まだ読んでない村上春樹の長編としてこの作品が残っており、いまさら手にした。あまり食欲をそそらなかったのだが、解説をチラッと見て、主人公が名古屋出身であり、どうやら名古屋も物語の舞台になっているらしい。名古屋単身赴任中のいまなら、感情移入しやすいかなと手にした。私が東京の自宅と名古屋の一人住まいを行ったり来たりの二重生活を送っているのと同じように、語り手は大学時代、そのように往来する生活を送っていた。
村上春樹によくあるファンタジー的要素の少ない、よくまとまった小説だと感じた。読んでいる途中には、このエピソードがどう飛躍していくのかと、やや警戒していたが、読了後に振り替えると、結果的には現実的で、また狭い範囲の、良い意味でリアリティある物語だった。
5人の親友たちとの調和=青春。その失われた故郷を総括する話である。それを称して巡礼といっているのだろう。
巡礼によって、語り手以外の4人4様の人生が垣間見える。想像力が掻き立てられ、それぞれの物語が、読む者の脳内で描かれそうになる。そういう予兆、余韻を残して、また、未来に向けた大きなピースの間隙を敢えて残して、話は幕を閉じる。
最後のほうで、村上春樹らしからぬ、長ったらしい説明的な会話が幾度か挿入された。でもそれは、埋められずに残すピースに、読者それぞれが何を入れるのか、考えるよすがを与えるための準備作業だったのだといえる。
春樹作品は、回収のない伏線にいらいらされがちだったが、本作は計画的にそれが行われて、よくまとまった作品となっている。
