4月9日に5千円札1枚を拾った。裸のまま落ちていたのですぐ近くの交番に届けた。拾った場所、拾得者の住所・氏名・年齢などを聞かれたほか、落し主が出てきた場合の謝礼をどうするかを聞かれた。それで「謝礼はいりません」と答えておいた。
対応に当たった巡査はその場で「拾得物件預かり書」をパソコンで作成して私に渡してくれた。ひょっとしたら半年後に5千円がもらえるかもしれない。預かり書を大切に保管していた。
半年が過ぎ10月になった。しかし、警察からは一向に連絡がない。それでこちらから問い合わせてみた。そして、返ってきた回答に驚いた。
「書類には拾得者は一切の権利を放棄をされたとありましたので、そのように処理させてもらいました。もうすでに5千円は大阪府に帰属しております。それに、拾得者が受け取れるのは3か月が経過した後2か月間だけです」とのこと。
「エッ、ちょっと待ってください。謝礼を受け取りますかと聞かれたので、謝礼はいりませんと答えましたが、権利放棄したつもりはありません。それに受け取れる期間は6か月後ではないのですか?」
慌てて書類を見直したら、確かに備考欄に小さな文字で「一切の権利を棄権」と書いてあり、拾得者の物件引取期間には斜線が入っていた。さらに拾得物の所有権取得について調べてみたら、「以前は6か月とされていた期間が、2006年に民法240条や遺失物法が改正され、3か月に短縮された」とあった。
「あっちゃー」
それはないやろ。一切の権利放棄などとは一言も言ってないぞ。それに6か月から3か月に短縮されたという説明も一言もなかったぞ。警察を信用して書類をよく見なかった私も悪いが、書類の要点を最後にきちんと説明しなかった警察官の態度にも問題がある。
そこで瞬間的に頭によぎったのは、「警察官ネコババ事件」であった。これは1988年に大阪府堺南警察署(現在の南堺警察署)槙塚台派出所の巡査が拾得物の現金15万円を着服(ネコババ)した事件である。このとき堺南署は、身内の不祥事を隠蔽するため、現金を届けた女性に着服のぬれぎぬを着せ、組織ぐるみで犯人に仕立てあげようとした。
今回の5千円は拾得物件預かり書が発行されているから先のネコババ事件とは異なる。しかし、まさかとは思うが、拾い主にちゃんとした説明をせずに権利放棄させ、ネコババしたと考えられなくもない。そこで、「大阪府に移管したという文書の証明が欲しい」と要求したが、それはできませんとのことだった。
残された方法は、大阪府警察本部の情報公開係に連絡して、5千円がちゃんと移管されたかどうかを確認するくらいだが、なんとも後味の悪い顛末であった。警察は信用できない。今回の件を通して世の中から冤罪事件がなくならない理由がわかったような気がして妙に納得した。