楽しむことが最優先

庭で花や野菜を育てて楽しむ北海道民です。
趣味関連を中心に日々のあれこれを、
マイペースに綴って行くつもりです。

予測可能、回避不可能・3

2023-12-25 10:03:00 | 日記
前回からの続きです


「いらっしゃいませ、待っていたよ」


ふくよかな初老の女性が、
人懐っこい笑顔で手を振っている

彼女が店主であり、今回のお客様

外観と同様、昭和感たっぷりの店内は、
親戚の家のような親しみ易さがあります

このホッとする感じ──……

レトロゲームで例えるならば、
満身創痍でセーブポイントに辿り着いた感覚
ドラクエ2のロンダルキアの祠とか

オートセーブが主流の今では、
あまり感じることのないスリル感よ……

それはさておき


「やっと辿り着けました」

酔っ払いにでも絡まれたかい?」

そんなありふれた物じゃねぇ


「お茶を用意したんだ、まずは座って

促されるまま席に着くと、
程なくしてお茶が運ばれて来る

中身はチャイかな

優しいミルクと仄かなスパイスの香りが
立ち上る湯気と共に周囲に広がって

この店内にいると、
時間の流れが緩やかに感じます




ここは店主のテリトリー
ある意味、守られている状態です

店内でトラブルに巻き込まれる事は
無いだろうという安心感に、
緊張がほぐれて行くのを感じます

ああ……
ようやくトラブルの連鎖から解放される……


外は寒かったっしょ?
 道は滑らなかったかい?
 うちの旦那も転んで腰をやっちゃってね

店主の気さくな道産子訛りが、
アットホーム感を更に引き立てています

この飾らない雰囲気は嫌いじゃない
決して嫌いではないのだけれども──……


「うちの常連さんがね
 親戚の子を預かってるんだけど、
 その子がまた問題のある子なんだわ
 学生時代にギャンブルにハマって、
 多額の借金作ったらしくてね……
 まだ若いから、今の内に何とかしないと」

突如始まる世間話

アットホームなのは良いけれど、
店主のお喋りが少々長めなのが困る

「知り合いのホストクラブで、
 雑用として雇って貰ったんだけどね
 そこでまた問題を起こしたらしいんだわ」

「そ、そうなんですか……」

ええと……
その話、長くなりますか?


「一度ガツンと言ってやらなきゃ、
 あの子の為にもならないって話になってさ
 これからこの店に呼び出して説教タイム」

ちょっと待って

「そんなわけだからさ、
 ちょっと場が荒れるけど気にしないでね」


荒れる事は確定かよ

いや、それよりも
そんなタイミングで、なぜ自分を呼んだ⁉︎

修理作業の日程なんて、
いくらでもズラせたでしょ⁉︎


「第三者がいる場の方が、
 逃げられないで済むからって
 それでウチの店が待ち合わせ兼、
 説教部屋として選ばれたんだわ
 この時間帯なら客もいないからね」

それなら尚更、
自分の場違い感が際立つ

彼らの事情とは全く無関係の、
オブジェの修理に来ただけの人だよ?

なぜ自分がこの場にいるのだろう
出直した方が良いのでは……?


