11.「ペイ・フォワード」はユートピア(架空の理想世界)?
トレバーが授業の発表で「ペイ・フォワード」を皆に説明します。
トレバー:
「ここに3人います」
「まず僕が彼らを助けます」
「何か大きなこと」
「本人ではできないようなことをやってあげます」
「彼らもまた3人ずつ助ける」
「これで9人」
「この9人がまた3人ずつ助ける」
同時に家でジェリーがアーリーンに「ペイ・フォワード」を説明しています。
ジェリー:
「これで27人になる」
「数字は苦手ですがたちまち大人数になる」
トレバーの提案に対し教室では色々な意見が出ていました。
シモネット:
「静かにしたまえ」
「意見はちゃんと言え」
「君は?」
アジア系の女の子:「いい考えよ」
ショーン:「バカらしい」
アダム:「信用第一」
一番前の女の子:「みんなズルする」
トレバー:「君がだろ?」
シモネット:
「みんな君の考えがユートピア的すぎると言う」
「’ユートピア’の意味は後で調べて」
トレバー:
「パーフェクト・ワールドみたいな?」
「だからどうなの?」
シモネット:「どうしてそんなアイデアを思いついた?」
トレバー:「だって...」
アーリーンとジェリーの会話とシンクロしています。
ジェリー:「’世の中はクソだから’って」
アーリーン:「あの子が言ったの?」
ジェリー:
「2人でいろいろ話しました」
「ご心配なく、もう話すのはやめますから」
アーリーン:
「いいえ...そんなこと言わないで」
「コーヒー飲む?」
ジェリー:「はい、飲みます」
コーヒーの誘いがいいんですね。
海外では人と仲良くなるのにコーヒーのお誘いのシーンが多いですね。
「ベルリン・天使の詩」の中でも天使と元天使が街のカフェで語り合います。
ピーター:
「見えないがいるな?」
「感じるよ」
「君の顔が見たい。君には話す事がいっぱいある。友達だからさ、兄弟!」
コーヒーを飲む以上のものを受け取るんです。
自分の価値・存在を認めてもらえる喜び。
トレバーの発表ののち、他の生徒も目を輝かせながら、世界を変える独自の方法を語ります。
希望に満ちたキレイな眼の子どもたちです。
シモネット:
「実に多彩で驚くべきアイデアばかりだ」
「’多彩’という言葉も調べろ」
「今日聞いた1つの案に注目したい」
「何年も教えているがまったく新しい発想だし、人々の善意を信じることで成り立っている」
「トレバーは世界に対して働きかけをした。」
「課題のテーマに合ってる」
「私が大げさで感情的な人間なら’何と見事な!’と絶賛するだろう」
「今日の言葉は ’ユートピア的’ ’不可解’ ’定量’ ’多彩’ だ」
下校の風景になります。
スクールバスの乗り場にたくさんの生徒が集まっていました。
トレバーはシモネットに近づき、話しかけます。
トレバー:「ただのお世辞?」
シモネット:「何が?」
トレバー:
「僕の案を褒めた」
「いいと思った?」
「それとも教師の役目?」
シモネット:「役目?」
トレバー:「口先だけ」
シモネット:「私がそう見えるか?」
トレバー:「別に、だけどいい人にも見えない」
シモネット:「つい口が滑った。二度と褒めない」
少しの間、二人に沈黙が走りました。
シモネット:「何だ?」
トレバー:「顔をどうしたの?」
シモネットは向こう側にいたトレバーの友人たちがこちらを見ているのに目が合います。
ここでシモネットはトレバーが顔のやけどの事を調査する役目で話しかけてきたのだと勘ぐってしまいます。
シモネット:
「貧乏くじを引いたのか?」
「社会科とは関係ないだろ?」
「みんなにそう言え」
トレバー:「誰に?」
シモネット:「また明日」
シモネットは車に乗り込み去っていこうとします。
トレバーはうなだれて歩いて行きますが、友人たちの輪を通り過ぎて行きます。
