内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/02/16

2022-02-16 07:49:11 | 日記
巨細胞性動脈炎の総説
Mo Med 2018; 115: 468-470

巨細胞性動脈炎 ( giant cell arteritis: GCA, 以前は側頭動脈炎と呼ばれていた ) は太い血管に起こる血管炎のうちで最も多い。ほとんどの場合で大動脈とその分枝に炎症を来たし、50歳以上で発症する。動脈炎は動脈の狭窄・閉塞・動脈瘤を来し、失明や四肢の酸素欠乏、脳梗塞の原因となり得る。

GCA は緊急性のある疾患であり、疑った場合は速やかに診断し、治療を開始する必要がある。

古典的な症状としては、頭痛、頭部の圧痛、視力低下、筋強直および筋痛がある。

治療の第一選択はステロイドだが、メトトレキサートを併用するとステロイドの量が減らせるかもしれない。トシリズマブは再発率を有意に低下させ、ステロイドの総投与量を減少させることが示されている。

1. 疫学

GCA は典型的には 50 歳以上で発症し、発症時の平均年齢は 70 歳である。女性は男性の 2.5 倍多く、生涯有病率は女性で 1%、男性で 0.5%である。北ヨーロッパで多く、罹患率は 20/10万・年である。南ヨーロッパでは罹患率はずっと低く、アフリカやアジアでは稀である。

ゲノムワイド関連解析 ( genome wide association study: GWAS ) で GCA との関連が認められたのは特定の HLA 遺伝子と、PTPN22、LRRC32、IL17A、IL33 である。ほとんどの遺伝子は血管内皮の機能、自然免疫系、サイトカインまたはサイトカイン受容体に関わる遺伝子である。

2. 臨床所見

GCA の急性の経過で発症することが多く、頭痛、頭部の圧痛、顎跛行が特徴的だが、全身倦怠感、体重減少、食思不振や微熱などの全身症状をしばしば認める。80-90% の患者では外頚動脈の障害に起因する症状、すなわち頭痛、頭部の圧痛、顎跛行、視力低下を認める。

頭痛は 70-80% で認め、片側性の場合も両側性の場合もあり得る。典型的には側頭部の激しい頭痛であり、鋭い、焼きつくような痛みと表現されることが多い。頭部の圧痛はふつう、頭痛に数週間先行する。頭痛と頭部の圧痛は視力低下に先行する傾向がある。視力低下は 30%で認め、10-15%では視力は回復しない。このため、GCA は緊急疾患であるとされており、可及的速やかに高用量ステロイドまたはステロイドパルスで治療を開始する必要がある。

GCA の 50%以上はリウマチ性多発筋痛症を( polymyalgia rheumatic: PMR ) を合併する。PMR は典型的には四肢近位部の筋痛と朝のこわばりを呈する。GCA の 40% で初期症状として顎跛行を認めるが、舌跛行は稀である。側頭動脈の圧痛や膨瘤を認めることがある。大動脈弓症候群や上下肢の跛行は一般的ではないが、大腿動脈や上腕動脈に病変が及ぶことはある。不明熱や体重減少の原因となることは稀だが、超高齢者ではあり得る。

血液検査では、赤血球沈降速度や CRP が高値となり、貧血を認めることが多い。

GCA の患者では同年齢の GCA ではない人と比較して心筋梗塞のリスクが 4 倍高い。脳梗塞のリスクは 2.5倍高く、動脈瘤や大動脈解離のリスクも 2.5 倍高い。

3. 病態生理

病態生理はよく分かっていないが、HLA-DR4-01 が GCA と関連するので、抗原選択と提示の異常が GCA の病態生理に関与するのかもしれない。

大動脈の外膜組織の樹状細胞は T 細胞を活性化させ、T 細胞をインターフェロンγ を産生する Th1、IL-17 を産生する Th17、IL-21 を産生する Th21 に分化させる。興味深いことにGCA では Th1 とインターフェロンγ が一貫して高値だが、いずれもステロイド治療では低下しない。一方、Th17 と IL-17 はステロイドに反応して低下するので、GCA の病態生理に関与しているのは Th17 なのかもしれない。

4. 診断

GCA は急性の経過で出現した激しい頭痛を契機に診断されることが多い。血液検査では、赤血球沈降速度と CRP を提出する。赤血球沈降速度は通常、50 mm 以上に上昇している。貧血と肝酵素の軽度上昇を認めることもある。

側頭動脈の生検がゴールドスタンダードの検査だが、GCA の 30%で陰性になる。生検はステロイド治療開始から 2週間以内に行った方が良い。病変は不均一に存在することが多いので、生検では大きく組織採取するように勧められている。病理所見では、断裂した内弾性板の近傍に巨細胞肉芽腫を認める。多核の細胞を認めることは診断に必須ではない。病変は動脈の外膜、中膜、内膜の三層に及ぶ。