「ミルくんがいれば、
 何かあった時に対処して貰えるかなって

悪びれもせず言うな

そもそも自分、
争い事は苦手なタイプです

全力で殴れるのは、
せいぜいスイカくらいだし


「頼りにされても困りますよ……」

「ミルくんなら大丈夫だって‼︎
 その目力は十分に威圧感があるからさ‼︎」

「ガンつけた、って怒られません?」

「身内相手にしか強く出られないらしいよ

裏弁慶タイプかな


「そんなわけだからさ、
 同じ空間にいてくれるだけで良いんだわ
 安心してお仕事に専念して大丈夫だから」

「そ、そう……」

店内に入ればトラブルから解放される
そう思っていた時期が自分にもありました

まさか店の方が巻き込む気満々で、
トラブルを用意してるなんて誰が予想する⁉︎


「胃が持たない……」

「胃薬とチャイの材料って似てるんだってさ
 だから、前もって飲んでもらおうかと……
 おかわりもあるからさ、沢山飲んでね」

微妙過ぎる優しさ

ウェルカムドリンクで、
胃痛への予防線を張らないで……‼︎


「用意周到ですね」

まぁ、ひとつ頼むよ
 仕事の邪魔はさせないからさ」

まぁ、仕方がない

自分が成すべきことに、
ただ真摯に向き合えば良いだけのこと

案外、仕事に没頭している間に、
件の説教も終わっているかも知れないし



「それじゃあ本来の目的──……
 仕事の準備を始めたいのですが……」

「ああ、そうだね
 テーブルに新聞紙を敷くから、
 そこで作業をして欲しいんだよ」

よいしょ、と
店主が抱えて来たのは宝船のオブジェ

黒塗りの船の上には
サンゴや小判などが積まれていて、
いかにも縁起が良さそうです


「船の帆の部分が根本から折れちゃってさ
 他にも小さなパーツ部分に傷があって」

「なるほど」

「クリスマスが終わったら、
 ツリーの代わりにコレを飾るんだよ
 店の開店祝いに貰った品でね、
 もう、かなり年季が入ってるっしよ?」

確かに年代を感じるものの、
大切にされてきたことも伝わります

作品は、ただ作るだけでは未完成

人手に渡り大切に使い込まれる事によって、
初めて完成となる……とは、良く言ったもの

うーん

こういった作品を見ると、
こちらも自然と背筋が伸びてきます

先人の仕事に敬意を払いつつ、
まずは修復箇所の洗浄から行いましょう


「へぇ……やっぱりプロなんだね」

「はい?」

「オブジェを前にした途端に、
 ミルくんの顔つきが変わったよ
 まるで別人みたいな迫力だね」

待って
迫力って何⁉︎

仕事モードの自分って、
周囲からどんな目で見られているの?

そう言えば──……

今の会社に入ったばかりの頃は、
『仕事中のミルくんに話し掛けるの怖い』

そう言って社長や他の従業員たちが、
かなり遠巻きに自分を見ていました

今ではすっかり慣れた様子だけれども


「そんなに迫力あります?」

「普段とのギャップが、かなり激しい……
 というのもあるかも知れないけどね
 いつもはニコニコして話しかけ易いから」

つまり
要するに

真顔が怖いと

そういう事なんだね……?


普段から人と接する時は、
笑顔を意識しているのだけれども

仕事モードに入ると、
目の前の作業に集中しちゃうから
笑顔が消えてしまうみたいだね

うん
そっか……

…………。


いや
悪い方に考えるな

仕事中の姿に迫力を感じるのなら、
それを最大限に活かして身を守れば良い

例え場が荒れようが、
仕事に集中さえしていれば
巻き込まれずに済むじゃないか‼︎


「それでは仕事を始めますね」

「うん、頼むよ」

よし、気を取り直して

まずは空気を吹きかけて、
オブジェの埃を綺麗にします
 
同時に細めのブラシで汚れを落として……


チリン

近くでドアベルの音
店内が静かなせいか、妙に響く

まだ叔母さん来てない?」

「いらっしゃい、待っていたよ
 彼女はまだだね
 先に何か食べるかい?」

「じゃあハンバーグ定食」

例の問題児が来たらしい
今の所は特に問題行動は見られないけれども


「バイト先で大変だったんだって?」

「あー……うん
 出禁になった客がいてさ
 それでも未練がましく店の前に来るから、
 ちょっと声を掛けてみたんだ
 上手いことやればその客に、
 借金肩代わりして貰えるかも知れないし」

動機が酷い

他の店に呼んで何度か一緒に飲んだんだ
 そうしたらその女……
 会う度にだんだん言動がヤバくなって‼︎
 流石に手を切ろうとしたら、
 今度はストーカー化しやがった……‼︎」

出禁になるからには、
やっぱりそれ相当の理由があるわけだね

「店にも叔母さんにも怒られるし、
 何で俺ばかり不幸なんだろうな……」

わりと自業自得だよ?

