ってきたから、
 色違いが欲しい時も遠慮無く言ってね」

「えっと……それじゃあ、
 この形でルビーっぽく出来る?」

「私は金色のお花とエメラルドが良い」

「紫の宝石をいっぱい‼︎


待て
一斉に言うな

なんだかんだで6人の少女たち全員が、
アクセサリー作りに参加する事になって。

賑やかで楽しい反面、
労力も6倍かかります。

ママたちの勢いも凄いけれど、
少女たちのパワーも侮れません。

むしろ無邪気さが上乗せされているね。
容赦ないレベルで元気


指定場所がいつものファミレスではなく、
カラオケボックスだった事に今更ながら納得

これなら大声を出しても大丈夫、
第三者への迷惑を気にしなくて良いね

そもそもカラオケボックスに、
こんな大部屋があるなんて知らなかった……

『吹奏楽サークルが時々利用してるよ』

……という言葉に納得。
色々な使い方があるわけですね……



デザインが決まった子から順次、
レジンで硬化させてアクセサリーの完成。

ちなみにその間ママたちは、
ゲーム機を囲んで盛り上がっています。



「あら、女の子も作ったのね」

「ミルさん……
 この中で1番遅く始めたくせに、
 どうしてレベルが100を超えてるの……」

「へぇ……なるほど
 こういう色使いも面白いわね」

「とりあえずフォローしても良い?


お願いだから、
12人が一斉に話し掛けないで

彼女たちの声を聞き分けられるような、
聖徳太子超えレジェンドイヤーなんか無いよ


少女たち全員分のアクセサリーが
完成する頃には既に疲労困憊……

普段の仕事とはまた違う疲れ方をしています

ここ最近、睡眠不足気味だし、
今日は帰ったらベッドに直行しよう……



「ところでミルさん、
 このあと、ご予定はあるの?」

「え」

「今日のお礼も兼ねて、
 私たちから何かデザートでも
 ご馳走させて頂こうかと話していたの」

「え゛」

「いかが?」

お気持ちだけで結構です

引きつらないよう気を払いながら、
精一杯の作り笑顔で申し出を辞退。


「まあ、遠慮なさらず」

遠慮はしてません

さて
どう切り抜けたものか──……



そんな矢先、
丁度良いタイミングで社長からの着信が。

いつもは嫌な予感しかしない着信が、
この時ばかりは天からの助けに感じます……

12人の女性を相手にするより、
社長を相手にする方が気分的には楽です。

……耳の負担も少ないし。


「会社から急ぎの案件の様です
 慌ただしくてすみませんが、
 本日はこれで失礼します……‼︎」

「あら残念
 お仕事、頑張ってね」

テーブルクロスの上で
作業をする利点のひとつに、
『撤収がスピーディー』
というものがあります。

風呂敷のように、
そのまま四隅を結んで
カバンに突っ込める手軽さ。

周囲も汚さないから掃除の手間も省けるね。



外は既に真っ暗

吐き出した白い息が、
ネオンの鮮やかさに消えて行く

通話ボタンを押すと、
聞き慣れた社長の声


「ミルくん突然ごめんね」

「それで、ご用件は?」

「今すぐ作って欲しい物があるんだ」

本当に突然だね


「予定は大丈夫?」

「ええ、まあ……」

体力的には問題あるけれど

「今、どこにいるの?
 迎えに行くから待っていて」

「ええと──……」

社長の到着を待つ間、
掻い摘んで聞いた説明によると


社長はお得意様のお宅で、
仕事の打ち合わせを行っていたらしい。

帰り際に男性の怒鳴り声が聞こえたので、
お得意様と一緒に様子を見に行くと。

そこには作業着姿の若い男性と、
彼に掴み掛かっている中年男性の姿。


慌てて止めに入って事情を聞くと
2人はガラス細工職人とクライアントで、
揉め事の原因はクライアントの発注ミス。

注文する数を間違えたから大至急作れ、
と大声で詰め寄るクライアントと、
指定数を期限内に作るのは無理だという職人。


『あの若者のことは知っている
 彼の父親とは古くからの付き合いだ
 なんとか助けになりたいが、
 手伝える事が何も無いのが残念だ』

そう肩を落とすお得意様を前に、
調子の良い我が社長がのたまったらしい。

『ミルくんに頼んでみよう』と。



さて──……
どこから突っ込むか

とりあえず
ガラス細工は専門外

今回の無茶振りは無理‼︎
さすがにそれは無理過ぎる‼︎

ぶっつけ本番で、
難易度が高すぎません⁉︎


「自分、足手纏いにしかなりませんが⁉︎」

「とにかく頼むよ‼︎
 行けばなんとかなる‼︎」

ならねぇよ


迎えに来た社長に、
半ば強引に連行されることしばし。

「あー……不安しかない
 クラクラしてくる……」

この頭痛と眩暈は、
疲労や寝不足だけが原因では無いはずだ……

頭を抱えて打ちひしがれている間に、
無常にも車は現場へ到着。

既に帰りたい

絶望的な気分で案内されたそこには
床に突っ伏して号泣する中年男性と、
彼に背を向け黙々とガラスを溶かす職人。

なんなの、この光景

カラオケボックスの喧騒とは違った部類の、
聴覚的ダメージがそこにあった


「あの、おじさん……
 大丈夫ですか……?」

恐る恐る声をかけてみると、
彼は泣き腫らした目でこっちを見て──……

「もうダメだ終わったぁ──ッ‼︎」


更なる絶望の淵へ

おっさん落ち着け

まぁ、その絶叫内容には
同意しかないけれど


「あの爺さんが自信満々に連れて来るから、
 どんな熟練の匠かと思ったら……
 なんだよ、ガキじゃないか‼︎」

社長と自分、かなりの年齢差があるからね

お客さんたちからは良く、
『釣りバカのハマちゃんとスーさんみたい』
って言われているんだ……

まぁ、釣りバカ日誌のハマちゃんは、
お笑い担当のムードメーカーだから。

ストイックで職人気質の自分とは、
キャラの方向性が全く違うけれど。

……そうだよね?


