『マディソン郡の橋』
1.良識があるアメリカ映画
昨今、日本では不倫の話題が世間でにぎわっていますね。
この作品も不倫がテーマです.
意見は賛否両論分かれると思います。
『失楽園』のように、欲望のまま不倫して、やがて二人は勝手に死んでいく。
そんな身勝手な恋愛ではないんです。
『マディソン郡の橋』の主人公は、夫、子供の心情や将来のこと、悩んで悩んで葛藤します。
それが、アメリカ映画なんです。
認められないんですね。そんなこと、アメリカ人が、アメリカの社会が。
キリスト教が主な国ですから、倫理観がしっかりしています。
すべてのことが自由主義ではないんです。
あなたに観て頂きたいのは、主人公の心の中の葛藤、純粋な乙女のような恋心、不倫を知った子供たちの心の揺れ、そしてこのメロドラマの見事な演出です。
2.母の遺品から出てきたモノは...
冒頭シーンは、一人の老女の遺品整理から始まります。
ともに40歳代の長男のマイケルと長女のキャロリン、マイケルの妻、弁護士が立ち会っています。
母の遺言は自分の遺体を火葬して、ロズウェル橋に遺灰を撒いてほしいとありました。
マイケル:
「火葬だなんてバカな!」
「うちは火葬じゃない」
「父さんが前から夫婦の墓地を買ってある」
「母さんは頭がボケたんだよ」
弁護士:
「遺言は明確だ」
「”遺灰をローズマン橋から撒いてくれ”と」
マイケル:「何だって?」
キャロリン:「本当にママが書いたの?」
弁護士:
「ルーシー・ディレー二ーが立会人だ」
「彼女に聞くがいい」
マイケル:「ルーシー?」
キャロリン:「ディレーニー夫人よ」
マイケル:
「法的にはどうあれ、火葬にして灰を橋から撒くだと?」
「灰は散って墓参りもできやしない」
「絶対に反対だ」
「反キリスト教的だよ」
そして弁護士の預かり物の中から、写真が出てきます。
それは、白い屋根の付いた橋の前で少女のように笑顔で写っていた母フランチェスカでした。
キャロリン:「マイケル、見て」「見たことある?」「1965年の封付よ」
遺書を読み進めるキャロリンは母が不倫をしていたことを知ります。
彼女はマイケルを呼び寄せ、事情を知らせます。
キャロリン:
「マイケル、マイケル、ちょっとこっちへ」
マイケル:「どうした?」
しばらく二人で話した後、
マイケル:
「もし、よければ箱の中身は僕とキャロリンで調べる」
「君らの時間を取るだけだから」
「後で事務所の方に連絡します」
そして、兄弟二人だけで遺品の中の手紙を読みます。
3.母の不倫を知った子供たち
男:
「僕は必死に思い込もうとしています」
「僕らは別々の人生を歩むべき運命なのだと」
「なのに、カメラをのぞくとあなたが見える」
「記事を書き始めるとあなたを想って書いている」
「僕らはあの4日間のためにお互いに出会うために生きていたのです」
マイケル:
「やめてくれ、焼き捨てろ」
「聞きたくない、捨てちまえ」
しかし、気になってしょうがないマイケルは、
マイケル:「それから?」
キャロリン:
「こう書いてあるわ、”万一連絡が必要ならナショナル・ジオグラフィック誌へ”」
「カメラマンなのよ」
「”手紙はこれ限りと”」「そして、あとはこれだけ、”愛しています、ロバート”」
マイケル:「ロバート?呆れたな。殺してやる」
キャロリン:
「もう亡くなっているのよ、これを見て、彼の弁護士から」
「遺品はすべてママに残すって」
「ロバートの弁護士より、故人の希望で”遺体は火葬にしてローズマン橋から灰を撒け”と」
マイケル:
「やっぱり!入れ知恵されてたんだ」
「その変態野郎が母さんをたぶらかしたんだ」
「いつ死んだって?」
キャロリン:「1982年よ」
マイケル:
「じゃあ、父さんが死んで3年後だ」
「僕らが子供のころか?」
「信じられない」
「母さんはそいつと寝たのかな?」
キャロリン:「兄さんって一体いつまで子供なの?」
マイケル:
「だが、僕の母さんなんだぞ」
「あの母さんが...」
キャロリン:「何だっていうの?」
マイケル:「考えたくはないさ」
キャロリン:
「私に一言も言わずに...」
「週に1度は必ず電話で話してたのよ」
マイケル:
「父さんは知っていたのか?」
「封筒の中にまだ何か?」
そしてキャロリンが封筒の中を探すと1本の鍵が出てきました。
心当たりのあったキャロリンは母の大事にしていた木箱の鍵だとわかります。