そこに気付くためにも、
愛の説教は必要なのかも知れないね


「はい、召し上がれ」

彼の話に耳を傾けるものの、
特には何も言わない店主

それは叔母さんの役目だと、
彼女も分かっているからだろう

ただ、そっと料理を差し出す姿が妙に優しい


静かな空間に、
彼が食事をする音だけが響く

穏やかな食事風景だ
この分なら大丈夫だろう

安心して目の前の作業に集中する


以前、店主が自力で修理した名残りだろうか
変色した接着剤が所々に付着している

本体に傷をつけないよう、
注意しながら剥がさないと……

欠けたりヘコんだ部分は、
同じ色の顔料で埋める必要がある

折れてしまった帆の部分は、
ただ接着するだけでなく、
補強もした方が良さそうだ

どれも特に難しい作業ではない
持参した道具と材料で何とかなりそう

ただ問題は──……



「ごめん遅れたぁーっ‼︎」

ドアベルの音も掻き消えるほどの声量で
店内へ駆け込んできた1人の女性

彼女が例の『叔母さん』だろう

既に食事を済ませ、
食後のお茶を飲んでいた彼が顔を顰める


「叔母さん……
 店の中で走るなよ」

「問題児のくせに、正論を……っ‼︎
 聞いたよ、あんた客から、
 財布を盗もうとしたんだって⁉︎」

「違うって‼︎
 トイレで財布を拾ったから、
 持ち主を調べる為に中身を見たんだよ‼︎」

「その言葉を誰が信じるってんだい‼︎
 普段から信用を失う事ばかりして‼︎
 そもそもの借金だって、
 学費が足りないだなんて嘘付いて
 親戚中から借りたんだろう⁉︎」


来店と同時に始まる説教タイム

かなり怒りを溜め込んでいたのか、
それとも彼女が元々勝気な性格なのか

どちらにしろ
集中出来ねぇ

あの……
わりと繊細な作業をしているのですが……


「──……って、説教は後だよ‼︎
 あんたが被害にあっているっていう、
 例のストーカーが近くにいるみたいなんだ
 確証はないけど聞いてた特徴にピッタリで
 念の為に避難しておいた方が良いよ」

「げっ……」

まさかの展開
嫌な予感しかしない


「あんた、後をつけられてたみたいだね
 店の近くをウロウロしていたけど、
 下手したら中に入ってくるかも……」

「ど、どうしよう……
 あの女マジでヤバいんだよ……」

「爺さんに電話しておいたから、
 とりあえずはそこで匿って貰いなさい
 その連絡やら何やらで到着が遅れたんだよ
 少しは感謝して貰いたいもんだね」

この叔母さん──……出来る‼︎
彼女の行動力と気遣いは見習いたいものです


「でも下手に外に出て鉢合わせたら……」

「じゃあいっその事、
 彼女を店に招き入れれば良いっしょ
 ホストくんはその間、店の奥に隠れてね
 私たちが彼女を引きつけている隙に、
 裏口から外に出てお爺さんの所に行こう
 ……それで良いかい?」

店主さんも頼りになる

この機転の働かせっぷりは、
人生経験のなせる技なのでしょうか……


「うぅ……
 お願いします……」

「ミルくん、悪いけど頼まれてくれるかい?
 私が合図したらホスト君を連れて、
 お爺さんの所に送り届けてあげて」

「わかりました」

作業の途中だけれども、
それどころじゃねぇ


「それじゃあ彼女を連れてくるから、
 ミルくんはバイトのフリでもしながら
 パーテーションの前に立っていてね」

店の奥へと続く部屋にドアは無く
あるのは木製のパーテーションのみ

やろうと思えば、
簡単に中を覗くことが出来ます

ここに立つということは、
目隠しの役割も同時に担うということ

不審な動きをして、
怪しまれないようにしないと……


急いでテーブルの上を片付けると、
バイトっぽくメニューを小脇に挟んで
言われた通りにパーテーションの前に立つ

正直言って、
緊張感が凄まじい

胃痛を通り越して、
何故か背中まで痛くなって来たよ……


チリン

少し経って
店主が若い女性を連れて戻って来ました

女性が大切そうに抱えた
トートバッグからはみ出しているのは、
真っ黒に顔面を塗り潰されたお人形さん

ああ……

これ、
ダメなやつだ


「どうだい?
 食べられそうなもの、あるかい?」

「この、ステーキ……」

「ステーキにするかい?」

生のお肉だけ貰えますか?」

「生では出せないからレアにしておこうか」

「はい……」

生肉を注文する客、初めて見たよ
何処から突っ込めば良いのかわからない


「はい、お待ち」

程なくして

言葉通り表面を軽く焼いただけの、
ほぼ生の状態のステーキが用意される

彼女は徐にトートバッグに手を突っ込むと、
中から人形とナイフを取り出して


ざくっ……


なぜ?

