■11月27日(日、262日目)
・日経web---『福島原発1号機の水素爆発、官邸と調整で公表遅れ 保安院幹部、事故調に証言』
『東京電力福島第1原子力発電所1号機が3月12日に水素爆発を起こす直前に、首相官邸から経済産業省原子力安全・保安院に対し、重要な発表は官邸と事前に調整するよう指示が出ていたことが関係者の話で明らかになった。水素爆発を含むその後の重要事項の公表遅れを招いた可能性がある。政府の事故調査・検証委員会も関心を寄せており、12月の中間報告に関連事実を盛り込む方向で調査を進めている。
事故調は調査の途中経過を29日に記者会見し、説明する。関係者によると、事故調に複数の保安院幹部が「官邸とのやり取りに時間を要した」と証言している。事故調は、菅直人前首相ら官邸側の聞き取りを終えてから、官邸への事前報告や調整が国民への情報提供の遅れにつながった可能性について最終的な事実認定を下す方針だ。
官邸や保安院の関係者によると、官邸の指示のきっかけは、保安院の審議官が「炉心溶融の可能性がある」と述べた12日午後2時の記者会見。審議官は会見前に保安院幹部と相談。保安院は重要事項を1時間以内に公表することになっており、早急に公表すべきだと判断した。
一方、菅前首相、枝野幸男前官房長官ら官邸側は、保安院の会見で初めて事態を把握。直ちに当時の首相秘書官らを通じ、保安院に「政府首脳がテレビで重要事項を知るのはおかしい」などと抗議。(1)会見前に官邸と内容を調整(2)重要事項は官房長官が先に公表――と指示した。当時の首相秘書官は「官邸では官房長官と保安院の会見が二元化し、国民が混乱する懸念があった」と説明する。
この指示直後、午後3時36分に1号機が水素爆発した。保安院の報告を受け「何らかの爆発的事象があった」と枝野前官房長官が会見で公表したのは2時間以上後の午後6時前だった。
炉心溶融に関する保安院の説明内容も変遷。「炉心溶融の可能性」を指摘した審議官は12日午後6時の会見を最後に交代し、12日夜に会見した前首席統括安全審査官は「現時点で承知していない」と説明。「燃料ペレットの溶融」との表現で保安院が炉心溶融を認めたのは4月18日だった。』
・日経web---『福島第1、深刻な事態予想せず 運転員の証言公表 』
『経済産業省原子力安全・保安院は25日、東京電力福島第1原子力発電所1号機の中央制御室で震災当日に作業していた運転員の証言を初めて公表した。保安院が事故調査の一環で独自に聴取した。「大津波警報の電話連絡を受けたが影響が出るような津波が来るとは認識していなかった」など、深刻な事態を予想していなかったことが改めて明らかになった。
保安院は20日に福島第1原発で聴取を実施、25日の専門家の意見聴取会で結果を公表した。地震直後は「通常の手順書の対応で事象を収束できると考えていた」「津波襲来後、中央制御室のランプ表示が次々に消えるなかで非常用復水器(IC)が機能しているかどうかわからなくなった」などの生々しい声が記録されている。
吉田昌郎所長らがいた本部とは「逐一、中央制御室のホットラインを通じて連絡していたが、具体的な内容は覚えていない」との証言もあった。「タービン建屋1階の原子炉側の通路でシューシューという音を聞いた」など、配管からの蒸気漏れを疑わせる内容もあった。保安院は今後も聴取を続け、事故原因の解明や対策に役立てる。』
■11月26日(土、261日目)
・読売online---『大震災後、11活断層帯の地震頻度10~70倍』
『東日本大震災後、東北地方から中部地方にかけた11の活断層周辺で、地震の発生頻度が10~70倍に増加したことが、東京大学地震研究所の分析でわかった。
過去には東日本大震災のような巨大地震の後、活断層周辺で大地震が起きた事例もあり、研究チームは「継続監視すべきだ」としている。千葉市で26日開かれた日本活断層学会で発表した。
研究チームは、全国約170の主要な断層帯について、断層から5キロ・メートル以内で起きたマグニチュード(M)1以上の地震の発生回数を、震災前1年間と震災後8か月で比較した。
活発化が特に目立つのは、震災前に比べ約70倍に増えた北伊豆断層帯(神奈川・静岡)や、同約66倍の境峠・神谷断層帯主部(長野)。東日本大震災による地殻変動で、地盤にかかる力が変化した影響とみられる。』
・asahi.com---『西日本でもセシウム検出 文科省、汚染地図作製へ』
『東京電力福島第一原発の事故で大気中に放出された放射性物質が日本全土に降り注いだことが、25日に発表された文部科学省の調査で裏づけられた。第一原発から約1700キロも離れた沖縄県を含む45都道府県でセシウムが観測された。半減期が2年と短いセシウム134が全地域で見つかっていることから、文科省は「第一原発事故からの降下物」と判断している。
事故前はほとんどの地域で検出されていなかった。しかし、微量でも西日本で見つかったことで、文科省は東日本で進めた土壌汚染マップ作製を西日本についても実施し、人体に影響ないレベルであることを確かめる方針も明らかにした。
