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養生訓

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巻第一  総論 上

1 人間の尊厳性

今、自分が生きていることは、いろんな人たちのおかげであることを認識しないといけない。両親が自分を生み育ててこられたことを感謝し、そのほかに自然の恵みにも感謝しなければならない。その感謝の表現として、自分が健康で長寿を全うすることこそが、最大の感謝の表現なのである。
自分が健康であれば、両親やそのほかの人たちは不健康なときよりも安心をしている。それゆえ、自分の身体を不健康な状態にもっていく行為はよくないことである。おおげさにいえば、理由も無しに毛髪を切ることや、肌を傷つける行為などは、もっとも親不孝な行為である。
ひととして生きているのならば、健康で長生きすることは、誰でも願い思う最大のものである。健康で長生きする方法を知り実践することは人生の最も大事なものである、と言っても過言ではないであろう。
不健康なことをして、自分の身体を病むことはとても馬鹿げたことである。自分の欲望と自分の健康とをはかりにかけることについて考えよう。欲望が強いときにでもそのことで身体を壊してしまうことがあるときは、十分考えたうえにその欲望をみたす行為をしないといけない。たとえば、面白い読み物があり夜の寝る時間をさいて読んだとしよう。その時は大変、面白く過ごせたとしても、翌朝とても睡眠不足で体調を崩すであろう。その読み物を前の日に読み終わらなければならない理由がとても重要なものならば仕方ないであろうが、次の日に読んだとしてもかまわないときは自分の欲望をおさえ、自分の体調を維持するほうが大事であろうことは、誰にも分かることと思う。
人生を楽しく過ごすのはいいことであるが、そのことで寿命を縮めることがあってはいいことでない。お金をたくさん儲けたとしても、そのために自分の健康を損ない楽しく生活を過ごせないとしたら、儲けたお金も何も役に立たないであろう。健康で長生きするほうが、大きな幸せではないだろうか。

2 養生の心がけ

どんなことでも、頑張れば頑張るほど、効果がある。たとえば春にまいた植物の種を、夏の間よく世話をすると、秋には収穫が多くなるようなものである。
人の健康も同じで、健康法をよく考え実行すれば、常に健康でいられ、長生きすることができ人生を楽しむことができる。これは、自明であって疑うことがあってはならないことである。

3 若いときからの養生

庭に草木を植えて、いつも注意して育てている人は、草木の成長を見て楽しみ、枯れ衰えていくのを悲しむ。
植物が枯れ衰えていくのは悲しいものだし、自分の体が衰弱するのはもっと悲しい。しかし自分の体を衰弱しないように心がけないような人がいる。なんて愚かなことであろうか。
自分の体を守り長生きをしたいのなら、幼いころより健康を保ちつづける方法を学び実践することが大事である。

4 内なる欲望と外なる邪気

健康法の第一は、体を損なう原因をはぶくことにある。その原因は体の内にあるものと外から入ってくるものがある。
体の内にあるものは、自分自身の欲望を押さえられないことによるものがある。外から入ってくるものは、環境によるものである。
自分の欲望のまま生活しないことや、環境の変化にたいして常に注意していれば、健康で元気に暮らせ、病気にかかることもなく寿命をまっとうできる。

5 七情を慎む

自分の欲望を押さえるのは、健康法の基本である。欲望を押さえると、体の調子を上げることができ、外の環境に負けることがなくなる。その逆に欲望のままに暮らすと、体の調子を落とし、外の環境についていけず、健康を害し寿命を縮める。どうすれば、自分の欲望を押さえることができるか、考えてみよう。
食事の量は、適度にして大食をしない。胃腸に負担をかけるものを食べない。性欲も度をすぎないようにする。睡眠は長時間とることがないようにする。長時間、すわることもよくない。運動不足にならないよう、適度に運動をして気分転換をはかる。
とくに食後は少し散歩をするとよい。食後に昼寝をしたり、食べたあとすぐに眠ることが習慣になると、消化不良になって病気の原因になる。そうすれば、体を衰弱させてしまう。