なぜ、彼女は人形の顔面に、
ナイフを突き立てたのかな?


ざくっ

ざくっ


なぜ、彼女は人形と肉を交互に、
ナイフで突き刺しているのかな?

黒魔術?
黒き聖餐?

どちらにしろ、
震えが止まらない


「バイト君‼︎
 あがっていいよ‼︎」

「はい‼︎
 お先に失礼します‼︎」

反射的にそう返事をして

店の奥に行くと、
2人分のカバンを持ったホスト君が
裏口の前でスタンバイ中

よし
さっき見た事は忘れよう

無言で顔を合わせ、頷き合うと
そのまま夜の街へと全力疾走

目指すは何処の誰かもわからない、
『爺さん』とやらの住まいです

既に不安しか感じねぇ……



現在までに起きたトラブル

・全裸の男に焼き魚を投げられる
・公衆トイレで薄毛に呪われる
・痴話喧嘩のカップルに砂利を撒かれる
仕事現場が説教部屋になる
・客が謎の儀式を始める

本当の地獄はこれからです
宜しければお付き合い下さい

つづく

予測可能、回避不可能・2

2023-12-17 10:36:00 | 日記
※前回からの続きです


日が暮れてからが本番

12月のススキノは、
今日も喧騒に包まれていました




時計を確認すると、
まだ時間には余裕があります

焼き魚の汚れを付けたまま、
仕事には行きたくないし──……

よし、洗いに行くか

目指すは近くの公衆トイレ
鏡があれば髪のチェックも出来るから良いね

……魚の骨が残っていないか確認しないと


トイレの中は幸いにも空いていました

先客の男性が鏡の前で、
ヘアスプレーを手に髪のセット中

彼の隣に並ぶと、まずはしっかり手を洗って

それから鞄の中から、
ウェットティッシュを取り出す
仕事中は色々と汚れるからね……

ウェットティッシュは
仕事用鞄の中に常備しています
手だけでなく道具も綺麗に出来て便利

ただ、髪を拭くとなると、
ちょっとキューティクルが傷みそうだけれど


とりあえず髪を下ろして、
魚が乗っていた辺りを念入りに拭いてみる

……良かった、特に汚れてはいなさそう

生臭さも消えてくれたし、
これなら問題なく仕事に専念出来そうです

髪をコームで軽くとかして、
慣れた手つきでポニーテールに結い上げる

よし、これで完成──……



「…………?」


ふと視線を感じて、
何となく横を向くと

そこには全力で睨みつけてくる男性の姿

何で?

気が付かない間に、
何か悪い事をしてしまった?


「あ、あの」

「お前……」

「はい?」

「何だその頭は‼︎」

!?

「フサフサしやがって‼︎
 自慢か?見せつけてんのか?
 ああそうさ羨ましいよクソが‼︎

一気に捲し立てられた


「俺はな、ついさっきフラれたんだ‼︎
 ハゲた男は愛せないって言われてな‼︎
 この頭のせいで……髪のせいで……‼︎」

流れる涙を手の甲で拭う男性

チラリと見えた、
握られたままのヘアスプレーのラベルには
 
育毛トニックの文字


あー……

髪をセットしていたのではなく、
育毛に励んでいた所だったんだね……


「ちくしょう……
 ハゲろ……お前もハゲろ……ッ‼︎」

唐突な呪詛

呪う薄毛
巻き込まれるロン毛

何て悲しい光景なんだ

理不尽に怒鳴られた筈なのに、
何故かちっとも怒りが湧いてこないよ

むしろ、見ているこっちまで
目頭が熱くなってくる


そっとウェットティッシュを差し出してみる

断られるかな、と思ったけれど、
意外と素直にそれで顔を拭く男性

「すまないね……」

「いえ」

「少し風にあたって頭を冷やすよ
 お詫びとしてコレ、受け取ってくれ」

すれ違い様に渡されたのは、
使いかけの育毛トニック(特大サイズ)

