2011年
12月
先急ぐ時に限ってにわか雨
言うだけはただや何でも買うてやる
竹箒 木枯らしに舞う落葉追う
車窓越し口許に聞くさようなら
想い出は母のあの日のひざまくら
陽だまりに母と子の影鬼ごっこ
2012年
2月
下戸なのに美人女将の猪口受ける
美人湯に毎年来てるおばあちゃん
故郷の匂い届ける芋の土
土の中新芽まだかと出番待つ
3月
かけがいのないあなただと逝って知る
嫁ぐ前燃やすあなたの文の束
大病に優しくなっていくあなた
老木も生きているぞと新芽出し
あわてんぼ新芽頭に雪ぼうし
からはしゃぎ恋の芽生えの隠れ蓑
安い値をつけないプロの自尊心
金持(エエシ)だと言ってたくせに安普請
恋心芽生え無口になる二人
4月
人生を変えたあの人との出合い
新しい出合いありそう曲がり角
春霞手を振るお前川向こう
川に舞う友禅染めの艶(あで)やかさ
泣いてやるそれがおんなの武器だから
嫁ぐ前柱のキズを撫でる父
5月
手強いなえくぼ自慢の恋敵
淋しそう何故かひかれる片えくぼ
男前 でも横顔が淋しそう
つらいから心の中は覗かない
よそいきの顔で正座の無理はやめ
優しさの香り残して席を立つ
知らん顔してやれそれが思いやり
6月
うつむいて石を蹴る子に友の影
一石の波紋大事な友が去り
けつまずき石が悪いと負け惜しみ
用もなく呼び鈴鳴らす老いた母
呼ばれてもはいと言えない反抗期
川向こう呼べど応えぬ母が居る
黄泉の国呼べど静寂あるばかり
猫柳繋ぎ真珠の首飾り
猫柳産毛愛おしそっと撫で
猫柳割れば宝石出てきそう
他人には優しくなれる天邪鬼
叱られて感謝する人恨む人
旅に出れば優しい人に出会えそう
7月
死ぬ筈のヒロイン生かす視聴率
微笑みが優しい風を連れて来る
お昼寝に母のうちわの子守唄
筆圧の弱さに母の老いを知る
優しさについ涙する気の弱り
悩み聞き悩み始めるカウンセラー
老馬でも疾走前に武者ぶるい
ほころびをつくろっている優しさが
8月
誰が聞くお前のぼやき俺以外
思いやり欲しくてぼやく老いた母
長生きの秘けつぼやいて憂さ晴らし
綿菓子と母の手握る祭の夜
少年が淋しさを知る祭あと
あぐらかきぐっと一杯夏の夜
座禅組み悟りのはずが足しびれ
味わったつもり名作あとがきで
言葉など要らぬ隣にいておくれ
涙する弱みを見せて友が増え
9月
行間に母の思いが滲む文
アルバムの父の思いがわかるいま
食うことは働くことと父の背が
ときめくも踏みとどまるが人の道
夕闇が人の恋しさ連れてくる
ほどほどに知らん振りする思いやり
10月
咳払いしてから話すお仲人
ローソクが遺影と話す様に揺れ
膝の猫話し相手はお前だけ
嫁姑どちらの肩も持たぬ夫
譲り合い空席のまま次の駅
友の死を風の便りで知る疎遠
風通しいいな心の扉開け
11月
走り書き残していつも留守の母
にわか雨走る二人を追いかける
感情に走ればとがる口の先
参観日指切りをして来ない母
我慢せず大泣きしたら気が晴れて
吸呑みで神妙に飲む隠し酒
12月
真っ直ぐな男と言われ曲がられず
ショッピング病の辛さ忘れさせ
里帰り親には見せぬ不安顔
送り出す母の不安にVサイン
独り居の煮しめの味に母想う
2013年
1月
荷造りに思うあの日の志
臥す母はローソクの灯に何思う
すれ違う二人の思いためいきに
傷つかぬために開かずの間を造る
清流に生きたワサビの自尊心
人混みに行けば淋しくなるばかり
2月
若い日の彼甦る訃報聞き
ぬるま湯は嫌いだったな若い頃
若過ぎて見抜けなかった彼の良さ
鬼嫁も涙「東京家族」観て
鬼ごっこわざとつかまる好きな子に
ご用心手土産つきのご相談
正座して相談される子の無心
3月
咲いて知る育てることの面白さ
咲いてから蕾時代を懐かしむ
日陰にも咲く花を見て励まされ
終盤に逆転される甘い詰め
泣くよりもうまく甘えて我を通す
また来るね布団の中の母の手に
風邪ひくよ大の字の子にかけ布団
病人の笑みに安堵の見舞客
老いるのは哀し友だち減っていく
道なりに歩き私の駅に着く
4月
水たまり母の手をとり蟹歩き
水をさす人は盲点突いてくる
水すましきっと世渡り上手です
眼鏡どこおでこの上にあるじゃない
虫眼鏡心の小さな棘見つけ
うたた寝の姑にそっと掛布団
添い寝され病の重さ知る夫
五センチの段差怖くて摺り足で
肩の手は許してあげる通り抜け
5月
訳知りの女将黙って酒を注ぐ
老いらくの恋の言訳仏壇に
忙しさ言訳にして義理を欠き
銭湯で泳いでいたな昭和の日
かなづちのくせに世渡りうまい奴
ため息にご注意それが倦怠期
手土産にご注意きっと頼み事
踏まないで茨の道に咲いた花
てにおはが寝かせてくれぬ句会前
6月
何かある急に無口になった妻
口止めのつもりでしょうかこのケーキ
しけの中がんばり抜いた父の船
息つぎを覚え外海出たがる子
遅咲きの花を見守る庭の隅
転校に忘れな草を畳み込む
7月
やわらかい笑みが姑のしたたかさ
やわらかい空気が癒す患者会
淋しがり憎まれ口をたたく奴
暇なとき行けば大事にされる客
合鍵をそっと返して置手紙
人のせいにすること覚え楽になり
8月
いざ出陣閉店セール主婦の群れ
終幕にぼちぼち群れを出る覚悟
がんばれよ群れに遅れて飛ぶ一羽
無難だと選んだ職がリストラに
説教を正座して聞く子の無心
無理をせず静かに風の声を聴く
クリップで留めておきたい今日の幸
今がある悔し涙をバネにして
病葉をみつけて掬う優しい手
風向きに敏感になる婿養子
9月
足音が響く病院午前二時
静かではつとまりませんコメディアン
迫真の演技に我慢するくしゃみ
ゴールイン恋のかけひき実を結び
リハビリの努力が実り富士登山
虫を聴く秋の夜長に猪口二つ
淋しげな徳利一本虫を聴く
呵呵大笑聞こえてきそう亡父の椅子
母の床窓辺に移す秋日和
いつきても泣かせてくれる母の椅子
10月
愛読書聞いて感じる世代の差
苦労して集めた本がキロなんぼ
書き込みが多い本ほど捨てられぬ
踊れない狸月夜にふて寝する
月夜には狼になり吠えてやる
置手紙こわくて封が切れません
追伸のとりとめなさに孤独感
王様の椅子に孤独の影ひとつ
少年の胸の鼓動は恋の音
群れを出る覚悟を固め異を唱え
(終)