星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

二月花形歌舞伎 昼の部(2)女殺油地獄(3回目)

2009-02-25 | 観劇メモ(伝統芸能系)

公演名    二月花形歌舞伎 昼の部
劇場     大阪松竹座
観劇日    2009年2月22日(日)
座席     1階3列


歌舞伎ビギナーで、観劇歴などあってないような私だけれど。
そんなわずかの間にも出会えてよかった、と心底思える舞台がある。
これもその一つになっちゃった。

与兵衛!! 
もうもう、贔屓目全開だよー。ファンが書かずに誰が書く(笑)。



しばらく時間をおいて2週間ぶりに観てみたら、あのギリギリの悲壮感に
加え、役の深みがぐんと増していた。特に「豊嶋屋油店の場」でのじっく
り見せる場面がナマつばもの。ごくり~♪
この日はやはり、前方席で観られたことがよかったんだろうか?
肉眼で見える表情の変化にいっそう切なくなったり、いままで見落として
いた細かい芝居に合点がいったり。
何よりもこの日は、仁左衛門さまの残像がちらつくことなく(←ファンの
くせにイヤなやつ!)100%目の前にいる与兵衛しか見えなかった。
ようやく自分がシンクロできたことに大満足♪

<序幕 徳庵堤茶店の場>
いつも目いっぱいアツイのは愛之助さんの持ち味だから、それは序幕のイ
キがっている与兵衛に存分に生かされている。
悪友たちに呼ばれ花道から出てくる時の、勢いよく駈けてくる与兵衛が無
邪気でカワイイこと!
不良だけれど、ええ男の風情もたっぷり~♪
ただ、喧嘩するときはゴンタ、不良というよりも、正義漢とか熱血漢のイ
メージがあるかもね、愛之助さん(笑)。

一連の騒動の後、お吉さんに土下座で助けを求めたり、馬の嘶きにおびえ
たり。かと思えば、群衆にいばりちらして、これでもかといわんばかりに
足を高~くあげて花道をゆく与兵衛。それを皆に笑われ、視線と後ろ指に
耐えかねて思わず羽織で顔を隠して小走り。
序幕はまさに虎になったり、子猫になったり、振り幅の激しい役どころを
分刻みで見せてくれて、とにかく楽しい。

そうそう。投げた石がお侍に当たって、叔父に土下座で謝る場面。体の震
えが止まらない人間とはこういうものか、と妙に感心してしまった。
ついでに書くと、お内儀にお世話かけましたと謝る殊勝な与兵衛に、お吉
と与兵衛の仲を邪推した七左衛門が、ていっ!と叱るとこが可笑しくて。
客席からの反応がドッとくるからか、獅童さんの七左衛門は「ていっ!」
を2回言う。「帯解いて~、べベ脱いで~」の我が娘の言葉に「なに!」
と叫ぶ間といい、獅童さん、笑いのツボを心得ているようだ。

<第二幕 河内屋内の場>
「1日中歩き回っても新地の酒のひとしずく~~~」と、足もとをフラつ
かせて油をかついで歩いてくる与兵衛。テンションが相当下がっている。
借金返済へのカウントダウンが彼の首を少しずつ締め始めているようだ。
家に帰れば、法印が義妹おかちの病を祈祷で治そうとしている。
父が死に、母は再婚。いまの父親は元使用人(番頭)だった人。
フクザツな家庭環境に、自分で自分を持て余し気味の与兵衛。
父親を騙して金を工面しようとするが、嘘がばれ、失敗。
ここから始まる家庭内暴力の嵐。
父を打ち、病の妹を蹴り、まるでワイドショー並みの光景が!

それにしても与兵衛、家の中でも全然じっとしてない。
集中して何かをしてることはなく、舞台の上でホンマに大いそがし(笑)。
説教されている最中にも算盤をはじいたり、乱れた髪を気にしたり。
前方席でやっとわかったこと。
それはおかちが死霊にとりつかれる場面。いつのまに打ち合わせたのかと
思っていたら、与兵衛が横着して寝っころがったまま、足先の動きと顔の
表情でおかちに指示していた(笑)。
実母に家を追い出された後、途方にくれるが、義父に見られていると知る
や再び足を高~くあげ、精一杯の空元気で引っ込む花道。

<第三幕 豊嶋屋油店の場>
端午の節句の頃。豊嶋屋では七左衛門が節季の掛け取りで出かけてしまう。
そこへやってきた与兵衛。
足音もなく、暗い花道を歩く与兵衛。頬かむりして脇差しを携え、義太夫
語りまで「越すに越されぬ~河内屋の与兵衛」と、まるで道行きのよう。
一瞬光に照らされた顔をオペラグラスで見ると、哀しくなるくらいため息
が出る美しさ♪ あーん、もっと近くで見たかったよ~。
豊嶋屋の店先で借金の相手に出くわし、大口を叩くが、全く元気がない。
そこへ現れた義父。続いて実母。
与兵衛を心配した二人がそれぞれ、お金を持ってお吉に託す場面が涙、涙。
お金を「だれぞ好きそなひとに拾わせましょ」とお吉が言えば、「好きそ
な犬に」と母のおさわが粽を出すとこ、さらに泣かせます~。