要らねえ……


でもここで断った結果、
彼がまた泣き出しても困る

間違っても『自分には必要ない』などとは、
絶対に言えないムードがそこにあった……




ススキノ中心部から少し外れた場所

昭和感たっぷりな出立ちの、
小さな飲食店が今回の現場です

メインの客層は周囲の飲食店店員

スナックのママやバーのマスターなどが、
仕事上がりに軽く立ち寄って
情報交換をする場となっているらしく

今の時間帯は殆ど客がいないらしい


『暇を持て余しているから、
 営業時間中でも構わずに来て欲しい』

そんな要望もあって、
今日は暗くなってからの出勤です

SNSが主流の時代だけれども

客商売である彼らだからこそ、
直接顔を合わせて行う情報交換の時間を
とても大切にしているらしい

そんな場を提供している今回のお客さんも、
人と接することが大好きなタイプです

良い人なんだけど、かなり話が長いんだ……



比較的小さめの店が並ぶ狭い道は、
街灯よりも店が放つ照明の方が明るい

店先にはクリスマスリースや、
スパイスで飾られた果物が飾られています

店内から漏れて流れるメロディに
急かされるように歩みを早めていると、
突然耳に飛び込む不協和音──……


「はぐらかさないでよ‼︎
 アンタがやったんでしょ⁉︎」

「言い掛かりは止めて下さいよ、
 どうせ証拠なんてありませんよね⁉︎」


あっ……

これ、喧嘩だ

もう少しで目的地に着くというのに、
言い争い真っ只中の2人が道を塞いでいる

色鮮やかなコートを着た、
喉仏を持つ美女達が喧嘩している

渋いバリトンボイスが夜の空に良く響く
わりと良い声だけど、だからこその迫力だ

凄く恐い


えっ……
ここ、通るの?