その様子を見たシモネットは ’しまった’ と思います。
シモネットは顔についての劣等感から思い込みをしていました。
「自動思考」ですね。
彼にも弱さがありました。
このシーンは人をよく見るということが隠されているのではないかと思います。
偏見や先入観なく相手を観察する力。
「ホーム・アローン」でも主人公の少年が鳩としか交流しないおばあさんと仲良くなる所がありますね。
きっと子供の方が人を素直に見ることへの障害が少ないのだと思います。
私たちは世界、相手を見る時、色メガネで見てしまいます。
「どうせ~にちがいない」「~であるべきだ」「彼もまた他と同じで~だ」など。
相手をきちんと見るということは自分のことをしっかり理解しているということ。
自分の考えが現実と合っているのかの確認をいつもしていることだと思います。
12.失敗
家庭環境もあり、世界に対して希望を持てないトレバー少年。
シモネットとのふれあいに失敗しました。
水のない枯れ葉だらけのプールが映し出されます。
トレバーの満たされない空虚な心のようです。
トレバーはジェリーの様子を見に彼の家にやってきました。
その時、ジェリーはドラッグの誘惑に負けていました。
トレバー:
「ジェリー?」
「出てきて、ジェリー」
ジェリーは出てきてくれませんでした。
トレバーは考案した課題の難しさを知りました。
ノートに書いた3人のイラストの一人ジェリーにバツをしました。
13.ウソと本音
二人目に ’シモネット先生’ と書き込みます。
母アーリーンとシモネットを付き合わせる作戦です。
手紙を書いて母と先生を親密にさせようとしました。
アーリーンたちはロウソクに火をつけてテーブルの準備をしたトレバーの考えを見破ります。
そのままアーリーンとシモネットは夕食をともにします。
トレバーの事、二人お互いの事を少しだけ知ることができました。
突然友人のボニーが来てしまい夕食は終わってしまいます。
アーリーン:
「これはどういう事?」
「私の名前で手紙を出したの?」
トレバー:「台無しだよ」
アーリーン:
「余計なお世話なのよ」
「盗み聞きしてたの?」
「おなかが痛いのはウソなの?」
トレバー:「自分もつくだろ」
アーリーン:「こんなこと迷惑なのよ」
トレバー:「ママのためなのに」
アーリーン:「ねえ、トレバー、男と女はそう簡単には好きにならないわ」
トレバー:
「一緒に酔っぱらえる相手だけ?」
「今もあいつを待ってるにちがいない」
アーリーン:「いいえ、違うわ」
トレバー:「そうだよ!」
アーリーン:「パパはもう...忘れたわ」
トレバー:「いつも口先だけ」
アーリーン:「本当よ」
トレバー:「うそだ」
アーリーン:「どう言えばいいの?本当なのよ」
トレバー:「あいつが家にいると僕のことは知らん顔のくせに」
アーリーン:「ウソよ」
トレバー:「本当だ」
アーリーンはダメな夫でも、自らの寂しさと天秤をかけています。
愛情不足のトレバーが分かります。
アーリーンはトレバーにキスをしようとしますが、トレバーは身をかわし拒絶しました。
アーリーン:「愛してるわ。何が不満なの?」
トレバー:「ママなんか嫌いだ」
アーリーン:「やめなさい」
トレバー:「母親失格だよ!」
トレバーは本音のない包容を見抜いているんですね。
怒りが込み上げたアーリーンはトレバーを思いっきりぶってしまいました。
その直後、我に返り後悔します。
アーリーンはショックで涙を堪らえきれず、一心不乱に酒を求め、家中を探し回ります。
このシーンでアルコール依存症をリアルなまでに表現しています。
まるで強盗のように家の備品を退けながら酒をさがす姿。
そんな母の姿や物音を聞きたくないトレバーは、そっと自室のドアを閉めて耳を塞ぎます。
トレバーの心を襲う「クソな世界」。
