アカデミー賞で名を馳せた『華氏911』は私も観た。兵士を非難するのでなく、兵士の立場を理解する側に立ち、無責任な為政者を批判する。イラク戦争を引き起こした産業構造を暴き出して照射する先には、新たな帝国主義とでもいうべき断末魔の資本主義が見えてもくる。もの言えぬ兵士らは、よくぞ代弁してくれたと歓迎するはずである。
本書は、マイケル・ムーアの諸作品を観た(あるいは読んだ)兵士やその家族、また退役軍人などから寄せられた手紙を集めたもの。中には敢えて階級姓名を公表する兵士もいる。軍務を拒否するという手紙もあった。
私は『華氏911』を観ても、しかし米兵に親しみを持つまでには至らなかった。彼らはいつでも“正義の味方”で、アジア人を殺戮することに良心の呵責もない……そんなステロタイプなイメージが、私の中で米兵全般に適用されてしまっていたのだ。日本国内の基地周辺で、彼らが我が物顔に歩くのも、私に潜在的な反感を植え付けていたのかもしれない。彼らに敗れ、占領された屈辱は、直接それを経験しない私にも、隔世的に伝わっている。私はそこに目をそむけ忘却し続けた、日本人の恥知らずさと無責任さに、いつも意識的であろうとしてきたから、なおさらなのだ。
だからこの本は、私には開眼の書といって過言ではない。初めて私は、アメリカの兵士らに親近感を覚えたのだ。合衆国憲法を命がけで守ることに誇りを持つ彼らが、任務を疑わざるを得ないという苦悩。人間がいる、と思った。米軍に精神科医の多いのはもっともだと知った。
また、かの国で同時多発テロ以降、反戦を唱えることの怖さも本書で初めて知った。戦争に反対するというステッカーを車に貼って走っていたら、ぶつけられるなどの酷い嫌がらせを受けたという手紙があった。
“アメリカ”をひとくくりにして嫌っていたことを、心あるアメリカ人民に謝りたい。私がああやって偏見を抱いたようにして、一部の保守的アメリカ人は、イスラム教徒を迫害したのだから。
ちょっとしたきっかけで、わかりあえるのかもしれない。ということを、気づかせてもくれた本書に、感謝の意を表したい。