今回の調査は容器にたまったちりを測定した4カ月分の積算値。宮城県、福島県は東日本大震災で計測器が壊れるなどで測れなかった。放射性セシウム134と137の積算値が最も高かったのは茨城県の1平方メートルあたり4万801ベクレル。山形県2万2570ベクレル、東京都1万7354ベクレルと続いた。茨城県で測定している現時点の放射線量は毎時0.14マイクロシーベルトほどで年間では約1ミリになる。
東京は放射能を帯びたちりが多く降ったが、別の調査では土壌のセシウムの蓄積量は比較的低い値が出ている。文科省は「東京は他県に比べて土壌が少ない一方で、沈着しにくい道路やコンクリートに落ちて風や雨で流されて拡散したためではないか」と説明する。
第一原発から離れた中国や九州地方では格段に少なく、積算値の最低は熊本県の0.378ベクレルだった。』
■11月25日(金、260日目)
・24日北海道浦河町で震度5弱の地震が発生。本日未明には広島で震度4。全国規模で地震が続く。
・先日東大地震研究所の講演を聞いた。色々な話しがあったが、首都圏直下地震の発生確率は今後30年で98%。東北大震災発生により10数%確率が上がったとのこと。
大きな余震しは今後数年間は注意する必要がある。スマトラでは本震の5年半後にM7.5の大規模な余震が発生している。
・時事通信---『「影響する津波来ない」=運転員、警報後も通常手順―保安院が聞き取り・福島第1』
『東京電力福島第1原発事故で、経済産業省原子力安全・保安院は25日、同原発1号機の運転員から事故当時の操作状況を聞き取った内容をまとめ、同日開かれた専門家からの意見聴取会に提出した。運転員は保安院に対し、「影響が出るような津波が来るとの認識はなかった」と説明。通常の手順に従い、原子炉を冷却する非常用復水器(IC)を操作したという。
保安院によると、1号機は3月11日の地震で自動停止。運転員はICで原子炉の減圧、冷却を始めた。しかし、温度が規定値より速く下がり過ぎたため、IC2系統のうち1系統だけを断続運転し、冷却速度を調整した。
地震後の大津波警報は1号機中央制御室にも伝えられたが、運転員は「連絡は覚えているが、到達予想時刻や予想高さは覚えていない。影響が出るような津波が来るとの認識はなかった」と説明。「通常の操作で収束できる」と考え、冷却を速めるような操作はしなかったという。』
・時事通信---『圧力容器にも窒素封入へ=水素濃度引き下げ-福島第1』
『東京電力福島第1原発事故で、東電は24日、圧力容器内にたまっているとみられる水素ガスの濃度を下げるため、1~3号機の同容器内に直接窒素を封入する計画を明らかにした。
これまで、圧力容器を覆う格納容器には窒素を入れていたが、10月28日に2号機の格納容器内の気体を抜き出して浄化する「格納容器ガス管理システム」を稼働させた後、最大2.9%の水素を検出。その後、水素濃度は低下したが、東電は、圧力容器内に残っていた水素がガス管理システムの稼働で格納容器側に漏れ出したとみており、圧力容器内に直接窒素を入れ、水素を追い出すことにした。』
・読売online---『冷えすぎても危険…原子炉温度上げる作業開始』
『東京電力は24日、福島第一原子力発電所1~3号機の原子炉への冷却水の注水量を減らし、圧力容器内の温度を上げる作業を始めたと発表した。
圧力容器には水素が存在していると考えられ、容器が冷えすぎると中の水蒸気が水になって乾燥し、水素に着火する危険が増すため。東電は同時に、中の水素を排出するため、圧力容器に窒素を注入する準備も始めた。
1号機の注水量を毎時0・5立方メートル(現在の注水量は毎時5・5立方メートル)、2、3号機は毎時1・5立方メートル(同毎時10立方メートル)ずつ減らす。現在、1~3号機の圧力容器底部の温度は70度未満に下がっているが、80度を上回るほどに上げて水蒸気量を確保する。窒素が注入でき次第、注水量を元に戻すという。』
■11月24日(木、259日目)
・未明、福島で震度4の地震が発生。宮城県岩沼市と石巻市、福島県いわき市、広野町、楢葉町、富岡町で震度4を記録。また地震が増えてきた感じがする。
・東京web---『ストロンチウム 都内3カ所で検出』
『東京・霞が関の経済産業省庁舎前(千代田区)など都内三カ所の路上に堆積していた泥から、微量の放射性ストロンチウムが検出されたことがわかった。福島第一原発から約二百五十キロとより遠い横浜市港北区のマンション屋上の泥などからも十月中旬に確認されている。ストロンチウムについて文部科学省は同原発から半径百キロ圏内でしか土壌調査しておらず、専門家などから調査範囲の拡大を求める声が上がっている。
調べたのは、港北区の自宅マンション屋上でストロンチウムを突き止めた教員男性(38)らの住民グループ。十月上旬、経産省前のほか、東京国際フォーラム前(千代田区)と都営地下鉄清澄白河駅前(江東区)にたまった土壌を採取し、横浜市鶴見区の民間検査機関・同位体研究所に測定を依頼した。
検査結果によると、ストロンチウムは一キログラムあたり最大が東京国際フォーラム前で五一ベクレルを検出。経産省前が四八ベクレル、清澄白河駅前は四四ベクレルだった。
一方、放射性セシウムについては経産省前の四万八〇〇〇ベクレルが最大。東京国際フォーラム前が二万九五五ベクレル、清澄白河駅前は一万九一二七ベクレル。これらは国や東京都が全く把握していないデータだ。
