On The Road

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第7話-33

2011-01-19 20:33:00 | OnTheRoadSSS
 「昨日の作戦は失敗だった。実行部隊は軍資金8万円を使い果たしたが、収益はゼロだ」
 一昨日まで泊まり込んでいた会議室で、高槻が言った。
 「必勝法は使ったんですか?」
 斉藤は信じられなかった。
 「使うつもりはあったらしいが、その前に熱くなってしまったらしい。イエローの悲鳴である程度稼いだポイントを、グリーンを生かそうとして…」
 高槻は半ばすまなそうに、溜め息まじりに言った。

 「そうか!だから師匠は勝ち逃げしろって!」
 斉藤は、会議室の外にも聞こえる声を上げた。

 「それは聞いてないぞ」高槻は不満そうに言ってから、「ただ、斉藤君の考えた必勝法は、ネットで高値で売れているらしい」と明るい顔をした。
 斉藤はすぐにパソコンを付けて、社の隠しHPを開いた。
 「CRシックスレンジャーズ必勝法!私はこれで14万円稼いだ!」
 その下には「イエローとパープルを守れ」と書いてある。

 「部長、だれがこれを書いたの?初めに明かしちゃだめですよ」
 斉藤は渋い顔をした。「俺、これを書き直していいですか?」

 「もちろん、いいですよ、斉藤部長。今日から情報課は部になり、私は部長の部下です」
 高槻は年下の斉藤に頭を下げた。「なんでも申し付けて下さい」

第7話-32

2011-01-19 20:32:00 | OnTheRoadSSS
 斉藤は意気揚々と5階のフロアに出た。やる気のなさそうな社員達を横目で見て、情報部に向かう。
 すっかり課長気取りの斉藤は、他課の課長達と「おはよっす」と対等に挨拶を交わし、自分のデスクに向かう。しかし、笑顔と握手とひょっとしたらハグで迎えてくれるはずの高槻は困ったような顔で、「おはよう。朝礼の後で話があるから」とだけ言った。
 朝礼で情報戦略部長から情報部復活の話があった後で、高槻部長から個別に斉藤へ情報課長の辞令が伝えられるのだと、斉藤は考えた。斉藤はパソコンを立ち上げて、マウスと手作りフィギュアの位置を微調整した。フィギュアは美少女戦士アイミだ。アイミは「今日も絶好調よ」と笑い返す。

 情報戦略部長が来て、部の全員が立ち上がる。斉藤ももちろん、胸を張って立ち上がった。

 「おはようございます。今日の通達です。社名変更のため、看板の掛け替え工事が本日の10時から始まります。工事車輌等が通行することもあるので、十分に注意して下さい。以上です」
 情報戦略部長は手短に挨拶を済ませ、戦略課員が唱和を始めた。
 「私達は、お客様の幸せ作りに貢献します」

 下らないスローガンだ。それより、高槻が部長返り咲き宣言をしないのが気になる。

第7話-31

2011-01-19 20:31:00 | OnTheRoadSSS
 保安室から駆け付けた元ザイト団員の男は、エレベーターに乗り込む斉藤の腕を掴んだ。
 「何するの?俺は情報部のザイト壊滅作戦の功労者、斉藤だよ。高槻部長に聞いてみてよ」
 斉藤は捩じられた腕にうなりながら、何とか毒づいた。ザイト壊滅作戦と聞いた保安員は、よりいっそう力を入れて、斉藤の腕をねじ上げた。
 「情報部は情報課に格下げされたんだ。知らないのか?」

 「ちょっと、腕を放してよ。その情報課がまた情報部になったの、知んないの?」
 斉藤は悲鳴のような声を上げた。

 この会社では社長の気紛れで、1夜にして体制が変わることはよくある。保安員は急に自信が持てなくなって、力を弱めた。

 「もう。仕事熱心なのはいいけど、こんなことが社長に知れたら大変だよ。俺は次期課長の斉藤だからね」
 斉藤は保安員の腕を振り切って、自分の腕をさすった。確かに、情報課には斉藤という課員がいたと、保安員は頭の中で社員名簿をめくった。

 「せっかくいい気分で出社したのに、朝からとんだ目にあっちゃった。今度から気をつけて」
 この男の自信の前に、保安員はあっけなく屈伏して、会社にザイト壊滅の計画があるなら、年齢と体力的に保安員になれと言われたのは案外ラッキーだったかもと思った。

第7話-30

2011-01-19 20:30:00 | OnTheRoadSSS
 情報課は情報部になって、今月の給与には特別手当がつく。斉藤は期待というより確信して、会社に向かった。昨日の戦果は自分ほどではないにしても、かなりな利益を上げているはずで、1人が5万円ずつだとして10人で50万円。会社が特別手当を出さないはずがない。高槻課長が部長になるとともに、自分は課長になって部下がつくかもしれない。25歳独身で課長なんて、リアルな女の子が放っておかないかも。
 斉藤は自然と顔がほころんで、「悪いな。でも、俺は2Dしか興味がないんだ」と呟いた。だからと言って、リアルな女の子にちやほやされるのも悪くない、と思う。25年の人生で、2D以外の世界でちやほやされた経験はないから、想像の域を出ないが。

 バスを下りて会社のビルに入る時、斉藤は受付の女性に「今日もいい天気ですね。おはようございます」と声をかけた。受付嬢は斉藤の社章を見て挨拶を返した。社章がなければ取引先の人だと思った。毎朝ここに座っているが、こんなに元気に挨拶をしていく社員なんかいない。

 「情報部は5階でいいですよね?」
 情報部が情報課になったことを知らない男は社員ではないかも。受付嬢は男に声をかけようとした。
 「あ、いいよ。場所は分かってる」と斉藤はエレベーターに向かった。受付嬢は保安室の内線を押した。

第7話-29

2011-01-19 20:29:00 | OnTheRoadSSS
 暮れのボーナスは安泰です!
 我々は打倒ザイトに失敗しましたが、幸せ作ろう社の社長は、そんなことで社員の生活を脅かすような心の狭い人物ではありません。
 本来の仕事に精進して社の業績を上げて、更なるボーナスアップを目指しましょう!
 占い課 坂本

 坂本は社内メールで、実行部隊に向けて一斉送信した。こっくりさんのお告げとはまったく違う内容だが、こっくりさんが一番伝えたかったと思われる、更に精進せよという言葉は伝わったと思う。戸河内が言うように、真理を伝えるのも時と場合による。

 こっくりさんは、幸せ作ろう社は存在しなくなるとおっしゃっていたが、社名をハッピーメーカーに変更すると先月末に通達されている。先日の銀行強盗事件に元社員が関係していたためだ。幸せ作ろう社がなくなるのはみんな分かっていて、社員が失業するわけではないから、いたずらに不安をあおる必要はないはずだ。

 「坂本、結城ちゃんの占いってそんなにすごいの?事務じゃなくて占いをやってもらった方がいいんじゃない?」と戸河内が聞いた。
 「商品化するのはどうかな。結城さんは事務を希望して入社したんだし」
 坂本は答えた。真理は時に恐ろしい。それを知ってしまうことに耐えられる俺のような強い男もいるが、ほとんどの奴は耐えられない。戸河内もその1人だと、坂本は思った