白泥文皿(制作年不明)
最後に、とても思い出深い一枚。
黄土を掛けた上に、白泥で文様をつけた中皿です。
ツーやんは、みんなで集まって話す事が好きで、毎週のように夜、
誰かの家に一品料理を持ち寄っては、いろんな話をしました。
私の住んでいた一軒家のアパートでも度々、宴会がありました。
ある時、ツーやんはこの皿に、奥さんのみさ子さんの料理を盛ってやってきました。
重いと定評があった成井系の器の中で、とても薄作りでロクロの挽き具合などは、
修行中、何度も練習していたお手本のような皿でした。
「俺が昔、作った皿なんだよ。返さなくていいよ。」と言って
そのまま私の家に置いて帰りました.
昔っていつ頃なのか。私が弟子入りした1982年当時、ツーやんは43歳だったので
たぶん30代頃の作品なのかと思います。
文様は、刷毛目で使う使い古しの帚の先をバラした筆で、自分の3室の登り窯を
描いたんじゃないかと思います。
今では素朴な皿ですが、当時の民芸ブームでは味わいのあるもので、
販売を意識して、ある程度の枚数を制作したのでしょう。
私は、1985年に独立しますが、初窯でこの皿をお手本にした板皿を焼きました。
板皿はツーやんは、あまり制作しませんでしたが、成井窯一番弟子の先輩、
能登美登利さんに作り方を教わり制作しました。
先輩の能登さんと、若くして亡くなった矢口参平さんは、とても後輩の面倒見がよく、
独立まで、いろいろアドバイスをいただきました。
自分は、後輩に同じ様な事が出来た記憶が無いので、まだ恩返し出来ず申し訳なく思っています。
1985年の秋の陶器市で、益子陶芸村に初出店した時、一番最初にこの皿が売れました。
買ってくれたのは、佐野の恩田さんという方で、皿を全部購入してもらい
とてもうれしかったです。
恩田さんは、その後、「陶器 藪」というギャラリーを開き
そこで個展をやらせていただいたり、ずいぶん長い間お世話になりました。
私に陶芸家として、これからやっていく自信を与えてくれた思い出深い皿です。
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