「作業をしながらで失礼します
 手を貸していただけるそうで……」

ガラス細工職人の男性が、
背を向けたまま応対してくれる。

しかし

残念ながら貸したくても、
貸せる腕がない無情な現実


「あの若造職人に毛が生えた程度のガキに、
 一体何ができるっていうんだ?
 冷やかしなら邪魔だ、さっさと帰りな‼︎」

ごもっとも

あまりにも正論すぎて、
何も言い返す事ができません

ガラスの素材とか、
取り扱った事ないもん


「な、何も出来ません
 ごめんなさい帰ります」

「そんな、せっかく来ていただいたのに」

お願い職人さん

引き止めないで
何も出来ないから‼︎


「そもそも自分、
 ガラスは専門外で」

「じゃあ何しに来たんだ?」

わかりません

本当に自分、
ここに何をしに来たんだろうね?


「こっちはな……ツリーを飾るための、
 オーナメントが足りなくて困ってるんだ‼︎
 あと最低でも50個は必要だってのに‼︎」

「ツリー用のオーナメントですか……
 それってサイズはどのくらいですか?」

「手のひらサイズくらいだな
 職人の丁寧な仕事が感じられる、
 手作りのオーナメントで飾ったツリーを
 今年のメインにしようって会長が……」

そこまで言って、再び涙を滲ませる男性。
その『会長』にミスを叱られたのだろうか。


「会長の拘りは『職人の仕事』であって、
 必ずしもガラス製である必要はない……?
 もしそこを妥協していただけるのなら、
 ガラス風のオーナメントだったら、
 自分でも用意出来ますが……」

「俺としては、それでも助かります
 今はひとつでも多くの飾りが欲しい
 もちろんクライアント次第ですが……」

ちらり

ガラス細工職人が視線を向けると、
中年男性は唸り声をあげながら宙を睨む。

彼の中で葛藤が起きているらしい。


「確かに……穴を開けるよりは、
 頭数を増やした方がマシだろうな……
 しかし技術レベルすらわからない職人に
 依頼するリスクを考えると──……
 100均で売っている程度のレベルなら、
 手伝って貰った所で逆に迷惑なんだよ」

最近の100円ショップアイテムは、
わりと侮れないクオリティだけれどね……


「それじゃあミルくん、
 試しにひとつ作ってみなよ
 合格レベルに達していれば採用って事で」

「……まぁ、材料や素材は、
 まだまだ沢山あるからね……」

作れなくはない。

正直このクライアントの事は苦手だけれど、
ガラス細工職人の事は応援したいからね。

工房の一角を借りて、
カバンの中に入れっぱなしだった
白いテーブルクロスを広げる。


テーブルクロスの利点として、
作業再開の準備が早いという点もあります。

適当な場所を見繕って広げれば、
簡易的な作業スペースの完成だからね。

手元に転がってきた素材を組み合わせて。

金属のパーツでアクセントを出しながら、
手のひらサイズのオーナメントを作成。


「……はい、こんな感じです
 最後に紐を通せば完成ですよ」

これをツリーに飾れば、
光を反射しながらユラユラと揺れて

きっと寒々しい

見るからに冷気属性

戦闘中に道具として使えば、
ヒャドくらい飛び出そうな雰囲気です




「これは……綺麗ですね
 氷で出来た花のようです
 有り合わせの素材を使って、
 即興で作ったとは思えませんよ」

意外と高評価

作業の手を止めて、
じっとオーナメントを眺めるガラス細工職人


「俺が今作っているオーナメントは、
 シャンデリアをイメージしたデザインです
 混ぜて飾っても違和感無いと思います」

「確かに……これなら使えるな
 よし、この方向性で構わない
 色やデザインを少しずつ変えながら、
 とにかく大量に作ってもらいたい
 完成品は全てこちらで買い取る」
 