MRI/MR アンギオグラフィーは動脈壁の浮腫が及んでいる範囲を確認するのに、非常に有用である。超音波は側頭動脈の病変を評価するのに利用できるが術者の技量によるところが大きい。CT アンギオグラフィーは大動脈の病変の検索には大変有用だが、解像度が高くないので細い動脈の評価には向かない。FDG-PET は大動脈の病変の評価に優れ、感度・再現性ともに優れるが、高価であり、脳動脈の評価には向かない。

5. 治療

第一選択はステロイド治療である。ステロイド治療への反応は早く、不可逆的な視力低下のリスクを低下させることができるからである。一般的には、最初の 1 ヶ月は 40-60 mg/day を投与し、その後は 1 週間から 1 ヶ月に 10% 以下の割合で減量していく。失明が差し迫っている場合のステロイドパルスの効果ははっきりしない。ステロイド以外の薬剤の治療効果も小規模な症例報告や臨床試験で検討されたが、現在までのところトシリズマブだけが再発率を低下させ、ステロイド投与量を減らす効果が認められており、GCA の治療薬として FDA に承認されている。

GCA に対するメトトレキサートの治療効果については 3 つの臨床試験で検討されたが、再発予防効果とステロイド投与量の削減効果については一貫した結果は得られなかった。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6205276/

2022/02/15

2022-02-15 07:44:46 | 日記
POEMS 症候群の総説。
Am J Hematol 2019; 94: 812-827

Polyneuropathy Organomegaly Endocrinopathy M-protein Skin changes syndrome (POEMS syndrome) は形質細胞腫瘍の傍腫瘍症候群である。

POEMS 症候群の診断基準

大項目: 多発根神経炎、単クローン性形質細胞異常、骨硬化性病変、血管内皮細胞増殖因子( vascular endothelial growth factor: VEGF ) 高値、キャッスルマン症候群
小項目: 臓器腫大、内分泌異常、特徴的な皮膚の異常、乳頭浮腫、血管外の体液貯留、血小板増多症

多発神経根症と単クローン性形質細胞異常を含む大項目3つと小項目1つ以上で診断する。

稀な疾患であり、しばしば慢性炎症性脱髄性多発根神経炎( chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy: CIDP ) と誤診されている。

2003年に日本で行われた調査によれば、有病率は 10万人あたり 0.3人である。

VEGF の値は疾患活動性と相関する。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ajh.25495

2022/02/14

2022-02-14 19:02:32 | 日記
非侵襲的換気の総説
Eur Respir Rev 2018; 28: 180029

非侵襲的換気 (noninvasive ventilation) とは侵襲的な人工的な気道 (挿管、気管切開) をともなわない機械換気のことを指す。非侵襲的換気には陽圧換気と陰圧換気とがある。前者は気道に陽圧をかけて直接肺を膨らませるのに対し、後者は腹部または胸郭に体外から陰圧をかけることで上気道から肺に空気を引き込む。前者の非侵襲的陽圧換気 (noninvasive positive-pressure ventilation: NPPV) は最近 20年間で急性呼吸不全患者の呼吸管理に広く用いられるようになった。

多くの科学的エビデンスに基づいて、NPPV は現在、1. 呼吸性アシドーシスを呈する慢性閉塞性肺疾患 (chronic obstructive pulmonary disease: COPD) 患者、2. 肺水腫の患者、3. 免疫不全患者の重度の低酸素血症、4. 慢性換気障害患者の侵襲的機械換気 (invasive mechanical ventilation: IMV) からの離脱に対する換気療法として第一選択となっている。

NPPV の IMV に対する利点としては、1. 上気道を損傷するリスクが低い、2. 患者の不快感が少ない、3. 人工呼吸器関連肺炎 (ventilator-associated pneumonia: VAP) のリスクが低い、5. 飲食や会話が可能であり、吸入や喀痰、リハビリテーションの際に換気を一時中断できることが挙げられる。

しかし、1. 心肺停止、2. 過度の興奮状態、3. 血行動態が不安定、4. 高 CO2 血症以外の原因で昏睡している、5. 多臓器不全は NPPV の絶対禁忌であり、速やかに挿管するべきである。

呼吸不全の増悪を防ぐために、急性呼吸不全の兆候、特に高 CO2 血症を認めたらできるだけ早期に開始するべきである。

臨床医は NPPV を開始する際に、その目的を認識する必要がある。すなわち、下記のいずれの目的で NPPV を使用しているのかを認識し、治療のゴールと失敗をあらかじめ想定しておくことが重要である。

1. 急性呼吸不全が差し迫っている状況で、呼吸不全を回避するため、2. すでに呼吸不全で気道確保は必要だが自発呼吸は保たれている状況で、呼吸不全の増悪を回避するため、3. IMV からの離脱目的、4. 終末期の呼吸器疾患患者またはがん患者で挿管は行わない (do not intubate: DNI) または蘇生を行わない (do not resuscitate: DNR) 方針で姑息的に NPPV を使用するため。

