長らく積ん読していた。茨木のり子が若いころ書いた詩に、この本に出会った喜びを熱くうたうものがあった。そんな予備知識がなければ手にしなかったと思う。サルトルの思想は嫌いではないが、文体は読むに耐えないことが多い。翻訳のせいばかりではあるまい。
差別の普遍性を知る手がかりとしては有意義な読書かもしれない。とはいえ、ナチスによる虐殺の記憶が生々しいときに書かれたせいか、本書には反動とも受け取れる極端なユダヤ人擁護が散見される。それは心情としては仕方のないことなのだろうか。
読んでいて暗然とするのは、
『もしユダヤ人が存在しなかったならば、反ユダヤ主義者たちは、それに代わるものを作りあげたろう』し、
『他の国においては、それが黒人であったり、黄色人種であったりする』のだが、当のユダヤ人もまた、イスラエル建国と共にアラブ人を排斥したし、排斥し続けているからだ。
江戸の敵を長崎で討つ、というわけでもないのだろうが……。ようやくたどり着いた約束の地だから、というのもわからなくはないが……。
というあれこれを思うとき、本書におけるサルトルの理屈は、読むのさえ不毛に感じてしまうのだった。もはや現在において読む価値のある本ではなさそうである。