「とは言え、さすがに50個は難しいですよ」

「俺が作れるのは、
 せいぜい1日に10個が限界です
 装飾を減らせば個数を増やせますが、
 クオリティを下げたくないので……」

「うーん……」

「…………」


しばしの沈黙
その沈黙を破ったのは──……


「じゃあミルくんが30個、
 職人くんが20個作れば良くない?」

よくねぇよ

社長、本日2度目の無茶振り
しかも憎いほどの満面の笑顔で


「大丈夫だって、
 2日で完成するから」

一度で良いから、その口
レジンで硬化してやりたい


「30個も作れと⁉︎」

「でも、そうするしかないし」

「まあ……そうなんだけど……」

つまりそれって……
2日間、帰れないんだね


「若い職人が、ひとつ屋根の下で2人きり
 何も起こらないはずがなく──……」

社長はとりあえず黙れ

既に起こりまくってるよ‼︎
2日間、拘束確定の修羅場が‼︎

やがてこの工房内も地獄と化すよ……‼︎



「手持ちのレジン液では、
 一晩しか持たないと思うから──……
 社長は明日の朝一番に、
 手芸店をまわって買い物をしてください」

「ああ、もちろん
 出来るだけサポートするよ」


そんなわけで

自分はひたすら、
パーツ作りに勤しむことに

少し離れた所では、
職人くんが黙々とガラスを溶かしている

無言の職人たちを前に、
今は特にする事がない中高年コンビ


「その……すみません
 お恥ずかしいところをお見せしました」

「その謝罪は職人たちにするべきだよ
 もちろん感謝の言葉も上乗せしてね」

「はい……」

自然と2人の間に会話が生まれる


「子供が生まれたばかりなんです
 15年以上も不妊治療をして、
 ようやく授かった初めての子で……
 気持ちが浮ついていたのか、
 変に力を入れて空回りしたのか、
 最近は仕事のミスが多くなっていて……
 会長から出産祝いがわりにと、
 今回の仕事を任されたにも関わらず、
 この有り様で……もう……」

頭を抱える中年男性
ぽんぽんと、その肩を叩いて慰める社長


「御社の職人にも失礼なことを……
 それなのに手伝っていただいて……」

「ミルくんは一目で気に入ってね
 わざわざ他社から引き抜いて、
 うちに来て貰った子なんだよ」

「それは……やっぱり技術が?
 それとも人柄に惹かれて?」

「顔が気に入って」

聞こえてるぞ


ほら、どうしてくれるんだ

全員の視線が、
こっちに向いちゃったぞ

どう対処すればいいんだ、
この微妙な空気


「えっと……それは……」

中年男性、困惑

「…………。」

ガラス細工職人、
聞かなかったふり

「ミルくんはね、
 死んだ娘にそっくりなんだよ」

社長、爆弾発言


「たまに連れて帰ると、
 妻も凄く喜んでくれてね
 夫婦揃ってミルくんはお気に入りなんだ」

「へ、へえ……」

社長……

だから‼︎
どうするんだよ⁉︎

この空気を‼︎


もう、知らん
とにかく目の前の仕事に集中しよう……

なんか社長が、
『ミルくんのポテンシャルを見よ‼︎』
とか言ってゴスロリ姿の写真を
自信満々に見せて回っているけれど──……

何も見なかった事にしよう



そして

なんとも言えない雰囲気のまま夜明けを迎え

パシリに徹してくれる、
中高年コンビの助けも借りて──……

奇跡的に50個、無事に納品



睡眠時間は2日合わせて、5時間弱

もう……
色々と限界です

帰宅後、さすがに体調を崩して
数日間寝込んだけれど──……

11月の末で、この忙しさ
師走の訪れが今から恐ろしい今日この頃です



NPCのキャラ立ちがエグい

2023-11-24 03:03:00 | 日記
依頼人である6人のママさんに押し切られ。

その場の流れで始めてしまった、
ファッションドリーマーというゲーム。

近日中にまた会うのですが、
その際に自分のプレイデータを
彼女たちに見せる事になっています。

依頼用のアクセサリー素材を作りながら、
同時進行でゲームもプレイする事しばし。




何とかチュートリアルを終え、
オンラインでプレイ出来る様になりました。

まぁ、ここからが本番なのだけれど……


とりあえずIDも習得出来たので、
同じゲームをお持ちの方は
良かったらフォローしてやって下さいな。

アイテムやコーデなどのリクエスト、
拙いながらも受け付けますので……



とりあえずオンラインデビューとの事で、
最低限の身だしなみは整えたいところ。

好きな色である緑を差し色に、
ブラウンベースの落ち着いたコーデを用意。




ただ、帽子をかぶると、
髪の毛も収納しちゃうのが困りもの……

あと男性キャラでプレイしているのですが、
レディースは基本的に着られない様です。

せっかく作っても自分で着られないのは、
少し残念な気がしますね……

あとトータルコーデのバランスを、
実際に着用して確認が出来ないのが不便。


そんなわけで

基本的には同じパーツで、
性別のみ変えたバージョンを作成。

申し訳程度ながら差別化をはかるべく。
なんとなく髪は下ろしてみました……



オンラインデビュー、
なかなか緊張します……

何せオフライン版のNPCたちが、
あまりにも個性的すぎまして……‼︎

例えば

断れても何度もプロポーズを繰り返す、
ストーカー疑惑が拭いきれぬ赤毛の男性とか



失恋の傷をヤバい方に拗らせちゃった、
オシャレより先にカウンセリングを
勧めたくなるタイプの男性とか……



そんな闇を抱えた世に1人歌を口ずさむ、
ある意味コイツが1番病んでるんじゃ……?
と思ってしまう男性などが、
ごくカジュアルな存在として現れます。




これ、オンラインになったらどうなるん?

NPCでこの破壊力ぞ?

