〔資料〕
「【衝撃事件の核心】誓約書に「死んでも責任問わない」 フィリピン人女性が提訴した〝ブラック〟?介護施設の実態」
産経新聞(2015年1月5日)
☆ 記事URL:http://www.msn.com/ja-jp/news/national/%e3%80%90%e8%a1%9d%e6%92%83%e4%ba%8b%e4%bb%b6%e3%81%ae%e6%a0%b8%e5%bf%83%e3%80%91%e8%aa%93%e7%b4%84%e6%9b%b8%e3%81%ab%e3%80%8c%e6%ad%bb%e3%82%93%e3%81%a7%e3%82%82%e8%b2%ac%e4%bb%bb%e5%95%8f%e3%82%8f%e3%81%aa%e3%81%84%e3%80%8d-%e3%83%95%e3%82%a3%e3%83%aa%e3%83%94%e3%83%b3%e4%ba%ba%e5%a5%b3%e6%80%a7%e3%81%8c%e6%8f%90%e8%a8%b4%e3%81%97%e3%81%9f%e3%80%9d%e3%83%96%e3%83%a9%e3%83%83%e3%82%af%e3%80%9f%ef%bc%9f%e4%bb%8b%e8%ad%b7%e6%96%bd%e8%a8%ad%e3%81%ae%e5%ae%9f%e6%85%8b/ar-BBhwKfj?ocid=HPCDHP
死亡しても会社の責任は問わない-。大阪府東大阪市の介護施設で働いていたフィリピン人女性は、採用時にこんな誓約書を提出させられた。「子供の日本国籍取得を援助する」と誘われて来日したが、待っていたのは逃げ出したくなるほどの過剰労働だった。連日夜勤を任され、休むことも許されなかった。退職した女性は昨年11月、「奴隷のような扱いを受けた」として施設の運営会社に未払い賃金や慰謝料など約580万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。人手不足が深刻化する介護現場では近年、外国人労働者を劣悪な待遇で雇う〝ブラック施設〟も増えており、今回のケースを「氷山の一角」とみる関係者もいる。
「子供のため」来日決意
《一、私は日本にいる間に自然な状況で死亡した場合、すべての金銭あるいは他の義務行為から会社、代表者、役員、管理者、社員に対し、永久に権利放棄します》
《一、私は自然死に関連し、会社、代表者、役員、代理人、社員を訴追しないことを保証します》
大阪や奈良で介護施設を運営する大阪府東大阪市の会社が、フィリピン人女性の採用時に提出させた「権利放棄書」の一部だ。
法的拘束力はないものの、業務中に死亡した場合に会社側を免責する内容が英語と日本語で記されている。会社は「あなたを守る書類だ」と説明し、サインを求めたという。
女性は石原チョナさん。平成8年、来日した際に知り合った日本人男性と結婚し、1男1女をもうけた。その後、男性とは離婚し、母子3人でフィリピンで暮らしていた。
石原さんによると、再来日のきっかけは、フィリピンにある同社の関連会社で行われた集団面接だった。
「日本で働けば子供の国籍取得手続きをする」と説明され、渡航費も貸し付けると説明を受けた。「子供のために」と再来日を即決。「日勤のみ、週休2日、収入約13万円」との労働条件が記された契約書にサインした。そこで配られた死亡時の「権利放棄書」の中身は見ていなかった。
24年3月、当時中学1年生だった長女を連れて再来日。社宅の4畳半のアパートに入居し、働き始めた。施設には他にも同じような境遇のフィリピン人女性が数十人働いていたという。
労災後も勤務強制
だが、間もなく夢は〝悪夢〟に変わる。
契約時に「日勤のみ」の約束だった勤務は、日本語が得意でないという理由で夜勤ばかりを割り当てられるように。しかも午後10時から午前6時まで「1人体制」。20人以上の要介護者の面倒をみなければならず、一睡もできなかった。何日も続けて夜勤が入るため、長女がアパートで1人で寝起きするような生活が続いた。
さらに24年11月、施設から会社の事務所に向かう際、自動車にはねられる事故に遭遇。足や腰をけがしたが、会社からは労働災害として扱われず、「いつまでも休むな」と早々に復帰を命じられた。休業を申し込んでも「借金が残っているうちは休むな」と一蹴されたという。
「借金」理由に酷使