過去からの母と父のケンカの罵声、破壊音、すすり泣き。
酒を見つけ飲み干すアーリーンですが、思いとどまって吐き出しました。
その間にトレバーは家出をしました。
車のないアーリーンはシモネットに助けを求めました。
アーリーン:
「ごめんなさい、ボニーは留守だし警官は来ないし友達はアル中ばかりだし...私もよ」
「私もアル中なの」
シモネット:「でも君は克服しようとしている」
長距離バスターミナルでアーリーンとシモネットはトレバーを保護しました。
アーリーン:
「あなたをぶったことは死ぬまで後悔すると思う」
「お酒は飲まなかった。飲みたかったけど」
「信じてくれないわね」
「約束なんか、聞き飽きたでしょ?」
「だから正直に言うわ」
「本当は苦しいの」
「お酒がやめられなくて」
「でもやめたいの」
「あなたがそばにいて、’大丈夫、ママはできる’ と信じてくれるなら...たぶんやめられる」
「だからお願い」
「ママを助けてほしいの」
本音を聞いたトレバーは母と抱き合いました。
傍らでシモネットは見守っていました。
修羅場をむかえるというのは本当に大事な事です。
我慢し、表情を隠し、日常を過ごす。
孤独になり、哀しみが堪えきれず、いつかは溢れ出してしまいます。
弱さを受け入れ、本当の姿を相手に見せ、助けを求める。
それを目の当たりにしたシモネットは家の外で感慨深げに考えていました。
14.シドニーへのロウソクの火
クリスは一流弁護士に「ペイ・フォワード」したシドニーに刑務所で面会します。
シドニー:
「善い行いを3つやる決まりなんだ」
「あと2つはこのムショの仲間にしてやるつもりだ」
クリス:「だれに言われた?」
シドニーは自分が思いついたとウソを言います。
虚言癖の男です。
クリス:「なぜ思いついた?」
シドニー:
「この世はクソだ」
「汚い言葉ですまない」
「そこでおれは思ったんだ」
「世界をよくしてやろうと思って」
「ウソじゃない、おれは悪い事ばかりやってきた」
「でも、おれは生まれ変わった」
「世界を変える」
「みんな、おれの言うことを聞き、悪事から手を引く」
「宇宙版アリストテレスみてえなもんよ」
クリス:「でもシドニー、なぜ君は次へ渡したんだ?」
シドニー:「だれもおれがそんな事すると思ってないからさ」
シドニーは不良で素行が悪い男です。
彼に「ペイ・フォワード」をさせたのは何でしょうか?
それは社会との「役割」ではないかと思います。
社会との「つながり」と言ってもいいかもしれません。
シドニーの心の中の無価値感、社会からの疎外感から、抜け出したいという切なる気持ちからだったのではないでしょうか。
パーティーに参加するには人脈が必要で、コンサートに入場するにはチケットが求められます。
ですが本当は「役割」という行為だけで社会と「つながる」ことができます。
クリスはコネを使って、シドニーを釈放させてやります。
シドニーにエピソードを聞き出すためですね。
シドニーはラジカセを強奪してパトカーに追われている所をある老女に助けられたと言いました。
酒屋から酒を買って車に乗り込む老女。
逃走中のシドニーに遭遇します。
老女:
「追われてるの?」
「乗って!」
シドニー:「乗れ?」
老女:「早く乗って!」
シドニーは老女の車に乗り込みパトカーの追っ手から逃れました。
この時舞台がロスからラスベガスに移るんですね。
ねぐらに辿り着き、早速酒を飲み干す老女でした。
シドニーはどうしようもない婆さんだなという顔をしていました。
シドニー:「俺をどうすんだ?」
老女:「好きにおし」
シドニー:「よせやい、あんたのシワだらけのケツは願い下げだ」
老女:「あたしゃ、あんたほど臭くないよ」
シドニー:
「そうかい」
「よし、どうしろって?」