中の人が宿る事によって、
完全体と化したミューズの破壊力は未知数‼︎

魔境である可能性も否めない

と、とにかく──……
かなり気を引き締めて挑まなければ‼︎

いざオンラインモードへ……‼︎



満身創痍で納品完了

2023-11-22 12:46:00 | 日記
や……やっと、終わった……

通常の仕事に加え、
個人で引き受けた仕事も大量で。

もう、内職状態。

依頼人のお嬢さんが、
あちこちでキャンドルライトを
宣伝してくれたおかげです。

最終的に6つ作る事になりました……

とは言え何かと物入りな今の時期に、
臨時収入は正直言って助かります。

頑張った自分へのご褒美も兼ねて、
今年は少し豪勢な年末を過ごしましょう……


そんなわけで。

依頼されていたキャンドルライトを、
お客さんたちに引き渡すべく。
指定されたファミレスに向かいます。

音楽教室の帰りに仲の良いママ友たちで、
よく集まる場所だそうで──……

何だか自分の学生時代を思い出して、
しみじみと懐かしい気分になってきます。



「こちらが依頼品になります」

オーダーメイドということもあり。

全てのキャンドルライトが少しづつ、
色やデザインをお客さんの好みに合わせて
変えてあるという、こだわりの一品です。

こっちは燭台の色がシルバーで、
あっちは花飾りがユリの花──……

わあっ、と歓声を上げて喜んでくれる姿は、
いつ見ても職人冥利に尽きますね。

徹夜の内職モードで、
連日、頑張った甲斐がありました……

これでやっと、ぐっすり眠れます。



「あ、あの……」

不意に

こちらの顔色をうかがうような、
遠慮がちな声が隣から。


「アクセサリーって、作れますか……?」

「物によりますが──……
 ブローチやペンダント類の
 依頼も受け付けていますよ
 何か作りましょうか?」

「助かります、ぜひお願いします……‼︎」


彼女の話によると。

娘にアクセサリーを買う約束をしたものの、
なかなか好みに合致するものが見当たらず。

それならいっそ、
オーダーメイドにすれば良いのでは、と。

今、そう思いついたらしい。


「娘は雪や氷をモチーフにした物が好きで、
 色も青や水色といった寒色を好みます」

「そう言えばキャンドルライトの依頼内容も
 青系の飾りを付けて、ってありましたね」

「ええ、娘の名前が冬にちなんだ物なので、
 たぶんその影響もあるのだと思います」

あー……
あるね、そういうこと。

自分も蓮の花が好きな理由、
恩人の名前が切っ掛けだし……


「それならパーツを沢山用意しますから、
 娘さんに好きな物を選んで貰いましょうか
 それはそれで良い記念品になりますよ」

今回の依頼で用意した材料が、
まだ少し残っています。

アクセサリー1つ分なら、
余裕で作れるでしょう……





「まあ楽しそう‼︎
 ちょっと娘を呼んできます‼︎」

子供たちが集まる、
少し離れたボックス席。

ドリンバーの飲み物もそこそこに、
少女たちは携帯ゲーム機に熱中。


「ちょっといらっしゃい‼︎
 ライト作ってくれたビルダーさんが、
 アクセサリーも作ってくれるって」

「ママが最近やってるゲーム?」

「ゲームじゃなくて、
 本当に作ってくれるの
 好きな色やデザインを選べるのよ」

「ゲームから出てくるの?」

「お願い、ちょっとゲームから離れて‼︎」


会話を聞いていた他のママ友さんたちが、
お互いに顔を見合わせながら、
クスクスと肩を振るわせています。

「私たちの中で今、流行っているのよ」

すっ……と、
カバンの中からゲームを取り出すママたち。

ここに集まった6人のママさん全員が、
ゲーム友だちでもあるそうで。


「ファッションドリーマーっていうの
 その名の通りオシャレを楽しむゲームで、
 アイテムを自作出来るのが特徴なのよ」

「へぇ……」

「ミルさんはゲームするの?」

「しますよ」


単なる趣味に留まらず、
仕事でも重宝しています。

お子さんがいると打ち合わせの途中で、
飽きてしまうことが良くあるのですが……

そんな時に、このゲーム機が
思いのほか役に立ってくれるのです。

シューティングか落ちものパズル系が、
ルールもシンプルで遊びやすいようです。


「今日も念のため、持参してきましたし」

「あら本当だわ‼︎
 じゃあせっかくだし、
 ミルさんも一緒にやりましょうよ‼︎」

「え」

6人のママさんたちの勢いに負け、
何故かゲームをダウンロードする事に。

このジャンルをプレイする事になるとは、
正直言って想像していませんでした……


「ミルさんのデザイン、
 私たちで作っても良い?」

「ええ、お願いします」

ああだこうだ言いながら。
キャラクタークリエイトする事、数分。


「はい、出来たわよ」

どや‼︎、と言わんばかりの
満足顔で渡されたそれは──……

どうしよう
わりと似てる




「け、結構……寄せてきましたね……」

「目の前にモデルがいるから楽勝よ」

逆にリアクションに困る
これ、どうすれば良いんだ……

「ビルダーのミルさんが、
 どんなアイテムを作るか楽しみだわ」

「気が向いたらで良いから、
 オンラインでもプレイしてみてね」

そんな言葉を掛けられながら、
黙々とチュートリアルをプレイ。


へぇ……このゲームって、
他のキャラクターをコーデするだけでなく、
自分がコーデされる事もあるんだね……

ポニテ男子と和服の組み合わせは定番。
しかし、この靴とピアスはどうなんだ⁉︎



こっちの世界でも、
ネタ要員として扱われている可能性……?

