よい子の読書感想文 

読書感想文463

『英雄なき島 硫黄島戦生き残り元海軍中尉の証言』(久山忍 光人社NF文庫)

 硫黄島に関するものは何冊か手にしてきた。映画によって俄に注目され、その悲惨な戦いが少しでも掘り起こされたのは有益なことだったと思うし、死者を悼み、忘れぬために良いことだったと思う。
 もちろん、脚色され、美化された部分もあるだろう。本書の冒頭で著者は証言者の大曲氏を紹介しつつ、その言葉を引用している。
『今伝わっている硫黄島戦は虚構です。本当の戦争はあんなものじゃない』
 となると、読まずにはいられないではないか。
 大曲氏はいわゆる学徒出陣による海軍予備学生出身の士官であった。戦争のプロではないが、インテリがあの戦いの生き残りの一人に含まれていたことを、私たちは幸運とすべきだろう。同じ経験をしても、それを解釈する言葉と論理と土台(知識)が無ければ、後世に活かされないかもしれないのだ。確か『きけわだつみのこえ』でも、誰かがそういうことを書いていた。兵は講談で読んだふうの、浪花節調で戦記を語り、したがってそれは似たり寄ったりの話になる、というのだった。
 とはいえ中尉といってもプロの軍人ではないし、陸戦隊でもないから、戦闘の様相を語る際、憶測がだいぶ混ざっているのは気になった。また250kg爆弾は原爆に継いで大きな破壊力を持つ、という素人みたいな自説もどうかと思った。
 それでも私は本書を価値あるノンフィクションと考える。著者が、冷徹に、敗残兵らの無惨な生き死にを描いてやまないからだ。一切の美化、虚飾を拒否して、全く絵にならない汚辱に満ちた戦場を、淡々と語るからだ。
 悲惨と、汚辱を、もっと私たちは記憶し、想起できるようにならねばと思う。そのためのツールとして、こうした作品は今後も読み継がれて欲しい。歴史が繰り返されてしまうのは、過ぎ去った記憶が美化されていく過程であるのだろうから。



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