和製英語 コ・メディカル

2011-06-04 20:50:00 | 医療用語(看護、医学)
 「コ・メディカル」、または、「コメディカル・スタッフ」という言葉が出てくることがある。「医師・看護師以外の医療従事者」と説明している辞書もあるが、普通は、「医師以外の医療従事者」のことだ。今でも見る。ただ、注意は、これは完全な和製英語だ。日本人話者が使ったり、日本語のテキストに使われていても、通訳や翻訳で、そのまま、'co-medical staff' にしてはいけない。もちろん、自分で英語の論文を書くときにも論外だ。healthcare professions や nurses and other healthcare professionals が望ましい。

 「コ・メディカル」という言葉については、もう少し考えなければならないのは、'medical' があって、それに 'co' がついている形のとおり、medical(医学)を基準に、医療の中のそれ以外の分野を線引きした言葉であることだ。ウィキに次のようある。

 「1982年(昭和57年)、第1回糖尿病患者教育担当者セミナーの講演において、阿部正和東京慈恵会医科大  学学長(当時)が、患者教育には医師のみならず全ての関係スタッフの協力が不可欠として、医師以外の  関係スタッフを卑下したパラメディカルとの呼称を止め、「協同」を意味する接頭辞の "co-" を用いた  「コ・メディカル」(co-medical、英語発音: /ˌkouˈmedikəl/ コウメディカル)との呼称の使用を提唱し  た。「コ・メディカル」という名称は、後に定着する「チーム医療」の考えと合致し、日本の医療業界に  広く受け入れられた」
  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%AB%E3%83%AB

 para から co になったとはいえ、「医師」がいてその「協同」という形は、現在、求められる、医療従事者間の対等な協働関係目指したチーム医療に即した言葉ではない。この言葉を日本の看護の論文で「看護師などのコ・メディカルは」と使われていたのを見たとき、かなりショックだった。

 医療用語に見られるカタカナ語に伴う「カセット効果」の1つの例だろう。

 「カセット効果」とは、翻訳論の柳父章の言葉だ。翻訳研究という特殊な話ではなく、岩波新書(『翻訳ご成立事情』)にも説明されている言葉である。明治時代に外来語が入ってきたときその訳に、漢語を当てはめて、society:社会、individual:個人、などとした。そのとき日本人は、何か特別な重要な意味のあるものととらえ、それ以上深く考えずに、それらの言葉を受け入れてきた。「宝石箱効果」とも言われ、中身はよく分からなくとも人を引き付ける。そして多用される。現在のカタカナ語にも当てはまる。「コ・メディカル」は和製英語だ。カタカナで示されたことで、この効果を帯びたのではないか。これは、特に、医師以外の医療職者には、考えてほしい。
 看護の視点からいうと、ナースをアドボケイトする、つまり、重視されるように社会に向かって説明しようとするときに適した言葉ではなく、使うべきでない。厚生労働省の文章では、「コ・メディカル」は使われていないはずだ。
 看護の分野の通訳や翻訳をするときには、以上のことを頭に入れておく必要がある。


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