まぁ、とりあえず。

アクセサリー用の素材を作りながら、
ちまちまとゲームも進めていきます。

相手の好みを聞いて、
それに沿ったアイテムを作って行く。

なんだかゲームの中でも外でも、
似たような事をしているような気が……




冬の寒さと、ぬくもりと

2023-11-16 23:31:00 | 日記
『冬用の布団カバーが欲しいから、
 買い物に付き合ってほしいの』


そんな母からのLINEによって、
外出の予定が決定しました。

母が欲しいという布団カバー。

カバーそのものが、
毛布生地になっているそうな。

そんなのがあるんだ……

なかなか画期的です。
これから寒さは増すばかりだしね。


地下鉄に乗って目的地へ赴くと、
思いのほかすんなりと目当ての物を発見。

売れ筋商品のようです。
種類が沢山あると選ぶのも楽しい。

エスニック柄のものがあったので、
ひとつ自分用にも購入してみたり。




「もっと時間がかかるかと思ったのに、
 あっさりと買い物が終わっちゃった」

「順調で良いじゃない
 毎回トラブルに巻き込まれていたら、
 こっちの身が持たないよ」

「せめて、お茶くらいしてから帰らない?」

「……まぁ、お茶くらいなら」


布団カバーとは言え、
毛布生地なだけあって質量があります。

他にも食器やルームウェアも買ったしね。

これを長時間持ち歩くのは正直言って困る。
重くはないけれど、両手も塞がっているし。

何より、割れ物を持つのは
気を遣って疲れるのです……


飲食店が並ぶ階層へと移動し、
イタリアンレストランへ入店。

ドリンクの飲み放題をオーダーして、
とりあえずホットコーヒーでひと息。

「それにしても……
 急に寒くなったわねぇ」

「場所によっては積雪もあったんだよね
 また気温が上がるって話だけれど……」


そんな話をしていると、
徐に背後から声を掛けられました。

振り返ると、上品な身なりのお婆さんの姿。


「あら……‼︎」

「どうもこんにちは
 こんな所で奇遇ねぇ」

どうやら母の知り合いらしい。

彼女たちの会話に耳を傾けていると、
2人が同じボランティアグループに
所属していることがわかりました。


毎年、今の時期になると
ギンナン拾いをするというお婆さん。

今年はお嫁さんとお孫さんも
一緒に拾ってくれるとのことで、
このお店で待ち合わせをしているらしい。


「お節料理は注文して済ませるのだけれど、
 茶碗蒸しだけは毎年、手作りなのよ
 そのためのギンナンを拾いに行くの」

カバンの中には、
ビニール袋とゴム手袋。

さすがは毎年恒例、
準備に抜かりはなさそうです。


「それにしても遅いわねぇ……
 小さな子供連れだし、
 時間通りに行かないことは
 わかっているけれど心配になるわ」

無音を貫くスマホを片手に、
首を傾げるお婆さん。


その後──……

湯気を立てたカップが空になる頃、
待ち合わせ相手と思われる親子連れが来店。

少女に手を引かれて入って来た母親の目は、
どう見ても真っ赤に泣き腫らした様子。

尋常じゃない光景に緊張が走ります。


「まぁ……‼︎
 一体、何があったの⁉︎」

「ううっ……お母様、すみません……」

泣き崩れる母親
母親の頭を撫でる娘
優しく声をかけるお婆さん

そして

帰るタイミングを失った自分


どうすれば良いのだ……

完全なる部外者なのだけれど、
だからといって立ち去れる空気でもなく。

結局無言のまま、
ことの成り行きを見守るしかない状態に。



少しずつ落ち着いてきた母親の話によると。

娘さんが通う音楽教室では、
毎年12月になると演奏会があるそうで。

教会や老人ホームなどでも披露するという、
結構大きなイベントだそうです。


今日から練習が始まったらしく、
キャンドルライトかペンライトを
持参するように通達されていたらしい。

その話を聞いた祖父が家にあった、
アンティークのキャンドルライトを
貸してくれたそうなのだけれど──……


「キャンドルライト、盗まれちゃったの」

「ええっ⁉︎」

犯人は同じ教室に通うママ友。

『ちょっと見せて』と言われて貸した結果、
『これは最初から我が家の物』と主張され、
結局返してもらえなかったそうで──……


教室の先生に助けを求めても、
『名前が書いているわけでもないし、
 あなたが嘘をついている可能性もある』

……という言葉が返ってきて、
逆に、こっちが悪いという扱いだそうです。


しかもママ友は挙げ句の果てに、
『かわりのライトをあげる』と。

渡されたのは100円ショップの、
まさかの仏壇用キャンドル。


「ひど過ぎるわね……」

怒りにワナワナと震えるお婆さん。

聞き耳を立てていたギャラリーたちの
ボルテージも同時に上がっています。


「お母様すみません
 あのキャンドルライトは、
 記念の品だと聞いていたのに……」

「そんなの、もう良いわ
 傷ついた貴方たちのほうが心配よ」

とは言え。
このままで良い筈がありません。


「そのママ友を何とかしないと
 子どもの教育にも悪いわよね……」

「名前が書かれていないものは、
 盗んでもいい……って学習しちゃうかもね
 そうなる前に対処しないと」

「でも、どうやって取り返すの?
 先生はあてにならなそうだし……」

周囲のそんな疑問に、
何故か不的な笑みを浮かべるお婆さん。


「別に、取り返さなくても良いじゃない
 むしろ責任もって使い続けさせるわ
 その方が良い教育になるってものよ
 だってあのキャンドル──……
 電池交換不可なタイプで、
 とうの昔から、もう光らないんだもの」

