動機と結果 どちらが大切?

2012-07-05 17:15:42 | 対人コミュニケーション
  NHKの白熱教室の中に、表題と同じ題名がある。行為が正しいか、そしてそれが道徳的かは、その結果ではなく、動機(意図)によって決まるということだ。ここでの話は、正義か倫理的かということではなく、コミュニケーションについてのこと。


 相手の話を聴くとき、言葉だけでなく、相手の非言語情報と、もう一つ、コンテキスト(文脈)を照らし合わせ、推論して意味を生み出していく。コミュニケーションはこうした意味づけの過程(詳しくは、拙書『対人コミュニケーション入門 看護のパワーアップにつながる知識と技術』ライフサポート社刊をご覧いただきたい)あり、その過程では、結果ではなくその最中の相手の動機(意図)が重要な要素になる。

 文脈を考えるとき、相手がなぜ、わざわざこの段階のこの場面でそのようなことを言い出しているのかを考えないと、適切な意味づけはできない。社会的に言いにくい相手に、言いにくい場面で、言いにくいことを言うときは、間接的な表現を使うことがある。話者の意図は言葉には表現されていない。聴いている人間が、文脈を推論して、意図した意味を組み立てないと、正確な聴き取りにはならない。聴き取りの段階で誤ってしまうと、その後に作り出される文脈が変わってきてしまう。

 これは人間は目的のために相手の人間を動かすために言葉を使うということであり、言語学の中の語用論(pragmatics)に基づいた考え方である。

 「この部屋、暑いわね」といって部屋に入ってきた人が、実際に言いたかったのは、「窓を開けて」か、「クーラーをかけて」、「(暖房代の使い過ぎよ)暖房を止めなさい」なのか、というのは語用論の入門書によく出ている例だ。投げかけられたメッセージに、指図の意味を見出すかどうかは、メッセージの受け手だ。

 腹芸といわれることではなく、人間同士の会話で起こる。相手の投げかけるメッセージに対して常に妥当な推論ができる力を身に着ける必要がある。

 日常および職業生活におけるコミュニケーションのあらゆる場面に当てはまることだが、会議の席では特に注意が必要だ。大きな会議を例に挙げると、国際会議では、各国代表は自分の国の利益を代表して、その席にいる。何らかの発言や動きがあるとき、どうしてあえてそのような場面でそうしたことを言うのか、その動機や意図には敏感になる必要がある。深読みをするということではない。文脈に照らして意図や真の意味を推論し、果たしてその推論が妥当かどうかを検証していく(これをバリデーションという)。これは国際会議に限らない。会議とはそうした要素がからんでくる場なのだ。


 ナースのコミュニケーションについても語用論能力は、とても必要なものだ。詳しくは、『対人コミュニケーション入門 看護のパワーアップにつながる知識と技術』(ライフサポート社刊)の「聴く」のセクションの「意図を聴く」の項に、臨床での具体的な例を示しながら、文脈(コンテキスト)、推論、社会的な力関係など、必要な要素について説明してあるので、ご覧いただきたい。
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