久しぶりに読んだ。手元にないということは、引っ越しに際して本をあらかた手放した八年前より以前に読んだ、ということだ。
すっ、と入ってくる話だった記憶がある。冷蔵庫の横で眠るのも、わかる気がした。作中人物のエイリアンっぷりが、哀しく懐かしかった。
今回は、ひとに勧めようと思って買って、ついぱらぱら頁をめくるうちに読んでしまった。
ときどき、不覚にも涙が出そうになった。私はいま弱っているのかもしれない。作品として批評する眼を持てなかった。そういう姿勢を最初から放棄させてしまうような文体と雰囲気を備えた作品である。計算された文体というより、天性のものだと思う。思いたい。
いきなりデスマス調が入ったりする。崩すことで調和する。さりげなく調味料を加えるように。わざとらしくないのがすごい。もう、
『反則だぜ』と、お手上げな場面が訪れるのだ。
未整理のままの、突拍子もない展開が気になるが、それを補って余りある。
吉本隆明はどんな父親だったんだろう。などと要らぬ詮索をしたくなるくらい、不思議な魅力を持った作家である。なぜだか他の作品に食指が伸びないのだけれど(がっかりしたくない、のかもしれない)。
