日曜日にアップのつもりが・・・休日は誘惑が多かった~!!
というワケで、感じたことの備忘録(ダラダラ書き)、続きをアップ。
そうそう。フィレンツェ版ガイドブックにあった「解説」から愛之助さん
に関する箇所だけ抜き書きしておこうっと。
「こだわりのひとつが、矢太郎役に配した歌舞伎俳優・片岡愛之助である。
江戸の息吹を今に伝える歌舞伎俳優の片岡愛之助の存在感が要となって深
みを増し、山崎が作り上げた世界を完結させた。」
うんうん♪ うんうん♪
ではまたネタバレ全開で、今回は人物ウォッチ+声の出演編。
●呼び込みの声(寺田農)
登場人物以外に声だけの出演者が二人。その一人が寺田農さん。
写楽の浮世絵を売る呼び込みの声はスタンダード版では初めのほうに入っ
ていて江戸時代への入り口というイメージだった。
ディレクターズカット版では宮城野が捕えられた後に使われているため、
風刺というか洒落の利いた言葉選びにクスリ笑えたりする。
●口上(坂東薪車)
オリジナルで付け足された後日談に登場するのが薪車さんの口上。
(立版古で作られた)版元の挨拶が薪車さんの声だった。
朝1回目を見たときは途中で気づいたため、2回目はしっかり味わいなが
ら聞いた。時代がかった味わいある口上はさすがは歌舞伎役者。
映画にコクが加わった感じだ。
エンドロールで名前を見つけた時はヤッタネ~と思った♪
●女郎屋「竹の家」の女将(樹木希林)
戯曲には出てこない人物だけど、映画の中では必要不可欠の存在。
女郎が身を投げた次の日は風が強いとか、間夫(マブ)に入れあげたとか、
めんどうはごめんだよとか、苦界の住人らしい台詞がポンポン飛び出す。
ネチネチ口うるさくて、情に流されることなく、自分の家に抱えている若
い娘たちは商売道具にすぎないことが丸わかりなトコは終始一貫。
クセはあるがフシギな可笑しみのあるキャラが確実に映画の味付けになっ
ている。いつも豆か何かをつまみ喰いしているのが笑える。
●かよ(佐津川愛美)
戯曲の中では名前しか出てこないのに映画ではみずみずしくリアルな存在。
写楽とおぼしき男に孫として育てられ、大事にされている箱入り娘・・・
のはずなんだけど、あの助平じいさんに何をされているか本当のところ
はわからない。祖父が殺されても平然としていられるわけだから、ねぇ。
写楽殺しの黒幕は版元かもしれないけれど、思いついたのはかよかも。
矢太郎はかよにとって地獄から抜け出す手段だったのか。
矢太郎さんの絵が見たい、と矢太郎の部屋で宮城野の絵を見つけたとき、
「全部同じ人の絵ですね」に続く「毒です」の言葉にトゲを感じた。
あの瞬間に略奪を決意したのかもしれない。
と同時に矢太郎の才能に気づいた一人でもある。矢太郎が描いた美人絵を
祖父に見せて、世に出そうとしたのは矢太郎へのまっすぐな愛ゆえか。そ
れとも利用しただけなのか。
無邪気さの中にのぞく女の色気。若さゆえの自信を武器に宮城野に向ける
言葉の残酷さ。そして、殺害計画、というか後処理の冷静沈着さ。
写楽殺しに関わる陰の存在として、妄想のタネは尽きない。
●矢太郎(片岡愛之助)
宮城野が最後に命を懸ける男であるからには、それ相応の男に違いない。
ディレクターズカット版はそんな矢太郎の内面に迫る映像をたっぷり見せ
てくれている。矢太郎の中にある本物の絵師 VS ニセ絵師の葛藤を見せる
のに、黙々と絵に向かうだけの映像が効いていた。
年老いて絵が描けなくなった写楽の代わりに、陰の写楽、つまりニセ絵師
として役者絵を書き続ける日々が興味深い。たとえば眉、目、鼻、口・・
それぞれパーツとして数種類ずつ用意された下絵。昔、写楽が描いたと思
われる絵のトレース作業。また、鼻から描いてゆく場面が何度も登場する。
上から下へ、下から上へ、いろんな筆運びがあることも教えてくれる。
矢太郎が左利きなのは、この映像に出演された浮世絵師さんが左利きだか
ららしい。(えええーーーっ! それが理由?)