横浜市は男性の指摘を受け、十月中旬、市内三カ所からストロンチウムを検出し、福島第一の由来であると発表。市はストロンチウムの調査範囲を拡大するよう国に求めたが、文科省はまだ横浜の土壌の検査中という。
ストロンチウムの広範囲な汚染の一端を明らかにした男性は「国は食品のストロンチウムの規制値も示し、食品検査に結び付けてほしい」と話す。
国は現在、食品に含まれるセシウムの規制値を見直し作業中だ。暫定規制値ではストロンチウムが除外されている。
厚生労働省の担当者は「今の規制値でも、セシウムが検出されれば、ストロンチウムは10%を超えない割合で存在しているという前提でいる。来年四月までに新しい基準を示すが、ストロンチウムの具体的な数値を示すかも検討している」としている。』
■11月23日(水、258日目)
11/20の記事
・asahi.com---『福島第一セシウム、カムチャツカ沖の深海5千Mまで到達』
『東京電力福島第一原発から出た放射性セシウムが事故から約1カ月後に、2千キロ離れた深海5千メートル地点まで到達していたことが、海洋研究開発機構の観測でわかった。大気中のセシウムが海に落ち、プランクトンの死骸などに付着して沈んだようだ。20日、都内で開かれた報告会で発表された。
同機構は4月18~30日、福島から2千キロ離れたカムチャツカ半島沖と、1千キロ離れた小笠原列島沖の深海5千メートルで、プランクトンの死骸や砂などからなる1ミリ以下の粒子「マリンスノー」を採取して分析した。この結果、両地点でセシウムを検出した。セシウム137と134の比率などから、原発から出たものと判断された。濃度は解析中という。海洋中の放射性物質は、海流のほか、様々なルートで移動、拡散している実態が裏付けられた。』
■11月22日(火、257日目)
・共同通信---『福島市長、コメ全量買い上げを 基準値超で』
『福島市大波地区の農家のコメから国の暫定基準値を超える放射性セシウムが検出され、出荷停止になった問題で、同市の瀬戸孝則市長は21日、政府の原子力災害現地対策本部(同市)を訪れ、大波地区でことし収穫したコメを国が全量買い上げることを柱とする要望書を提出した。福島県によると、同地区の生産量は約142・6トン。
要望書は「農産物の検査態勢に不備があった」と指摘。買い上げのほか、福島市産米の風評被害に対する賠償や、福島市の農産物と農地を詳細に検査することなどを国に求めている。』
→先ずは東電が買い上げてはどうか。検査に不備があったとしても発端は東電なのだから。
■11月21日(月、256日目)
・共同通信---『3号機内部で1・6シーベルト 浄化装置接続場所近く』
『東京電力は20日、福島第1原発3号機の原子炉建屋1階で、毎時1・6シーベルトの高い放射線量を検出したと発表した。付近では16日にも毎時1・3シーベルトが検出されたと発表されている。
東電によると、検出したのは1階の北東部分で、格納容器の気体浄化装置の接続を予定している配管の近く。床の溝にたまった水が原因とみられ、放射性物質を含んだ蒸気が漏れて凝縮した可能性があるという。
高線量を計測したため、ロボットによる遠隔操作でふき取り作業を実施したが線量が下がらず、19日の計測で1・6シーベルトを検出した。このままでは人が近づくことは難しいが、東電は「線量を下げる方法を検討する」としている。』
・産経web---『食品中の放射性物質の新基準値 「乳児用食品」を新設へ 子供の被曝に配慮』
『食品に含まれる放射性物質の暫定基準値に代わる新たな基準値作りを進めている厚生労働省は、暫定基準値で5分類だった食品の分類を、新基準値では4分類とし、このうちの1つは、粉ミルクなどの「乳児用食品」とする方針を固めた。
「野菜類」「穀類」「肉・卵・魚・その他」としていた分類は「一般食品」で一本化、「牛乳・乳製品」は牛乳を独立させ、「飲料水」は現行のまま残す。いずれも24日に行われる厚労省の薬事・食品衛生審議会で提案される。
新分類の見直しにあたっては当初、暫定基準値より細かく分けることも検討。しかし、国民へのわかりやすさや、食生活の偏りを考えなくてもいいこと、海外の基準でも食品群を細かく分けていないことなどから「野菜類」「穀類」「肉・卵・魚・その他」の一本化案が浮上した。
一方、粉ミルクなど乳児しか摂取しない食品を「乳児用食品」として別基準を設け、子供の摂取量が多い牛乳も独立させるなど、被(ひ)曝(ばく)による影響を受けやすい子供に配慮。今後検討が進められる具体的な基準値の数値も、より厳しい値を設定する。「一般食品」も、食べ盛りの子供は日本人の平均摂取量より多く摂取することを念頭に、数値設定していくという。
乾燥で濃縮され、高い数値の放射性セシウムが検出される乾燥食品は、飲食する状態に戻したうえ「飲料水」や「一般食品」として判断する方向で検討を続けている。』
SAPIO2011年12月7日号より
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『福島原発事故調査した大前研一 天災ではなく人災と結論づける』