「え」

「泥棒の件は任せなさい
 彼女の姑と私、仲が良いのよ
 事情を伝えたら味方になってくれるわ
 だから何の心配もいらないからね


ママ同士が友達なだけでなく、
姑同士も友達だったのですね……

それにしても

お婆さんの笑顔が怖くて、
逆に心配なんですが



「それより、新しいライトを用意しないと
 この仏壇用のは流石にあんまりで……」

「ああ、それなのだけれど
 色を塗ってリメイクしたら、
 そのまま使えないかしら?」

カーチャン⁉︎
何を言い出すんだ⁉︎


「いやいや待ってよ母さん‼︎
 そんな縁起の悪いライト、
 見るのも嫌な状態じゃない⁉︎
 むしろ塩かけてゴミ箱行きにしよう⁉︎」

「押し付けられたキャンドルライトで、
 誰よりもゴージャスに目立ってみせる……
 盗んだキャンドルライトで
 1人だけ光らない泥棒に対する、
 最大の皮肉であり復讐じゃない?」
 
お願い‼︎

お願いだから黙って‼︎
自分たちは部外者なんだから‼︎



「なるほど……」

なるほど、じゃねぇよ

お婆さん……頼むから、
冷静になって考えて下さい。

そのライト、
手元に置いておきたいか?