6 天寿と養生の術

普通、人は長寿である。でも、養生せずに暮らしていると自分の寿命を縮めてしまう。逆に生まれつき虚弱体質で普通の人よりも長寿ではない人でも、養生に心を配れば意外に長生きできるものである。
不摂生に暮らしている人は、みずから自殺をしているようなものである。死の時期こそ違うが自らの身体を痛めつけることは、同様であるのだから。

7 命の長短は養生次第

老子は、「人の命は我にあり、天にあらず」といっている。人の命は天からの贈り物だが、その寿命はわれわれの心次第で変わる。健康を考え暮らせば長生きできるし、そうでなければ短命になる。
炭火を風に当てれば早く消えるし、みかんも箱にしまっておかなければすぐに腐ってしまう。人の寿命もそれらと同じものであろう。

8 生命と外物

人は、この世界で誕生しこの世界で生きる。つまり人が生きていくことはこの世界の恩恵によってである。父母やこの世界に恩を持たなければいけない。
食べ物は身体の養分になる。食べ過ぎなければ、身体の健康を維持する。でも食べ過ぎると、身体によくない。植物でも、水や肥料をたくさん与えると枯れてしまうのと同じである。食事というものは楽しい行為であるが、ほどほどにして、精神的に楽しいことを見つけるほうが、身体のためになる。

9 心を養う養生術

いつも心は平静にして、怒りや心配事を少なくすることが、心の健康法である。
寝ることを好きになるのはよくない。長く眠ると血の巡りが悪くなり、また食後すぐに眠ることはとくによくない。お酒はほろ酔い程度がよく、深酒はしないほうがよい。
食事は腹八分目でおさえ、腹一杯になるまで食べてはいけない。
若いときから、色欲を抑えるのがいい。薬や栄養剤を多用しても、あまり役には立たない。
食後は軽い運動を行い、腹ごなしをするのがよい。また同じところに長い間おなじ姿勢で座ることはよくない。
養生の道とは、病にかかっていないときに行うことであり、病にかかってから行うことは養生の最後の手段である。

10 嗜食と忍

嗜食というのは、音を聴き、飲食をし、身体が色を好むという人間の欲望のことである。欲望のおもむくままに生活をすれば、身体に悪い影響を与える。欲望を抑えることは、善につながることである。養生とは欲を抑えて「忍」の文字を大切にすることである。

11 外邪を防ぐ法

強い風を長い間うけたり、寒いところにいたり、暑い場所に留まったり、湿度の高いところにいなくてはいけないことがあり、体に悪い影響を受けることは、しばしばあるだろう。でも、いつも身体を健康に保とうと努力していたならば、体に受ける悪い影響を少しは防ぐこともできる。食べ過ぎや色欲に狂うのは、自分の責任であるので、それは季節やその他のものに責任を転嫁できない。
まわりの悪い要素も、食べ過ぎや色欲に狂うことも、できるかぎり避けなければいけない。

12 養生は畏れの一字

「畏」は、身を守る心の法である。自分の欲望を畏れることは、欲望を慎むことである。欲望を慎むということは、養生の肝腎なことである。

13 養生を害するもの

食べ過ぎ、色欲に狂う、過労などは、身体によくない。また遊びすぎたり、睡眠を長くとることは、気力をなくすことになる。身体によくないことや、気力をなくすことは、養生をするものにとっては、してはいけないことである。

14 心の静と身体の働

心は身体の支配者であるから、心を平静にすると身体にも良い。身体は、動かすことによって血の巡りをよくし、病気に罹りにくくなる。

15 薬・鍼灸よりも予防を

薬や鍼灸を使うことは、健康を守る方法としてはあまりいいことではない。健康を守る方法としては、体を適度に動かし食欲を増やし、規則正しい生活をすることこそが正しい健康法である。
薬は、体の調子に合わせてうまく使わないと、いくら良い薬でも毒になる。薬や鍼灸などはよほどのことがない限り使わないのがいいだろう。