その箱の中にはペンダントとカメラ、メモ、ドレス、3冊のノート、そしてマイケルとキャロリン宛の手紙が出てきました。
4.母の生き様を子供に伝えたい
キャロリン:「読んで」
マイケル:「読めよ」
フランチェスカの手紙:
「1987年1月、愛するキャロリン、マイケルも一緒かしら?」
「彼はこれを一人で読めないだろうし、理解できないでしょう」
「あなたたちを愛してることをまず言っておきます」
「元気なうちに心の整理と身辺整理をしたいのです」
マイケル:「だじゃれのつもりか?」
フランチェスカの手紙:
「貸金庫を開ければ、きっとこの鍵が見つかるはずです」
「子供に語りにくい話を、なぜ自分の死と共に葬らないのか」
「でも、年をとると恐れは薄れるのです」
「そして愛する人に知ってほしいと思うのです」
「この短い人生をどう生きたかを」
「どんな人間だったかを知ってもらわずに死ぬなんて、とても悲しいことです」
「親は子供を無条件で愛します」
「でも子供の親に対する愛は複雑」
「あなた達にも反抗期がありました」
マイケルとキャロリンは涙ながらに微笑みました。
フランチェスカの手紙:
「彼の名はロバート・キンケイド」
「写真家で1965年に雑誌の仕事で屋根のある橋を撮影しにここへやってきたのです」
「雑誌が出た時は町の人々は大得意」
「うちも購読を始めました」
キャロリンは箱の中から雑誌を見つけます。
キャロリン:「ローズマン橋よ」
そして、雑誌の中にキンケイドの写真を見つけます。
キャロリン:「彼がロバート・キンケイド?」
写真の中で彼が母のペンダントをつけているのを見つけました。
キャロリン:「ママのペンダントだわ」
フランチェスカ:
「どうか彼を恨まないで」
「すべてを知れば、彼を許し感謝さえ感じるはずです」
マイケル:「感謝?」
フランチェスカ:
「3冊のノートを読んで下さい」
「あれはイリノイ州の州祭りがあった週」
「キャロリンが子牛を品評会に出すので、あなた達は出かけた」
ここからシーンが過去に変わります。
5.出会いは突然に
フランチェスカ:
「出発は日曜の夜で、正直言って、私はほっとしました」
「帰るのは金曜日、4日間、たった4日間」
フランチェスカはオペラをかけて食事の準備をしています。
イタリア出身の彼女は少し、アメリカ人とは感性が違うんですね。
音楽でオペラを流したり、アイスティーを飲んだりします。
読書家でイェーツの詩集なんかも読んでいます。
食事のために部屋に入ってきた夫リチャードと17才のマイケルは
強く戸を締めます。
フランチェスカ:「静かに戸を閉めてっていつも言ってるでしょう」
続いて2階から降りてきたキャロリンはフランチェスカがかけていたオペラの曲をポップスの曲に変えます。
フランチェスカが家族のために我慢をしている描写です。
フランチェスカは食事前にお祈りをしてと言いますが、キャロリンは”お祈り”とだけ言って食事を食べ始めてしまいます。
キャロリンは今、反抗期なんですね。
フランチェスカは食事を作り終えて一息して、家族が食べるのを見守ります。
そして食事をする家族を見ながら、微笑みます。
でも、どこかさみしげな退屈そうな表情をします。
フランチェスカは家族の世話でとても忙しい日々を送って過ごしています。
家族を旅行に見送ったフランチェスカは、好きなオペラをかけて一人の時間を満喫します。
のんびり羽を伸ばしながらも、家の片付けなどをしていました。
そして小休憩で軒先でアイスティをひとり飲んでいると、1台の車がやって来ました。
ワシントンのカメラマンのロバート・キンケイドです。
彼は紳士的な優しい雰囲気が漂っていました。
ロバート:「どうやら道に迷ったらしいです」
フランチェスカ:「アイオワで間違いない?」
ロバート:「ええ」
フランチェスカ:「じゃあ、大丈夫よ」
ロバート:
「橋を探してるんです」
「屋根がある橋が近くに?」
フランチェスカ:「ローズマン橋?」
ロバート:「それです」
フランチェスカ:「じゃあ近いわ、3キロ先よ」
ロバート:「どっちへ?」
フランチェスカ:「そっちよ、カターの角で左へ」
ロバート:「カター?」
フランチェスカ:
「カター農場よ」
「小さな家だけど、ほえつく黄色の犬がいるわ」
ロバート:「ほえつく黄色の犬...」
フランチェスカ:
「そのまま真っ直ぐ行くと道が二股に分かれているの」
「数百メートルほど先よ」
ロバート:「二股はどっちへ?」
フランチェスカ:
「右よ。それから...」