『福島第一原発はなぜ未曾有の大事故に至ったのか、その原因は徹底的に究明されなければならないが、政府・保安院の調査だけでは到底十分とはいえない。そこで元原子炉設計者でもある大前研一氏が、専門家らの協力のもと独自調査し、「福島第一原発事故から何を学ぶか」という中間報告をネットで公表した(報告書の内容はBBT〈ビジネス・ブレイク・スルー〉のサイト〈http://pr.bbt757.com/2011/1028.html〉やYouTubeで全面公開している)。報告書のポイントを大前研一氏が解説する。
調査をした結果わかったことは、政府が説明していること、今やろうとしていることには真実のかけらもない、ということだ。
たとえば福島第一原発1号機は、東日本大震災が発生した3月11日の午後6時46分頃、すでにメルトダウン(炉心溶融)が始まり、翌12日の午後3時36分に水素爆発が起きている。水素爆発はメルトダウンしないと起きるわけがないのだが、政府がメルトダウンを認めたのは、それから2か月後のことである。
原子力安全・保安院が実施しているコンピュータ・シミュレーションによるストレステスト(耐性検査)も、電力会社に指示している安全対策も完全にポイントがずれている。なぜなら、そもそも政府は福島第一原発の事故原因を間違えているからだ。政府がIAEAに提出した報告書は、今回の事故原因について「津波の発生頻度や高さの想定が不十分であり、大規模な津波の襲来に対する対応が十分なされていなかったためにもたらされた」としている。つまり、想定外の大津波が来たから起きた、と言っているのだ。
しかし、事故を起こした福島第一原発1~4号機と同じ大津波に襲われながら、福島第一原発5、6号機、福島第二原発、女川原発、東海第二原発は事故にならなかった。ということは、大津波は事故のきっかけにすぎず、メルトダウンに至った直接の原因は他にあることになる。
そこで我々は、福島第一原発1~4号機と他の原子炉ではどのような違いがあったのかという視点から調査・分析を行なった。すると両者の間には、全電源を喪失したか否かすなわち原子炉に冷却用の水を送り込むポンプを動かすための非常用発電機が1台でも生き残ったか否かの違いしかなかったのである。
たとえば福島第一原発5・6号機の場合、1~4号機と同様に地震で変電所が壊れて外部交流電源を喪失したが、幸運にも6号機の非常用ディーゼル発電機が1台だけ動いたおかげで5号機にも電力を融通して冷却を行ない、2機とも冷温停止まで持っていくことができた。
その発電機だけが生き残った理由は「空冷式」で、しかも水没しない高所に置いてあったからだ。設計当初はなかったものだが、数年前に保安院から非常用発電機の増設を命じられ、たまたま水冷式よりコストが安い空冷式を選択した。空冷式は冷却水を取り入れる必要がないから高所に置いた。そんな偶然が重なって5、6号機が命拾いをしたのである。
一方、1~4号機は非常用ディーゼル発電機がすべてタービン建屋の地下1階に設置されていたため水没し、冷却用の海水を汲み上げるポンプも常用電源のポンプと同じく海側に並んでいたため津波によって壊滅した。外部電源を取り込むための電源盤も水没し、電源車を接続することができなかった。
直流電源(バッテリー)も1、2、4号機は地下にあったので水没した。3号機はたまたまスペースがなくて中2階に置いてあったことが幸いして生き残ったが、充電を取り込む所が水没したため8時間しかもたなかった。
ちなみに、福島第二原発と女川原発は外部交流電源が1回線のみ健全で、東海第二原発は外部交流電源をすべて喪失したものの非常用ディーゼル発電機が健全だったため、いずれも“首の皮1枚”で事故を免れた。
ということは、非常用電源の冷却用ポンプが常用電源の冷却ポンプの隣に並んでいる「設計思想」そのものがおかしいのではないか、という疑問が出てきた。“たまたま設計時になかった設備”が、生き残った原子炉ではカギとなっていたからだ。そこで原子力安全委員会の「設計指針」を読み直してみたら、なんと、こんなことが書いてあった。
「長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧または非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない」
「非常用交流電源設備の信頼度が、系統構成または運用(常に稼働状態にしておくことなど)により、十分に高い場合においては、設計上、全交流動力電源喪失を想定しなくてもよい」
私は、開いた口がふさがらなかった。これが、実は直接の事故原因だったのである。つまり、交流電源が全部喪失する事態は想定しなくてよいと設計指針に書いてあるから、東電も日立も東芝も、そのとおりに原発を造ったのだ。
ところが今回は、すべての交流電源が長期間にわたって喪失した。このためECCS(緊急炉心冷却装置)やホウ酸水注入系など原子炉で想定される最悪事故に備えた安全装置が1つも機能しなかった。だから原子炉や使用済み燃料プールを冷却することができなくなってメルトダウンと水素爆発が起き、放射性物質が飛び散ってしまったのである。
つまり、福島第一原発事故は大地震・大津波による「天災」ではなく、誤った設計思想による「人災」だったのだ。なぜ原子力安全委員会がこんなバカげた文章を入れたのかわからないが、その担当者を明確にして、きちんと責任を取ってもらわねばならない。
