寺山修司唯一の長編小説ということで興味を持っていた。読むのがいまさらになった理由は自分でもわからないが、寺山修司と小説、という組み合わせにピンと来なかったのは否めない。
数年前、美術館で寺山修司展を見て、また詩や短歌を手にするようになり、三沢の記念館も何度か訪れた。『天井桟敷』に惹かれてDVDも何作か観た。そしていよいよ小説を、という経過で手にしたのである。
もともと短詩形の表現を得意とする著者だけに、比喩に満ちた独特の文体が面白い。章ごとに自作短歌がエピグラフ風に添えられ、作品の構成も劇作家らしく工夫がされていて、“唯一の長編小説”という言葉から想像したぎこちなさ初々しさはない。
寺山修司のボクシング好きは有名だが、それ以外にも寺山修司らしさが凝縮された本作は、上手く散りばめられた歌詞やキャッチコピーの引用によって、寺山修司と60年代東京のデパートという外観を呈してもいる。
愛と暴力が深層のテーマになっている。当時、暴力には一定の力が、影響力があったのだ、ひとつの表現として、あるいはコミュニケーションの飛躍した形態として。
まさに時代を駆けた『職業・寺山修司』という男の吐息が聞こえるような小説だった。
最後に死亡診断書を持ってくる手法は劇画的で賛否はあるだろうが、この作風には相応しい終わり方だろう。
さて『荒野』とは? そのゼロ地点には読者それぞれがイメージを付与するべきなのだと思う。