「違ったわ、ごめんなさい」
「ピーターソンの所を、ピーターソン農場よ。その先の古い校舎を左へ」
「道に名前があれば楽なのに...」
ロバート:「そうですね」
フランチェスカ:
「案内しましょうか?」
「それとも説明する?」
「どっちでもあなたのいいように」
ロバート:「でもご迷惑では?」
フランチェスカ:
「いいえ、アイスティを飲んで一息入れようと...」
「靴を履くわ」
ロバートはにこやかにフランチェスカの後ろ姿を見つめます。
そして、フランチェスカは道案内のため車に乗り込みます。
6.屋根付きのローズマン橋へ
ロバート:「それで?」
フランチェスカ:「出て右に曲がるの」
ロバート:「出て、右へ」
時折、カメラがフランチェスカの視線に変わるんです。
それがフランチェスカの興味や心情などを伝えていて、見ているこちらがドキドキします。
すばらしい演出です。
ロバート:「アイオワの匂い、この土地独特の香りがします」
フランチェスカ:「そう?」
ロバート:
「言葉では言えないが、土の匂いです」
「肥沃な大地の匂い」
「生きてると言うか...」
「感じない?」
フランチェスカ:「さあ、住んでると...」
フランチェスカが田舎に飽き飽きしているのがよくわかります。
ロバート:
「分からない?」
「いい匂いです」
フランチェスカ:「ワシントンの方?」
ロバート:「20才過ぎまで暮らして、結婚してからシカゴへ」
フランチェスカ:「それで今はワシントン?」
ロバート:
「離婚してね」
「いつ結婚を?」
フランチェスカ:「大昔よ」
ロバート:
「大昔か」
「ご出身は? 失礼かな?」
フランチェスカ:
「いいえ、いいのよ」
「私の出身はイタリアなの」
ロバート:
「イタリア?」
「イタリアからアイオワへ?」
「イタリアのどこ?」
フランチェスカ:「イタリアの東のバリよ。誰も知らない小さな町」
ロバート:
「バリ? 知ってます」
フランチェスカ:「まさか、本当に?」
ロバート:
「ギリシャで仕事があって、バリを通ってブリンディジへ」
「美しい所だったので、汽車を降りて数日滞在しました」
フランチェスカ:「美しかったので途中下車を?」
ロバート:「ええ、そうです」
ロバートはダッシュボードの中のタバコを取ろうとして、彼女の脚に少し触れてしまいます。
フランチェスカはロバートを少し意識するんですね。
そして、タバコを顔に差し出される時もびっくりしています。
タバコをもらったフランチェスカはタバコに火をつけてもらいます。
外から風が入ってきているので、火が消えないように、ロバートの体と手で風を防ぐために、ロバートは彼女の顔に近づくんです。
そういうのを何気に観客に見せる演出がうまいです。
いやらしくないんですね。
ロバート:「それで、アイオワには何年?」
フランチェスカ:「もう長いわ」
あまりその話はしたくないんですね。
フランチェスカは話題を戻します。
フランチェスカ:「本当に見知らぬ町に降りたの?」ロバート:「ええ」
そのローズマン橋への途中、2つの古い橋を渡り、やっとローズマン橋に着きます。
フランチェスカ:「あの橋よ」
ロバート:
「美しい!」
「写真になる」
周りはトウモロコシで埋め尽くされた綺麗な橋が現れました。
7.魅力的なロバート・キンケイド
フランチェスカは橋の隙間からロバートの姿をじっと見つめます。
ロバート:
「暑いですね」
「荷台に飲み物がありますよ」
フランチェスカ:「頂くわ」
フランチェスカは車の荷台に取りに行きます。
旅行カバンから下着が見えて、気になります。
フランチェスカは喉を潤している間にロバートを見失います。
ロバートは辺りの花を摘んで探していて、フランチェスカにプレゼントします。
ロバート:
「あなたに花を」
「女性に花を贈る、時代遅れかな?」
「感謝のしるしです」
フランチェスカ:「いいのよ、毒草だけど」
ロバートは驚いて花を地面に落とします。
フランチェスカは大笑いして、
フランチェスカ:
「冗談よ、ごめんなさい」
「本当にごめんなさい」
ロバート:「いじわるを言う趣味が?」
フランチェスカ:
「まさか、わたしったら...」
「すてきだわ」
「ごめんなさい」
このやり取りで二人の距離がグッと縮まります。
同時に素敵な音楽が流れてきます。
二人は家に戻ってきます。
ロバート:「本当に助かりました、ジョンソンさん」
フランチェスカ:「フランチェスカよ」