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・日経web---『福島原発1号機の水素爆発、官邸と調整で公表遅れ 保安院幹部、事故調に証言』
『東京電力福島第1原子力発電所1号機が3月12日に水素爆発を起こす直前に、首相官邸から経済産業省原子力安全・保安院に対し、重要な発表は官邸と事前に調整するよう指示が出ていたことが関係者の話で明らかになった。水素爆発を含むその後の重要事項の公表遅れを招いた可能性がある。政府の事故調査・検証委員会も関心を寄せており、12月の中間報告に関連事実を盛り込む方向で調査を進めている。
事故調は調査の途中経過を29日に記者会見し、説明する。関係者によると、事故調に複数の保安院幹部が「官邸とのやり取りに時間を要した」と証言している。事故調は、菅直人前首相ら官邸側の聞き取りを終えてから、官邸への事前報告や調整が国民への情報提供の遅れにつながった可能性について最終的な事実認定を下す方針だ。
官邸や保安院の関係者によると、官邸の指示のきっかけは、保安院の審議官が「炉心溶融の可能性がある」と述べた12日午後2時の記者会見。審議官は会見前に保安院幹部と相談。保安院は重要事項を1時間以内に公表することになっており、早急に公表すべきだと判断した。
一方、菅前首相、枝野幸男前官房長官ら官邸側は、保安院の会見で初めて事態を把握。直ちに当時の首相秘書官らを通じ、保安院に「政府首脳がテレビで重要事項を知るのはおかしい」などと抗議。(1)会見前に官邸と内容を調整(2)重要事項は官房長官が先に公表――と指示した。当時の首相秘書官は「官邸では官房長官と保安院の会見が二元化し、国民が混乱する懸念があった」と説明する。
この指示直後、午後3時36分に1号機が水素爆発した。保安院の報告を受け「何らかの爆発的事象があった」と枝野前官房長官が会見で公表したのは2時間以上後の午後6時前だった。
炉心溶融に関する保安院の説明内容も変遷。「炉心溶融の可能性」を指摘した審議官は12日午後6時の会見を最後に交代し、12日夜に会見した前首席統括安全審査官は「現時点で承知していない」と説明。「燃料ペレットの溶融」との表現で保安院が炉心溶融を認めたのは4月18日だった。』
・日経web---『福島第1、深刻な事態予想せず 運転員の証言公表 』
『経済産業省原子力安全・保安院は25日、東京電力福島第1原子力発電所1号機の中央制御室で震災当日に作業していた運転員の証言を初めて公表した。保安院が事故調査の一環で独自に聴取した。「大津波警報の電話連絡を受けたが影響が出るような津波が来るとは認識していなかった」など、深刻な事態を予想していなかったことが改めて明らかになった。
保安院は20日に福島第1原発で聴取を実施、25日の専門家の意見聴取会で結果を公表した。地震直後は「通常の手順書の対応で事象を収束できると考えていた」「津波襲来後、中央制御室のランプ表示が次々に消えるなかで非常用復水器(IC)が機能しているかどうかわからなくなった」などの生々しい声が記録されている。
吉田昌郎所長らがいた本部とは「逐一、中央制御室のホットラインを通じて連絡していたが、具体的な内容は覚えていない」との証言もあった。「タービン建屋1階の原子炉側の通路でシューシューという音を聞いた」など、配管からの蒸気漏れを疑わせる内容もあった。保安院は今後も聴取を続け、事故原因の解明や対策に役立てる。』
■11月26日(土、261日目)
・読売online---『大震災後、11活断層帯の地震頻度10~70倍』
『東日本大震災後、東北地方から中部地方にかけた11の活断層周辺で、地震の発生頻度が10~70倍に増加したことが、東京大学地震研究所の分析でわかった。
過去には東日本大震災のような巨大地震の後、活断層周辺で大地震が起きた事例もあり、研究チームは「継続監視すべきだ」としている。千葉市で26日開かれた日本活断層学会で発表した。
研究チームは、全国約170の主要な断層帯について、断層から5キロ・メートル以内で起きたマグニチュード(M)1以上の地震の発生回数を、震災前1年間と震災後8か月で比較した。
活発化が特に目立つのは、震災前に比べ約70倍に増えた北伊豆断層帯(神奈川・静岡)や、同約66倍の境峠・神谷断層帯主部(長野)。東日本大震災による地殻変動で、地盤にかかる力が変化した影響とみられる。』
・asahi.com---『西日本でもセシウム検出 文科省、汚染地図作製へ』
『東京電力福島第一原発の事故で大気中に放出された放射性物質が日本全土に降り注いだことが、25日に発表された文部科学省の調査で裏づけられた。第一原発から約1700キロも離れた沖縄県を含む45都道府県でセシウムが観測された。半減期が2年と短いセシウム134が全地域で見つかっていることから、文科省は「第一原発事故からの降下物」と判断している。
事故前はほとんどの地域で検出されていなかった。しかし、微量でも西日本で見つかったことで、文科省は東日本で進めた土壌汚染マップ作製を西日本についても実施し、人体に影響ないレベルであることを確かめる方針も明らかにした。
今回の調査は容器にたまったちりを測定した4カ月分の積算値。宮城県、福島県は東日本大震災で計測器が壊れるなどで測れなかった。放射性セシウム134と137の積算値が最も高かったのは茨城県の1平方メートルあたり4万801ベクレル。山形県2万2570ベクレル、東京都1万7354ベクレルと続いた。茨城県で測定している現時点の放射線量は毎時0.14マイクロシーベルトほどで年間では約1ミリになる。
