よい子の読書感想文 

読書感想文536

『東京震災記』(田山花袋 河出文庫)

 田山花袋といえば高校のころ文学史を勉強していて興味を持ち、幾つかの代表作を読んだ。もしかすると、それ以来かもしれない。
 2011年の夏に文庫版の初版が出ている。東日本大震災に触発されての需要を見込んだものだろう。
 あの震災で、破局的な災害の、他人事でないことは身にしみた。来るべき首都直下地震に備えなければと、誰もがリアルに思ったろう。そういうときに、関東大震災の記録があるなら読んでみようと考えるのは自然で、かつ切実なものだ。
 その切実な問題意識に応え得る内容かといえば、正直疑問の残る内容だった。いままで教科書的な知識しかなかったので、震災にまつわる様々な事象を読めるのは悪くない。しかし大抵それは人聞き又聞きの話で、中には創作なのか、聞いた話なのか判別のつかぬものもあった。
 とはいえ、噂が噂を呼び、幻のようなものに脅え、自警団が跋扈する世相は、教科書的文脈からは理解し難いことだったので、大変参考になった。人心への恐慌。シミュレーションのための素材として、読む価値はあったと思う。
 同様に、巨大な災厄を描いたものとして原民喜『夏の花』と比較してしまい、それゆえに見劣りがしてしまったのは否定できないが。
 

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