ロバート:「ロバートです」
フランチェスカ:「家でアイスティを飲みませんか?」
ロバート:「ええ」
8.刺激的な会話
フランチェスカはもらった花を花瓶に挿します。
ロバート:「毒草では?」
フランチェスカ:「ごめんなさい、なぜあんなことを言ったのかしら」
ロバート:「お子さんは何歳?」
フランチェスカ:
「17と16よ」
「皆変わっていく」
ロバート:
「それが自然の法則です」
「変化を恐れず、こう思うんです」
「すべて変化する、それが自然なのだと」
「かえって支えになります」
フランチェスカ:
「そうかもね」
「でも、私は変化が怖いの」
ロバート:「どうかな」
フランチェスカ:「なぜ?」
ロバート:
「イタリアからアイオワに来た」
「それは大きな変化だよ」
フランチェスカ:
「それはリチャードが軍隊にいて、彼とナポリで出会ったからよ」
「アイオワを知りもせず、アメリカに行けるんだと思ったわ」
「リチャードがいてくれたし...」
ロバート:「どんなご主人?」
フランチェスカ:「とても真っ当な人」
ロバート:「真っ当?」
フランチェスカ:
「そう、いいえ無論それだけでは...」
「働き者で家族を大切にして、正直で優しい」
「いい父親よ」
ロバート:「そして、真っ当?」
フランチェスカ:「ええ、真っ当」
ロバート:「アイオワに来てよかったわけだ」
フランチェスカ:「うーん、そうね」
ロバート:「正直に、誰にも言いませんよ」
フランチェスカ:
「こう答えるべきね」
「後悔はないわ」
「静かな所で人々は皆、親切」
「大体はその通りよ」
「静かなところで皆いい人たち、普段はね」
「病気とケガとか困っていると近所の人が来て、コーンや麦の収穫を手伝ってくれる」
「車はロックせず、子供を自由に遊ばせても、危険はない」
「本当にいい人たちよ」
「そのことはすばらしいと思うわ」
「でも...」
ロバート:「でも?」
フランチェスカ:「わたしが少女の頃描いていた夢とは違うの」
ロバート:
「この間、こんなことを、車を走らせてて時々書き留めるんです」
「昔の夢はよい夢」
「叶わなかったがいい思い出」
二人は顔を見合わせます。
ロバートは照れくさそうにして、
ロバート:
「何となくいい文句に思えてね」
「とにかく気持ちは分かります」
フランチェスカ:
「夕食をいかが?」
「町にはろくなものがないし、独りで食べるのよ」
「私も独り」
ロバート:
「そうだな、喜んで」
「家庭料理は久しぶりです」
フランチェスカは井戸水で体を洗うロバートの体をこっそり見ます。
フランチェスカは主婦から女性になってきているんですね。
フランチェスカは自分に言い聞かせます。
フランチェスカ:「気は確か?」
それでも、徐々にロバートに引かれていくんですね。
フランチェスカは楽しそうにイヤリングを付けました。
9.二人の夕食
ロバート:「手伝いましょうか?」
フランチェスカ:「手伝う? 料理を?」
ロバート:「男だってできる」
フランチェスカ:「いいわ」
座って黙々と食べるフランチェスカの家族と対照的に描かれてますね。
ロバートは近づき、手を伸ばしてフランチェスカの向こう側の食材を取るんです。
ロバートは独り身だからか、それを取ってくれと言わず、自分で取るような癖がついているのでしょうか
フランチェスカはロバートを意識してしまいます。
ロバートは車のビールを取りにドアを開け、優しく締めます。
フランチェスカ:「いい人...」
とつぶやきます。
夕食になり、ロバートの旅の話で二人は盛り上がりました。
フランチェスカ:
「今までで一番面白かった所は?」
「それとも、もう話し疲れた?」
ロバート:
「あなたは世間知らずだな」
「男は自慢話が大好きなんですよ」
フランチェスカは”世間知らず”という言葉に敏感に反応しました。
フランチェスカは田舎ぐらしで何も知らないことにコンプレックスを持っています。
フランチェスカの表情を見たロバートは、
ロバート:「すみません、バカなことを言ったかな?」
フランチェスカ:「ど田舎の主婦が相手では退屈じゃないかと」
ロバート:
「ど田舎? あなたの家ですよ」
「退屈だなんて」
ロバートは夜の散歩にフランチェスカを誘います。
ロバート:
「いい所だな」
「今までに行った一番いい所です」
「”月の金のリンゴ、太陽の金のリンゴ”」
フランチェスカ:
「イェーツね」
「”さまよえるアンガスの歌”」
ロバート:
「いい詩人です」