マスクが装着できない、分泌物 (痰や唾液) が管理できない、NPPV 開始後もガス交換の改善がない、あるいは神経障害がある場合には、NPPV によって挿管や死亡を回避することは困難になる。特に一般病棟で NPPV を使用する場合は、NPPV が失敗した場合にどうするかを明確に決めておく必要がある。

1. COPD の急性増悪

COPD は頻度の高い呼吸障害で、可逆的ではない閉塞性障害で呼吸困難、咳、痰などの呼吸器症状をともなうものである。

COPD では、換気血流不均衡、動的肺過膨張、末梢気道抵抗の上昇、呼吸筋の疲労を認める。COPD の急性増悪では、CO2 が貯留 (PaCO2 45 mmHg 以上) し、呼吸性アシドーシス (pH 7.35 未満) を認める。

COPD の急性増悪においては、 NPPV は肺胞でのガス交換を支持し、換気血流不均衡を是正し、呼吸筋の負担を軽減させる効果が期待できる。

NPPV の COPD の急性増悪に対する適応は、標準的治療を行っても PaCO2 45 mmHg 以上の CO2 貯留があり、pH 7.25-7.35 のアシデミアがある場合には強く推奨される。この条件で標準治療に NPPV を追加すると、死亡率、挿管の必要性、そして入院期間を低下させることが示されている。

一方、CO2 貯留はあるがアシデミアをともなわない COPD の急性増悪に対しては NPPV は使用するべきではない。

2. 喘息発作

喘息は可逆的な閉塞性障害である。喘息発作は COPD と同様に高 CO2 血症を認めるが、閉塞障害の程度はさまざまである。閉塞障害が高度の場合、動的肺過膨張のために呼気終末陽圧 (positive end-expiratory pressure: PEEP) への反応性が COPD の急性増悪よりも悪いこともある。

そのため喘息発作に対して NPPV を行う場合は動的肺過膨張となるような不適切な 1回換気量や呼吸数、呼気時間の設定にならないように注意するべきである。また、NPPV を行っていてもガス交換や呼吸性アシドーシスが悪化する、循環動態が不安定になる、あるいは意識状態が悪化する場合は直ちに挿管するべきである。

そのような状況に追い込まれた場合、患者はすでに消耗しており安全に挿管できる余地は少ない。言い換えれば、喘息発作では COPD の急性増悪よりも安全に NPPV を行える時期が限られている。そのため、喘息発作に対する NPPV の使用が死亡、挿管の回避、入院期間に与える効果については一貫した結果が得られていない。

3. 神経・筋疾患

神経・変性疾患ではさまざまな疾患が含まれるが、いずれも呼吸筋(主に横隔膜、他に肋間筋および呼吸補助筋) が障害されれば呼吸不全を来たし得る。機能的には拘束性障害のパターンで努力肺活量と総肺気量が低下する。また、呼気筋力が低下すると痰の喀出が難しくなる。無症候の患者でも夜間の低換気を認めることがある。

近年、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの慢性呼吸不全や重症筋無力症やギランバレー症候群の急性呼吸不全に対して、気道クリアランスに NPPV を併用することが治療選択肢となっている。後者は急速に呼吸不全が進行し、しばしば挿管が必要になる。

球麻痺をともなわない神経筋疾患患者の慢性および急性呼吸不全に対して NPPV は広く使用されているが、倫理的にランダム化比較試験を行うのは難しく、文献上はエビデンスに乏しい。

4. 気管支拡張症

NPPV は嚢胞性線維症 (cystic fibrosis: CF) の慢性器および急性増悪において、肺胞でのガス交換を改善し、呼吸筋への負担を軽減する効果があるとされている。しかし、CF に対する NPPV の使用については明確な開始基準がない。神経筋疾患と同様に高 CO2 血症を認める場合は NPPV を開始した方が良いだろう。

CF に対する NPPV の効果については一貫した結果が得られているが、CF 以外の気管支拡張症についてはほとんど検討されていない。

5. 肺水腫

肺水腫に対する NPPV の効果については古くは 1980年代終わりの持続的陽圧換気 (continuous positive airway pressure: CPAP) の効果を検討した研究から始まり、30年以上検討されている。

陽圧換気は静脈還流量を低下させ、左室および右室の前負荷を軽減する効果と、肺胞の虚脱を防ぎ、酸素化を改善する効果とがあり、循環器系および呼吸器系の双方に良い効果をもたらす。

心原性肺水腫に対する NPPV (二相性陽圧換気 Bilevel positive airway pressure: BiPAP, CPAP) は死亡率および挿管のリスクを減らすことが示されている。

BiPAP と CPAP ではどちらが優れるかについては分かっていない。BiPAP では吸気もサポートされるが、うまく合わせられないと吸気時の負担が増える。低酸素血症をともなう急性呼吸不全で CPAP/NPPV が使用できない場合の high-flow nasal cannula: HFNC の使用についてはエビデンスが蓄積しつつあり、選択肢のひとつとなっている。