視界に入る度に嫌な気持ちにならないか⁉︎

自分としては、
速やかに供養を勧めたい


「このまま嫌な思い出として残るより、
 少しでも華やかなものに上書き出来るなら
 ……その方が私たちも救われるかも」

ま、前向きですね……

「悪いのは泥棒だもん
 このキャンドルライトは悪くないもんね」

ああ……
優しくて、しっかりしたお嬢さんだ。


「でもリメイクと言われても、
 どうすれば良いか私たちには……」

「大丈夫よ、うちの子が何とかするわ
 昔からそういうのが好きなのよ」

鮮やかすぎる丸投げっぷり

うん
わかってた

そんな気は最初からしていたけれど

どうしろと

普段の仕事とはまた違った重圧
胃痛を感じるのは気のせいではない筈



「…………。」


じーっ……

どうしよう
すごく見られている

少女、
無言の圧力


「な、なに……かな……?」

「……ビルダーなの?」

「えっ……?
 いや、建築業ではないよ」

「あー……この子が言うビルダーは、
 物作りが好きな人、って意味です
 最近、夫とそういうゲームをしていて」

「へぇ……」

「人を助けるために戦うのが勇者なら、
 物作りが好きで楽しんでいた結果、
 人助けに繋がるのがビルダーなんです
 作るものも野菜からメカまで実に様々で」

幅広く手掛けすぎだろ


でも、そうか……

あくまでも物作りを楽しんで、
結果として喜んでもらえれば……と。

そういう考え方は嫌いじゃない。
その位の気軽さでも構わないのであれば……


「それでは『ビルダー』として
 そのキャンドルライトのリメイク、
 承ることにしましょうか」

「ええ、ぜひお願いします
 仏壇用にさえ見えなければそれで……」

「そう言わず、好みを聞かせて下さい
 どこまで寄せられるかは分かりませんが、
 出来るだけリクエストには応えたいので」

「はい、それでは──……」


そんなわけで
急遽、舞い込んだ依頼。

物作りの疲れを癒すための休暇を、
まさかの物作りに費やす本末転倒っぷり。

でも後悔はしていません。


あのお婆さんも今ごろ、
彼女なりのやり方で戦っていることでしょう

それなら自分も戦ってやるさ

ビルダーとして、
物作りという形でな……‼︎


100円ショップの仏壇用キャンドルライト。

色を塗ったり装飾を付け足して、
ゴージャスな姿にリメイクします。

これを──……




ビルダーが全力でリメイクを楽しんだ結果

こうなった




ちなみにコレは試作用のサンプル品です

流石に依頼品の写真を
載せるわけには行かないしね……

実際に渡した奴はもう少し、
カラフルでキュートな雰囲気。

そして名前の刻印入りかつ、
強度倍増バージョン


お渡ししたキャンドルライト

お嬢さんも気に入ってくれたようで、
嬉しそうに音楽教室の友達に
見せてまわっていたそうです。

歌の練習時だけでなく、
何故か魔法少女ごっこの時にも
活躍しているそうですが──……

どんなに振り回したり落としても大丈夫、
安心して思う存分に戦って下さいな

万が一、破損した場合も、
ちゃんと修理は承るしね。


それはさておき


ビルダーが主人公のゲームって、
わりと人気らしく種類も多いそうです。

少し気になっているので、
機会があれば挑戦してみたいのですが……

現在、音楽教室に通う他の親御さん達から、
キャンドルライトの依頼が相次いでいまして

しばらくの間、
ゲームの時間は取れそうにありません……

まぁ、これはこれで、
楽しいから良いのだけれどね。


目に眩しいほど色鮮やか

2023-11-10 12:16:00 | 日記
うちの会社にしては、
かなり大きな仕事が舞い込みました。

設計図の用意はさることながら、
予算と必要経費の兼ね合い、
材料発注元の価格調査──……

色々とやることはあるけれど、
そこで終わりではありません。

むしろ、ここからが本番。
自分は更にそれを作らなければなりません。


作業部屋に篭もること数日間──……

物作り職人としての孤独な戦いの末、
ようやく完成した依頼品を社長たちに託し。

『ミルくんお疲れ様
 あとは任せてゆっくり休んでね』

……と言う皆の、お言葉に甘えて。

自分は溜まりまくった疲れを癒すべく、
三日間の休暇を貰いました。



「さて、どうしようかな……」


もうすぐ初雪が降るそうです。

今日は過ぎゆく秋を惜しみつつ、
少し遠出をして秋空の下を歩くことに。

朝は雨模様だったけれど、
すぐに晴れてくれて助かりました。


絶好の散歩日和です。

新品のTシャツに、お気に入りのキャップ。
愛用のスニーカーで準備もバッチリ。

よし、今日は紅葉を楽しみながら歩くぞ…‼︎


色づくモミジ。



実を赤く熟させたナナカマド。



コキアの鮮やかなピンクも良い感じです。




もうすぐ全てが雪に埋もれてしまいます。
来月になれば周囲は一面の銀世界。

その前に思う存分、
この色鮮やかな光景を楽しみたいものです。

まぁ、冬も嫌いではないけれどね。


外の空気は澄んでいて、
季節外れの暖かな日差しも心地良い。

目に映る景色も素敵──……なのだけれど。

まずい。
まだ歩き始めて30分足らずなのに、
早々にトラブルが発生。

胸が擦れて痛くなってきた


新品のTシャツが悪かったのかな……
布地もちょっと、かためだし。

まだまだ足は元気だけれど、
このまま歩き続けるのは難しい。


さて、どうするか──……


あ、そうだ。
胸に絆創膏を貼ってみよう。

これで摩擦から守れるはず。

我ながら名案です。
絆創膏は確か常備薬のポーチに──……

入って……は、いたのだけれども。


「おおぅ……」


この絆創膏、
キティちゃん柄だ

そういえば、前に貰ったんだよな……

まぁ、貼るのは胸にだし。
外から見える部分じゃないからね。


ぺたっ

左右の胸にキティちゃん。
原色バリバリの絆創膏の存在感が凄い。

胸元にだけ漂う、
ピューロランド感

なんだろう、
謎の圧を感じる

とりあえず
うっかり銭湯に行かないよう気をつけねば

こんな状態の胸、
見られたら泣く


気を取り直して、お散歩再開です。

胸の摩擦も薄まり、
安定して歩けるようになりました。

健康って素晴らしいね。


それにしても、
ここ最近の気温は凄く高めです。

とても11月だとは思えません。
歩いているだけで汗ばんできました。

どこかで水分補給しないと……


しばらく歩いていると、
大きめの公園が見えてきました。

せっかくだし、
ここで一休みしよう。

自動販売機もありそうだし、
散歩の折り返し地点としてピッタリです。


平日だけれど、意外と人が多い。

木陰でトランペットを吹く男性、
スケッチブックを手に景色を描き写す若者、
ベンチに座って話に花を咲かせる老人たち。

みんな、思い思いに秋を満喫しています。

芝生の上に舞い落ちる、
落ち葉の鮮やかさも良いなぁ……

目に映るもの全てが絵になる光景です。




平和だなぁ……

なんて思っていると、
それがフラグになったのでしょうか。

突如、背後から響く女性の悲鳴。


慌てて振り返ると、
そこには芝生の上を元気に走り回る犬と、
それを追いかける老人と老婆の姿──……

あー……
うっかりリードを離しちゃったのか……

この広さの公園だと、
車道に飛び出す心配はないけれど。

とにかく一刻も早く捕まえないと、
何らかの事故が──……って……


おい

まて

何故こっちに来る!?

ストップ‼︎
そこのゴールデンレトリバー……‼︎


口に手を当てたまま硬直する老婆
駆けつけようとして力尽きた老人

そして

何故か自分の目の前で、
四足歩行をやめた犬


「うをっ!?」

知らなかった

犬って立ち上がると、
意外と背が高いんだね……

飛びかかって来た犬を
咄嗟に抱き止めてしまったせいで、
このままダンスでも始められそうな状態に。


「す、すみません……っ……‼︎
 うちの犬が失礼を……け、怪我は……?」

「大丈夫ですよ
 人懐っこい子ですね」


尻尾が凄い勢いで左右に振られています。

犬の方に敵意は無く、
単に戯れて遊んでいるだけらしい。

両手で背中を撫でてみると、
嬉しそうに鼻先を擦り付けてきて。


「可愛いですね……‼︎」

猫が大好きだけれど、
犬も勝るとも劣らぬレベルで大好きです。

大型犬のボリューム、
これはこれで素晴らしい……



「孫の犬を預かっているのですがね、
 ちょっと元気が良すぎまして……
 振り回されっぱなしで困りますわ」

「あはは」

確かゴールデンレトリバーは
あまりに人懐っこいがゆえに、
番犬に向かないと聞いたことがあります。

なるほど……

確かにフレンドリーです。
初対面で全力ハグしちゃうくらいだものね。


人の会話を理解しているのか、
していないのか──……

ちょこんと座って、
時々首を傾げる仕草が可愛らしい。



「私が手を離したせいで……
 ごめんなさいね、大丈夫でした?」

少し遅れて老婆、到着。

お詫びにどうぞ、と
渡されたのはティッシュに包まれたキノコ。




「この公園には落葉の木があってね
 今日みたいな日には、
 キノコが良く生えているのよ」

「うちの婆さんはね、
 キノコや山菜採りの名人なんです」

「へぇ……」

せっかくだし、いただきましょう。
なかなか落葉キノコって売っていないし。


そうだ
売るといえば──……


「この辺りに自動販売機はありませんか?
 ちょっとノドが渇いていて──……」

「ああ、それなら良い場所があるわ
 お爺さんは、ワンちゃんをお願いね」


犬を預けたお婆さんに連れられて。
歩き続けているうちに──……

公園から出ちゃったよ?