「リアリズム、無駄の無さ、官能性、美、魔力」
「僕のアイルランドの血に合う」
フランチェスカ:
「うちで何か飲みませんか?」
「コーヒーかブランデー」
フランチェスカは外に出たことで、急に罪悪感が芽生えました。
ロバート:
「フランチェスカ、大丈夫?」
「フランチェスカ、悪いことはしていない」
「お子さんにも話せる」
フランチェスカ:「そうね」
そう言って、ロバートのグラスを受け取り、乾杯しました。
10.子供たちの反応
マイケル:
「母さんを酔わせたんだ」
「無理やり犯されたんだ」
キャロリン:
「やめて、違うわ」
「素敵な人だわ」
マイケル:「すてき? 人妻を誘惑して?」
キャロリン:
「人妻を誘惑したからって悪人では」
「例えば、うちのスティーヴ」
「女に弱くて、いつも嘘ばかり」
「でもいい人間よ」
「夫としては落第」
マイケル:「そんなひどい目に?」
キャロリン:「いいのよ、別れないわたしが悪いんだから」
マイケル:「別れれば?」
キャロリンは母の気持ちが少し分かるんですね。
11.夜明けの語らい
フランチェスカ:
「質問してもいい?」
「なぜ離婚を?」
ロバート:
「僕は旅ばかり」
「なら、なぜ結婚したか?」
「戻る所が欲しかったんです」
「旅ばかりだと自分を見失う」
「ところが、僕は旅をしてる方が自分を見いだせた」
「世界中が僕の家」
フランチェスカ:「寂しくならない?」
ロバート:
「寂しさは感じません」
「世界中に友達がいていつでも訪ねられる」
フランチェスカ:「女のお友達も?」
ロバート:「僕だって僧侶じゃありません」
フランチェスカ:「でも、誰もいらない?」
ロバート:
「すべての人をほしいんです」
「人間が好きだ、皆に会いたい」
フランチェスカ:
「アイオワでは会うのはいつも同じ人ばかり」
「だからディレーニーさんとルーシーの不倫で町中大騒ぎ」
ロバート:
「よくわかります」
「こういう考え方のせいです」
「これは僕のもの、彼女は僕のものと手で囲ってしまう」
フランチェスカ:「独りぼっちが怖くない?」
ロバート:
「いいえ、全然」
「僕にも謎です」
フランチェスカ:「後悔はない?」
ロバート:「後悔?」
フランチェスカ:「離婚したことよ」
ロバート:「いいえ」
フランチェスカ:「家族がいなくても?」
ロバート:「それを選ぶ人間もいます」
フランチェスカ:
「自分の好きに生きるわけ?」
「他人はどうなるの?」
ロバート:「人間は好きです」
フランチェスカ:「特定の関係は避ける」
ロバート:「愛は同じです」
フランチェスカ:「違うわ」
ロバート:
「違うかもしれないが、悪いことじゃない」
「道を外れてもいません」
フランチェスカ:「誰もそんなこと...」
ロバート:
「アメリカ人の頭は家族礼賛の倫理に惑わされているんです」
「僕のような男にはそういうレッテル”家庭の幸せを知らず、世界をさまよう哀れなやつ”」
フランチェスカ:
「惑わされて家庭を持ったと言うの?」
「アフリカを知らなくても自分で人生を生きてるのよ」
フランチェスカは自分の人生を重ね合わせます。
ロバート:「離婚もできる?」
フランチェスカ:「まさか、何を言うの?」
ロバート:「すみません、言い過ぎました」
ここではお互いのアイデンティティを守っているんですね。
どちらも一歩も引けません。
フランチェスカ:「なぜそんな質問を?」
ロバート:「質問し合ってた流れでつい...」
フランチェスカ:
「私はただ話をしていたのに」
「何も分かってない単純な女だというような質問を」
ロバート:
「悪かった、謝ります」
「では、夜明けの橋を」
「失礼します」
フランチェスカ:「ごめんなさい」
ロバート:
「謝るのは僕です」
「あんな質問を...バカでした」
フランチェスカ:「せっかくの夜を」
ロバート:
「いいえ、楽しい夜でした」
「最高の夜です」
「あの散歩」
「それに楽しい話とブランデー」
「あなたはいい人だ」
「ブランデーはまた役に立ちますよ」
「もう一つ、フランチェスカ、あなたは単純じゃない」
ロバートはフランチェスカの生き方を尊重していたんですね。
芯を持った強い女性であることを。
そして、ロバートは出ていきます。
彼を追いたい時に夫リチャードから電話がかかってきました。
話もうわの空でロバートの方を見てを見送っていました。
一晩中話をして、夜が明けようとしていました。
12.もう一度会いたい!
