実は、1930年代までのスウェーデンは貧農国であり、慢性的な食料不足や貧困に苦しんでいた。1850年ごろから1930年代には食糧難などで350万人の人口のうち約150万人がアメリカなどに移住したといわれる。
それが大きく変化したのは、1921年に普通選挙法が施行され、女性や労働者にも参政権が与えられたあとである。労働組合をバックに政権を獲得した社会民主労働党(社民党)は「貧困からの解放」をめざし、貧弱な農業経済から工業国へ転換する政策を推し進めた。そして、経済成長だけではなく、富の再分配政策にも積極的に乗り出した。
今日、スウェーデンは「大きな政府」として知られる。税金の主なものは所得税(地方税を含む)30%、消費税25%、雇用主税32%、法人税28%などである。
このうちスウェーデンの税制の特徴は雇用主税にある。雇用主税は別名「社会保障税」とも呼ばれ、日本の社会保険料に該当する。すなわち、個人は所得税を払えば社会保険にあたるものは払う必要がなく、代わりに企業が従業員の数に応じて全額払うのである。また消費税も食品の税率は12%と低く抑えられている。
たしかに国民負担率で比較すると、スウェーデンは56%で、日本の42%とあまり差がないようにも見える。しかし、「国民」という言葉にごまかされてはいけない。ここでいう国民とは「個人」と「企業」の両方を含む概念であり、スウェーデンでは「個人」ではなく「企業」の負担割合が高い。日本とは真逆の政策がとられているのである。
スウェーデンでは国民は二つの財布を持っているといわれる。一つは自分の財布であり、もう一つは税金として国に預けた財布である。国に預けた財布がどう使われるか。当然関心が高い。だから、選挙になると投票率は80%にもなる。たしかに、スウェーデンの人たちの貯蓄率は低い。しかし、税金が国民に還元される割合が高いから、税負担率の高さイコール貯蓄率ともいえるのである。
日本では、選挙で減税を主張すると票が入る。しかし、スウェーデンでは、減税を主張すると医療・教育・年金などの公共サービスが低下するのではないかと警戒され、かえって票が逃げてしまうという。
もちろん、人口900万人のスウェーデンと日本を単純に比較することはできない。しかし、少なくとも、日本は税に対する関心をもっと高める努力が必要ではないか。多くのサラリーマンは源泉徴収などという悪しき制度のお陰で自分が払っている税金の金額すら意識しない。
また、企業が払った年間の法人税額を新聞に公表するのも一つの方法である。現在は、個人情報の保護を隠れ蓑に、企業がいくら税金を払っているかは一切報道されない。そもそも、企業がどれだけの利益を上げ、いくらの税金を払っているかは個人情報とは何の関係もない。経営者には「たくさん税金を払って国に貢献する」という愛国心はないのだろうか。
政治とは、結局「誰から税金を取り」「それをどう使うか」という問題に帰着する。政府は社会保障を充実させるために消費税を引き上げると言っているが、いまのままでは、消費税を引き上げても金持ちや企業に減税余地を与えるだけである。
最新の画像もっと見る
最近の「日常の風景」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事