実は会社側は石原さんを含むフィリピン人の職員に対し、ことあるごとに渡航費などの「借金」を理由に無理な勤務を強いていた。
石原さんの場合、会社からは60万円の借金があると言われ、月々の給与から「返済金」として2万円、「積立金」として1万円を天引きされていた。給与水準は日本人職員よりも低く、最低賃金以下の時給800円で働いていた時期もあったという。「借金を返すまで自由になれない」。それが会社の方針だった。
こうした厳しい管理下でも働き続けたのは、子供の日本国籍取得という目標があったからだった。しかし、国籍取得の援助は一向になく、精神的に限界となり、「借金が残っているうちは仕事は辞められない」と脅されながらも昨年4月に退職。弁護士に相談し、「子供の国籍が取れると欺かれ、過酷な労働を強いられた」として、会社に慰謝料など約580万円の賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こした。
「安価な労働力」
日本では高齢化社会の到来で介護需要が増加の一途をたどる一方、介護の担い手不足が深刻化している。
政府はフィリピン、ベトナム、インドネシアの3カ国に対し、経済連携協定(EPA)に基づいて介護労働従事者を受け入れているが、これとは別に在留資格を持つ多くのフィリピン人が介護サービスに従事するため来日している。施設側がこうした外国人労働者を「安価な労働力」として酷使し、日本人職員との待遇格差をめぐるトラブルが多発している。
石原さんを支援した「とよなか国際交流協会」(大阪府豊中市)の担当者は、「今回のケースは氷山の一角だろう」と指摘。「ここ数年、介護現場で日本人には決してさせないような勤務を強制させられる外国人労働者からの相談が多く寄せられている。こんな待遇が続けば、国籍に関係なく介護の仕事が敬遠され、ますます現場の人手が足りなくなるのではないか」と話す。
提訴後、通訳を介して記者会見した石原さんは「当時のことは辛すぎるので思い出したくない」と多くを語らなかったが、提訴した理由を涙ながらにこう話した。
「これからやってくる仲間のためにも、日本で働く環境をもっとよくしてほしい」
「【衝撃事件の核心】誓約書に「死んでも責任問わない」 フィリピン人女性が提訴した〝ブラック〟?介護施設の実態」
産経新聞(2015年1月5日)
☆ 記事URL:http://www.msn.com/ja-jp/news/national/%e3%80%90%e8%a1%9d%e6%92%83%e4%ba%8b%e4%bb%b6%e3%81%ae%e6%a0%b8%e5%bf%83%e3%80%91%e8%aa%93%e7%b4%84%e6%9b%b8%e3%81%ab%e3%80%8c%e6%ad%bb%e3%82%93%e3%81%a7%e3%82%82%e8%b2%ac%e4%bb%bb%e5%95%8f%e3%82%8f%e3%81%aa%e3%81%84%e3%80%8d-%e3%83%95%e3%82%a3%e3%83%aa%e3%83%94%e3%83%b3%e4%ba%ba%e5%a5%b3%e6%80%a7%e3%81%8c%e6%8f%90%e8%a8%b4%e3%81%97%e3%81%9f%e3%80%9d%e3%83%96%e3%83%a9%e3%83%83%e3%82%af%e3%80%9f%ef%bc%9f%e4%bb%8b%e8%ad%b7%e6%96%bd%e8%a8%ad%e3%81%ae%e5%ae%9f%e6%85%8b/ar-BBhwKfj?ocid=HPCDHP
死亡しても会社の責任は問わない-。大阪府東大阪市の介護施設で働いていたフィリピン人女性は、採用時にこんな誓約書を提出させられた。「子供の日本国籍取得を援助する」と誘われて来日したが、待っていたのは逃げ出したくなるほどの過剰労働だった。連日夜勤を任され、休むことも許されなかった。退職した女性は昨年11月、「奴隷のような扱いを受けた」として施設の運営会社に未払い賃金や慰謝料など約580万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。人手不足が深刻化する介護現場では近年、外国人労働者を劣悪な待遇で雇う〝ブラック施設〟も増えており、今回のケースを「氷山の一角」とみる関係者もいる。
「子供のため」来日決意