わかってる
わかってはいるんだ

通らなきゃダメなんだよね
そうしなきゃ現場に行けないもん

でも
そんな勇気ねぇよ……‼︎


どうしよう

暇しているって言ってたし、
電話掛けて迎えに来てもらおうか

でも、それには彼らと距離が近すぎる

もし助けを求める通話が、
彼らに聞こえてしまったら

かなり気まずい事になる


迷っている間にも2人の争いはヒートアップ

口論では埒があかないと思ったのか、
片方がコートのポケットから何かをつかんで

思いっ切り地面に叩き付けた

何か破片のようなものが飛び散り、
こっちの足元まで勢い良く転がってくる

幾つかがブーツに当たったらしく、
爪先にコツコツと軽い振動が伝わった


「うわっ……と⁉︎」

あっ……
どうしよう

思わず叫んじゃった

咄嗟に手で口を覆うも、
全てがあまりにも遅すぎて


「………………」

あー……
見られてる

さっきまで罵り合っていた2人が、
無言でこっちを見つめてくる

どうしよう
目が合っちゃった……


先に口を開いたのは、
地面に何かを叩き付けていた方

「ごめんなさいね、怪我は無かった?」

「えっ……あ、はい……」

「だから暴力はダメだって言ってるでしょ
 怯えてるじゃないですか、可哀想に……」

「本当にごめんなさいね
 いつもの痴話喧嘩なの、気にしないで」

痴話喧嘩かよ


「コレ、分けてあげる
 よかったら使ってみて」

コートのポケットから取り出した物──……
先ほど地面に叩き付けていた物の一部だろう

不規則に角ばった形のそれは、
手のひらの上で無造作に転がされている


「あの、これは……?」

「砂利」

砂利かい


「いや、あの……
 渡されても、どうすれば良いか……」

「大丈夫よ
 ビニール袋に入れてあげる」

運搬スタイルの心配はしてねえ


「光るんですよ、この砂利
 蓄光性というやつです
 ロマンティックな夜の演出にどうぞ」

「へぇ……」

ロマンティックな夜を、
一緒に過ごす相手がいないんですが……

まぁ、いいか
何かに使えるかも知れないし

とりあえず痴話喧嘩も落ち着いた様で一安心

こうして仕事鞄の中には、
特大サイズの育毛トニックに続き、
暗闇で光る砂利が新たに加わりました




仲直りしたカップルに別れを告げ

やっと本来の目的地に向けて、
歩き出せるようになりました

ふふふ……

信じられるか?
まだ仕事現場にすら着いていないんだぜ……


現在までに起きたトラブル

・全裸の男に焼き魚を投げられる
・公衆トイレで薄毛に呪われる
・痴話喧嘩のカップルに砂利を撒かれる

トラブルのリストは、
これから更に増えて行きます


自分でも状況を把握し切れていなかったり、
どう説明したら良いかわからない展開が
盛り沢山で書き出すのに時間が掛かっています

長丁場になりそうですが、
宜しければお付き合い下さい


つづく



予測可能、回避不可能

2023-12-12 18:32:00 | 日記
やっと帰って来られました……
奇跡的な生還を果たした、という心境です

いやはや

今の時期のススキノは、
魔境に等しい危険地帯ですね……


街中で起きた出来事を、
ザックリと箇条書きしてみたのですが

もう……情報量が多すぎて……

一度には書き切れないので、
少しずつ小分けにして載せて行こうかと

もし宜しければ、お付き合い下さいな
巻き込まれ体質の本領発揮っぷりに……‼︎

まぁ、通常運転とも言えるのですが


とりあえずは、
まだ比較的平和なプロローグから




「ミルくん、忙しいところ悪いんだけど
 アクセサリーを1つ、作って欲しいんだ」


とある日の仕事終わり

帰り支度をしていたら、
同僚に声を掛けられました


「構いませんが……
 ネックレスですか?
 それともイヤリング?」

「ブローチで頼むよ
 孫からのリクエストなんだ
 最初は自作するって、
 意気込んでいたんだが──……」


そこまで言うと、
少しバツが悪そうに頭を掻く同僚

苦笑いを浮かべながら、徐にひと言

「絶望のあまり寝込んだ」

何があった

待って‼︎
急展開すぎる‼︎


「も、もう少し詳しく」

「ああ……流石に端折りすぎたな
 実は孫が忘年会に行く事になったんだ
 コロナが明けてから初めての飲み会だし、
 彼女なりに気合いを入れたいみたいでね
 お気に入りのワンピースに合わせるための
 アクセサリーが欲しいって言い出して