与兵衛、ついに豊嶋屋へ。
両親のことは一部始終見ていた、心で手を合わせ、改心したと話したその
後から、さっそくお吉に借金を迫るあの手、この手。
序幕では子どもっぽいと思っていた与兵衛の顔がすごく大人に見える。
お吉が前にも夫に疑われたからお金は貸せないと、話し始めるやいなや、
急変する目が大人の男の色気を含んでいる。キラ~ン!
「いっそ不義になって貸してくだされ」。
もうここから先はイッちゃった人の目に変わっている。
というか、この場は目のお芝居が9割ぐらいなんじゃないかと思うくらい。
3階や1階の後ろでは味わえなかった。
焦点の合わない目。不気味な光を放つ目。笑みを含んだ目。
異様な「気」がここに集まっている。
自分ではコントロールできない深い闇を心の奥に抱えた人間を垣間見た気
がした。緩急ついた台詞がそれに加わり、なんだかお吉になった気分。
2度目の「不義になって貸してくだされ、お吉ど~の~」は前回見た時よ
りもゆっくりになったように思えた。わあ、ホントに、いっそ不義になっ
てしまいそうだ~、わたし(笑)。
お吉に拒絶され、今度は手を変える与兵衛。
「これほど男が冥利にかけ誓文たててもなりませぬか!」
それでもきっぱり断られ、絶望の淵に。
うう、なんて悲しい顔をするんだろう、このひとは。
その深い悲しみの目がそこにある刀をとらえた瞬間、目に何かが宿った。
それまではなかった「気」。殺気、だった。
愛之助さんバージョンではこれが3回目。もしや、この与兵衛は初めから
殺すつもりでやって来たのかも、と疑っていた私はこれで納得。
ここまでをじゅうぶん堪能できたことが嬉しい。

お吉が油を入れ替えている間に、刀を持つ与兵衛。
座敷から下りようとして足の先が床を探っている間も、顔は反対を向き、
首を伸ばして人の気配を探っている。
殺気を感じたお吉が与兵衛に確かめ、ついには人を呼びに出ようとして、
最初のひと刺し。
愛之助さんの上方言葉は感情が自在だから、「こなたが娘を可愛がるほど
俺も俺を可愛がる親父が、愛しいっ」では、思わず涙がこぼれた。

そこから先は、二人がハデにころぶ殺しの場。
樽からこぼれる油の音。三味線の効果音。語りの声。
「死にとうない」とお吉の声。無言の与兵衛。
殺しの見得に、ますます妖しく大きく光る与兵衛の狂気の目。
いつ見てもしなやかな海老反りが美しいお吉。
着物の裾が乱れ、あらわになった与兵衛の足にも釘付け~♪
帯を解く時にも一瞬ニヤリとするのを見たのは、愛之助さんでは今回が初。
猫が鼠を食べる前に遊ぶのと同じだと、たしか孝夫さんの本で読んだ。
やっぱり、前方席はいろいろ見えるもんだ!

最後の花道まで派手にころぶ、愛之助さん与兵衛。
これからもぜひ上演を重ねて、さらに自分の持ち役として大事に育てていっ
ていただきたいと願うのみ!


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愛之助さんの与兵衛も観たかった (とみた)
2009-02-25 12:41:03
ムンパリさん、こんにちは。
役がだんだん深みを増していくのを見るのはファンにとって一番の喜びですね。私は仁左衛門さんの与兵衛を冥土まで持っていくことに決めて封印してしまいましたが、ムンパリさんの記事を読ませていただいて場面場面を思い出しています。

最後に花道で転ぶところ、あの後また立ち上がって駆け出すのが大変なんだと、愛之助さんがいつかおっしゃってました。観てる方はあそこで大興奮ですよね。
返信する
すばらしい! (アンディ)
2009-02-25 14:05:12
口上編もそうでしたが、素晴らしい記憶力と内容ですね。
私はミクシー内で観劇文を書いていますが、ほとんどオボロです(笑)。
油地獄は私もこだわりの作品。
一年半前の海老蔵、仁左衛門(もう無いかもしれないので仁左衛門版が観れた事は嬉しい事でした)、そして今回の愛之助、の三者を観ました。
それぞれに個性が強烈で、ぜんぶ大好きです(笑)。
今回の花形は私も偶然、あのいわくつきwの22日を三階で、通しで観ました。
これからも素晴らしい観劇記、お願いします。
返信する
よかったですよー♪ (ムンパリ)
2009-02-25 18:57:00
とみたさん、仁左衛門さまの与兵衛を何度かご覧に
なってるんですね。羨ましいです。
私は2007年に初めて仁左衛門さまの与兵衛を見て、本当に
味わい深く、とても感動しました。
あえていってしまうならば、
殺しの場で狂気にエクスタシーが混ざるような感覚は
愛之助さんの与兵衛にはまだ感じられなかったように思います。
1回の公演での成長はもちろん、長年かけて深みを増してゆく
過程を愛之助さんの与兵衛で見るのが夢です~。
こっちが長生きせんとねー(笑)。

返信する
はじめまして。 (ムンパリ)
2009-02-25 18:59:20
アンディさん、ようこそ♪
コメントを頂きましてありがとうございます。
22日は得しましたね!

