久々に読んだ。三度目だと記憶している。
これは誇大妄想なのではないか、なんらかの変調を来した状態で執筆していたのではないか、そういう不安を催す文体や雰囲気を纏っている。
けれど、一方で私は著者の視座に安定を感じる。妙な個癖、偏りがなく、まるで神の視座によって為されるごとく、物語が綴られている。
それは著者の激しく真摯過ぎるほどだった振幅の大きさに依るのだと思う。
とはいえ、最初に書いた不安も気のせいではなかった。著者の死が、それを言外に証してしまったように思える。この作品は、修羅場を潜ってきた人が、安全な場所に戻り、ぬくぬくと書き綴った武勇伝・回顧録の類とは違う。著者はおそらく、監獄を心の中に、あるいは皮膚の隅々に染み込ませて、いまだ収監されているかのように書いている。
自死によってしか、解放されることができなかったのか。
死後、出版されたものにはまだ手を伸ばしていない。これから脚光を浴びることはないだろうが、私はせめて、その真摯な営みを、これからも活字によって受け取って、考えていきたい。
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