エビデンスの確かさは低いが、NPPV を行っているグループでは心筋梗塞のリスクが高いという報告がある。急性冠症候群が心原性ショックの患者に対する NPPV の使用については推奨するに十分なエビデンスがない。

6. 免疫不全患者の急性呼吸不全

VAP を回避できる利点から免疫不全患者の急性呼吸不全に対する NPPV の適応は支持される。欧州呼吸器学会 European Respiratory Society: ERS/米国胸部学界 American Thoracic Society: ATS のガイドラインによると、免疫不全患者の急性呼吸不全に対して標準治療に BiPAP または CPAP を追加した場合、挿管および死亡のリスクを低減させることが示されている。

近年、HFNC のエビデンスも蓄積されつつあり、最近発表されたメタ分析では、集中治療室に入室している免疫不全患者においては HFNC は NPPV と比較して、短期的な死亡率と挿管のリスクが低いことが示された。

7. 手術後の呼吸不全

手術後には麻酔、術後の疼痛、横隔膜の機能障害など複合的な要因により低酸素血症を来たし得る。ガイドラインでは、手術後で抜管した後に急性呼吸不全に至った場合は NPPV の使用を推奨している。この場合、術後の合併症を評価した上で CPAP または BiPAP で換気をサポートすると、腹部、胸部、心臓血管の手術後の患者について再挿管、院内感染、死亡、合併症のリスクを低下させ、入院期間を短縮する効果があることが示されている。

腎移植術後に急性呼吸不全に至った患者に対し、NPPV と HFNC の効果を比較した後ろ向き観察研究では、死亡率と集中治療室の入室期間については両者でほぼ互角だった。今後、手術後の急性呼吸不全患者に対する NPPV と HFNC の効果を比較するランダム化比較試験が必要だろう。

8. 胸部外傷

胸部外傷にともなう低酸素血症に対する NPPV の使用は、酸素投与および IMV と比較して、死亡、挿管、院内肺炎のリスクを減らし、集中治療室の入室期間を短縮する効果があることが示されている。

9. IMV から自発呼吸への移行

IMV の期間を短縮することは肺炎や気道損傷などの機械換気ともなう合併症のリスク低下に関連する。IMV からの離脱と抜管を予測する指標はいくつかあるが、どれが優れているかは分かっていない。

最も簡便な指標は頻呼吸指数 (rapid shallow breathing test index: RSBTI) である。これは呼吸数 (respiratory frequency) を 1 回換気量 (tidal volume) で除したものである。Yang と Tobin ら (1991) は RSBTI 105 回/分/L 以上で IMV 離脱を感度 97%、特異度 64%、陽性的中率 78%、陰性的中率 95%で予測できることを報告した。これについては、後にシステマティックレビューで確認されている。

自発呼吸トライアル (spontaneous breathing trial: SBT) は現在、抜管できるかどうかを評価するための指標として最も広く用いられている。これは自発呼吸があるかどうかを確認するために、一時的に(30-60分間)人工呼吸器のプレッシャーサポートを徐々に下げていくという試験である。場合によっては補助換気へ切り替えることも試みられる。

1998年に Nava らは 1度抜管に失敗した IMV の患者を、抜管して NPPV につないだ 25名と、再挿管した 25名に割り付けしたランダム化試験の結果を報告した。それによると NPPV につないだ群では、IMV 離脱までの期間と集中治療室に入室している期間が短縮し、VAP と死亡のリスクが低下した。

2013年のコクランレビューで 16件の臨床試験 (被験者は 900名超) の結果をまとめた結果、IMV からの離脱目的に NPPV を使用すると、特に COPD の患者で死亡、VAP、離脱失敗のリスクが低下し、集中治療室の入室期間が短縮すると結論した。

10. NPPV 失敗の原因

NPPV が奏効するかどうかは呼吸不全の原因に依るところが大きい。もともと慢性的な呼吸障害がある高 CO2 血症をともなう呼吸不全(COPD、胸郭変形、神経筋疾患、慢性心不全など)では NPPV が奏効しやすいのに対し、もともと呼吸障害がない急性発症の低酸素血症 (急性呼吸窮迫症候群など) では NPPV に反応しないことが多い。

重度のアシデミア (pH 7.25 未満) 、新規発症の高度な低酸素血症 (PaO2/FIO2 200 mmHg) 、頻呼吸 (呼吸数 25 回/分超) および肺以外の臓器不全ありは NPPV 失敗の予測因子である。

専門医でも 5-60% の頻度で NPPV による呼吸管理に失敗しており、失敗と関連する因子としては急性呼吸不全のタイプと重症度、医療チームの熟練度が挙げられる。