16 養生の道を守る

君子といわれる昔の偉い人たちは、礼楽・弓・乗馬・詠歌・舞踏などを行って適度な運動や精神の静養を行い、病にかからないようにしていた。
病気になってから薬や痛い鍼、熱い灸などを行うのは、自分の体を痛めて病気をなおすことであるから、自分の体にいいわけはない。国を治めることも同様で、国の治安がわるく乱が起きて、それを武力で鎮圧するのではなく、治安をいつもよくするように心がければ国民はいつも気持ちよく生活をすることができるので乱も発生せず、国を治める君子も国民から尊敬されることであろう。養生の道もまたこれと同じことである。

17 身体と運動

毎日、少しずつ運動をすれば血行がよくなり病気にかかりにくくなる。運動はただ、散歩するだけでもよい。そうすれば、鍼・灸など痛い思いをしなくても健康は保てる。

18 人間は百歳を上寿とする

人間の寿命は100歳をもって上限とする。上寿は100歳、中寿は80歳、下寿は60歳である。60歳以上の人は長寿である。50歳でなくなっても、それは若死にとはいわない。
長命するひとは少ない。それは養生を心がけていないからである。

19 人生五十年

人とは50歳になるまでは、本当の生き方を理解できないものである。50歳までに死ぬことは、若死にである。長生きしないと、学問や知識は上達しないし発達もしない。
長生きとは運命で決まるものではなく、人が長く生きたいと思う心が大事であり、欲の深い人や自暴自棄な人は長生きできないものである。

20 内敵には勇、外敵には畏れ

人の体は、そんなに頑丈でない。環境に左右されるし、自分の欲望によっても体は傷つくことがある。
生まれつきほかの人たちより強い人がいたとしても、その人が養生のすべを知らなければ、生まれつき体の弱いひとよりも長生きはできないであろう。
長生きで健康でいるためには、少し臆病なもののほうが、いいのかもしれない。

21 元気をたもつ法

元気でいるためには、体によくない状況をなくすことと、体を強く保つための心がけをわすれないことであろう。
水田を耕すには、雑草を取り除き肥料をやれば、うまくいく。元気でいる方法も、水田を耕す方法も、同じものである。

22 人生の三楽

人として生まれたならば、三つの楽しみを知らないのは悲しいことである。一つはいい行いをして自尊心を高める。二つは健康で心配事がないこと。三つ目は長生きをして、人生を十分に楽しむことである。この三つを行うには、養生の教えをよく守ることである。たとえ、お金持ちであっても、後ろめたい気持ちをもっていたり、病気がちであったり、短命な人生であるのなら、この三つの楽しみは得られない。

23 人命の貴さ

宇宙に寿命があるならば、それは人と比べればはるかに長いであろう。人の寿命とは、宇宙の寿命に比べればはるかに短いものだ。その短い寿命を、さらにその人が養生の道を行わず寿命を縮める行為をするのはおろかなことだ。
個人的には、宇宙には寿命などないと思っている。あらゆる宇宙がその存在を変えながら永遠の昔から存在し、永遠の未来を持っていると思っている。

24 勤勉即養生の術

健康にいるためには、適度な運動が必要である。長く座っていたり、寝ることを好む人などは健康をたもつには適していない。食後の散歩は、食べたものを消化させるために、血行をよくめぐらすために必要である。食事のあと、すぐに寝ると言う行為はこのことからもよくないことである。逆にいえば、肥満防止になるかもしれないが、それは肥満になるような生活事態がよくない。
適度な運動を行うことは、すなわち働くことも意味し、勤勉に働くこと自体、健康法なのである。神様でさえ働いているのだから、人も勤勉でなければいいけない。