東京は放射能を帯びたちりが多く降ったが、別の調査では土壌のセシウムの蓄積量は比較的低い値が出ている。文科省は「東京は他県に比べて土壌が少ない一方で、沈着しにくい道路やコンクリートに落ちて風や雨で流されて拡散したためではないか」と説明する。
第一原発から離れた中国や九州地方では格段に少なく、積算値の最低は熊本県の0.378ベクレルだった。』
■11月25日(金、260日目)
・24日北海道浦河町で震度5弱の地震が発生。本日未明には広島で震度4。全国規模で地震が続く。
・先日東大地震研究所の講演を聞いた。色々な話しがあったが、首都圏直下地震の発生確率は今後30年で98%。東北大震災発生により10数%確率が上がったとのこと。
大きな余震しは今後数年間は注意する必要がある。スマトラでは本震の5年半後にM7.5の大規模な余震が発生している。
・時事通信---『「影響する津波来ない」=運転員、警報後も通常手順―保安院が聞き取り・福島第1』
『東京電力福島第1原発事故で、経済産業省原子力安全・保安院は25日、同原発1号機の運転員から事故当時の操作状況を聞き取った内容をまとめ、同日開かれた専門家からの意見聴取会に提出した。運転員は保安院に対し、「影響が出るような津波が来るとの認識はなかった」と説明。通常の手順に従い、原子炉を冷却する非常用復水器(IC)を操作したという。
保安院によると、1号機は3月11日の地震で自動停止。運転員はICで原子炉の減圧、冷却を始めた。しかし、温度が規定値より速く下がり過ぎたため、IC2系統のうち1系統だけを断続運転し、冷却速度を調整した。
地震後の大津波警報は1号機中央制御室にも伝えられたが、運転員は「連絡は覚えているが、到達予想時刻や予想高さは覚えていない。影響が出るような津波が来るとの認識はなかった」と説明。「通常の操作で収束できる」と考え、冷却を速めるような操作はしなかったという。』
・時事通信---『圧力容器にも窒素封入へ=水素濃度引き下げ-福島第1』
『東京電力福島第1原発事故で、東電は24日、圧力容器内にたまっているとみられる水素ガスの濃度を下げるため、1~3号機の同容器内に直接窒素を封入する計画を明らかにした。
これまで、圧力容器を覆う格納容器には窒素を入れていたが、10月28日に2号機の格納容器内の気体を抜き出して浄化する「格納容器ガス管理システム」を稼働させた後、最大2.9%の水素を検出。その後、水素濃度は低下したが、東電は、圧力容器内に残っていた水素がガス管理システムの稼働で格納容器側に漏れ出したとみており、圧力容器内に直接窒素を入れ、水素を追い出すことにした。』
・読売online---『冷えすぎても危険…原子炉温度上げる作業開始』
『東京電力は24日、福島第一原子力発電所1~3号機の原子炉への冷却水の注水量を減らし、圧力容器内の温度を上げる作業を始めたと発表した。
圧力容器には水素が存在していると考えられ、容器が冷えすぎると中の水蒸気が水になって乾燥し、水素に着火する危険が増すため。東電は同時に、中の水素を排出するため、圧力容器に窒素を注入する準備も始めた。
1号機の注水量を毎時0・5立方メートル(現在の注水量は毎時5・5立方メートル)、2、3号機は毎時1・5立方メートル(同毎時10立方メートル)ずつ減らす。現在、1~3号機の圧力容器底部の温度は70度未満に下がっているが、80度を上回るほどに上げて水蒸気量を確保する。窒素が注入でき次第、注水量を元に戻すという。』
■11月24日(木、259日目)
・未明、福島で震度4の地震が発生。宮城県岩沼市と石巻市、福島県いわき市、広野町、楢葉町、富岡町で震度4を記録。また地震が増えてきた感じがする。
・東京web---『ストロンチウム 都内3カ所で検出』
『東京・霞が関の経済産業省庁舎前(千代田区)など都内三カ所の路上に堆積していた泥から、微量の放射性ストロンチウムが検出されたことがわかった。福島第一原発から約二百五十キロとより遠い横浜市港北区のマンション屋上の泥などからも十月中旬に確認されている。ストロンチウムについて文部科学省は同原発から半径百キロ圏内でしか土壌調査しておらず、専門家などから調査範囲の拡大を求める声が上がっている。
調べたのは、港北区の自宅マンション屋上でストロンチウムを突き止めた教員男性(38)らの住民グループ。十月上旬、経産省前のほか、東京国際フォーラム前(千代田区)と都営地下鉄清澄白河駅前(江東区)にたまった土壌を採取し、横浜市鶴見区の民間検査機関・同位体研究所に測定を依頼した。
検査結果によると、ストロンチウムは一キログラムあたり最大が東京国際フォーラム前で五一ベクレルを検出。経産省前が四八ベクレル、清澄白河駅前は四四ベクレルだった。
一方、放射性セシウムについては経産省前の四万八〇〇〇ベクレルが最大。東京国際フォーラム前が二万九五五ベクレル、清澄白河駅前は一万九一二七ベクレル。これらは国や東京都が全く把握していないデータだ。
