七編の“現代の恐怖”に関わる短編集である。
といって、ホラーでもなければ、直載な即物的恐怖を語るわけでもない。
一連の作品に共通する恐怖は、核時代における、日常に埋没した怖れ(あるいは畏れ)である。
これを端的に言い表しているのは、『不満足』の作中、
「おれたちが安穏と生きていられるのは、かわりのあんな男がこの世界の地獄について考えているからじゃないか」という一節であろうか。
といって、著者は恐怖について、悲愴な態度はとらない。
『アトミック・エイジの守護神』においては、原爆孤児十人を養子に迎えた慈善家をシニックに描く。養子たちには多額の生命保険がかけられ、彼らが白血病で死ぬたび、慈善家の懐は潤うのだが、養子の一人はこう言うのである。
「ぼくらは、二年ほどまえに、あの人からもらう小遣いをだしあって、あの人に生命保険をかけたんですよ、受取人はぼくら八人ということにして、もっとも、いま残っているのは六人だけど」と青年は、澄みわたって輝く眼でぼくを見つめて微笑しながらいった。若い人間には時にその故郷の風物に似た表情をしめす瞬間があるものだ。この時、青年の眼はぼくに広島の真夏の青空のことを思いださせた。
著者は恐怖を超越する試みを為しているのである。無論、その恐怖から視線をそらさずに。
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