内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/02/03

2022-02-03 08:43:18 | 日記
Cushing 病の治療についての総説
J Intern Med 2019; 286: 526-541

Cushing 病治療の第一選択は経蝶骨下垂体手術(transphenoidal pituitary surgery: TSS) であるが、術者の技量と経験によるところが大きい。熟練した脳外科医が TSS を行った場合、長径 1 cm 未満の微小腺腫の場合で最大 90%、長径 1 cm を越える大きな腺腫では最大 65%で寛解に至る。

手術で寛解に至らなかった場合、あるいは再発した場合は2度目の下垂体手術を検討しても良い。下垂体手術の代わりにトルコ鞍への放射線照射あるいは両側の副腎摘出も根治療法となり得る。

薬物療法は現在では多くの患者で補助的治療として行われる。特に放射線療法では一般的に効果発現までのつなぎとして薬物療法が行われる。薬物療法はステロイド合成阻害薬、ACTH 産生細胞に作用する薬剤、そして糖質コルチコイド受容体拮抗薬に大別される。いくつかの新規薬剤について臨床試験が行われている。


1. Cushing 病

Cushing 病(Cushing disease: CD) は adrenocorticotropin (ACTH) を自律的に産生する下垂体腫瘍によって起こる副腎皮質機能亢進症である。一般的には良性の腺腫だが稀に悪性腫瘍が原因となることもある。

CD は内因性の Cushing 症候群の原因の7割を占める。他の原因として、副腎腫瘍および副腎過形成が 2割、異所性 ACTH 症候群が 1割を占める。

Cushing 病の罹患率は 0.12-0.18/10万/年である。さまざまな合併症を来たし、死亡率を上昇させる。主な死因は心血管疾患と感染症である。内分泌学的寛解に至った場合は、一般に予後が良いので正しく診断し、適切に治療を行うことが重要である。

現時点では、熟練した脳外科医による経蝶骨下垂体手術が治療の第一選択である。第二、第三選択肢としては、薬物治療併用の下垂体放射線照射または両側副腎摘出がある。


2. 下垂体手術

下垂体手術はほとんど全ての Cushing 病患者の治療の第一選択である。例外となるのは、中断できない抗凝固療法など手術そのものが難しい患者か、手術を拒否している患者である。活動性の下垂体炎がある場合やステロイド精神病のために速やかに手術を行うことが難しい場合は薬物療法を先行させて、待機的に手術を行うこともある。

Harvey Cushing は当初、CD に対して経蝶骨アプローチで手術を行っていたが、後に技術的な困難に気づいて頭頭術を行うようになった。その後、画像検査や手術の機器の進歩があり、TSS の安全性が高まったため、現在では経蝶骨下垂体手術が CD に対する標準的術式となった。

CD の原因となる腺腫の9割は長径 10 mm に満たない微小腺腫であり、MRI で検出できるのは 6割以下である。そのため、術前に腺腫を認めない場合は脳外科医は細心の注意を払って腺腫を探し、術中病理検査で確定する作業を行わなければならない。したがって、CD の手術成績は術者の経験と技術に依るところが大きい。熟練した脳神経外科医が手術した場合、微小腺腫の場合で最大90%、大きな腺腫で最大65%で術後に内分泌学的寛解が得られる。他に内分泌学的寛解を予測する因子としては、術前に腺腫が同定できていること、病理検査で腺腫の診断が確定していることが挙げられる。

熟練した脳神経外科医が手術した場合、手術に関連した死亡はほとんどなく、合併症も少ない。合併症としては、鼻血(0.4-6%)、トルコ鞍内出血(1-6%)、脳脊髄液漏出(8%以下)、髄膜炎(3%以下)、静脈血栓症(4%以下)がある。内分泌学的な合併症としては、一過性または永続性の尿崩症(3-9%)、低ナトリウム血症(10-25%、多くの場合は SIADH による)、下垂体前葉機能低下症(2-40%) がある。

術後に内分泌学的寛解に至った場合は、糖質コルチコイド補充を少なくとも数ヵ月は続ける必要がある。患者によっては、急激な糖質コルチコイドの低下による相対的副腎皮質機能低下を防ぐために生理量よりも多い糖質コルチコイド補充が必要になるかもしれない。

視床下部-下垂体-副腎の機能が正常化し、糖質コルチコイドの補充が不要になった後は、生涯に渡って定期的に CD 再発の検索を行う必要がある。大きな腺腫と糖質コルチコイド補充が必要な期間が短い(12ヶ月未満)ことはCD 再発の危険因子である。また、術直後の早朝コルチゾールが低値ではなく、「正常」であることも CD 再発の危険因子である。

TSS で寛解に至らなかった場合、あるいは再発した場合は再度 TSS を検討する。2度目の TSS では、55-70% で寛解が得られるが、合併症の頻度は 1度目の TSS よりも高くなる。再手術以外の治療選択肢としては、薬物療法併用放射線治療または両側副腎摘出術がある。


3. 放射線治療

放射線治療は TSS による治療が失敗した場合か、患者が TSS を拒否する場合に検討する。

通常分割電子放射線療法(conventional fractioned photon based radiotherapy) は週5日、5-6週間行い、総線量は45-54 Gy になる。

近年、放射線療法は従来の通常分割放射線療法から定位照射療法 (photon based: ガンマナイフ、線形加速器によるサイバーナイフ、photon beam) に置き換わりつつある。

定位照射では病変に線量を集中させることができる一方で、正常組織への照射を最小限に抑えることができる。

後ろ向きの観察研究では、定位照射は通常分割照射に比較してより早く内分泌学的寛解に至らせる可能性が示唆されている。いずれの照射法であっても 83-100%で腫瘍をコントロールできるが、内分泌学的寛解が得られるのは 28-84%であり、寛解が得られるまでに最長で数年かかる。そのため放射線治療の効果が発現するまでは薬物治療を併用する必要がある。放射線治療を開始する前に薬物治療で高コルチゾール血症をコントロールできることを確認するべきである。

放射線治療の副作用としては下垂体前葉機能低下症があり、放射線治療から 5年後の時点で 20-60%、15年後の時点で最大 85%で認める。他に視神経炎が 1-2%、その他の脳神経機能障害が 1%の頻度で起こる。稀な合併症としては、新規の脳腫瘍(髄膜腫、肉腫)、脳梗塞、側頭葉壊死があり、いずれも通常放射線療法後に報告されている。定位照射の方が稀な合併症を来しにくいと考えられるが、今後の検証が必要である。


4. 薬物療法

クッシング病に対する薬物療法は補助的なものである。薬物療法は主に TSS が失敗し、放射線治療を行う場合の補助治療として行われる。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/joim.12975