地理総合の研究 付2018年センター地理AB本試・追試解説 

「地理講義」の続き。「地理総合」に「2018年センター試験地理AB本試・追試の問題と解答解説」を追加。

15. 日本の酪農 地理総合

2019-01-28 18:52:50 | 地理講義

日本の酪農は政府からの手厚い保護を受け、規模拡大によるコストダウンをめざしてきた。牛乳の価格は乳業会社と牛乳生産者組合との交渉によって決まるが、実際には政府が価格交渉に介入し、結果的には酪農農家を保護している。そのため、国際価格と比較すると、牛乳価格は高い。
乳業メーカーが酪農農家から買い取る価格は、全国的にはばらつきがあるが、ほぼ次の価格である(いずれも1kg当たり)。
生乳用117円、バター用74円、チーズ用68円、生クリーム用91円

経営規模拡大
15,700戸の酪農農家が平均84頭の乳牛を飼育している。

平均の50頭前後が健全経営である。1haの放牧地で1頭を飼育し、生乳出荷量が年300トン、年収は1,500万円である。生産費用は生乳1kg当たり45円である。
500頭程度の大規模酪農農家では搾乳機1台3,000万円×10台、輸入穀物1頭年3.5トン(乳代の4割)、コンクリート床など、10億円の経費が必要である。半分は国などからの補助金だが、返さなくてはならないカネである。借金だらけの経営であり、経営規模の拡大が経営にプラスになるとは限らない。補助金は加工用原料乳、牛舎の機械設備、乳牛の買い増し、後継者への支援、牛の健康診断、放牧地の整備、飼料用とうもろこしの栽培、農産物加工設備、負債の借り換えなど、あらゆる支出に付く。規模を拡大する限りは、借金つまり補助金によって経営を維持できる。

大規模経営は北海道
北海道の農地開発は大規模な畑作・稲作を中心に進められたが、やせ地で冷涼な気候のため、十分な成果を得られなかった。生乳を本州に輸送ができるようになってから、酪農が盛んになった。北海道からは本州各地へフェリーや牛乳運搬専用船を利用して、生乳が運ばれる。6,000の酪農農家が、80万頭の乳牛を飼育する。1農家100頭を越し、赤字の不健全経営農家が少なくない。
放牧地を観光牧場とする大規模農家は、バター・チーズの製造販売にも手を広げている。

関東・東山(山梨・長野・岐阜)は、東京・名古屋の巨大市場をねらった酪農である。1戸当たり50頭程度の健全経営である。

経営規模の拡大
健全経営である50頭前後の酪農農家が減り、補助金つまり借金経営による100頭以上の大規模酪農農家が増加した。政府方針に沿う規模拡大や法人化によるコストダウンをめざしたものである。


放牧実施割合
北海道では乳牛の放牧地を所有する農家が59%である。他の地域では所有農地が少ないために放牧地は少ない。
法人化した大規模酪農農家では観光牧場としているものが多い。生乳の生産からバター・チーズ・ヨーグルトの加工販売まで手がける。6次産業化で利益を出すことをめざしている。 




搾乳の問題
ほぼ1日2回、牛乳を搾らなくては、乳牛は生命を失ってしまう。飼育頭数が多いと、毎日朝夕2回の搾乳に搾乳機を導入しなくてはならない。100頭までのつなぎ畜舎であれば、1頭ずつ搾乳機を用いる。天井にはしぼった牛乳をタンクまで送るパイプラインが走っているので、パイプライン方式といわれる。
100頭を越えると、10頭~30頭をまとめて搾乳するミルキングパーラー方式になる。これは搾乳用台に乳牛を並べて一斉に搾乳するものである。搾乳室、機械室、牛乳処理室、乳牛待機室などの施設設備の多額の費用を要する。飼育頭数を増やすと、ミルキングパーラー方式が必須だが、そのための資金を補助金つまり借金でまかなわなくてはならない。
観光牧場の形で経営しても、観光客は季節変動が大きく、なかなか大きな利益を得られず、借金を完済するのは難しい。

 


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