On The Road

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第7話-28

2011-01-19 20:28:00 | OnTheRoadSSS
 電車のダイヤの関係で、いつも少し早めに出勤する占い課の課員・戸河内は、占い室から聞こえた男の叫び声に驚いてドアを開けた。「すぐに閉めて。祟られますよ」と言ったのは、普段は静かで存在感のない結城だ。
 「す、すみません」
 戸河内は慌ててドアを閉めた。

 「こっくりさん、こっくりさん、ありがとうございました。北の窓からお帰りください」
 聞き慣れた言葉が聞こえて、占い室から、いつも通りの地味な結城とがっくり肩を落とした坂本が出てきた。
 「どうした?結城ちゃんに振られたか?」と坂本に声をかけようとしたが、できなかった。坂本はひどくショックを受けているらしく、畏怖の表情で結城を見ている。

 「ごめんなさいね。でも、私が言っているんじゃないの。こっくりさんのお告げだから」
 結城は自分のデスクに行って、パソコンの電源を入れた。坂本は名残惜しそうにデスクに向かった。パソコンにこっくりさんのお告げを入力する。取り付かれたように夢中で、だがすぐに頭を抱えて入力された文をすべて削除した。

 「戸河内君、真理を知ってしまった場合、人は黙っているべきなんだろうか?」
 坂本の隣りの自席に座る時、戸河内は話しかけられた。
 「場合によるんじゃない?」と答えると、坂本は更に深く頭を抱えた。

第7話-27

2011-01-19 20:27:00 | OnTheRoadSSS
 始業前から、占い課の坂本は多忙だった。昨日のさんざんな戦果が、暮れのボーナスに影響するか?という問い合わせが実行部隊から殺到していたからだ。でも、自分にも関わることを自分で占うのは恐いので、坂本は前からかわいいと思っていた事務員の結城に頼んで、占ってもらうことにした。

 「朝早くからごめんね。占いたいのは2件。俺達の冬のボーナスと、情報課の未来」
 情報課からは依頼は来ていないが、坂本自身が興味があった。

 「では、占います。準備はいいですか?」
 坂本は慌てて北側の窓を開けた。
 「私は中学の頃から霊感が強くて、マイケル・ジャクソンの死も予感していました。中学の同級生が祟られたこともありましたが、始めていいですか?」
 坂本は色が白い女子事務員の顔を見た。どちらかというと幼い感じで、霊界とのつながりは感じられない。

 「なんか本物チックだね。はい、お願いします」
 坂本はにこやかに笑って、席に着いた。
 文字が書かれた紙の上にのせた10円玉に、二人で人差し指を乗せる。指が軽く触れて、「あ、ごめん」と坂本は言った。結城は恐いほどまじめな表情だ。
 「こっくりさん、こっくりさん、いらっしゃいましたら、北の窓からお入りください」
 坂本の背筋に寒気が這い上がった。


第7話-26

2011-01-19 20:26:00 | OnTheRoadSSS
 「ったく、あそこでザイトが出てこなけりゃ。クソ忌々しい骸骨野郎!」
 松本は椅子を蹴った。2万円も持ち出した経理課長はもっと悔しい思いだが、課長以上はザイトが実は幸せ作ろう社の本体であることを知っている。しかも、今回の作戦は、パチンコ業界がシックスレンジャーズをヒーロー扱いするのを、止めさせるのが目的だ。「骸骨野郎」などと言ってザイトを侮辱したことが社長の耳に入ったら、松本がどんな扱いを受けるかわからない。

 「まあ、パチンコは遊びだから、熱くなるなよ」
 経理課長は松本の肩を叩き、自分の肩を落とした。2万円と言えば1ヶ月の昼食代だ。

 「会社までは私が運転します」
 持ち出し5000円でゲームを下りた薬品課の社員が言った。薬品と言っても幸せ作ろう社の薬はインチキだから、食べても死なない程度の物だ。

 占い課の坂本は「やっぱりコックリさんのお告げの通りだったんだ」と呟いて、マンカイを出た。「今日はやめておいたほうがいいって出たんです。みんなが気にするかもと思って隠しておいたけど」

 この日以降、家庭の問題や恋愛の行方、営業の業績について、占い課への問い合わせが殺到したのは、もちろんこの坂本の一言が原因だ。

第7話-25

2011-01-19 20:25:00 | OnTheRoadSSS
 ザイトの営業部員松本の台が当たり始めた。松本の画面ではイエローがかわいい悲鳴をあげ続け、ポイント分の玉が吐き出される。とっくにカードが終わった連中が台の回りに集まって、応援の声を上げる。
 「よし、行けっ。グリーン!」「ザイト、ちょっと下がってろ」と怒声が飛び交う。
 一時はドル箱を取り寄せるまで成果を上げたが、結局、松本はグリーンに期待し過ぎた。通算2万円を持ち出した形になった経理課長は、松本に中断を命じた。

 夕飯ができあがって、母が斉藤を呼んだ。「おかずは何?」と返事をしたら、「あんたの好きなハンバーグ」と答えが返ってきた。

 「ゴメンm(_ _)m明日も撮影あるから、そろそろ落ちる。また、一緒に狩りしようねっo(^-^)o」
 欲しかった武器も手に入れたし、明日は仕事だし、何より夕飯はハンバーグだ。昼はポテトチップで済ませたから、そろそろ腹も減ってきた。
 「アイミ、撮影がんばって(^O^)」「また遊ぼーね!!」
 仲間の言葉が返ってくる。
 「じゃーね!」と返信して、斉藤はゲームから抜けた。楽しい狩りだった。そう言えば、CRシックスレンジャーをやりに行った会社の人達は、うまくいっただろうか?
 少しだけ気になったが、ハンバーグの誘惑には勝てない。斉藤はダイニングに急いだ。

第7話-24

2011-01-19 20:24:00 | OnTheRoadSSS
 斉藤はパソコンに向かった。調子に乗って、新しいパソコンを買うために貯めた貯金に手を出したりしたら、身の破滅を招くところだっだ。休日はやっぱり、仲間とチャットしながらまったりとネットゲームを楽しむのに限る。

 ネットに入ると、「お久し振り。モデルの仕事が忙しかったアイミでーす」と斉藤は自己紹介した。「アイミ、足を洗ったんぢゃないかってゆってたんだょ(`ω´♯)」「モデルって今は秋服?もう冬かな?」とすぐに返事が返ってきた。
 ネットゲームの中では、斉藤は17歳の女子高生モデル、アイミだ。ローカルな雑誌の仕事をしていると自称している。女子高生を演じるために勉強は欠かせないが、うざい体温とかを感じさせないバーチャルの世界が、斉藤は大好きだ。

 師匠のメッセージを課長に伝えるべきか、斉藤は一瞬考えたが、敵対するチームの攻撃にあって、すぐに忘れた。課長にはいろいろご馳走になったから恩義は感じているが、自分の実力を認めてくれなかった他の社員は少し痛い思いをすればいい。

 アイミが放った矢が敵の心臓を射抜いた。美少女戦士アイミは今日も絶好調だ。
 「やっぱアイミすげぇv(`∀´v)」「アイミが帰ってきてよかった(;_;)」

 「だって、大事な仲間だもん(*‘‐^)-☆」
 斉藤はすぐに返信した。