NPPV の失敗を即座に判断することは、IMV への切り替えのタイミングを逸しないために極めて重要である。

11. NPPV 失敗の原因

NPPV が奏効するかどうかは呼吸不全の原因に依るところが大きい。もともと慢性的な呼吸障害がある高 CO2 血症をともなう呼吸不全(COPD、胸郭変形、神経筋疾患、慢性心不全など)では NPPV が奏効しやすいのに対し、もともと呼吸障害がない急性発症の低酸素血症 (急性呼吸窮迫症候群など) では NPPV に反応しないことが多い。

重度のアシデミア (pH 7.25 未満) 、新規発症の高度な低酸素血症 (PaO2/FIO2 200 mmHg) 、頻呼吸 (呼吸数 25 回/分超) および肺以外の臓器不全ありは NPPV 失敗の予測因子である。

専門医でも 5-60% の頻度で NPPV による呼吸管理に失敗しており、失敗と関連する因子としては急性呼吸不全のタイプと重症度、医療チームの熟練度が挙げられる。

NPPV の失敗を即座に判断することは、IMV への切り替えのタイミングを逸しないために極めて重要である。

NPPV 失敗は、NPPV 開始直後であれば、痰詰まり、CO2 ナルコーシス、ファイティングが原因となる。1-48時間の早期であれば、NPPV の設定に問題があって十分に換気ができていない、呼吸回数が早すぎて呼吸疲労している、呼吸不全自体の悪化が原因となる。最初はよく換気できていたのに 48時間以上経ってからうまくいかなくなる場合は、睡眠障害や重篤な合併症が起こっている可能性がある。

NPPV 失敗の予防

NPPV が失敗する要因として多いのは、痰詰まりである。特に意識レベルが低下している場合や咳嗽反射が低下している場合は痰詰まりのリスクが高い。球麻痺をともなわない神経筋疾患患者の急性呼吸不全に対して NPPV に喀痰補助装置 (in-exsufflator リンク参照) や排痰手技 (ブレススタッキング breath stacking technique) を組み合わせると挿管を回避できるかもしれない。

COPD および気管支拡張症の急性増悪に対しては高頻度胸壁振動法 (high frequency chest wall oscillation) や肺内パーカッションベンチレーター (intrapulmonary percussive ventilator: IMV) は痰の可動性を改善させるかもしれない。ふたつの臨床研究で喀痰が困難な COPD 患者で NPPV の使用前または使用中に IMV を併用すると挿管のリスクが低下するかもしれないと報告されている。

気管支鏡も NPPV 失敗のリスクが高い患者における痰詰まり予防の選択肢のひとつである。1件の症例多少研究では、気管支鏡で痰の吸引をしながら NPPV で呼吸管理するのは、気管支鏡を行った後に IMV に切り替えるのと比べて、安全に実行できて、感染症の管理については優れる可能性があると報告された。

神経学的異常は NPPV 失敗の大きな要因である。脳症があると、誤嚥のリスクが高くなり、患者の協力が得られにくくなるので、理論的には NPPV は禁忌とされる。しかし、これは特に高 CO2 血症による脳症の場合は正しくない。この場合は、熟練した医療チームが注意しながら NPPV で換気をサポートした場合には IMV よりも安全にかつ速やかに意識状態を改善させることができる。

著しい興奮状態にあると NPPV を続けるのは難しくなる。特に高齢者では、NPPV 使用中にしばしばせん妄のために不穏になる。軽度の興奮状態にある患者に対して、高度な看護体制の下で、熟練した医療チームが低用量の鎮静薬 (オピオイド、プロポフォール、α2-アゴニスト)を使用することは選択肢のひとつである。ただし、過鎮静のリスクと IMV への切り替えの必要性については念頭に置いておかなければならない。

血中半減期が短いレミフェンタニルや呼吸抑制作用が少ないデキスメデトミジン (商品名: プレセデックス) などの新薬も NPPV 使用時の鎮静に利用できるかもしれない。

NPPV を長期間使用する場合はインターフェイスによる皮膚障害のリスクを低減させるために異なるタイプのインターフェイスをローテーションすることは検討しても良いかもしれない。

in-exsufflator
https://www.usa.philips.com/healthcare/product/HC0066000/coughassist-t70-mechanical-insufflator-exsufflator

元論文
https://err.ersjournals.com/content/27/149/180029

2022/02/13

2022-02-13 08:15:43 | 日記
急性心不全についての総説
Nat Rev Dis Primers 2020; 6: 16

急性心不全 ( acute heart failure: AHF ) は新規発症の心不全 ( de novo heart failure: de novo HF ) と慢性心不全の急性増悪 ( acutely decompensated heart failure: ADHF ) からなり、ほとんどの場合で全身の体液貯留を認める。ふつう、de novo HF でも ADHF でも 1つ以上の誘因を認めるが、心筋梗塞による de novo HF の場合は誘因がないことがある。

