呑んだり食べたりフォトったり

世界中の 恋を抱きしめたいあなたに



「ロールスロイスNO.2を下さい」

「あ、僕も同じもので」

「でもね、きっと求めちゃったんだと思うの。あなたに、私の何かになって欲しいっていうか、恋愛以外の 生活の何かを。何かって言っても、求めてるモノが実際にあるわけじゃないから、だからあなたに 『どうして欲しい?』って訊かれても、何も答えられなかったの」

「今はそれがなんだか解るの?」

「多分・・・ ・・・つまんない独占欲」

「独占欲? でも・・・ ・・・僕ら上手くいってるとは思うけど 君、ベッタリってわけじゃあ」

「それは・・・ ・・・あ、すいません ホラ来たよ、ロールスロイス。飲みましょう、飲みましょう」

「うん。 しかしよく知ってたね、このカクテル」

「昔たまに行ったお店で、マスターに作って貰ってたの」

「ふーん。 あ、それで、ベッタリじゃないのに独占欲」

「あ、うん。 えっとそれはね・・・ ・・・私が好きになったのは あなたらしいあなただったの。 なのにいつのまにか、自分の分身みたいなあなたを望んじゃってたの」

「おいおい、なんか怖いぞ」

「なんて言えばいいのかなぁ。同じ価値観を求めたというか・・・ ・・・でもそれは無理でしょ? だって私とは違う個性のあなたを尊敬したり好きになったのに、同化しようとしたというか、 同化して欲しかったのよ、私に」

「でも僕ら、価値観は似てると思ってるんだけどな。初めて会った時から」

「そうね。だから余計に厄介だったんじゃないかな? 同じ価値観の二人。それでも尚、同化する程にあなたを求めちゃった」

「で? 結局無理だと解って、どうやって解決したの? 自分の中で」

「無理だと解ったら、何考えてたんだろうって思っちゃった。悩む様な事じゃなかった」

「えー? 僕はさ、なんだかんだ言っても同棲なわけじゃない。お堅いというか、しっかりしてる君が そういう中途半端な状態でいるのに、僕が仕事ばかりしてて恋愛がお座なりになってるっていうのが原因かなぁと悩んだんだよ」

「あ、それ正解」

「え?」

「だって好きだから一緒にいるんだよ? 恋愛の為に一緒にいるんだもん。それが叶わなかったら寂しいよ。 だからそれは、私だって・・・ ・・・イチャイチャ・・・ ・・・したい、です・・・ ・・・ょ?」

「はは・・・ ・・・悪い気はしないね」

「・・・ ・・・生真面目過ぎる・・・ ・・・のかな? 同棲はさ、それはイケナイ事だよね。親にも言ってないし」

「会社の連中に知られるのはいいけど、君のお父さんとかに知られるとすると怖いなぁ」

「怒るだろうなぁ、お父さん」

「うわっ! 脅かさないでよ。でもそうだろうなぁ、やっぱり」

「お母さんには気に入られると思うよ」

「う~ん・・・ ・・・」

「そういうさ、イケナイ事をしてるってままにしておけないんだよね。ちゃんと勉強もしてるし、 大切にして貰ってますって、一緒に暮らしてることをちゃんとした意味のある事にしておかないといけない性格なのよね」

「意味は・・・ ・・・ある?」

「もちろんです。私には、あなたがいないといけないのです」

「だけど、将来の事とかさ」

「それは・・・ ・・・今必要だから、今に意味があるから、一緒にいるんであって・・・ ・・・」

「でもこのまま行けばさ。今を積み重ねて行けば、自然と先があるわけだろ? そういう事は望まないの?」

「でも・・・ ・・・それは・・・ ・・・」

「今に満足してるんならさ、それ、続いた方が良いとか望まない?」

「・・・ ・・・」

「そういうところはさ、言って良いんじゃない? 言ってくれよ。 二人ってさ、一人と一人ってさ、 そういう事だと思うよ。解ってるだろ?」

「・・・ ・・・ん・・・ ・・・」

「おいおい、責めてるんじゃないんだから」

「ん・・・ ・・・ありがとう。ゴメンネ、わたし・・・ ・・・」

辛くても、悔しくても、まして悲しくても、滅多に涙を見せたことのない彼女が 堪えきれずに零す涙がいじらしくて・・・だけど、周りの目を気にして意気地無しな僕は、 彼女の肩にそっと手を回すのが精一杯だった。そんな僕の態度とは対照的に、明るい口振りで彼女は

「いこっか!」

「行くって、ホテルは多分一杯だよ。もう電車も無いだろうし・・・ ・・・」

「歩いて帰ろう。 大丈夫。それに、去年は寂しかったあの部屋を、あったかくしたい!」

「・・・ ・・・分かった。帰ろうか」

恋人達は自分たちだけの世界を作る。聖なる夜、今夜は世界中でどれくらいの世界が創造されているのだろうか? 回転扉を抜けると冷たい空気がまとわりついてきたけれど、直ぐさま彼女の温もりが僕の腕に巻き付いて来た。

「よし! じゃあ、聖なる夜に口笛でも吹きながら帰りますか」

「うん。ほんとに吹かないけどね」

「俺は吹いちゃうぞ。 ところでさ、さっき頼んだロールスロイスNo.2。あのカクテルはスタンダードだけど、 今あんまりポピュラーとは言えないカクテルなんだ。あれを出してくれたお店って?」

「気になる? 私の実家の方のお店だよ」

「そうですかぁ。実家って聞くと、どうしても君のお父さんの顔が目に浮かんじゃうなぁ、見たこと無いけど」

「クリスマスだなぁ」

「どうして?」

「世界中で一番・・・ ・・・しあわせ、かもしれない・・・ ・・・私」

「私達、だろ?」


僕らは確かに、今夜ひとつの世界を創造した・・・ ・・・

~世界中の 恋を抱きしめたいあなたに Numberから Merry X'mas !~
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