介護というには大袈裟ですが。

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寒くなると思い出す あの人 [9]

2023-01-31 06:39:11 | 日記
ツネ師匠との週末のデートの日は、桜の開花まであと数日を感じさせる生暖かい風の吹く日だった。
浅草の夜は早いとはいえ、浅草についたのは夕方の5時手前であり、少しずつ日の入りの時間も遅くなり、まだまだ町は明るく、通行人も多かった。
浅草を降りると彼は国際通り方面に向かった。
私は浅草といえばロック座方面を行くものだと勝手に想像していただけに逆方面はほとんど知らずに少し意外だった。ロック通りに比べると落ち着いた感じの飲食店が並んでおり、大通りを横道に入った焼肉の店に連れて行ってくれた。
思い起こせば、この一年本当にツネ師匠には色々と飲みに連れてってもらった。どちらかといえばガヤガヤとした所を好み、台東区三ノ輪の鉄板焼きや錦糸町のフィリピンパプで、はしゃぐ事が多かった。
インテリのイメージのあるツネ師匠だが、飲んでいる時は別人格になり、明るく楽しい酔い方をした。
本当に楽しい新人時代を送らせてもらった。
当時は平日だろうが飲むのは日常茶飯事で、次の日を考えて早く帰宅するという発想が希薄だったのだ。
町はバブルが弾けた初期の段階で、少しずつ不景気の足音は確実に迫りそして大きくなってきたものの、まだバブルの余韻の残る時代だった。
町は活気があり人々は元気が残っていた。
出来れば後数年前に生まれていたら、バブルを数年でも味わえたのにと今になれば思うが当時の私は、これから先の不景気など、そこまで深刻に考えてはいなかった。


寒くなると思い出す あの人 [8]

2023-01-30 19:54:51 | 日記
突然のツネ師匠からの週末のデートの誘いは素直に嬉しく、また彼との距離を少し縮めるキッカケになった。よくよく考えてみると彼と働けるのは後2週間しかない。彼ともっと接触しないと勿体無いと感じたのだ。
私は退職を伝えられる以前ほどではないが、彼に声をかけ、彼も少し、ぎこちないながらも対応してくれた。
春の別れ前に、つかず放れずで良好な関係になった。と私は感じていた。
今にして思えば、不思議な、そして幸せな時間だった。
そして週末デートの日となった。
当時の我が社は土曜日は午後3.4時で帰宅していい慣習があり、私とツネ師匠は午後4時に揃ってタイムカードを押した。
『少し離れるが、浅草に行こう。』
私は浅草はあまり行ったことがないので、ツネ師匠に案内してもらえると思うと心が弾んだ。


寒くなると思い出す あの人 [7]

2023-01-29 13:06:50 | 日記
ツネ師匠から退職をする事をいきなり告げられ、私は動揺し戸惑った、しかしこればかりは私の力ではどうすることも出来ない。早く気持ちを切り替えるしかなかった。
まだ2ヶ月退職日まで時間がある、あまり先の事を考えても仕方がない、とりあえず一日一日集中しょうと考えを変えた。
ただ日常の中での違和感は、その日の午後から常に抱いていた。何かあれば気軽にツネ師匠に声をかけていたが、話しかける事も何故か少し躊躇するようになり、ツネ師匠も口には出さないも、俺に頼るなという雰囲気を少しだが漂わせていた。
私達の中で明らかに距離が出来、寂しく重い空気の中、一ヶ月半の月日が流れた。
そして来週一杯で退職をむかえる週の始め。ツネ師匠が私に小声で言った。
『今週土曜、もし良かったら飲まないか?』
『もちろん喜んで。ぜひ。』
私は素直に誘われた事が嬉しかった。


寒くなると思い出す あの人 [6]

2023-01-27 12:13:38 | 日記
それはいきなりの事だった。
『俺、来月で退職するから。』
『えっ?』
私はツネ師匠の突然の申し出に言葉が出なかった。
定年まで後2年ある。本人が希望すれば5年の雇用延長も問題なく出来た。
少なくとも定年までは仕事を一緒にしていただけると思っていたのだ。
『いきなり、どうしてですか?』
『最初から、そんな長く勤める気はなかったんだ。お前の面倒も見るのは疲れたからな。』
ツネ師匠は、何故か、はにかんだような笑顔を見せた。
『もう決めたんですか?』
『あぁ、社長にも了承を得たよ。』
私は気の利いた言葉が見つからなかった。
少し重苦しい空気になり、紛らわすようにトンカツを食べた。
ツネ師匠は、頼んだトンカツを半分残し、常備薬を4.5錠飲んだ。
気のせいか、少し痩せて見えた。


寒くなると思い出す あの人 [5]

2023-01-26 12:27:29 | 日記
インテリジェンスで途中入社のツネ師匠は、落ちこぼれの新入社員である私に対し、何かと面倒を見てくれた。私も困ったことは直属の上司ではなく、なんとなくツネ師匠に頼っていた。とにかく彼は親しみやすく、話しやすい雰囲気であった。
そんな中、すったもんだ色々あったが、新入社員から後2ヶ月したら2年目になろうという寒い日の事だった。
お昼に何気なく2人で近くの定食屋で呑気に、とんかつ定食を食べている時である。
ツネ師匠は、少しいつもと雰囲気が違うと私が感じた、その時。
彼はいきなり思いもかけない事を言い始めた。