大都会の中心に住まうあなたを訪れるのはいつも夜 街灯から届く明かりほの暗く 粗粗しく逞しい幹に向き合う 掌を押し当てると土色の乾いた樹皮は 意想外に柔らかく押し返してくる すぐ頭上には濃密に入り組んだ枝葉 あふれ満ちている こうしてあなたは昼となく夜となく呼吸して幾百年
火薬も羅針盤も発明するでなく 誰を虐げも滅ぼすでもなく 誰に悲しみを苦しみを与えるでなく 誰を裏切りも陥れもせず そんなあなたなしに大地は大地でない あなたと大地が合わさって大地だ
私たちの生命は互いにあまりにも違うと思いなし 私たちは伝え合えない生命であると思いなし 数十年で朽ちる生命の気まぐれや思いつきの算盤づくで いつでもあなたの大きな身体のいずくをもいかようにも あなたの枝を刈り樹皮を剥ぎ幹を抉り あなたの呼吸を停めようがどうってことなしと思いなす 呼吸を止めたあなたの大きな骸はたちまち朽ちる あなたをモノと思いなすヒトたちの 呼吸を止めた小さな骸がたちまち朽ちるように
大きな身体、大きな生命 私たち、大地の子の傍らで
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(了)
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