ある人と酒の席で本の話をしていて、『あげるので読んでみて』と言われ、いただいた。私がマラソン好きな文学好きと知ってのことだと思うが、文章のマンガみたいな軽さには驚いた。陸上競技が題材で、かついただいたものでなければ、読まずに投げていたかもしれない。それだけ軽すぎる文体なのだ。
【授業が終わると部室に直行するんだけど、とにかく狭いもんで一年は追い出されて外で着替えることになる。冬場は寒くて死ぬらしい。】とか、
【合宿からは逃げ出そうとする。国体予選の前に外国に遊びに行く。いくら才能があっても、こんな奴は勝てない・・・。クソッ、人のことなのに、なんだかムカムカしてきたぜ。】という具合。
違和感はあるが、現代の高校生に一人称を語らせるには、これがリアルな手法なのだろうか。
『風が強く吹いている』という映画は、面白いし良いラストだったが、陸上特有のストイックでキツイ場面は描かれず、不満の残る内容だったが、本作はその点では過不足なく描かれていきそうな予感はある。そもそもサッカーをドロップアウトしたという経歴が、作品に深みを与えていて、それらの下拵えがあるから、軽さも許せてしまった。
次もさらさらと楽しんで読めそうだ。しかし著者はどうしてこの若い感性を文体で表現してみせることができるのだろう。