「あー……」

目当ての物を探して、
色々な店を覗いてはみるものの──……

あまり気に入ったものが見つからず、
結果的にハンドメイドに行くのは良くある話



「材料を買いに行ったんだけど、
 あまりにも種類があり過ぎてね
 迷いに迷った結果、
 ほとんど何も買えなかったんだ」

そう言いながら差し出した袋の中には、
申し訳程度にポツンとピンク色の石が一粒




「1日中歩き回って、買ったのはこれだけ
 流石の本人も『これはないわ』って、
 自虐的な言葉を吐きながら落ち込んでね
 そのまま不貞寝してしまったよ」

「ははは……
 抱いているイメージを教えて貰えれば、
 出来るだけ寄せて作ってみますよ」

「ミルくんならそう言ってくれると思ってね
 予め、色々と聞いてメモしてきたんだよ
 これを見ながら作って欲しいんだ」


用意周到だね

まぁ、話が早くて助かるけれど

打ち合わせの時間が短縮できる分、
帰宅してすぐに作業に取り掛かれます


貰ったメモによると──……

お孫さんはローズクォーツが好きらしい

確かに……そう言えば、
唯一買っていた素材もそうだった

当初はローズクォーツで作った花の
アクセサリーが欲しかったのだけれど、
どうもイメージに合う物がなかったらしい

要望としては、とにかくピンク
ピンク色の花を一輪、胸に飾りたいらしい

白っぽいレースをあしらった、
可愛いデザインが好みとの事


ふぅん……

ちなみに自分は、
このお孫さんから貰った
キティの絆創膏で胸を飾った事があります

あれは……
不幸な事故だったな……

それはさておき


「だったらローズクォーツ風の花弁を作って
 それでコサージュっぽく仕上げますか」

「材料はある?
 必要なら店まで送るよ」

「以前、花冠を作る仕事をしたでしょう
 その時の花弁パーツが少し残っています
 これを透明感あるピンクに塗ってみます」

「そうか、頼んだよ」


そんなわけで




サイズの違う花弁パーツを、
ローズクォーツをイメージした色に塗って

座金の上に花の形に並べて、
中心にはお孫さんが買った石を飾ってみる

あとはアクセントになるような装飾と、
レースの素材で包んで、だいたい完成かな



全体像はこんな感じ




お孫さんの忘年会の日、
ちょうど自分も仕事でススキノに行きます

忘年会会場の最寄駅が大通りという事もあり

地下鉄1駅分しか離れていないし、
待ち合わせて直接届ける事になりました


うん
それは良いのだけれど

問題は、この時期の飲屋街は
特にトラブルが多いということ

ただでさえ珍しいトラブルに
巻き込まれがちな体質の自分が、
こんな場所に行くなんて、もう……

無謀でしかない


仕事の内容そのものは特に難しくは無い
破損した正月用のオブジェを修復するだけ

自分にとっては、トラブルに
巻き込まれ無い様にすることの方が、
何倍も難易度が高い


どうしよう……

気休め程度にしかならないけれど、
とりあえずお祓いグッズとか持って行くかな

仕事用のカバンの中が、
わりと大変な雰囲気になっちゃうけど

まぁ……

人に見られるような事は無いだろうし
自分としては無事に帰還する事が最優先


うん
えっと

先に言っておこう

勿論、無事では済まなかったと



数日後

待ち合わせは場所は、
忘年会が行われるという
なかなかオシャレな居酒屋

少し早めに到着したけれど、
お孫さんは既に店の前に立っていました


ブローチを見せると、
嬉しそうに瞳を輝かせて

早速、身に付けると自撮りモードに突入

彼女のお気に入りだという
ダークグレーのワンピースに、
透明感のあるピンクがよく映えます

可愛い写真が撮れると良いね


「それじゃあ、
 自分はそろそろ仕事に向かうので……」

「はい、ありがとうございました‼︎
 私の方ももうすぐ友だちが来る──……」

……。
…………。

………………?

何故か話の途中で硬直するお孫さん

何か妙な物でも見たのかと振り返ると
そこには居酒屋の暖簾の下に立つ、

全裸の男

大変すぎる物がそこにあった

暖簾で顔は見えないけれど、
顔よりも優先的に隠すべき場所があるだろ


「ちょっ……先輩‼︎
 前を隠して、前をッ‼︎」

慌ててやって来たのは、
彼の後輩らしい若い男性

その手には何故か焼き魚が乗った大皿

もう食事を終えて、
骨と皮だけになっている

この形状からして、ホッケの開きかな……


「先輩ったら、もう……
 酔ったらすぐ脱いじゃうんだから
 ほら早く隠さないと通報されますよ」

男性は手の大皿を、
全裸の男性の股間に当てがい──……

そして響く、
雄々しい大絶叫

あっ……これ、
刺さったな

魚の骨がのどに刺さる話は良く聞くけれど

股間に刺さるという珍事の、
決定的瞬間を見る事が出来ました

嬉しくも何とも無いけれどね



「痛いじゃないか‼︎
 気をつけろよ馬鹿野郎‼︎」

パンツを履けよ馬鹿野郎

完全に酔いが回っている男性は、
目の前の後輩に悪態をつきながら
焼き魚の残骸を掴んで投げつけた──……

……つもりだったのだろう

しかし男性は酔っていた
酔った手ではコントロールも定まらない


宙を舞う魚は、明後日方向へ軌道を描き

何故かこちらの頭に命中

魚の皮が、帽子の如く頭上にスッポリ
ある意味では抜群のコントロールだけれども


「きゃー‼︎
 ミルさん、大丈夫⁉︎」

大丈夫だけれども、
わりと大丈夫じゃない

怪我はしていないけれど、
致命的な精神的ダメージ


ただの魚の皮じゃねぇんだ……

ほんの一瞬とは言え、
おっさんの股間に刺さっていた皮なんだ……

触りたくねぇ

触りたくないけれど、
触らなければ外せない

この頭では仕事に行けないし──……

背に腹はかえられない
自分にはまだ、やるべき事があるんだ


意を決して

そっと指先で、
魚の皮を引っ張ってみる

…………。

取れねぇ……


「あー……
 余計に絡まった気がする
 これ、髪を解かなきゃダメなやつだな」

「このホッケ、お頭付きだから……
 引っ掛かかりやすいのかも知れません」


ねぇ、知ってた?

