持病が悪化し、一人娘のお嬢様の学費と引き換えに我が社に入る前の会社を早期退職されたツネ師匠は将来の事を考えると眠れぬ日々を過ごしていた、そんなツネ師匠の近況を知り、社長が我が社に彼を誘った。我が社の二代目社長とツネ師匠は釣り仲間で旧知の間柄であった。彼はご迷惑になると断ったが。
『お前に期待してない、座っているだけで良いから。』
『お前のためではない、お嬢さんのためだ、奥さんも家にお前がずっといたら大変だろ。デイサービスだと思って来い。』
と強引に入社させた。
そしてお嬢様の卒業の目処がたち、体力が少しきつくなると同時に彼は我が社を去った。最初から期限付きの入社だったのだ。社長は彼の退職をおもいとどまるよう説得したが、ツネ師匠は体力が追いつかない、最後は奥様と近場でも散歩しながら余生を過ごしたい。との強い希望があり、社長も仕方なく了承した。ツネ師匠は思うところがあったのかもしれない。
余談だが、月給、賞与、退職金の類は相当破格だった。と聞いている。社長はツネ師匠に
『金の事は、皆に内緒な。』
と頻繁に言っていたという。
今では、なかなか考えられないが、バブルの名残りがあり、ワンマン社長の裁量権が強かった時でもあった。
考えて見るとツネ師匠に色々連れてって行ってもらったが、彼はあまり深酒をしていなかった。気を使いながら私達の面倒をてくれていたのだろう。
お嬢様はツネ師匠がお亡くなりになった年の4月、希望の会社に入社される。