老女:「別にいいさ。どうせやりっこないだろ」
シドニー:「あったりめえよ」
シドニーはタバコを一服しはじめました。
老女:「禁煙なんだよ」
シドニー:
「この車はあんたの家かよ」
「カーテンを汚すなってか?」
老女:
「くそったれ野郎め」
「とんだバカに渡したもんだ」
シドニー:「”渡した”だって?」
老女:「話してやるもんか、こんなろくでなしに」
シドニー:
「ふざけんなって」
「教えろよ」
「話してくれってば」
15.ベガスの夜のデート
シモネットとアーリーンは何とかデートの約束をします。
アーリーンが残業で遅れてしまって、急いで支度するシーン。
トレバーの異様な陽気なところがとてもかわいいです。
アーリーン:「40分も遅刻をしちゃってる」
トレバー:「電話は?」
アーリーン:「レストランの名前を忘れてしまって」
トレバー:
「遅刻は嫌われる ’尊敬してない’ って」
「遅刻は尊敬してない証拠だって」
「これを着て」
アーリーン:「グリーンのを」
トレバー:「吸血鬼みたいだ」
アーリーン:「シャワーを浴びるわ、汗臭くて」
トレバー:「大丈夫だよ」
トレバーは脇に芳香スプレーを手際よく吹きかけました。
トレバー:「バラみたいにいい香り」
アーリーン:
「せめて、わきの下だけ...」
「本当に平気?」
トレバー:
「完璧だよ」
「あと、話の途中で口を挟むのも嫌われるからね」
アーリーン:
「手を上げて発言しなきゃだめ?」
「ねえ、サンダルを取って」
トレバーはハイヒールを差し出します。
アーリーン:「ダメよ、セクシーすぎるわ」
トレバー:「遅刻っていう先生への借りがあるでしょ?サービスだよ」
アーリーン:「借り?何を言ってるの?」
トレバー:「それにくだらないジョークは禁物だよ」
アーリーン:
「ご忠告どうも。電話でタクシーを呼ぶわ」
「バスじゃ、もっと遅れちゃうわ」
「タクシーを呼ぶわ!」
家の前ではすでにトレバーがタクシーを呼んで待っていました。
トレバー:「来てるよ!」
アーリーン:
「すごいわ!」
「何て気がきくの!世界一の子よ」
「愛してるわ」
トレバー:「僕もさ」
トレバーの早口で小気味のいいテンポの楽しいシーンですよ。
シモネットとアーリーンはデートを重ねます。
シモネット:「お休み」
アーリーン:「ちょっと寄らない?」
「泊まっていって」
シモネット:「トレバーがいるから」
アーリーン:「ぐっすり眠ってるわ」
シモネット:「問題を難しくしたくない」
「ボニーはあと1年は待てと」
アーリーン:「分かったわ」
アーリーンを演じる女優さん、相手の話を引き出す表情を出すのがとても上手なんですね。
相手を理解しているという表情、じれったいという表情、言いたいのを我慢しているという表情。
人との会話ってこういうのが理想なんだなと思う演技力です。
ヘレン・ハント、いい女優さんです。
シモネット:「僕は...できないよ...」
アーリーン:「ごめんなさい」
シモネット:
「ああ、そういう意味じゃないんだ」
「つまり...」
アーリーン:「何なの?」
シモネット:「とても複雑で」
アーリーン:「私をそんなふうには好きじゃないのね」
シモネット:「本当にそう思っているのか?」
アーリーン:「いいのよ」
シモネット:「そんなはずないだろ」
二人はキスしますが、シモネットは過去の複雑な思いからかその場を立ち去ってしまいます。
ラスベガスの郊外の丘の上のアーリーン親子の家。
そこから見渡せる夜景がキャンドルのように優しく揺らめいていました。
16.境界線を越えて
アーリーンはシモネットの本音を知りたくて、彼の家に押しかけます。
シモネット:「どなた?」
アーリーン:
「私を見下してるの?」
「私をバカだと?」
「あなたみたいに賢く話せないから?」
シモネット:「唐突だな、要点は?」