眠れないフランチェスカはイェーツの詩を読みました。
また琴線に触れるような音楽が流れ、彼女は自分の首筋を触り、着ているローブを解き、夜風に体を涼ませます。
私はまだ、女として大丈夫かしらと考えているかのようです。
すごく哀愁が漂った、フランチェスカのかわいいシーンです。
夜明け前の綺麗な空が見える書斎でフランチェスカはメモを書きます。
それはロバートへの誘いのレターでした。
イェーツの詩に乗せて書いています。
フランチェスカのメモ:
「白い蛾が羽を広げる頃、また夕食にどうぞ」
「お仕事が終わった後、何時でも構いません」
そして車をローズマン橋まで走らせ、メモを橋に残します。
夜明け前、黄色い犬が並走する美しいシーンです。
フランチェスカが朝の畑仕事から帰ると、電話がなっていました。
ロバートからだと思ったフランチェスカは急いでトラクターから飛び降り、走って電話を取りました。
フランチェスカの電話の声:「ジョンソンです」
ロバートの電話の声:
「ロバート・キンケイドです」
「メモをありがとう」
「イェーツの詩も」
「読まずに先に撮影してしまいました」
「光を逃したくなくて」
「喜んで伺いますが、遅くなりそうです」
「ホリウェル橋を撮りたいので」
「9時すぎかな」
フランチェスカの電話の声:
「いいわよ、お仕事が第一ですもの」
「何か作っておくわ」
ロバートの電話の声:「それとも一緒にどうです?」
フランチェスカの電話の声:
「いいわ、橋の所までうちの車で行くわ」
「いい?」
「何時に?」
ロバートの電話の声:「6時は?」
フランチェスカの電話の声:「いいわ」
ロバートの電話の声:「それじゃ...」
フランチェスカはとても上機嫌になり、貯金箱のお金を取り、町に買い物に行きます。
そして、素敵なドレスを買いました。
ルーシーという女性の不倫が街中の噂になっています。
ロバートが食事をしているレストランにルーシーがやって来ます。
周りの客も店員も皆、不倫のことを知っているんですね。
白い目で彼女を見ます。
ロバートはルーシーに隣の席を譲ってあげます。
店員の態度も何しに来たかのように振る舞います。
カフェの店員:「それで、ご注文は?」
ルーシー:「いいえ、気が変わったので...」
ルーシーは店を出ました。
周りの態度にルーシーは悲しみ、車の中で一人泣きます。
田舎らしい、厳格な倫理観。排他的なところです。
そういう現場を見たロバートは、フランチェスカに連絡します。
もし、迷惑がかかるなら夕食はキャンセルしてもいいと言います。
フランチェスカはそれでも会いたいと言います。
ロバートの電話の声:
「変に取られると困るが、会うのはマズくない?」
「町でルーシーって人を見かけてね」
フランチェスカの電話の声:「聞いたのね」
ロバートの電話の声:「雑貨屋のおやじさんからね」
フランチェスカの電話の声:「彼は町の放送局よ」
ロバートの電話の声:
「僕の結婚よりその不倫に詳しくなった」
「君がマズいと思うなら、今夜は取り消そう」
「僕はそういう判断が下手でね」
「君を困った立場に置きたくない」
フランチェスカの電話の声:
「よく分かるわ」
「お気遣いありがとう」
「ロバート、でも会いたいわ」
「とにかく橋の所で会って、あとはなりゆきで」
「私は平気よ」
ロバートの電話の声:「分かった、じゃあ橋で」
PART2へつづく
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