《一、私は日本にいる間に自然な状況で死亡した場合、すべての金銭あるいは他の義務行為から会社、代表者、役員、管理者、社員に対し、永久に権利放棄します》
《一、私は自然死に関連し、会社、代表者、役員、代理人、社員を訴追しないことを保証します》
大阪や奈良で介護施設を運営する大阪府東大阪市の会社が、フィリピン人女性の採用時に提出させた「権利放棄書」の一部だ。
法的拘束力はないものの、業務中に死亡した場合に会社側を免責する内容が英語と日本語で記されている。会社は「あなたを守る書類だ」と説明し、サインを求めたという。
女性は石原チョナさん。平成8年、来日した際に知り合った日本人男性と結婚し、1男1女をもうけた。その後、男性とは離婚し、母子3人でフィリピンで暮らしていた。
石原さんによると、再来日のきっかけは、フィリピンにある同社の関連会社で行われた集団面接だった。
「日本で働けば子供の国籍取得手続きをする」と説明され、渡航費も貸し付けると説明を受けた。「子供のために」と再来日を即決。「日勤のみ、週休2日、収入約13万円」との労働条件が記された契約書にサインした。そこで配られた死亡時の「権利放棄書」の中身は見ていなかった。
24年3月、当時中学1年生だった長女を連れて再来日。社宅の4畳半のアパートに入居し、働き始めた。施設には他にも同じような境遇のフィリピン人女性が数十人働いていたという。
労災後も勤務強制
だが、間もなく夢は〝悪夢〟に変わる。
契約時に「日勤のみ」の約束だった勤務は、日本語が得意でないという理由で夜勤ばかりを割り当てられるように。しかも午後10時から午前6時まで「1人体制」。20人以上の要介護者の面倒をみなければならず、一睡もできなかった。何日も続けて夜勤が入るため、長女がアパートで1人で寝起きするような生活が続いた。
さらに24年11月、施設から会社の事務所に向かう際、自動車にはねられる事故に遭遇。足や腰をけがしたが、会社からは労働災害として扱われず、「いつまでも休むな」と早々に復帰を命じられた。休業を申し込んでも「借金が残っているうちは休むな」と一蹴されたという。
「借金」理由に酷使
実は会社側は石原さんを含むフィリピン人の職員に対し、ことあるごとに渡航費などの「借金」を理由に無理な勤務を強いていた。
石原さんの場合、会社からは60万円の借金があると言われ、月々の給与から「返済金」として2万円、「積立金」として1万円を天引きされていた。給与水準は日本人職員よりも低く、最低賃金以下の時給800円で働いていた時期もあったという。「借金を返すまで自由になれない」。それが会社の方針だった。
こうした厳しい管理下でも働き続けたのは、子供の日本国籍取得という目標があったからだった。しかし、国籍取得の援助は一向になく、精神的に限界となり、「借金が残っているうちは仕事は辞められない」と脅されながらも昨年4月に退職。弁護士に相談し、「子供の国籍が取れると欺かれ、過酷な労働を強いられた」として、会社に慰謝料など約580万円の賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こした。
「安価な労働力」
日本では高齢化社会の到来で介護需要が増加の一途をたどる一方、介護の担い手不足が深刻化している。
政府はフィリピン、ベトナム、インドネシアの3カ国に対し、経済連携協定(EPA)に基づいて介護労働従事者を受け入れているが、これとは別に在留資格を持つ多くのフィリピン人が介護サービスに従事するため来日している。施設側がこうした外国人労働者を「安価な労働力」として酷使し、日本人職員との待遇格差をめぐるトラブルが多発している。
石原さんを支援した「とよなか国際交流協会」(大阪府豊中市)の担当者は、「今回のケースは氷山の一角だろう」と指摘。「ここ数年、介護現場で日本人には決してさせないような勤務を強制させられる外国人労働者からの相談が多く寄せられている。こんな待遇が続けば、国籍に関係なく介護の仕事が敬遠され、ますます現場の人手が足りなくなるのではないか」と話す。
提訴後、通訳を介して記者会見した石原さんは「当時のことは辛すぎるので思い出したくない」と多くを語らなかったが、提訴した理由を涙ながらにこう話した。
「これからやってくる仲間のためにも、日本で働く環境をもっとよくしてほしい」
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