ツネ師匠との週末のデートの日は、桜の開花まであと数日を感じさせる生暖かい風の吹く日だった。
浅草の夜は早いとはいえ、浅草についたのは夕方の5時手前であり、少しずつ日の入りの時間も遅くなり、まだまだ町は明るく、通行人も多かった。
浅草を降りると彼は国際通り方面に向かった。
私は浅草といえばロック座方面を行くものだと勝手に想像していただけに逆方面はほとんど知らずに少し意外だった。ロック通りに比べると落ち着いた感じの飲食店が並んでおり、大通りを横道に入った焼肉の店に連れて行ってくれた。
思い起こせば、この一年本当にツネ師匠には色々と飲みに連れてってもらった。どちらかといえばガヤガヤとした所を好み、台東区三ノ輪の鉄板焼きや錦糸町のフィリピンパプで、はしゃぐ事が多かった。
インテリのイメージのあるツネ師匠だが、飲んでいる時は別人格になり、明るく楽しい酔い方をした。
本当に楽しい新人時代を送らせてもらった。
当時は平日だろうが飲むのは日常茶飯事で、次の日を考えて早く帰宅するという発想が希薄だったのだ。
町はバブルが弾けた初期の段階で、少しずつ不景気の足音は確実に迫りそして大きくなってきたものの、まだバブルの余韻の残る時代だった。
町は活気があり人々は元気が残っていた。
出来れば後数年前に生まれていたら、バブルを数年でも味わえたのにと今になれば思うが当時の私は、これから先の不景気など、そこまで深刻に考えてはいなかった。