毎年恒例の『奥多摩渓谷駅伝』が近づいてきて、私はモチベーションの上がりそうなものはないかなとブックオフをぶらついていた。
ずるい題名である。多くの人が惹かれる“箱根駅伝”に、知る人ぞ知るサリンジャーの名作“ナイン・ストーリーズ”を組み合わせるとは。自らランナーで、ガチの駅伝に参加し、かつ元文学青年の私は、買わざるを得ないではないか。
通勤電車で読み進めた。青山学院の躍進、古豪・明治の復活に向けた努力、“山の神”たち・・・と、近年のトピックを網羅しながら、中村・瀬古師弟の果たせなかった夢を描いたストーリーもあって、なかなか読み応えあるドキュメンタリーである。私は睡魔も忘れてすぐに読んでしまった。
しかし題名には名前負けしていると言わざるを得ない。出版サイドの販促手段だったのだろうが、“箱根駅伝”の感動も、“ナイン・ストーリーズ”が持つ繊細なカタルシスも、本書からは得られなかった。
面白かったし、青山学院の監督や“山の神”たちの予備知識も得られ、より箱根駅伝を楽しめるガイドブックになりそうだが、作品としては何かがもの足りなかった。
スポーツ誌に掲載されたもの等を編んだ体裁なので、もともと本として書いたのでなく、箱根駅伝の理解と感動を助長すべく綴られた作品群なのかもしれない。
駅伝を前に、世界観に入っていくことはできた。