私の場合、脳内のメモリ容量が小さいので(泣)
休憩時間のあいだにメモするようにしているんですよ~。
観劇記というより備忘録になっている気がしますが。
よろしかったらまた覗いてやってくださいまし。

アンディさんは海老蔵さんも見られたんですね!
羨ましいです。
私は仁左衛門さんのほうは3回見たのですが、
海老蔵さんは3日違いで見られなかったのが残念です。
返信する
ありがとうございました! (しろう)
2009-02-27 12:49:02
ムンパリさま♪
二月の松竹座だけでもあっというまにエントリーがいっぱい!
すっご~い!全部楽しく読ませていただきました。ムンパリさんも、愛之助さんくらい
めいっぱい熱いです(笑)
でもわかりますっ。あの与兵衛は語る者を熱くしちゃいます!
たしかにこの演目は前方席に限りますね。
ムンパリさまの強運に与り、1度限りの観劇をたっぷり楽しめました。
若き七人衆それぞれ着実に力をつけ、寄ればこうして新鮮で魅力あふれる興行ができる、
喜ばしいことですね。
そしてこういうのがあるからまた、大歌舞伎のすばらしさがひときわに感じられますね。
「花形歌舞伎、二月は地方」と定着するといいと、会見のときにみなさんおっしゃってましたね。
名古屋御園座も仲間に入れてくれないかな~。
4月の陽春歌舞伎でもいいからさ~。
返信する
ヌラヌラがヌラやましい(笑) (ムンパリ)
2009-02-28 00:59:57
しろうさん、お読みいただきありがとうございます。
せっかく皆さん、熱い舞台を見せてくださってるのに、
全部が映像に残らないと思うと、つい残しておきたくて・・・。
花形歌舞伎七人衆+他のメンバーが結集して、連日すごいパワーで
乗り切った感じですね。観客も元気でしたもんね♪
あのお席で与兵衛さんを堪能していただけて何よりです。
ていうか、ぬらぬらの花道横ウラヤマチイ~(笑)。

> 「花形歌舞伎、二月は地方」
うーん、これがまた問題だ!(笑)
このメンバーなら不況しらず。きっと引く手あまたですよー。
毎年、発表があるまでドッキドキだわ。
返信する
楽しみました。 (鈴丸)
2009-02-28 16:09:54
いつも拝読しています。が、今回は書かずにおれようか、とはじめましてのご挨拶、
楽しませていただいておりますどうぞよろしくお願いします。。

とても臨場感あふれ、熱っぽいリポートです。
愛之助さんの美しさ、芸の厳しさに見とれながら冷静にメモって下さり、おかげで読む側は想像力を目一杯掻きたてられます。
必ず次回は観るゾ、と思わせるムンバリさんは、偉大なスポークスマンですね。

ありがとうございました。
返信する
はじめまして。 (ムンパリ)
2009-03-01 01:45:20
鈴丸さん、ようこそ♪
コメントを頂きましてありがとうございます。
鈴丸さんもご覧になられたんですよねー。
愛之助さんの与兵衛は、初日からの変化が目に見えて
明らかでした。
私は嘘が書けないので(笑)、ハートに楔をガツンと打ち
込まれないと書けないんですよー。
なので、この日は特に「書きたい!」と思わせられる舞台
だったんだと思います。
ていうか、そう思わせるものを持っている人だから、つい
記録に残しておきたいと思うんでしょうね。
このようなものが少しでもお役に立てたらうれしいです。
どうぞまたお立ち寄りくださいませ。
返信する
そこだったのですね。 (ちづる)
2009-03-01 02:34:26
「不義が成立しそう」というムンパリさんと同じ感想を持った根っこは、きっとそこでした。
わたしもあの場面、自分だったら踏みとどまれんわ~と思いながら観てましたから(爆)
冷静になったら絶対ムリ!と思いますけど、やっぱり中身は愛さんですし~(笑)
返信する
そこです♪ (ムンパリ)
2009-03-02 07:58:12
ちづるさんもヨロメキそうでした?
お吉がはねのけた途端、与兵衛がすみません、間違いでした、
お金のために嘘つきました! みたいに謝りますよね。
私がお吉なら、そんなにあっさり否定するなよと言いたい(笑)。
少しは本気かと思っていたのに、ちぇっ!ていう気持ち。
この場面は、ぜひお吉さんにインタビューしてみたいです(笑)。

> やっぱり中身は愛さんですし~(笑)
ハイ、これが大前提というのが私たちのヨワミですね♪
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