ホッケの開きを頭にかぶると、
髪に絡んで外れにくくなるんだよ

特にロン毛の天パは要注意

自分はこの年齢になって、初めて知りました
出来る事なら知らないままでいたかったけど



「これが噂に聞いていた、
 ミルさんのトラブル体質……
 祖父の話は本当だったんですね……」

しみじみと言わないで

彼女の視線の先では、
タオルを持って駆けつけた店員が
全裸男を店の奥へと押し込んでいる真っ最中

依頼されたブローチを渡して、
店先で軽く話していただけなのに

既に第一トラブル発生

信じられるか?
まだ10分も経っていないんだぜ……?

先が思いやられ過ぎる


「あっ、友だちが駅に着いたって
 忘年会の予定が無ければ、
 このままミルさんを観察していたかった」

観察って言わないで


「そ、それじゃあ、
 自分は仕事に行くんで……」

「はい、いってらっしゃい
 頑張って下さいね、色々と

うん、そうだね

頭は生臭いし、
手はギトギトだし、
テンションも限りなく低いけれど

なけなしの矜持にかけて、
仕事だけは完璧にこなしてみせます



「よ……よし、頑張るぞ……‼︎」


いざ、ススキノへ

気分はすっかり、
ダンジョンに挑む勇者


ちなみに

ようやく外れた魚の骨は、
店の入り口に放置された大皿の上に
そっと戻しておきました……


現在までに起きたトラブル

・全裸の男に焼き魚を投げられる

トラブルのリストは、
これから増えて行きます

お楽しみください


つづく



毎日が特別、全てが奇跡

2023-12-02 20:58:00 | 日記
ドラクエ3のリメイク版、
テストプレイが始まったそうです。

大のドラクエ好きである自分。

学生時代には周囲から、
歩くパルプンテ
という異名で呼ばれた身です。

※パルプンテとはドラクエに登場する呪文
 効果は『何が起こるかわからない』


これは是が非でもプレイせねば……‼︎

やりたいゲームがまたひとつ増えました。
発売が今から楽しみです。


それにしても

今思い返しても『歩くパルプンテ』の、
響きが強すぎる

誰が最初に呼んだかは知らんが、
その名が職員室にまで浸透した結果

学校内で何か問題が起きたとき、
原因心当たりリストに載る羽目になったんだ


「何があった‼︎
 事故か?喧嘩か?パルプンテか⁉︎」

「ミルのパルプンテです」

「そうか」

そうか、じゃねぇよ

我が同級生たちよ、
珍事が起こる度に原因を押し付けるな

そして、それで納得する教師も勘弁してくれ

何度もそう突っ込みを入れた、
メダパニ大混乱な学生時代の思い出です




そういえば


よく人と話していると、
『話、盛ってるでしょ?
 流石に珍事に巻き込まれすぎだよ』

……と、言われるのですが。

実話です
残念ながら実話です

身バレしないようボカしたりはするけれど、
話の流れや場の状況は、大体そのままです。

よくわからない所で、
謎の引きの良さを発揮します。


それは本日も例外ではなく──……

なんか届きました




札幌市役所から届いた、
アンケートのようなものかな?

確かに自分は一応、
かなり端くれと言えども札幌市民。

畑を耕していたら視線を感じ、
振り向くとキツネがいた……という、
野性味あふれる立地にいても札幌市民です。


それはさておき

このアンケート
なかなかの倍率のようで──……




18歳以上の札幌市民から、
無作為に5000人選んでいるそうです

ちょっと調べてみたら、
札幌市の人口は1,969,761人

その内、18歳以上の人口は──……

うん、まあ、とにかく大人数
大当たりだね

でも
今じゃねぇんだよ

微力ながら市の手助けが出来る、
とても光栄な事ではあるのだけれども‼︎

その運、もっと別の事に使わせてくれ……‼︎



例えば──……近いうちに、
会社の用事で出掛けるのだけれども

場所が、よりによって飲屋街

ただでさえ忘年会シーズンの今、
酔っ払いで賑わう飲屋街を歩くだなんて、
自ら事件に首を突っ込みに行く様なものです

嫌な予感しかしねぇな


どうか

順風満帆、平穏無事に‼︎
トラブルに見舞われる事なく‼︎
何事もなく帰宅できる様なミラクルを‼︎

パルプンテの暴発は厳禁で