アーリーン:「そんな話し方、やめて!」
シモネット:「こうしか話せない。僕には言葉がすべてなんだ」
アーリーン:
「なぜそう思うの?」
「ひどい顔をしてるから?」
「私は平気なのに」
「あなたは気にしてるの?」
シモネット:「そうだ」
アーリーン:「やけどの痕があってもあなたはすてきよ」
シモネット:「君もすてきだ」
アーリーン:「じゃ、どうして?」
シモネット:「こんな関係になったのは初めてだ」
アーリーン:
「だから不安なのね、私もよ」
「苦労ばかりしてきたわ」
「お酒を飲まずに男と寝られない」
「でもあなたを求めてる。不安もあるけど」
シモネット:
「君は僕を分かってない」
「僕の人生は、すべて僕自身のものなんだ」
「ちゃんと気持ちを管理できる」
「毎日きちんとね」
「その日やるべき事は全部頭に入ってる」
「いつも同じ手順だ」
「でもそれをしている限り...安心だ」
「でないと自分を見失ってしまう」
アーリーン:「管理できる毎日があなたの望みなの?」
シモネット:「そうだよ」
アーリーン:「それは違うわ」
シモネット:「いやそうだ、ずっとそうしてきた!」
アーリーン:「信じないわ」
そういってアーリーンはシモネットにキスをしました。
アーリーン:「私だからいやなのね」
シモネット:「違うよ」
アーリーン:
「私は気持ちを打ち明けたのに、それをあなたは拒んだ」
「傷つくのが怖くて勝手に結論を出すのね」
シモネットは傷つくのが怖くて自分にバリアを張ります。
外からも入れませんが、内からも出れません。
アーリーンがバリアに触れた瞬間、シモネットはいっそう必死に身を守ろうとします。
アメリカ人はこういう修羅場を必ずつくりますね。
修羅場を乗り越えることが最善の解決だという考えが浸透しているからです。
相手への干渉ではないんですね。
自分の気持を大事にしています。
まず投げかけて見るんです。
日本人はここで我慢してしまいますね。
気持ちを抑圧して日常に戻ってしまいます。
解決を先送りしているんですね。
子供のため、世間体のため、暮らしのため。関係を壊さないため。
そしてフタをしてしまいます。
そのツケは自身の体に、心に、子供の感情にいづれやって来ます。
17.変わる勇気
トレバーの友人のアダムが上級生にいじめられていました。
トレバーは止めに入りますが、恐怖心が出て動けませんでした。
トレバーはノートの2人目シモネット、3人目アダムにバツを記しました。
意気消沈するトレバーにシモネットが励まします。
シモネット:
「トレバー」
「授業をさぼったな」
トレバー:「もう4日だよ」
シモネット:「何のことだ?」
トレバー:「なぜ4日もママに電話しないの?」
シモネット:「分からない」
トレバー:「ひどいよ」
シモネットはトレバーの悩みを察します。
シモネット:「何かあったのか?」
トレバー:
「”次へ渡す”は失敗だ」
「うまくいかなかったんだ」
「アダムを助けようとしたけど...」
シモネット:「助けるって何を?」
トレバー:
「やつらに殴られないように」
「でも怖くてダメだったんだ」
「僕は救えなかった」
シモネット:
「君のせいじゃない。できない事もあるさ」
「時には仕方がないんだ」
トレバー:
「僕ができないのはフェアじゃない」
「先生には分かるもんか」
自分とシモネットを「勇気」で結びつけます。
トレバー:
「ママに電話してよ。勇気が出せばできる」
「なぜ腰抜けなの?」
シモネット:「そうじゃないんだ」
トレバー:「手遅れになっちゃうよ」
シモネット:「手遅れ?何がだ?」
トレバー:「あいつが戻ってくるんだ」
シモネット:
「誰が?」
「一体、誰が?」
「お父さんか?」
「お父さんが戻るのか?」
「戻ったらどうなるんだ?」
「君に暴力を?
