小学校高学年時の夏休み。
夕方、近所の草むらで偶然セミのサナギを見つけた。どうせ抜け殻だろうと思いながらも一応目を凝らしてよく見ると、どうやら中身が入ってる?え?出てきたとこ?ウソ、これから本番!?と思うや急にテンション爆上がり。
うわー羽化するとこ見たーい!本物見たい、めっちゃ見たいぃ!!
教科書だかテレビだかで羽化する画は見てるし知識として知ってはいてもリアルで見たことなんてもちろんないから、小学生の自分は興味と好奇心で居ても立ってもいられない。しかし夜中に家の外(山の中)に出て観察なんてとーぜんできないわけで、どうしたもんかと迷ったあげくに持ち帰ることに。
葉にサナギを付けたまま草を手折り家に帰ってから さらに思案。
庭に置いて観察でも良いけど蚊が寄ってくるだろうし体勢も大変。おまけにまだ夕飯前で夜が待ち遠しくてたまらない。よっしゃ、ほんじゃぁ部屋を暗くしてセミを騙してみようか、もしかしたら勘違いして羽化してくれんじゃね?みたいな期待でさっそく行動。この時点で弟を巻き込む。人の気配のある台所から一番遠い、奥の床の間の雨戸を閉め切って柱にサナギ付きの草を立てかけ、懐中電灯の円周部の弱い光だけが当たるように角度を調整して、自分と弟はちょっと離れて畳に腹ばいになりスタンバイOK。ふたり黙してじっと待つ。
果たして。セミの脱皮が始まった。背を割って反り返るように頭と足、そしてまだふにゃっとした羽が出てくる。薄緑色の姿が美しい。
閉め切った暗い部屋で身じろぎもせず声を殺して観る神秘のライブショー。子供心にめちゃめちゃ感動しながらも蒸し暑さでだんだんしんどくなってくる。 30分経ったかどうか、セミの体がほぼ出たくらいのタイミングで不意に草が倒れた。
え?ぎゃーっっ、ちょっと待ってまだ羽が!
羽化直後のセミが背中から畳の上に落ちてしまった。多分20㎝くらいの高さでしかないけどまあまあ重みがあって羽も乾いてないセミが!慌てて飛び起きて草を持ち直したものの、これは大変なことになったと心臓バクバク。確かにちょっと頼りない草で微妙に不安定ではあった、でも早く羽化を見たい気持ちが優ってきちんとケアをしなかった…ああ、不覚!!
どうしようと思っているうちに夕飯の時間。弟とふたり良い知恵も浮かばず、あとは神様に任せよう的な責任放棄でセミがついたままの草を庭木の枝にくくりつけておしまいにした。外はもう日暮れて薄暗くなっていた。
翌朝、さすがに気になって確認しに行ったらサナギの抜け殻だけが残っててセミはいなかった。まさか鳥に襲われてしまったかもしれない?羽が曲がってちゃんと飛べずに落ちて、他の虫の餌食になってしまったかもしれない?木の周りを見て何か手がかりを見つけることもできなかった。
どのくらいのダメージがあったのか分からない。もしかしたらうまく羽が乾いて飛び立ってくれたのかもしれないという希望しかない…途中で逃げるように放り出したせいで後悔だけが残った。
夏、近くで蝉が鳴いてると普通にうるさってなるけど、セミの抜け殻を見ると未だにあの夏の日を思い出す。