手元アップではなく、引いた映像のときも矢太郎というか、愛之助さんは
ちゃんと左手で絵を描いていた。ふだんは右利きのはず、と思って見なけ
れば気にならないくらい自然に。
左利きといえば、宮城野の部屋でお酒を飲んで膝枕してもらっている時、
宮城野の膝の上で遊ぶ矢太郎の左手小指の動きがすごく微笑ましかった。
好きな女とのラブシーンなんだからもっと大胆でもいいのに(笑)。
(あ、でもそこまで左利きに徹していたということか。うふ♪)
本業は役者絵を描くニセ絵師。
でも、矢太郎は役者絵を描くかたわら隠れてときどき自分の絵=美人絵に
没頭する。そこが切ない。でも、それが自分である証し。
絵の腕には自信があるが、仕事として成り立つのはニセ絵のほう。
そのジレンマが矢太郎を苦しめている。
そもそも矢太郎が絵に自信を持っているのには客観的な理由があるらしい、
とわかるのがディレクターズカット版。師匠と版元の会話を矢太郎が盗み
聞きする場面だ。
・・・この絵は我ながら見事、絵が役者に似ているかどうかは関係ない、
私が描いているのは役者の化粧の下にある人間の真だ・・・みたいなこと
を言って師匠が矢太郎の絵をほめているのにビックリ!(矢太郎、ここで
ちょっと笑みを浮かべていたと記憶する。)
で、矢太郎の気配に気づいて、言葉を変える。この絵はよくない、黒いも
のを黒く、白いものを白く描いただけ、と。
ニセ絵を描かす者と、描かされる者。師匠と矢太郎の関係をさらに掘り下
げたかなりスリリングな場面だった。と同時にニセ絵は版元も共犯である
ことがわかる会話でもある。
矢太郎は師匠の写楽と話すとき、相手の目を見ない。卑屈だ。
この卑屈な状況にひたすら堪える表情が、すごくいい♪
歌舞伎の舞台で見た若狭之助や小金吾や団七のように悔しさを満面に出し
て堪えるあの顔じゃないんだよね。そんな元気じゃない。
もっと人生に絶望したような観念した感じ。返す言葉も極端に少ないし。
でもこっちもすごくキュウウン♪
写楽殺しにいたるには幾つかの動機があるけれど、かよを辱める言葉を
口にした以外に、自分の魂のあり処=自分の名前で世に出ることを封印
されたことが大きかったからだ。(ディレクターズカット版限定)
写楽殺しが突発事故なのか計画的なのか、今なお私にはナゾだけど。
ここから先はホントにホントのネタバレ~(爆)。
---------注意----------注意---------注意------------
ラストの映像にはドヒャ~!!
あばよ、と矢太郎が宮城野の部屋を去った後の後日談だ。
(※具体的な記述は削除しました。)
これを見てから気になって仕方なかったのが入水シーン。
すべて計画的に物事が運んだのであれば、殺害直後に入水はしなかった
はず。かよが宮城野のところへ先回りして言い含めたのは、矢太郎が
途中でその計画を下りるのではないかと心配したからでは?
あのラストを見た後でも私は信じます、矢太郎を。
宮城野の部屋に駆け込んだ時までは、あの心優しい矢太郎であったと。
自分の反吐の塊だけど傑作だと役者絵「宮城野」について語った時、
宮城野に雑草の強さについて語る時、そして命の秘密を見せてくれと
宮城野に懇願したその言葉に嘘はないと。
あのとき豹変した矢太郎の本心については今も私にはわからない。
宮城野は自己犠牲に生きる女。
それを自分の口から聞かされた途端、気持ちが引いちゃったんだろうか。
自己犠牲などという妙チクリンなものとは縁を切りたかったんだろうか。
最後だけは、貸し借りなしであの場を去りたかったのか。
あばよ、と乾いた言葉を残して去ったのはそんな感覚なのかなと思う。
ただ、宮城野の処刑については矢太郎の想定外だったんだよね?
身代わり自首までも想定内だったら、相当なワルだよ~。
でも、これでもう二度と魂をこめた絵は描けなくなったわけで、ニセ絵
師の時に描いていた絵こそ本物の絵だったなんて皮肉。
いや、しょせん大事なのは名前、という世間一般を欺いたのは天晴かも。
そうそう、宮城野に名前をつけるとき出身地を聞く矢太郎がいい。
奥州白石か、じゃあ宮城野ってのはどうだ、揚屋(新吉原揚屋)ってい
うのに出てくる名前だ。
その台詞を歌舞伎役者に言わせるなんて、粋な映画♪
●東洲斎写楽とおぼしき人物(國村準)
・・・とおぼしき人物、ってねぇ~(笑)。
でも、付け足しのラストシーンで笑い事ではないと思った。
写楽にまつわるミステリーに迫る役名ではないかと。
きさまはそれほどオツムも悪くなさそうだし、って。
まるで、かよと矢太郎の計画を知っていると言わんばかりのあの台詞。
自分もそうしてきたから予想できたのかも。
ナンテね。
いやー、そんな胡散臭ささえにじませる國村準さん、お見事!