横浜市は男性の指摘を受け、十月中旬、市内三カ所からストロンチウムを検出し、福島第一の由来であると発表。市はストロンチウムの調査範囲を拡大するよう国に求めたが、文科省はまだ横浜の土壌の検査中という。
ストロンチウムの広範囲な汚染の一端を明らかにした男性は「国は食品のストロンチウムの規制値も示し、食品検査に結び付けてほしい」と話す。
国は現在、食品に含まれるセシウムの規制値を見直し作業中だ。暫定規制値ではストロンチウムが除外されている。
厚生労働省の担当者は「今の規制値でも、セシウムが検出されれば、ストロンチウムは10%を超えない割合で存在しているという前提でいる。来年四月までに新しい基準を示すが、ストロンチウムの具体的な数値を示すかも検討している」としている。』
■11月23日(水、258日目)
11/20の記事
・asahi.com---『福島第一セシウム、カムチャツカ沖の深海5千Mまで到達』
『東京電力福島第一原発から出た放射性セシウムが事故から約1カ月後に、2千キロ離れた深海5千メートル地点まで到達していたことが、海洋研究開発機構の観測でわかった。大気中のセシウムが海に落ち、プランクトンの死骸などに付着して沈んだようだ。20日、都内で開かれた報告会で発表された。
同機構は4月18~30日、福島から2千キロ離れたカムチャツカ半島沖と、1千キロ離れた小笠原列島沖の深海5千メートルで、プランクトンの死骸や砂などからなる1ミリ以下の粒子「マリンスノー」を採取して分析した。この結果、両地点でセシウムを検出した。セシウム137と134の比率などから、原発から出たものと判断された。濃度は解析中という。海洋中の放射性物質は、海流のほか、様々なルートで移動、拡散している実態が裏付けられた。』
■11月22日(火、257日目)
・共同通信---『福島市長、コメ全量買い上げを 基準値超で』
『福島市大波地区の農家のコメから国の暫定基準値を超える放射性セシウムが検出され、出荷停止になった問題で、同市の瀬戸孝則市長は21日、政府の原子力災害現地対策本部(同市)を訪れ、大波地区でことし収穫したコメを国が全量買い上げることを柱とする要望書を提出した。福島県によると、同地区の生産量は約142・6トン。
要望書は「農産物の検査態勢に不備があった」と指摘。買い上げのほか、福島市産米の風評被害に対する賠償や、福島市の農産物と農地を詳細に検査することなどを国に求めている。』
→先ずは東電が買い上げてはどうか。検査に不備があったとしても発端は東電なのだから。
■11月21日(月、256日目)
・共同通信---『3号機内部で1・6シーベルト 浄化装置接続場所近く』
『東京電力は20日、福島第1原発3号機の原子炉建屋1階で、毎時1・6シーベルトの高い放射線量を検出したと発表した。付近では16日にも毎時1・3シーベルトが検出されたと発表されている。
東電によると、検出したのは1階の北東部分で、格納容器の気体浄化装置の接続を予定している配管の近く。床の溝にたまった水が原因とみられ、放射性物質を含んだ蒸気が漏れて凝縮した可能性があるという。
高線量を計測したため、ロボットによる遠隔操作でふき取り作業を実施したが線量が下がらず、19日の計測で1・6シーベルトを検出した。このままでは人が近づくことは難しいが、東電は「線量を下げる方法を検討する」としている。』
・産経web---『食品中の放射性物質の新基準値 「乳児用食品」を新設へ 子供の被曝に配慮』
『食品に含まれる放射性物質の暫定基準値に代わる新たな基準値作りを進めている厚生労働省は、暫定基準値で5分類だった食品の分類を、新基準値では4分類とし、このうちの1つは、粉ミルクなどの「乳児用食品」とする方針を固めた。
「野菜類」「穀類」「肉・卵・魚・その他」としていた分類は「一般食品」で一本化、「牛乳・乳製品」は牛乳を独立させ、「飲料水」は現行のまま残す。いずれも24日に行われる厚労省の薬事・食品衛生審議会で提案される。
新分類の見直しにあたっては当初、暫定基準値より細かく分けることも検討。しかし、国民へのわかりやすさや、食生活の偏りを考えなくてもいいこと、海外の基準でも食品群を細かく分けていないことなどから「野菜類」「穀類」「肉・卵・魚・その他」の一本化案が浮上した。
一方、粉ミルクなど乳児しか摂取しない食品を「乳児用食品」として別基準を設け、子供の摂取量が多い牛乳も独立させるなど、被(ひ)曝(ばく)による影響を受けやすい子供に配慮。今後検討が進められる具体的な基準値の数値も、より厳しい値を設定する。「一般食品」も、食べ盛りの子供は日本人の平均摂取量より多く摂取することを念頭に、数値設定していくという。
乾燥で濃縮され、高い数値の放射性セシウムが検出される乾燥食品は、飲食する状態に戻したうえ「飲料水」や「一般食品」として判断する方向で検討を続けている。』
SAPIO2011年12月7日号より
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『福島原発事故調査した大前研一 天災ではなく人災と結論づける』
