よい子の読書感想文 

読書感想文537

『わだつみの友へ』(色川大吉 岩波書店)

 岩波「同時代ライブラリー」シリーズの一冊。帰りがけに立ち寄った催事場の古書店で手にした。
『きけわだつみのこえ』を幾度も読むうち、派生的に関連するものへと手を伸ばしてきた。これもその一環といっていい。
 しかし恥ずかしながら、早とちりで、色川武大と勘違いした。ほぉ、あの“雀聖”は学徒出陣崩れだったのかと、よくよく見ないでレジに持って行ったのだ。とんだ色川違いである。
 こちらの色川氏は戦後、共産党に属して活動した異色の経歴を持つ歴史家だ。振幅の大きさゆえか、歴史観には懐の深さがあって参考になった。また“学徒出陣”という括りに対する批評(当然それは自己批評でもある)の文脈は歯切れ良く、その切り口の鮮やかさには目を見張るものがあった。
 しかしながら、様々な媒体に発表したエッセイ等を編んで、このような題名で売り出すのもどうかなと複雑な読後感はある。出版社サイドの企画なのかもしれないが。
 そういえばリメイク版の映画『きけわだつみのこえ』が出たのもこの本と同じ戦後50年の年だった。戦争は二度と御免だという思いは、あの頃をピークに薄れてきている気がする。
 “戦中派”がどんどん鬼籍に入っていくことと、この国が“いつか来た道”を辿りつつあるのは、無関係ではあるまい。

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