AHF は臨床所見は共通しているが病因も誘因も多様であり、病態生理は高度に不均一である。現在の AHF の治療はうっ血の解除に主眼を置いていて、病態生理への配慮は少ない。そのため、現在でも AHF は死亡率および再入院率が高い。病態生理に基づく個別的な急性期治療と退院後の慢性期治療の進歩が求められる。

1.疫学

HFrEF の慢性期治療は進歩したのに対し、AHF は現在でも予後不良である。米国を含む先進国では、AHF 患者は 30日以内に 24%、3ヶ月以内に 30%、半年以内に 50%が再入院する。合併症の管理が不十分であったり、心理社会的要因 (不安、うつ、認知機能低下、社会的孤立)があると、再入院のリスクは高くなる。

世界的に AHF の死亡率は入院中で最大 4%、退院後 60-90日以内で最大 10%、1年以内で 25-30%である。

心筋梗塞や感染症が誘因となった AHF は高血圧や心房細動が誘因となった AHF よりも死亡率が高い。心原性ショックをともなう AHF はともなわない場合よりも死亡率が 10 倍以上高い。

AHF の原因に占める虚血性心疾患の割合は欧米では 50%以上であるのに対し、アジア太平洋地域の先進国では、30-40%である。

2. 病態生理

左室拡張期末期圧が上昇すると心室壁応力が上昇し、心筋リモデリングが進行する。その結果、心収縮能の低下、弁閉鎖不全、全身のうっ血が起こる。壁応力が上昇すると、生理的な代償機構として心房や心室の心筋細胞から Na 利尿ペプチドが分泌される。Na 利尿ペプチドは血管拡張と利尿作用を持つ。さらに 多くの AHF の患者では、非虚血性の心筋障害・壊死を反映して高感度トロポニンが上昇する。

僧帽弁逆流と左房圧上昇が進むと、肺の毛細血管の静水圧が上昇し、肺の間質に血漿が漏出する。その結果、肺が拡張しにくくなり、呼吸困難が生じる。

静水圧と間質液の量との関係は単純ではなく、リンパ系が間質液の恒常性の維持に重要な働きをしていることが分かってきた。肺うっ血の初期にはリンパ管が大量の間質液を吸収する。しかし、リンパ管の排出能が限界に達すると胸膜外や肺胞内に間質液が溢れだし、胸水や肺水腫が生じる。実際、リンパ管形成因子である VEGF-D は心不全や腎不全における肺や全身のうっ血を緩和する効果があることが示されている。

中心静脈圧が上昇すると腎静脈圧、さらに腎間質の静水圧が上昇する。腎間質の静水圧が尿細管内の静水圧を越えると尿細管が虚脱し、糸球体ろ過量が減少する。さらに、腎静脈圧が上昇すると腎血流が低下し、腎への酸素の供給が低下する。他にも炎症や医原性 (造影剤、腎毒性のある薬剤) 、心拍出量の低下、腹腔内圧の上昇が腎機能低下の要因となり得る。

肝うっ血している患者では、しばしばアルカリフォスファターゼ、ビリルビン、γ-グルタミルトランスフェラーゼ (グルタチオンヒドロラーゼ 1 プロエンザイム) が上昇する。

心原性ショックなど重度の低灌流により低酸素性肝炎 (hypoxic hepatitis) を合併すると、小葉中心性壊死を来たしてトランスアミナーゼ (アラニンアミノトランスフェラーゼとアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ) が著明に上昇する。

腸管のうっ血により絨毛が虚血になると、腸管からの栄養吸収が障害され、腸内細菌叢も乱される。その結果、腸内のグラム陰性桿菌が産生するリポポリサッカライドが血流に流入し、全身性炎症反応を惹起する。

3. 診断

AHF の臨床像は LVEF とは関係がない。最も多い症状は労作時または安静時の呼吸困難、起坐呼吸、倦怠感である。身体所見としては、末梢の浮腫、頚静脈怒張、聴診で III 音を聴取 ( S3 ギャロップ ) が挙げられる。III 音は拡張早期の低音で、左室の急速充満が急に終了した時に発生する音だと考えられている。

末梢の皮膚が冷たく湿っている、乏尿、意識障害は心原性ショックを疑わせる所見である。

最初のトリアージで心原性ショック、呼吸不全、心筋梗塞、不整脈は除外する。一般的な 集中治療室または cardiac care unit ( CCU ) の入室基準は循環不全 (心拍数 40 /分未満または 130 /分以上、収縮期血圧 90 mmHg 未満または低灌流を示唆する所見あり)または呼吸不全 (呼吸数 25 /分以上、酸素投与下で SpO2 90%未満、努力呼吸、機械換気) があることである。

AHF の症状や身体所見は感度も特異度も低く、それだけでは診断も除外もできない。AHF が疑わしい患者では Na 利尿ペプチド (BNP, NT-proBNP, MR-pro ANP) を測定するべきである。Na 利尿ペプチドは AHF と CHF の鑑別には役立たないが、心不全に対する感度は高いので、症状や身体所見と組み合わせれば AHF の診断に有用である。