『福島第一原発はなぜ未曾有の大事故に至ったのか、その原因は徹底的に究明されなければならないが、政府・保安院の調査だけでは到底十分とはいえない。そこで元原子炉設計者でもある大前研一氏が、専門家らの協力のもと独自調査し、「福島第一原発事故から何を学ぶか」という中間報告をネットで公表した(報告書の内容はBBT〈ビジネス・ブレイク・スルー〉のサイト〈http://pr.bbt757.com/2011/1028.html〉やYouTubeで全面公開している)。報告書のポイントを大前研一氏が解説する。
調査をした結果わかったことは、政府が説明していること、今やろうとしていることには真実のかけらもない、ということだ。
たとえば福島第一原発1号機は、東日本大震災が発生した3月11日の午後6時46分頃、すでにメルトダウン(炉心溶融)が始まり、翌12日の午後3時36分に水素爆発が起きている。水素爆発はメルトダウンしないと起きるわけがないのだが、政府がメルトダウンを認めたのは、それから2か月後のことである。
原子力安全・保安院が実施しているコンピュータ・シミュレーションによるストレステスト(耐性検査)も、電力会社に指示している安全対策も完全にポイントがずれている。なぜなら、そもそも政府は福島第一原発の事故原因を間違えているからだ。政府がIAEAに提出した報告書は、今回の事故原因について「津波の発生頻度や高さの想定が不十分であり、大規模な津波の襲来に対する対応が十分なされていなかったためにもたらされた」としている。つまり、想定外の大津波が来たから起きた、と言っているのだ。
しかし、事故を起こした福島第一原発1~4号機と同じ大津波に襲われながら、福島第一原発5、6号機、福島第二原発、女川原発、東海第二原発は事故にならなかった。ということは、大津波は事故のきっかけにすぎず、メルトダウンに至った直接の原因は他にあることになる。
そこで我々は、福島第一原発1~4号機と他の原子炉ではどのような違いがあったのかという視点から調査・分析を行なった。すると両者の間には、全電源を喪失したか否かすなわち原子炉に冷却用の水を送り込むポンプを動かすための非常用発電機が1台でも生き残ったか否かの違いしかなかったのである。
たとえば福島第一原発5・6号機の場合、1~4号機と同様に地震で変電所が壊れて外部交流電源を喪失したが、幸運にも6号機の非常用ディーゼル発電機が1台だけ動いたおかげで5号機にも電力を融通して冷却を行ない、2機とも冷温停止まで持っていくことができた。
その発電機だけが生き残った理由は「空冷式」で、しかも水没しない高所に置いてあったからだ。設計当初はなかったものだが、数年前に保安院から非常用発電機の増設を命じられ、たまたま水冷式よりコストが安い空冷式を選択した。空冷式は冷却水を取り入れる必要がないから高所に置いた。そんな偶然が重なって5、6号機が命拾いをしたのである。
一方、1~4号機は非常用ディーゼル発電機がすべてタービン建屋の地下1階に設置されていたため水没し、冷却用の海水を汲み上げるポンプも常用電源のポンプと同じく海側に並んでいたため津波によって壊滅した。外部電源を取り込むための電源盤も水没し、電源車を接続することができなかった。
直流電源(バッテリー)も1、2、4号機は地下にあったので水没した。3号機はたまたまスペースがなくて中2階に置いてあったことが幸いして生き残ったが、充電を取り込む所が水没したため8時間しかもたなかった。
ちなみに、福島第二原発と女川原発は外部交流電源が1回線のみ健全で、東海第二原発は外部交流電源をすべて喪失したものの非常用ディーゼル発電機が健全だったため、いずれも“首の皮1枚”で事故を免れた。
ということは、非常用電源の冷却用ポンプが常用電源の冷却ポンプの隣に並んでいる「設計思想」そのものがおかしいのではないか、という疑問が出てきた。“たまたま設計時になかった設備”が、生き残った原子炉ではカギとなっていたからだ。そこで原子力安全委員会の「設計指針」を読み直してみたら、なんと、こんなことが書いてあった。
「長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧または非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない」
「非常用交流電源設備の信頼度が、系統構成または運用(常に稼働状態にしておくことなど)により、十分に高い場合においては、設計上、全交流動力電源喪失を想定しなくてもよい」
私は、開いた口がふさがらなかった。これが、実は直接の事故原因だったのである。つまり、交流電源が全部喪失する事態は想定しなくてよいと設計指針に書いてあるから、東電も日立も東芝も、そのとおりに原発を造ったのだ。
ところが今回は、すべての交流電源が長期間にわたって喪失した。このためECCS(緊急炉心冷却装置)やホウ酸水注入系など原子炉で想定される最悪事故に備えた安全装置が1つも機能しなかった。だから原子炉や使用済み燃料プールを冷却することができなくなってメルトダウンと水素爆発が起き、放射性物質が飛び散ってしまったのである。
つまり、福島第一原発事故は大地震・大津波による「天災」ではなく、誤った設計思想による「人災」だったのだ。なぜ原子力安全委員会がこんなバカげた文章を入れたのかわからないが、その担当者を明確にして、きちんと責任を取ってもらわねばならない。
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