リバーリバイバル研究所

川と生き物、そして人間生活との折り合いを研究しています。サツキマス研究会・リュウキュウアユ研究会

奄美のケンムン その参 

2005-12-14 20:53:21 | リュウキュウアユ研究会/奄美大島
○ 2003年12月9日 午後だった。


今までの経緯は 奄美のケンムン その壱

奄美のケンムン その弐 をご覧下さい。


 ボクたちは嘉徳川河口に溜まった砂を掘り出した。
砂を掘って持ち上げることはハナからあきらめていた。砂は見かけよりも重いし遠くに飛ばすには量が多すぎた。渚に向かってジョレンで砂を掻き、砂を引きずっていく、つまり、引力を利用して砂を掘り、堤に溝を作ろうと思ったのだ。

 小さな溝さえ出来れば、そこから浸みだした水がやがて流れ出し、砂の堤を壊してくれるのではと思った。
しかし、表面の砂は、サラサラとして、溝のように狭く、深く掘ることは出来ない。1時間ほど掛かって、かなりの幅、2m位については掘り獲らないとジョレンの深さ40cmくらいの溝を掘ることはできない。

 これでは無理かも知れない。そう思い出したのはその頃だ。
せっかく奄美大島まで来て、しこしこと砂の山を掘っている。他にすることがあるのではとも思う。宇検の河内川や、住用の役勝川の産卵場を整備するとか、大和の大和川の産卵床の礫を洗浄するとか…。やるべき事は多く、時間は限られている。

 せっかく奄美大島行きを楽しみにきた彼女が、1日砂掘りでいいものだろうかと思う。しかし、初めて嘉徳川を訪れて以来、嘉徳のリュウキュウアユは自分が護ると決めてしまったようで、ボクが手を休めるとジョレンを掻き、砂を運ぶ作業を続けるのだった。

 砂に水分が含まれだした。

 状況はかなり改善した。溝として掘れるようになってきたのだ。
満々と溜まったラグーンの水、やがてその水が溝に浸みだしてきた。しかし、期待したほどには流れは生まれない。砂に浸みこんでしまうのだ。
ジョレンの幅ほどの溝を掘りさえすれば、そこからの流れでたちまち砂の堤は決壊する。最初のもくろみはそんなだった。しかし、水は砂の中に吸い込まれるばかりで、いっこうに流れとして、堤を壊すことはなかった。

 溝の幅を広げ、流れ出す水の量を増やすことにした。砂に水が含まれて最初の頃よりは楽にはなったが、砂の重さは増している。溝の幅を1m位に広げ、ラグーンからの流れが渚に向かう距離を増やしていく。

 チョロチョロとした流れが海と交わったのは、もう2時をだいぶ廻った頃だったように思う。流れを助けるように、砂を除き下流を掘る。ラグーンからの流れが増すと、溝の壁が崩れ、流れはまた弱まってしまう。
その崩れた砂を取り除く。 
  
 ようやく、流れがそれらしくなってきて、やがて、ボクたちが掘った河口からの流れが、湾曲した流れよりも大きくなった。
午前中に放り込んだ土嚢袋が干上がった頃、新しい河口は海とつながって流れを増した。

 もういい頃かなとボクは思った。たぶん、潮が満ちてくれば、河口は完全につながって、潮が入ってくる。
 その日の便で、東京に帰るNさんは、もう少し掘るといって、掘り進んだ。
砂の中から、礫が出てきて、以前の河床まで掘り進んだ頃だった。

 流れは、急に勢いを増し、奔流となって流れた。
流れはみるみる広がり、深く掘れ、激流となった。

 ボクは渚で流れの様を撮影していたのだが、たちまち、くるぶし、そして膝下まで流れは駆け上った。慌てて、川岸に逃げる。
その直後、溜まったラグーンの水は、砂混じりの濁流となって嘉徳湾に注いだ。

 この間の時間はたぶん30分弱の事だった。
そして、ラグーンの水位は、1m弱ほど下がり、流れは静かになった。

 その時だった。

 集落の入り口に、2台のワンボックスカーと乗用車が止まった。
10名ほどの人間が降りてきて、驚きの声が上がるのが聞こえた。

 ボクはカメラマンでもあるのだ。
その一行が何を目的に来て、何を期待していたかを、一瞬に悟った。

 その一行は、奄美の歌姫。元ちとせの映像を撮影に彼女の生まれた地にやって来たカメラクルーであること。
 そして、彼らの撮影意図は、潮が満ち、ラグーンとその海が連なって見える瞬間を撮影に、まさに、その場所に現れたということだった。



 そんなわけで、あの巨大なラグーンをたった二人で、掘り抜いてしまったのは、人間ではなくて、“ケンムン”つまり、奄美にいるという、妖怪の仲間の仕業ということにしておこうと思う。
そんなこともあって、元ちとせにも借りがある。

 その時撮影されたDVDがこちらです。



 借りがある


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