トレバーは小さく首を振りました。
シモネット:「お母さんに?」
トレバー:「誰かがいれば..そうはならない」
シモネット:「トレバー、今の僕にはあまりに複雑すぎて...」
トレバー:「だから世の中なんてクソ何だよ」
シモネット:
「そんなことはない」
「君はとてもよく頑張った」
「君を誇りに思うよ」
「心からそう思う」
「大事なのは努力だ」
「結果で採点はしない」
トレバー:
「もう点なんかどうでもいいんだ」
「僕はどうしても世界が変わるのを見たかったんだ」
シモネットは「変わる」ことの意味を考え込みました。
それには「覚悟」「想い」が必要なのだとわかります。
18.土曜の夜と日曜の朝
アーリーンは冷蔵庫の中を掃除して生活習慣を変えようと努力しています。
シモネットは勇気を抱えてアーリーンを訪ねました。
アーリーンは少し驚いた表情を見せましたが、笑顔でシモネットを迎え入れます。
そして一夜を共にしました。
朝、トイレでシモネットとトレバーは鉢合わせをしてしまいます。
シモネット:「トレバー!」
トレバー:「うまくいった!」
シモネットはパンツ姿で慌ててアーリーンの部屋に逃げかえりました。
シモネット:
「もう起きてる!」
「まずい、あの子に見られた」
アーリーン:「平気よ」
アーリーンの落ち着きと頼もしさは何なんでしょう。
シモネット:「教師だぞ」
ドアの外からトレバーは言います。
トレバー:「次へ渡してね。ユージーン!」
シモネット:「”シモネット先生”だ」
シモネットは慌てて家に帰ろうとします。
トレバー君はしつこく追いかけます。
トレバー:「泊まったの?」
シモネット:
「ベッドに戻れ」
「まだ学校には早いから」
トレバー:「今日は日曜日だよ」
シモネット:「えっ今日は日曜?」
アーリーン:「そうよ」
アーリーンは満足げに余裕の表情でうなずきます。
トレバー:「ママが朝食を作ってくれるよ」
シモネット:
「日曜には日曜の予定があるんだ」
「どいてくれ」
「アーリーン、後で電話するから」
トレバー:「いつでも来てね!」
興奮したトレバーの口をアーリーンは塞ぎます。
トレバー:「彼、好き?」
トレバーのしつこくまとわりつくところがとてもかわいいです。
19.架け橋
ジェリーが大きな陸橋を歩いていると、身なりのいい女性が橋の上から飛び降りようとしていました。
ジェリー:「何してるんです?」
自殺志願者:「お願い、来ないで」
女性は涙ながらに言いました。
ジェリー:「僕は何もしませんから」
女性はバッグをジェリーに放り出し、別の場所から飛び降りようとします。
自殺志願者:「あげるわ」
ジェリー:「どうもありがとう、でも僕は要らないです」
女性は橋の欄干に登り飛び降りようとしました。
ジェリー:
「何のマネです?」
「おれは何もしないから」
「おれの話を聞いてください」
「何してるんです」
「どうする気?そこから下りてください」
自殺志願者:「なぜ止めるのよ」
ジェリー:「恩があるんです」
自殺志願者:「それは私にじゃないでしょ?」
ジェリー:
「なぜそんなことをしているんです?」
「ついさっきまでおれはどうしてもヤクが欲しかった」
「でも、あなたを見て気が変わったんだ」
自殺志願者:「もう消えて。私は救う価値などない人間だわ」
ジェリー:
「なぜそう思うんです?」
「答えて。なぜ価値がないと?」
自殺志願者:「だってそうなのよ。あなたには分からないわ」
ジェリー:「おれだってつらい目に会って来たんだ」
ジェリーはアーリーンにコーヒーを誘われたのを思い出したようです。
とても嬉しかったんですね。
ジェリーは精一杯のおどけた顔でジャンプしながら女性に言います。
ジェリー:「僕と一緒にコーヒーを飲みましょう!」
すると女性はそんなジェリーの笑顔を見て、泣きながらですが笑いが込み上げて来ました。
人は泣きながら笑えるんですね。
悲しみながら笑えるんです。
悲しみから微笑みに変わる、人の一番美しい瞬間だと思います。
笑いが人に注がれる時、悲しみが去り、また悲しみそのものを受け入れ始めます。
種子から葉が出てくる映像のように、羽化する瞬間のさなぎのように、神秘的な一瞬の変化です。
ジェリー:
「どうか、お願いです」
「おれを救うために」
女性が欄干から下りるのを手助けするのに差し出したジェリーの手。
彼の親指の爪には車のオイルがこびりついていました。
汚い手ですが、女性にとっては清らかな聖なる手でした。
パート3へつづく
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