20代のころ、東京でしばらく暮らしたことがあった。
その当時知り合ったバイト先の先輩がジャズ好きで、LPレコードを抱えて私のアパートへ、遊びに来たことがあった。ジャズをレコードで聴いたのは、たぶん初めての経験だったと思う。酒好きの先輩が、ビールを片手に、目を閉じてじっと聞き入っていたのを、覚えています。私は、音楽と言えばローリングストーンズを中心にハードロック、後はフォークソングを聴いて喜んでいた頃である。
何かレコードで聴いたジャズは、その当時の自分の嗜好には合わない音楽ジャンルで、心にあまり響かなかった。
ただこの時一番印象深かったことは、ジャズの音楽そのものではなく、先輩の持ってきた数枚のジャズアルバムの中の一枚のジャケット写真である。
何とも、白黒でカッコよかった。アルバム写真は、女性のスカートからでた足の写真で、大都会のニューヨークマンハッタンを歩く、オフィスレディの足である。(なんてセンスの良い写真なんだろう!) 不思議と、そのジャケット写真を見ながら聞くと、そのアルバムのジャズもセンスが良いと感じましたが、当時の私としては、何回も聴きたくなる音楽にはなりませんでした。
ジャズに目覚めるには、もう少し年を重ねて、人生の苦労や悲しみを重ねて色んな体験をしなければなりませんでした。
やっと40代のころから、ブルースを聞き始め黒人音楽の精神的深さなど、感じられるようになって来たあたりから、少しずつ、ジャズの良さも理解できるようになったと思います。黒人音楽の素晴らしさが、ブルースにはあるけど、その素晴らしさを、少しおしゃれにして、ブルースとは違うパワーで仕上げたのが、ジャズのような気がします。
ジャケット写真は当然だが、このアルバムのリーダーソニークラークのピアノの素晴らしさも、40代になってから、徐々にわかり始めました。
バックビートの2拍4拍を強調した、ファンキーな演奏、アルバムスタートの一曲目は、アルバムタイトルのcool struttinだが、ジャズブルースの渋い演奏でとても素晴らしい。
最後に、小川隆夫著、ブルーノート、ジャズより
このブルースを聴くと、細身のスーツでビシッと決めた黒人がマンハッタンの雑踏をクールに気取って歩く様を連想する。