この本は著者が主催する寺子屋ゼミで、ゼミ生の発表に対して著者がその場で思いついたコメントを整理し書籍化したものである。「米中論」とあるが中国に関する情報は少ない。大半はアメリカ論である。
アメリカは建国以来「自由」と「平等」の二つの理念のはざまで葛藤してきた。自由と平等は食い合わせが悪く、様々な場面で衝突する。
例えば、教育は有償であるべきかという問題に対して、お金持ちは自由を重視する立場から「受益者負担」の有償を主張する。しかし有償にすれば国民の多くが文字も読めない国家になりかねない。それでは国家としての発展が望めない。だから、お金持ちから税金をたくさん取り(=自由を制限)、それによって公教育を充実させるべきだ(=平等の実現)という主張が成り立つ。
総じてアメリカでは「自由」が重視される。自由を主張する極めつけはリバタリアンである。俺たちは自分が一生懸命働いて得たお金で教育も医療も自前で賄っている。なぜおれたちのお金で貧乏人を助けなければならないのか。そんな思いが強い。
そうしたアメリカの風潮に異論を唱えたのがリンカーンでありマルクスである。リンカーンとマルクスは同時代の人であり、二人の間に交流があったことはほとんど知られていない。しかしアメリカのマルクス主義は、その後3人の反共産主義者によって息の根を止められてしまった。パーマー(ウィルソン大統領の右腕)、フーバー(FBI長官として8代の大統領に仕えた)、マーカーシー(うそつきのチャンピオン)の3人である。
私が大学生の頃、大学の教育費は月千円(年間1万2千円)だった。その後、受益者負担の原則で急速に授業料が引き上げられ、現在は年間約53万円である。また、高校教育の授業料をめぐっても議論が高まりつつある。無償化すべきだとする主張の一方で、受益者負担の原則から税金で賄うのではなく奨学金を充実させるべきだとする議論がある。
自由か平等か。私自身は国公立の高校や大学については無償にすべきだと考えている。それだけの外部経済効果が期待できるからである。ただ「3人目の子どもの大学教育を無償化」して少子化対策にするというのは筋が違う気がする。