よい子の読書感想文 

読書感想文535

『あの戦争を伝えたい』(東京新聞社会部編 岩波現代文庫)

 各新聞の政治的カラーを政党に例えるなら、読売は自民、朝日は民主、東京新聞なら社民といったところだろうか。
 その報道ぶりに、頑なすぎるきらいは感じるが、(それを度外視すれば)絶えず庶民の立場にあって非戦を貫こうとする記事には好感が持てる。いつの間にか右旋回していく世相に気づかぬとき、『まてよ?』と立ち止まらせてくれる。
 文庫本化されているなら読まない手はない。しかも岩波現代文庫というお墨付きだ。
 まえがきで、むのたけじ氏の言葉が引用されている。
「日記を意味する『ジャーナル』という言葉。例えば平和を願うなら、そのための記事を毎日書き続けることで、願いは『主義(イズム)』となり、『ジャーナル』は『ジャーナリズム』になる」。
 継続することの大切さが説かれている。東京新聞社会部は、「むのさんへの返事の意も込め」て、『記憶~新聞記者が受け継ぐ戦争』という連載を続けた。本書はその結果編まれたものであり、ひとつの“願い”の書と呼んでも差し支えあるまい。
 願いをイズムまで高めていくこと。先に感慨めいたことを書くのもなんだが、読了して改めて思ったのは、ジャーナリズムの持つ役割についてだった。それはもちろん、国家の代弁者でもないし、国民に媚びを売って部数を伸ばして事足れりでもなかろう。広告主の顔色によって“ジャーナル”の加減を日々かえるものであってもよろしくあるまい。
 たとえ不愉快な記事を書かざるを得ぬにしても、選ぶ側に、選ばれる側に、有意義な気づきを提供すること。
 その意味で、東京新聞は自らに課された社会的役割に対して忠実であろう。“戦後何年”という枕詞を空気のように扱っていた私は、本書によって自らの間抜けさにも気づかされた。
「今年が戦後何年であるかを題名の横に表記しているのも、この連載の特徴である。当たり前の数字のようだが、毎年更新できる幸せと重みを、かみしめたいと願っている。」
 幸せと、重み。それを保持させるのは私たちの想像力と知性である。そしてまた、想像力と知性を補完してきたのが、体験した者たちの言葉だったと思う。
 しかし、年々、戦中世代はいなくなっていく。政治家の多くも、さきの戦争を体験していない世代だ。そのことと昨今の右旋回とは、無関係ではあるまい。
 とするならば、これからは、戦争世代の子や孫である私たちが、伝えねばなるまい。学ばねばなるまい。本書の成り立ちも、そういう問題意識に立脚したものと思う。
 少年のころ、沖縄戦に巻き込まれた瑞慶覧さんはこういう。
「歴史は、残そうとする努力があってはじめて残るもの」
 大切に扱わねばならない。意識して行わねばならない。さまざまの気づきをもたらした読書だった(それぞれがコンパクトにまとめられすぎている感じはあったが、新聞での連載という制約上、仕方ないことだろう。また、その短切さがかえって行間を深くさせている場合もあった)。
 

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