帰りの電車でのこと。
急行待ちをしている各駅停車に乗って、空いていたので座った。
しばらくすると座席は埋まり、そこそこ混んできた。
もうすぐ発車するころ、若い女性二人連れが目の前に立った。
一人が、もう一人のおなかを撫でている。
妊婦さんだった。
ここで少し迷った。
席を譲ろうかどうしようか。
でも、20代前半に見える元気そうなその子は「どうぞ」と言っても「いえ、大丈夫ですから」というのは目に見えていた。
それに次の駅、その次の駅ではたくさん人が降りるので、その女の子も降りるか座れるだろう、と思って何となくそのままにしておいた。
発車してすぐ。
大きなリュックを抱えて隣に座っていたおじさんが、「どうぞ」と席を立った。
案の定、女の子は「いやいや、大丈夫です」と本当に断った。
しかし、おじさんは続けてこう言った。
「座りなさい。大事なことだから。」
私はそのひとことに打ちのめされた。
そうだよ。そうだよ。
私は自分を席が譲れる人だと思ってました。
実際お年寄りには何度か譲ったことがあるし。
姉が妊娠して子供が出来てから、妊婦さんがいたら席を譲ろう、と思ってました。
でも実際、その時になったら出来なかった。
なんとなく出来なかった。
なんとなく、自分の都合で面倒でやめてしまった。
席を譲ることが出来るおじさんに頭が上がらなかった。
おじさんに本当の優しさを教えてもらった。
おじさん、今日はすみませんでした。
次は譲ります。
次は、私の番です。