26 家業の中の養生

いつも仕事で忙しい人などは、養生のすべを行うことができないという、誤った考えを持っている人もいるだろう。しかし、いつも働いている人よりも、なにもせずに暮らしている人のほうが、健康にはよくない。流木は腐らないし、いつも動いている扉の蝶番は長持ちする。それゆえに、人はいつも働いているほうが、いいといえる。これも養生のひとつである。

27 常と変と養生と

いつも自分の体の健康のことばかり考えていると、いざ必要なときに力を発揮できないことがある。体によくないといって急ぎの仕事を片付けるために残業を断ることは、まわりに迷惑をかける。状況によって、どうするかを考えるのも必要なことである。夏は薄着をするし冬は厚着をするように、臨機応変な行動も必要である。
危急のような場合に力を発揮できるように、常日頃、健康に心を配っておく必要がある。

28 睡眠と養生

意外と知られていないのが、睡眠を長くとるのはよくないことだ。睡眠を長くとると、元気を奪われてしまうのだ。睡眠を短くするのはつらいことであるが、努力して睡眠時間を短くすれば、習慣となるであろう。

29 養生と口数

口数が多いのはよくない。多いと、気をつかいすぎるからである。言葉を慎むのも養生のすべである。

30 少しの不養生と病気

たとえささいなことでも、体によくないことをするのはよくない。ささいなことであっても、それが原因で大病を引き起こすこともあるからだ。たとえば、小さな火であっても大きな火災のもとになるようなものだ。だから常日頃から、ささいなことにまで気をつかうことを忘れてはいけない。

31 天寿の全うは養生から

生まれつき健康な人でも不健康な生活をすれば、早死にする。逆に体が弱い人でも、健康に気をつけながら生活をしていれば長生きできる。
白楽天の言葉に、「福と禍とは、慎むと慎まざるにあり」とあるが、その通りであろう。

32 富貴財禄と健康長生との違い

財産を持てる人は、運がいい人であろう。でも、運がいいといっても健康をもてるとは限らない。健康は自分が努力しなければ得られないからだ。財産を得た運のいい人であっても、短命で終るというのははたして運がいいといえるのだろうか。

33 血気の流通は健康のもと

四季は移り変わるゆえに、一定の秩序がある。秩序が崩れれば、冬は暖かく夏は寒く、大雨大風など天変地異が起こる。
人の身も同じで、常に血気を流通させることで健康は保たれる。

34 心と主体性

自分の信じる基準を持つことが大事である。信念ともいえるかも知れないが、それがあれば善悪の基準を決めることができるため、悪いことをしないようになる。そうすれば、体によくないこともしないであろう。

35 我慢と養生

酒を飲むと気がよくなる。しかし後日、健康を壊すおそれがある。酒をのまずその快感を我慢すれば、後日の憂いがないのも確かである。

36 予防と養生

病気になってから治療するのは、大変つらいことである。賢いひとならば、病気にならないように努力するほうが、病気を治療するよりも楽であることを知っている。
すばらしい将軍とは、「戦わずして戦いを勝つ」ということであろう。

37 気ままをおさえる

若いときは力があるので、それを過信すれば病気になってしまう。それゆえに年齢に関係なく、健康には気をくばるべきである。

38 欲を少なくすること

古代の人たちは、欲を持ちすぎると体によくないと言っている。欲を満たすために無理をするというのは、健康にとってはとてもよくないことであるからだ。

39 とどこおりと病気

いつも、気は体全体に満たしていないといけない。胸にだけしまいこむことはよくない。怒り・悲しみ・憂い・思いなどは胸にこもりやすいものだから、そういうことのならないようにいつも心がけることが大事である。

40 偏しないことが養生法

義と理とはともに大事なものである。義ばかりに偏ると、理を無視してしまうし、義ばかりに偏ると理を無視してしまう。義とは、人情のようなものであるし、理とは物事の仕組みのようなものである。物事の仕組みばかりを大事にすると人を傷つけるし、人の情ばかりに気を向けると社会の秩序を乱してしまうことがあるということだ。


巻第一終

(講談社学術文庫 養生訓を参考にしました。)
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