「あ、あの……?」

「大丈夫、目的地は公園の近くだから
 ほら着いた──……ここよ」

連れてこられた建物。
そこの看板には診療所の文字。


「私たち、いつもここで休憩するの」


お、お婆さん……?

ここは診療所であって、
喫茶店ではありませんよ!?

慌てる自分をよそに、
慣れた手つきでドアを開けるお婆さん。


「あら、いらっしゃい」

「こんにちは
 この人に飲み物をもらえるかしら?」

中から顔を出したお医者さんに、
さも当然とばかりにドリンクをオーダー。

どういうことなの!?


「ここ最近、夏が異様に暑いでしょ?
 熱中症を未然に防ぐために、
 ドリンクサーバーを開放してるの
 だから遠慮しないで飲んでいってね」

焦る自分に気がついたのか、
笑顔で説明してくれるお医者さん。

なるほど

だからこの診療所では、
玄関入ってすぐのところに
ドリンクサーバーがあるんだ……


確かに『ご自由にお飲みください』と、
書かれているのだけれども──……

診察を受けずに、
水だけ飲んで帰るのも勇気がいる気が……


「季節問わず水分補給は怠っちゃダメよ?」

「はい」

「ちょっと顔が赤いわね
 運動でもしていたの?」

「数時間ほど歩いていました」

そんな会話をしながら、
せっかくなので飲み物をいただくことに。

あー……ノドが潤うなぁ……



「それじゃあ念のため、
 心臓の音を聴かせてね

「えっ……悪いですよ」

「今日は他に患者さんもいないし、
 そこの待合室の椅子で構わないから


聴診器を構えるお医者さん。
マスク越しでもわかる穏やかな微笑み。

ドリンクサーバーの件といい、
優しくて面倒見の良い人なのでしょう。

そこまで言うなら──……


…………。

………………。


いや
ちょっと待て

椅子に座った瞬間、思い出した

今、自分──……
胸にキティちゃんが‼︎


「あ、あの」

「どうしたの?」

「えっと、その」


…………。

言えねぇ……


いや、でも待てよ?

心音を聞くのに、
必ず胸を露出させるとは限らない。

シャツの上から聴診器を当ててくれる、
そんな可能性だってあるじゃないか‼︎

よし、ワンチャンある──……


「それじゃあ、
 シャツまくってね」

無かった……ッ‼︎


「えっと……」

「もしかしてタトゥーが入ってるとか?
 大丈夫よ、私は気にしないから」

自分の胸にいる存在はある意味、
タトゥーよりヤバい奴です


「大丈夫よ
 恥ずかしくないわ」

絶対恥ずかしいわ‼︎

このシャツをまくったら、
大変な事になるよ?

ドクターの想像を絶する光景が、
ハローしちゃうと思うよ……!?


何も知らないで、
無責任なことを言わないでくれ

こっちは今、
両乳首にキティ貼ってんだ

これを晒す覚悟なんか持ち合わせてねぇよ


キティちゃんは仕事を選ばす、
色々なグッズや場面で見かけるキャラです

でも

今じゃない
キティがハローするのは今じゃない……‼︎



「あっ、じゃあ、私はお先に失礼しますね」

異様な緊張感を感じ取ったのか、
そそくさと場を後にするお婆さん

自分も逃げたい


「ほら、あなたも早く」

あー……これ、もう、
診察終わるまで帰れないやつだ

くっ……
覚悟を決めるしかないのか……


この診療所は自宅からかなり離れているし、
今日のことが近所に広がることは無いはず

そうじゃないと、
自分の噂が大変なことになる


『ミルって人はガーターベルトつけて、
 妙な霊能関係で信者から貢がれていて、
 両乳首にキティの絆創膏貼ってるらしい』

……なんて噂が流れた日には、もう、
引っ越し不可避……‼︎


大丈夫
大丈夫だ、ミルよ

ここの診療所は生活圏内から遠く離れている

さっさと終わらせて帰ろう
そして全てを忘れるんだ……


見せてやろうじゃないか
我が両胸に封印されし禁断の白き獣を……‼︎


「…………。」


ドクター、今あなた、
無言で2度見しましたね?

と言うか、
肩が震えてますけど!?


ふっ……

かく言う自分も、
涙目でプルプル震えているがな……‼︎


「…………。」

「………………。」


無言

誰か助けて
沈黙が重い

何を言ってもダメな状況だけれども、
何も言わないままなのも辛すぎる……‼︎

医者でも救えぬ、この空気


気まず過ぎる沈黙の末、
なんとか病院を後にした自分。

何と言って出て来たのか、
もはや記憶が曖昧です。

とりあえず
もう2度と此処には来れねぇ

連日、作業部屋に篭っていた時よりも、
ある意味疲労困憊になっている気が……


「さあ……帰ろうかな……」


見上げた空は、
どこまでも青く澄んでいて。

街路樹の桜が良く映えていました。




とりあえず

キノコを塩水に漬けて
胸の絆創膏を剥がして

ふて寝



目が覚めたら、
全てを綺麗に忘れていますように……