心臓超音波は de novo AHF については背景の心疾患についての情報を与えるかもしれない。ADHF については、新規の心イベントが疑われる場合に考慮する。心臓超音波で両心機能と弁膜症の有無、心タンポナーデの有無は分かる。

最初のトリアージでは AHF の背景にある心疾患と AHF の誘因、合併症も評価する。

虚血性心疾患については心電図と高感度トロポニンの ( くり返し ) 測定で除外する。不整脈については心電図と心電図モニターで波形を確認する。感染症については炎症マーカー ( CRP やプロカルシトニン) 、各種培養と画像検査で除外する。

4. 治療

利尿薬治療の実際については European Society of Cardiology の心不全委員会のコンセンサスステートメントに詳細に記述されている。

AHF では消化管のうっ血のために消化管からの吸収が低下しているので、利尿薬は経静脈的に投与する。ループ利尿薬は血中では 90%以上がアルブミンと結合しており、有機アニオントランスポーター ( organic anion tranporter: OAT ) を介して近位尿細管内に分泌される。そのため、低アルブミン血症が存在するとループ利尿薬の効果は減弱するし、腎血流が低下しているときには十分な効果を得るために用量を増やす必要がある。ループ利尿薬の効果のピークは投与後 1 時間以内で、投与後 6-8 時間で尿からの Na 排泄はベースラインに戻る。したがって、利尿効果を維持するためには 1 日に 3-4 回注射するか、持続注射するかしなくてはならない。

ループ利尿薬への反応性は、投与後数時間の尿量とスポット尿の尿 Na で評価できる。スポット尿の尿 Na による評価は尿量が低~中等量の場合に特に有用である。尿量が多い場合はだいたい尿の尿 Na は高いが、尿量が少ない場合は尿 Na が高い場合と低い場合がある。最近の研究では、尿量が少ない場合、尿 Na は尿量とは独立した予後予測因子であることが示されている。うっ血性心不全の患者でループ利尿薬投与から最初の 6 時間で尿量 100-150 mL/h 未満 and/or 投与後 2 時間で尿 Na 50-70 mmoL 未満は、ループ利尿薬への反応が不十分だと判断できる。

効果不十分であればループ利尿薬の用量を 2 倍に増やす。反応尿が得られたらそれ以上用量を増やしても追加の利尿効果は得られない。作用点が異なる利尿薬を追加する方が効果的である。利尿薬に全く反応しない場合は透析を検討する。

体液量が正常化したら利尿薬を内服薬に切り替え、体液量を維持できる最少量に減らす。体液量の評価は難しく、症状、身体所見、画像所見 (胸部 X 線写真、心臓超音波) 、バイオマーカーの組み合わせで総合的に評価する。

うっ血に対する治療と平行して AHF の背景疾患の治療も行う。たとえば、心筋梗塞に対する心筋再灌流や細菌感染症に対する適切な抗菌薬治療などである。初期評価で同定した合併症によっては特異的な薬物療法 (ex. アミロイドーシスに対する化学療法)、手術療法 (ex. 弁膜症)、補助循環法、心移植も検討する。

心不全の治療においては、多職種による心不全治療プログラムが治療へのアドヒアランス向上や心臓リハビリテーションの実施、適切なタイミングでのフォローアップに必要である。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7714436/

2022/02/12

2022-02-12 06:58:01 | 日記
2019年の ACC/AHA と ESC の心不全の診療ガイドラインの比較
J Am Coll Cardiol 2019; 73: 2756-2768

米国心臓病学会/米国心臓協会 (American Collage of Cardiology/American Heart Association: ACC/AHA) は 2013 年に (2016年と2017年に改訂)、欧州心臓学会 (European Society of Cardiology: ESC) は 2016 年に心不全の診療ガイドラインを発表している。

両ガイドラインとも駆出率が低下した心不全( heart failure reduced ejection fraction: HFrEF, LVEF 40%以下) と駆出率が保たれた心不全 (heart failure preserved ejection fraction: HFpEF, LVEF 50%以上) に分けて記載している。HFrEF については薬物および機器による治療の効果は多くの臨床試験によって裏付けられている。HFpEF の治療についてもいくつかの推奨があるもののエビデンスは弱い。HFpEF と急性心不全の治療についてのエビデンスが求められる。

1. 心不全の予防

心不全のリスク因子を管理することで心不全の発症を遅らせられるかもしれない。心不全の最大のリスク因子は高血圧であり、血圧の管理によって心不全の罹患率をおよそ 50% 低下させることが示されている。利尿薬、ACE 阻害薬、ARB、β ブロッカーはいずれも心不全の予防に効果があり、ACC/AHA, ESC のいずれの診療ガイドラインでも推奨されている。また冠動脈疾患の既往がある、あるいは高リスクの患者では積極的にスタチンを使用し、禁煙と節酒を勧めることを推奨している。肥満とインスリン抵抗性は心不全発症の重要なリスク因子である。ESC のガイドラインではエンパグリフロジンの死亡率および心不全入院の抑制効果について触れている。SGLT-2 阻害薬以外のクラスの糖尿病治療薬では心不全の予防効果を示したものはなく、ピオグリタゾンについては心不全を悪化させるデータがある。