無声映像で見せた後で、もう一度台詞付きですごくヤラシイ~ことを
言うんだけど、なんか私、思わず味わってしまいましたね~(爆)。
絵についての台詞もね~。
(宮城野の部屋の奥に写楽の部屋が現れる手法も新鮮だったけど。)
矢太郎の名前が世に出て独立でもされたら自分が困る。
だから、落とせる限りの言葉で弟子の自尊心を傷つけ、自分の立場を
守ったのか。
助平じじいだし、ゲスな人物だし、どうしようもなく嫌みな人物だけど、
どひゃあ~のラストシーンで最後の最後に含蓄のあるお言葉。
ここには書かないけど、グサッと刺さりましたねー。
本当にねえ、ウーンと考えさせられるひとことでございました。
既出の台詞を受けて、黒いものを白にするとは上出来、という絵師的オ
チもあったし。やっぱりラストシーンは見応えあり♪
●宮城野(毬谷友子)
この女は嘘つきなのか。
いや、悲しすぎる出来事は自分で美談に変換してして語る。たぶんそれが
宮城野流の処世術なんだろうな。強い雑草の理由がこれなのか。
悲しい。女として悲しすぎる。
女郎になりたての頃の話。かよについて矢太郎に言って聞かせる話。
口で語る話と裏腹に、全く逆の光景を映像が見せている。残酷だ。
最初にスタンダード版を見た時、この手法にどまどったけれど、ディレク
ターズカット版では流れがとてもよくわかリ、残酷さゆえ鮮烈。
処刑場での最期。思い出すのは矢太郎との出逢いのシーン。
ここにこの映像が入っていることで、矢代静一氏の「弥々」を思い出して
ちょっと泣けました。人生の幕切れにその女性の最高の場面を重ねる。
それが宮城野にとっては矢太郎に命を救ってもらった雪の日のこと。
商売用のそばを食べさせてもらって、私って臭い? と宮城野が尋ねると
自分の体をクンクン嗅ぎ、俺も臭うから、と答える素朴な矢太郎が好き♪
宮城野にとってはきっとどんな着物よりも簪よりも嬉しかった言葉。
自分をまるごと受け入れてもらえた、キラキラした言葉。
そして、宮城野からのキス。ただそれだけだったけど・・・。
だから。だから、あんなことができたんだよね。
写楽殺しは自分だと。矢太郎からもらった絵が盗みの証拠だと。
極刑という転落に向かってまっすぐに突き進んでゆく宮城野。
なぜかカッコイイーって初めて思えた。
処刑場での宮城野の言葉。
これもディレクターズカット版を見て初めてシンクロできた。
斬首の直前に、ぞくぞくする、全身が痺れるようだ、とつぶやく宮城野。
背景は雪。ドンドンと響く太鼓の効果音と呼応して、チンチンチンチン。
矢太郎への思いに満たされながら死んでゆく宮城野。涙がスッとひとすじ
流れて、満足そうな表情。美しい・・・そう思えた。
自己犠牲ってもしかして体が痺れるほどの快感なのか?
そういう愛もあるのかー。
それほどの男だったのか、宮城野にとって矢太郎は。
写楽とおぼしき男の最後の台詞によって、観客の脳内に処刑場の光景が
フラッシュバーーーック! ずしんと重い幕切れ。
この映画が好き♪ と思った。
ありがとう、ありがとう。ディレクターズカット版の「宮城野」。
映画「宮城野」ディレクターズカット版 観賞メモ(1)
まだ見ぬ36分に逢いに♪
映画「宮城野」@兵庫県立芸術文化センター(スタンダード版観賞メモ)
ひとり語り 弥々 観劇メモ(矢代静一関連)
やはり全部読まれましたか!
仕掛けておいたバリケードも突破されたのですね(爆)。
ネタバレしてしまってごめんなさい~っ。
感じたことをひたすらメモしただけなんですけど。
読まなくても、読んでしまっても、悶々は同じでした?(笑)
もしも可能なら、スタンダード版、ディレクターズカット版、
そして戯曲の3つを比べてみるとさらに面白いと思います。
お近くの図書館にあるといいですね♪
では、次回の上映を祈って・・・パン、パンッ!!
でも、読んでよけいに
観たくなってきています。
精神衛生上良くない気がします(笑)
>この卑屈な状況にひたすら堪える表情
スタンダード版でもこの表情に胸きゅんでしたよ。ディレクターズカット版ならなおさら…と思うと観たくて観たくてどうしようもなくなります。
いつかまた上映があることを信じてます。
そして、
ディレクターズカット版を観た後で、
ムンパリさんの感想を
もう一度読ませていただきたいと思います