2. HFrEF の治療

ACC/AHA のガイドラインでも ESC のガイドラインでも症候性あるいは体液貯留を認める心不全患者ではループ利尿薬の使用を推奨している。

ACE 阻害薬、MRA、β ブロッカーはいずれも心不全入院および死亡を減らすことが示されているので、禁忌でない限りは全ての HFrEF 患者に使用するべきである。いずれのガイドラインも ACE 阻害薬の代わりに ARB を使用することは可としている。

アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬 (angiotensin recepter-neprilysin inhibitors: ARNIs) の位置付けはガイドラインによって異なる。ACC/AHA のガイドラインでは、NYHA 分類 II/III の心不全患者で ACEI または ARB による治療で安定していた場合は ARNIs の使用は level I の推奨となっている。対して ESC のガイドラインでは、外来患者で ACE 阻害薬、MRA、β ブロッカーで治療しても症状が残る場合に ACE 阻害薬の代わりとして ARNIs を使用することを検討するとしている。

β ブロッカーは HFrEF 患者の心不全入院および死亡を減らすことが示されており、全ての安定している症候性の心不全患者 (NYHA 分類 II-IV) に推奨されている。β ブロッカーと ACE 阻害薬とは作用が相補的であり、HFrEF の診断が確定した時点で同時に開始しても良い。ACC/AHA のガイドラインでは β1 選択的な β ブロッカー (ビソプロロール、カルベジロール、メトプロロールサクシニル酸徐放製剤) の使用を勧めているが、 ESC のガイドラインでは特定の β ブロッカーの使用は推奨していない。

両ガイドラインともに、症候性 (NYHA 分類 II-IV) で LVEF 35% 未満の HFrEF 患者に対しては、合併症と死亡を減らすために、MRA (スピロノラクトン、エプレレノン) を ACEI (ACE 阻害薬に対して認容性がない場合は ARB) と β ブロッカーに追加することを推奨している。また、両ガイドラインは急性心筋梗塞後の患者で LVEF 40%未満の心不全を合併した場合、もしくは糖尿病を合併している場合は ACE 阻害薬、β ブロッカー、MRA の使用を勧めている。しかし、最近の研究では、心不全症状を認めていない LVEF が低下した心筋梗塞後の患者に上記薬剤を使用しても利益がないことが示されている。両ガイドラインともに腎不全患者 ( eGFR 30 mL/min/1.73 m2 未満または血清カリウム 5.0 mEq/L 以上) では MRA の使用は注意を要するとしている。

イバブラジンは洞房結節の過分極活性化陽イオン電流 (If) を選択的に阻害する新規薬剤で心拍数を低下させる作用を持つ。両ガイドラインともに、LVEF 35%未満の洞調律の心不全患者で、最大用量の β ブロッカーを使用しても心拍数 70 /分以上で心不全症状がある場合に検討するとしている。

3. 心臓植え込み型電気的デバイス

植え込み型除細動器 ( implantable cardioverter defibrillator: ICD) は心臓突然死から救命された人や持続性心室頻拍の患者の死亡率を低下させる効果がある。一時予防の効果のエビデンスは主に虚血性心疾患の患者のデータに基づく。両ガイドラインとも最適な薬物治療を 3ヶ月間続けても LVEF 35%以下である場合に突然死のリスクを低下させるために ICD を検討するとしている。両ガイドラインともに心筋梗塞後 40日以内では ICD を使用しないことを勧めている。この推奨はいくつかの臨床試験で早期の ICD 使用には利益がないことが示されていることに基づいている。

虚血性心疾患によらない心不全に対する ICD 適応については十分なエビデンスがない。非虚血性心疾患の心不全患者を対象に ICD の死亡率低減効果を検討した DEFINITE trial では死亡率を低下させる傾向を認めただけだった。DANISH trial では非虚血性心疾患の心不全患者における ICD の死亡率低減効果は認めず、68歳未満を対象にしたサブグループ解析で死亡率低下を認めただけだった。

心臓再同期療法 (cardiac resynchronization therapy: CRT) は洞調律で wide QRS (150 ms 以上) で左脚ブロックを認め、LVEF 35%未満の心不全患者が最も良い適応である。EchoCRT trial では、QRS 幅が 130 ms 以下の患者では CRT は有害だった。そのため、ESC のガイドラインでは QRS 幅が 130 ms に満たない場合は CRT を推奨しないとしている。心房細動の心不全患者に対する CRT の効果は分かっていない。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0735109719346996